教育やマタギ、東京との時間的距離ー新住民が北秋田市を選んだ理由

新型コロナウイルスの流行は世界にさまざまな変化を引き起こしました。この夏の酷暑の中、熱中症のリスクを冒しながらマスクをし、外食を控え、大きな集まりは避けるーー。突然、狭い自宅でリモート勤務を命じられた人も多く、逆に仕事柄多くの人に接触する必要がある人たちは常に感染リスクを心配しながら仕事をしなければならなくなりました。

そのため人口密度が高い都会に住むことに不安を感じ、地方で生活したいと思う人が増えました。

つまり人が少ないということが、急に見直され始めたのです。

人口減少に悩んでいた田舎に突然チャンスが巡ってきたのです!こんな中で9月5日、北秋田市の移住イベントがオンラインで開催されました。

北秋田市、ご存じですか? 2005年に4つの町が合併して誕生した新しい市で、文字通り秋田の北の方にあります。中心地は、旧鷹巣町。名前からすると森の中というイメージですが実はわりと開けたところで、昔は製材産業で栄えていました。しかし旧森吉町旧阿仁町は山の魅力いっぱいです。

四季それぞれに訪れる人を楽しませてくれる森吉山。冬は樹氷が有名

どうやって行くのがいいのか、ずいぶん昔に秋田を離れたわたしは迷いました。東京からなら新幹線で角館に行き秋田内陸縦貫鉄道(内陸線)に乗るのがいいのか、それとも高速バスか、秋田市からはけっこう遠いなぁなどと思っていたら、なんと実は東京(羽田)から1時間で行けると言われて、はっと気が付きました。10年にできた大館能代空港は、県北の大都市である大館市と能代市の中間にある旧鷹巣町に作られたので、今、北秋田市は首都圏へのアクセスがめっちゃいいんです。

田舎なのに首都圏へのアクセスがいいって、ウィズコロナの時代には最高の地の利です。「田舎に住みたいけど都会も好き」という、今はやりの二拠点居住希望者に、北秋田市は最適な場所なのです!

イベントのファシリテーターは、地元出身の「トラ男」こと武田昌大(まさひろ)さん。まっすぐに秋田を元気にするために突き進んでいる起業家です。

移住者代表としてお話を聞かせてくださったのは、子育てのために田舎に住みたいと考え、この夏、出身地でもある北秋田市に小学校2年生の娘さんと暮らしている高鳥可那(かな)さんと植物が好きでマタギとの運命的なご縁で北秋田市に住むことになった広島県出身の益田光(こう)さんでした。

まずは武田さんの自己紹介から。

武田さんは、十数年前に東京で就職しましたが、帰るたびに寂しくなる鷹巣の町にショックを受け、東京のマルシェで秋田県産品を販売したり、毎週のように夜行バスで地元に帰り、田んぼで働く農家に声を掛けて話を聞いたりして、自分が秋田のために何ができるかを考え、そして得意のITで、「トラクターに乗った男前」をキャッチフレーズに、若い農家のお米のネット通販を始めます。それで武田さんはトラ男と呼ばれているのです。

数年後には東京の日本橋の再開発に参加、その米を利用して昼はおむすび、夜は秋田の日本酒、秋田料理とおばんさいを提供する「おむすびANDON」をオープン、今年4月からは若者の町、下北沢でお粥(かゆ)とお酒の店を始めました。今では「トラ男」は米だけでなく、秋田の誇るごはんのお供、ばっけ味噌やいぶりがっこをお米とともに定期便で送るなまはげ印のお米やさんに発展しています。

次にお話を聞かせてくださったのはお試し移住中の高鳥可那さん。

小学2年生の女の子を持つ30歳代のおかあさんです。東京で2カ所のコワーキングスペースの運営をしているのですが、コロナで休業になり、その間はリモートで仕事をすることになり、この夏はずっと北秋田市に住んでいます。

