秋田の生酒にこだわり!「秋田純米酒処 恵比寿店」

秋田の酒、それも「生酒(なまざけ)」に徹底的にこだわった店が昨年夏に東京にできました。それもどちらかというと日本酒というイメージの薄い恵比寿に。

その名も「秋田純米酒処 恵比寿店」(あまりに一般的すぎる名前で、逆に覚えにくいような気もするのですが)。恵比寿の東口からわずか徒歩2分ぐらいのビルの地下にあります。

白ワインではありません。日本酒です!

生酒とは、「火入れ」、つまり加熱していない酒で、フルーティーで優しい味がします。酒蔵以外では飲める機会が少なく、たまたま手に入れてもどんどん味が変わってしまうので大事に取っておくわけにもいきません。なかなか気難しい酒です。ですから、さまざまな蔵元の生酒が飲める店というのは珍しい。この店のマイナス10℃まで温度を下げられる大きな冷蔵庫の中に、生酒のビンがズラリと並んでいる様は壮観です。

もう一つこの店の特徴は、料理がフレンチだということ。それも比内地鶏、しょっつる(ハタハタなどを原料にした魚醤)、いぶりがっこなど秋田の食材を生かしたフレンチなんです。いぶりがっことクリームチーズがよく合うことは知られていますが、この店では、いぶりがっこをフードプロセッサーで細かくしてチーズに混ぜます。きりたんぽも一味違います。なにせトリュフが入っているんです。鍋も土鍋ではなく白いホーロー鍋です。

このお店のコンセプトの提案者は、秋田日本酒界のスター、新政酒造の佐藤祐輔さん。この店の店長、斎野啓太さんの日本酒の師匠なのだそうです。しかし、祐輔さんから生酒のお店を提案された時、斎野さんは、あまりにリスキーだと怖くなりました。「酵素が生きているので時間がたつと糖分が出てくるんですよ。すっきりなお酒でも甘くなってしまうんです。すっきりなお酒ほどバランスは壊れやすい」。

祐輔さんは、「恵比寿で若い人たちに日本酒のおいしさを伝えて欲しい。まだ日本酒のおいしさを知らない人も多いから、まずは分かりやすく生酒でいいんじゃない?生のお酒は分かりやすいから」と言われたそうです。斎野さんは内心不安に思いながらも、そのコンセプトで出店準備に取り掛かりました。

これがいぶりがっこ!

しかし、開店してしばらくすると生酒の可能性がいろいろ見えてきました。もちろんバランスを崩してしまうお酒もありましたが、酵素の糖化作用で旨みが増しよりゴージャスな味わいになったり、酸と旨みのバランスが整ったり、寝かせることによって、良くなるお酒が出てきたのだそうです。

「マイナス5度で管理しているうちに、速醸(そくじょう)という醸造用酸類を添加する製法や、酵素剤など使用したお酒より、生酛(きもと)系酒母で仕込んだお酒が長期熟成に向くことが何となくですが分かってきました。そして、しっかり温度管理をして、古酒ではなく『ヴィンテージSAKE』を作っていくことが日本酒のステージアップになると考えるようになりました」と斎野さん。今では、生酒だけではなく様々なお酒を氷温管理で熟成して実験しているそうです。

おしゃれなフレンチなどの店が多いイメージの恵比寿。しかし、実は決して日本酒の店が少ないわけではなく、有名なお店もたくさんあります。

バーカウンターに立つ斎野さん

斎野さんによると、恵比寿には日本酒の伝導師「GEM by Moto」の千葉麻理絵さんや、日本酒と料理のマリアージュの達人、麦酒庵の田中祐晶(てるじー)など素晴らしい日本酒の世界の案内人がいらっしゃるそうです。斎野さんは、「恵比寿は日本一といっても過言ではない日本酒飲食店の激戦区だと思います」と語り、「私は諸先輩のようなセンスはありませんので、楽しく愉快に秋田の食材と秋田の純米酒で楽しいお店にと心がけています」と話されました。しかし斎野さんも、やはり求道者です。秋田のお酒にこだわり、1年に1カ月は秋田で過ごすそうです。

