高倉健、寅さんのような男を育てる警備会社 男塾

 

「男塾」--インパクトのある社名です。警備会社ときいて納得!

男塾というと、「魁!!男塾」という「週刊少年ジャンプ」に連載され、アニメ化もされた人気漫画があります。かなり暴力的な場面が多い親がみたらびっくりするような少年漫画です。その漫画に共感したのかギャグなのかはわかりませんが、うまく生きられない男たちに新しい人生を与えてやりたいという熊谷武塾長、もとい社長ーーの思いがこの社名からうかがえます。

熊谷武社長

男塾は、設立からまだ5年ですが、秋田県の警備業界に革命を起こしたといっても言いすぎではありません。熊谷社長のリーダーシップの下、秋田県内の主要都市に次々に事務所をオープンしています。現在の従業員は約130人

「年内に200人体制にして、7年目には上場を考えています」(熊谷社長)

秋田県には上場企業が4社しかないから。ただ、上場ありきというわけではなく、あくまで社員のためになることを優先するつもりです。

創業前、熊谷社長は、ある上場警備会社の秋田営業所の営業課長をしていました。そこで憤りを感じたのは、現場の警備員の待遇の悪さと経営者だけが潤う仕組み

「日給が5250円で、月に10万円いかない人もいる。出来る人も出来ない人も一律の給料。『違うんじゃないか』と言ったら、結果を出してから物を言えと言われました」(熊谷社長)

そこで、日勤と夜勤を10日間ぶっ続けで働いたり死ぬんじゃないかと思うような生活を続けながら、秋田営業所をトップに押し上げ、それを1年継続し目標達成! しかし、結局、自分が理想とする会社を作りたくて創業したのだそうです。

警備業界の平均日給が6100円ぐらいのところ、男塾は初任給を7200円に設定。社会保険にも入社初日から入れて、それを含めれば1万円にもなります。

男塾の求人広告!

「それが当たり前でなければいけないのに、秋田では3割ぐらいしか達成できていない」(熊谷社長)

ただし、創業後も社長の生活はあまり変わっていません。社員に距離を感じさせない経営者でありたいと考えているので、いつも警備員の制服を着て、毎日違う現場を回っているそうです。創業以来、一日もふとんで寝たことがないというのには驚きました。

「警備の制服は戦闘服です。社長が現場にいくことで現場に緊張感が生まれる。自分でやってみせ、聞かせ、教える」(熊谷社長)

ですが社員には優しい。有給休暇についても、なかば強制的に取らせているそうです。「人間は生活のために働いているんであって、休みたいのが当たり前」という考えが基本にあるのだそうです。

社長が憧れるのは高倉健の男気とフーテンの寅さんの優しさ。これを兼ね備えた男を理想とし、そういう男を育てる場所が「男塾」なのです。

ただ、学校を出たばかりという人にはほとんど「お引き取り願っている」そうです。むしろ若い引きこもりに生き方を教えたり、挫折した経験のある人が立ち直るのを応援したいと思っています。

「人間は誰でも間違えます。3回間違ったら然るべき措置をしますが、1回、2回なら更生させられる。じっくりと話をすれば分かってくれると信じています」(熊谷社長)

ですから、異業種で2、3回経験を積んでから来て欲しいそうです。

異業種の経験を大切にするのは、男塾が今後、農業やIT(情報技術)にも進出したいと考えているからでもあります。

「人には必ず輝けるフィールドがある。警備だけでなく、いろんな活躍できる場を作ってやりたい。警備業を漫然とやっていても、そのうちAI(人工知能)に取って代わられます」(熊谷社長)  

人手不足のご時世、急拡大を目指す男塾にはいろんな人が集まってきました。昨年は一度、目指す方向性と合わないと思う人たちに辞めてもらうという荒療治も必要でした。

キビキビとした動作で交通誘導

永井喬成(たかなり)係長(右)

インタビューに同席された営業部の永井喬成(たかなり)係長は、創業時から社長の片腕です。「別の警備会社にいたのですが、社長から猛烈なアタックを受けまして男塾に入りました。今や社長の片腕じゃなくて両腕ですね(笑)」