もともと北秋田市出身ですが、横浜市で暮らしていて、子育ては田舎でしたいと思っていました。初めから地元に戻ると決めていたわけではなく、いろんな自治体が催す移住ツアーに参加するなどして住む場所を探していました。

そんな可那さんが「やっぱり地元にしようか」と思うきっかけになったのが、昨冬に北秋田市が実施した「教育留学」でした。

「去年の8月に泊まりに来て、小学生親子と交流し、冬には北秋田市が行っている3日間の教育留学に参加して、ことりが阿仁合小学校のことが大好きになりました」。ことりちゃん、高鳥さんのお嬢さんの名前です。

武田さんがことりちゃんに「学校楽しいですか?」と尋ねると、ことりちゃんは、ちょっと緊張した様子で「たのしい。お友達がいっぱいできて一緒にいろいろできる」と話していました。

可那さんは、「この子には少人数制がよかったと思います。複式学級で1,2年生が一緒の教室で勉強しています。去年の冬、1年生のときに2年生が習っている掛け算を覚えてきました。秋田の学校はその子に合わせて対応してくれる。それで学力が高いんだなと思いました」。学年の違う子と一緒に学校生活を送ることはこどもにとって非常にプラスになると思ったそうです。

可那さんは、北秋田市での暮らしについて、「ここに来て、時間に余裕ができました。横浜ではいつも何かに追われているような感じでした。仕事に、というより生活そのものに追われていました」と話し、ことりちゃんと過ごす時間が増えたことをとても喜んでいる様子でした。

次に、益田光さんのお話をお聞きしました。広島県出身の益田さんが秋田に住むようになったきっかけは、もうこれは運命としかいいようがありません。植物好きで農業大学に進学したのですが、特に農業に興味があったわけではなく、将来は研究者になりたいと考えていたそうです。

 

左がクロモジ茶

自然が大好きで自然の中で暮らしたいと考えていた益田さんは、大学卒業を前に進路に悩みます。そのとき、大学時代にわずか2時間、おとうさんの知り合いを訪ねた阿仁合の打当(うっとう)地区のことが気になり始めました。

たった2時間でしたが、そこで東京とは違うゆったりとした時間の流れを体験した益田さんはクロモジ茶の商品化を夢見始めます。クロモジは日本中いたるところに生えていて、一見無価値に見えますが、実はマタギは胃腸が弱るとクロモジの枝や葉を煎じたクロモジ茶を飲んできました。益田さんは、そこら中に生えているこの植物が、お茶にすることによってお金に変わる。その上、毎日会社に通ったりする必要もないということがとても魅力に思えました。

もう一つ、阿仁合には益田さんを引き付けるものがありました。マタギです。森の生活に強い憧れを持っていた益田さんは、森を知り尽くし、自然と共生するマタギの文化にも憧れでした。そしてマタギの修行をしたいと思い始めました。

益田さん、カッコよすぎます!

「マタギは銃を持って歩き回り、森の王者に立ち向かっていく。森で生きている。そのためには銃を使って獲物を殺す。それが生活そのもの。山に行かないときも自分はマタギだと思っています」

益田さん(右)は古いマタギの短刀を見せてくれました

益田さんが現在住んでいる打当地区はマタギ発祥の地とも言われています。阿仁合にはマタギが39人いるそうです。

いくら自然が好きだとはいえ、いきなり東京から北秋田の山奥に入るのは、かなりのカルチャーショックになるかもしれないと思い、益田さんはまず「慣らし運転」として秋田市の森林大学校に入学し2年間、林業の勉強をし、昨年、北秋田市の打当地区に引っ越してきました。そして今年春には「もりごもり」という会社を作り、マタギ見習い兼起業家として踏み出しました。

Q&A

Q&Aタイムには、1) 生活が不便ではないかという質問、2)地元の住民との交流、3)生活費、4)家族の理解についての質問が出ました。

まずは、不便さを感じないかという質問に、高鳥さんは、「コンビニや大きなスーパーはないですが、都会にある小型スーパーのようなところがあり日常的なものは揃っています」とおっしゃっていました。今は自転車のみだそうですが、車はあったほうが便利なので、今、運転の練習中だそうです。最初は、都市銀行の支店がないので困ったそうですが、今はネットバンキングで大半の手続きを済ませているそうです。