斎野さんのお店の社員は、新政か山本合名で1週間ほど酒造りを経験させてもらうのだそうです。両社とも秋田の日本酒界に風穴を開けた蔵元集団「NEXT5」のメンバーで、ライバルながら、毎年共同で新しい酒を企画したりして話題を呼んでいます。

新政も山本合名もめちゃめちゃ体育会系なのだそうです。女性でも蒸米をかついで走ったり・・・。「仕事が終わるとランニング部というのがあってストイックにランニングしたり。若い方たちがみんな仲がよくて、楽しそうなんです」と斎野さん。お酒を作る人とそのお酒を客に供する人の距離がとても近いことがお酒も料理も美味しくする秘訣なのではないかと思いました。

しかし、フレンチとは・・・。なぜに日本酒にフレンチ?

この店のシェフの末長直健さんは、「リゾートトラスト箱根」を経て「グリーンヒルズ草庵」の料理長として長年腕を振ってきた方です。自ら畑で野菜を育てながら、そのこだわりの野菜を活かした料理を作ってきたそうです。ここ5年はさらに世界を広げるべく、パティシエや和食の勉強もしてきたという探求心にあふれた職人です。

シャキ・ヌルな食感がたまらない秋田の食材ミズをがっしりと握る末長シェフ

しかし、秋田の素材を生かしたフレンチのメニューを生み出すまでにはけっこう試行錯誤があったそうです。「秋田の野菜にはアクが強いものが多いんです。でも、アクを完全に抜いてしまうと味がでないので、生かさず殺さずの微妙なさじ加減を見つけるのに苦労しました」。

いぶりがっこのクリームチーズも、いぶりがっこの表面が非常に固いので細かくするのがなかなか大変だったそうです。でも、末長さんが秋田の食材の中で一番好きなのもいぶりがっこだそうです。

チョロギだけは、この店に来る前からフレンチ懐石の最後の炊き込みご飯に使っていたそうです。チョロギの炊き込みご飯とは!これは秋田の人の方がびっくりするのではないでしょうか。チョロギは漬物で食べるとカリカリしていますが、炊き込みにするとユリ根のようなホクホクな感じになるようです。

「料理は、いろんなものを組み合わせてから、消去作業をして、極力シンプルにしていきます。盛り込みすぎるとわけがわからなくなって食材が死んでしまう。一つずつ『これは違う』というのを省いていって最後にシンプルな料理が残るのです」。

食材は、なるべく秋田の生産者から直接仕入れるようにしています。斎野さんと末長さんは、自分たちがどういう料理を作るのかを知ってもらうため、秋田の漁師さんや山菜採りのおばあちゃんといった生産者の元を訪ね、その方たちの前で料理のプレゼンテーションをしたのだそうです。

末長さんは、「本を読んだりしていろんな食材を勉強しています。前回秋田に行ったのは冬だったので、今度は春に行きたいと思っています。山菜をふんだんに使ってみたい」と、秋田での新しい素材との出会いを楽しみにしていると話されました。

斎野さんは、「秋田純米酒処恵比寿店で秋田の生産者の人たちの思いをしっかり伝えていきたい。お酒だけでなくしっかりお料理も食べていただきたい」と語りました。

店舗情報

秋田純米酒処 恵比寿店

〒150–0013
東京都渋谷区恵比寿1–11–5 GEMS恵比寿 B1F

月~土・祝前日 13:00~24:00 (L.O. 23:00)
2018年3月18日から日曜休業

03–6277–0663

Facebookページ

▼文:竹内カンナ

秋田市出身。WE LOVE AKITA 記者。米経済通信社で長年、日本の金融経済のニュースを幅広く担当したあと、現在は 米経済紙の日本語版の翻訳のかたわら、秋田の活性化について考え続けています。

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