熊谷社長、やりますねえ。敵を作ってしまうのではと心配になりますが、意に介しません。

「周りは敵ばっかですよ。自分は思ったことをすぐやっちゃうので、気にくわない人も多いだろうと思います」。でも男塾の方が従業員のことを思っている、いい待遇を提供しているという自信がそうさせるのでしょう。

面白い広告も男塾の持ち味。2018年のエイプリルフールの広告にはびっくりしました。なにせこの記事の冒頭で紹介した漫画「魁!!男塾」のパロディを天下の魁新報の紙面に広告として出しちゃったんですから。そして、今年のエイプリルフールは、これ!

これらの広告を考えたのが、永井係長。「社長に内緒で企画しました。広告代理店さんが社長のOKも取れるよと言ってくれたのでやりました」と実に楽しそうに話されました。魁を相手にこんな冒険をできるのが男塾。

「最初は右翼だと思われたり、制服が黒なので、創業の頃にニュースになっていた『イスラム国』と関係あるんじゃないかと思われたり」ーーー。広告を見た人に「なんだこれ!」と面白がってもらい、訳が分からないのでググってもらって知ってもらうという戦略なのでわざと詳細を書かなかった。こうした広告やフェイスブックの投稿を読んで応募してくる人も多く秋田県の企業で年間検索ナンバーワンになったこともあるそうです。

警備業界の風雲児とも言うべき熊谷社長。実は警備業界の前にはDJ(ディスクジョッキー)でした。それも最後はバブル時代に一世を風靡したあのジュリアナ東京でDJをやっていたそうです。

1989年に高校を卒業後、秋田を飛び出し、行った先が盛岡。「え、なんで?秋田と変わらなくない?」と思うでしょう。でも、当時、盛岡には「パシェドゥ」という一晩の来客数が1600人にもなるすごいディスコがあったのだそうです。衝撃を受けた熊谷社長、そこを振り出しに、名古屋、岡山、北海道と渡り歩き、最後が、あの1.3メートルのお立ち台で女性が、からだにピタっと貼りつくようなボディコン(ボディコンシャスの略)姿で大きな扇子を振りながら踊って社会現象にもなったジュリアナ東京・・・。濃い青春でした。その後、秋田に戻ってからも、ビブロス(BYBLOS)というディスコのマネージャーをやりました。

そういう経歴もあって、秋田に再び、刺激的なお店を作ることも熊谷社長の夢。夢といっても、もう半分実現しています。川反に2018年にオープンした「異次元」というビアカクテル&フードマルシェがそれです。これから店内でプロジェクションマッピングなどの仕掛けを作っていこうと考えています。

相葉詩織さんと熊谷社長

「食事が来るのを待っているお客さんの前の空のお皿にミッキーマウスが歩いていたら面白いじゃないですか!」(熊谷社長)

ただ酒を飲むだけじゃなく、クールな居場所を作りたいのだそう。クイーンの映画「ボヘミアンラプソディ」を見てさらにその思いを強くしたそうです。

お店の設計は、秋田駅西口バスターミナル、JR秋田駅中央口、国際教養大学D棟、齋彌酒造発酵小路田屋など独創的なデザインで知られる千秋矢留町の間建築設計事務所桜庭みさおさんや相場詩織さんといったタレントさんも仲がいいので、気軽にCMに出てくれただけでなく、お店にも来てくれているそうです。

「秋田は下を向いて歩いている人が多い。そういう秋田を変えていきたい」という思いで、今年2月には冬の盆踊りイベント「AKITA BON DANCE FEST 2019」を秋田駅前の「アルヴェ」で開催しました。閉じこもりがちになる冬、暖かい室内でしばし夏を感じるという企画は楽しそう。来年もやるのかな?

急激な成長には危険も伴うので、周囲には少しスピードダウンした方がいいという声もあるそうですが、熊谷社長にその気は全くなさそうです。

◆男塾の詳細情報

◆男塾のフェイスブック

取材・写真:佐藤裕佳、薄木伸康 文:竹内カンナ