地域の人たちとの交流については、お二人とも「めちゃあります」という回答。高鳥さんによると、地域のイベントや運動会、毎月1,2回は街中クリーンアップ、隣の小学校との交流も月に1回ぐらいある。また益田さんは、「玄関に野菜とかいろんなものが置いてあることがよくあります」と感謝していました。高鳥さんも笑ってうなずいていました。

阿仁合には閉鎖的という印象があり、とけ込むのに苦労しなかったかという質問も出ましたが、益田さんは、最初は秋田弁が分からなくて苦労しましたと苦笑い。しかし、草刈りをしたり飲み会をしたりしているうちに、話好きな人が多いこともあり、すぐ打ち解けられたそうです。

生活費についての質問もありました。高鳥さんは、野菜はとても安い半面、車はほとんど必需品なので持った方がいいですし、冬季の暖房代は都会よりはずっとかさむ。しかし、家賃や家を購入した場合の費用、それに固定資産税が衝撃的に安いと強調していました。車は、庭に置けるので駐車場もいらない。食費はかなり安いので差し引きではやはり安いと思っているそうです。益田さんは、浄化槽トイレ付きで家賃2万円だそうです。

ちょっと気になったのは高鳥家のおとうさん。お話の中にほとんどおとうさんの影が見えないので、秋田への移住に反対しているのでは?と思い、おそるおそるお聞きしてみました。

しかし、心配は杞憂に終わりました。東京出身の高鳥家のおとうさん、子育ては田舎でという考えは可那さんと一致しているそうです。しかし、リモートワークができない職種で、奥さんと娘さんが秋田に住もうかということになったとき、おとうさんは転職活動を開始しようにも、秋田に来ることができず、今は不本意ながらリモート家族になってしまい、毎日、オンラインで話すようにしているそうです。

高鳥さんは、夫婦で田舎で暮らす場合には収入が減ることは避けられない。希望の職種もないかもしれない。だから、「何に価値を置いて生活していくかを家族でよく話し合うことが移住ではすごく大事なポイントです」とおっしゃっていました。

益田さんは、独身なので、そうした話し合いの必要はありませんでしたが、普通に都会で就職して週末にキャンプで森に遊びに来るような生活と、朝起きてから寝るまで森で暮らせるがそんなに収入はない生活のどちらを取るかを少し悩みました。しかし、結局、森の中で暮らせ、自分が憧れるマタギ・コミュニティーの一員として生きていこうと覚悟しました。

「収入は多くなくても、クロモジ茶の加工販売が軌道に乗ればビジネスになる。とにかく自分は自然と共生していく生活を選びました」。今は営林署のアルバイトもしているそうです。

こうして北秋田市の移住イベントの第1弾は終わりました。

9月19日にオンライン北秋田ツアー!

実は、これで終わりではありません。第2弾が19日に予定されています。これは、現地ツアーのはずでしたが、コロナのお陰で残念ながら中止になり、オンラインツアーとなりました。

ツアーでは、新たにできたシェアオフィスや山歩き、全国トップレベルの学力を誇る教育現場を訪ねて北秋田の魅力を紹介してくださるそうです。

また、グルメと熊の爪のを使ったアクセサリー作りを体験できます。

グルメは、地元の北鷹高校の生徒さんがプロデュースしたプレミアムカレー、日本酒の「大吟醸 北秋田」、益田さんの作ったクロモジ茶などが事前に宅配便で送られてきます。北秋田市が総力を挙げて選んだ地元の魅力あふれる品々、3500円は絶対お得だと思います!また、グルメとワークショップは見送り、オンラインツアーだけに無料で参加することもできます!

◆北秋田市の移住支援制度

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