秋田プリマ食品株式会社。プリマハムの子会社でハムやソーセージを作っているとばかり思っていたら、実は20年も前から主力商品は総菜・加工食品!さすがにお菓子は作っていませんが、惣菜というのはとても幅広いジャンルなので、作ろうと思えばだいたいなんでも作れてしまう工場なのです。
今回は福岡県出身ながらプリマハムの新入社員時代から、何度も秋田に赴任している伊藤友博社長と徳井利行業務部長、太田一郎業務課長、そして入社2年目で商品開発を担当する増村沙希さんにお話を伺ってきました。
秋田プリマ食品は県誘致企業第一号
秋田プリマ食品は、1961年に秋田県の誘致企業第一号(当時の社名は竹岸畜産工業)として由利本荘市に設立されました。高度成長期、日本人も若い人が多く食欲旺盛で、作れば売れるという時代でした。しかし、2000年ごろになると、だんだんハム・ソーセージの売れ行きが落ち込み始めたことから、肉を使った惣菜・加工食品に方向転換を図ったそうです。それと同時に秋田の豊かな食材を生かした商品の開発に力を入れ始め、秋田県内の食材を熱心に研究してきました。
方向転換した当初は、冬の鶏つくねや鍋のスープなどしか売れず、春から秋は何を作ろうかと首をひねる日々が続きました。しかし春巻きがヒットし、さらにサラダチキンの大ヒットにより、今では、冬は鍋物、春は春巻き(シャレではありません)、夏秋はサラダチキンといういい商品のローテーションができました。
特に、サラダチキンのヒットはそれまでの生産体制を大きく見直さなければならないほどのインパクトがありました。当初は月40トン作っていたのが、種類が増え、うなぎ登りに拡大して180トンに達しました。増産の要請に対して、どんなに頑張っても120トン以上は作れないと言っていたのですが、「注文があれば何とかするのが工場の役目だ」と、従業員の増員とともに作業の自動化を進めて対応して来たそうです。
最近ではサラダチキンのブームもさすがに落ち着いて来たものの、好業績のお陰で築50年以上の工場の建て替えが実現しそうです。
しかし、せっかく入れた最新の自動機械をどう使っていくかを考えなければなりません。実のところ、最近は商品サイクルが短いので以前にも増して常に次の商品を考え続けているそうです。
商品開発というお仕事
商品開発というのはどのように行われるのでしょうか?
現在、秋田プリマ食品の新商品開発の専任担当者は3人。伊藤社長が、「たぶんいつもひとり20種類ぐらいの新製品のアイデアを抱えているんじゃない?」というぐらいたくさんの案件を並行して進めているそうです。
きっかけはいろいろ。例えばプリマハムの営業担当者が「こんなのが欲しい」という漠然としたお客様のアイデアを持ってきます。少し詳しくヒアリングをし、調査をして、既に市販されている近いものがあれば食べてみてサンプルを作ります。それを営業の人を通じてお客様に渡し、試食してもらってフィードバックを受け取り、その意見を反映してサンプルを作りなおして再度フィードバックをもらってという作業を繰り返すそうです。今はコンビニ相手の開発が多くスーパーに比べると非常にレスポンスが早く、オーダーがあった日のうちに試作し、次の日にはサンプルを作って送り、3日ぐらいで反応が返って来るとか。
開発の依頼が親会社であるプリマハムから来る場合と、秋田プリマ食品の社内で企画する場合があるのですが、秋田で企画して開発した商品の方が、すぐに微調整できる上、売れ行きも良いことから、秋田での新商品開発に非常に積極的です。
商品開発は若手の感性で
その開発の主役は若手です。伊藤社長は、「20代の人が食べるのだから20代の人に考えて欲しい」と言います。開発には経験よりも食欲が大事です!
若手代表として取材に応じてくださった開発担当の増村沙希さんにお話を伺いました。大学では、「真逆のことをやっていました」というので、何かと思ったら野生動物の勉強をしていたそうです。動物好きにとっては、動物の肉を扱う仕事はちょっと微妙だったかも?でも何か人の役に立てることを仕事にしたいと考えていたときに、秋田プリマ食品が食品の地産地消に取り組んでいることを知り興味を持ちました。
増村さんは3人チームの一番の若手。社長の言うように、それぞれ様々な案件を抱えており、増村さんも独自の開発案件を多く抱えているのですが、悩んだり行き詰ったら、先輩にアドバイスを仰ぎます。案件の進み具合がそれぞれ異なる中、割り込みの仕事も多く、他の案件の開発を中断して急いで対応しなければならないことも多いそうです。
2020年春には、増村さんが開発した商品が、初めて発売されるとか。
「自分の作ったものをたくさんの人に食べてもらえることが夢です」という増村さんの夢の一つがもうすぐ実現します。この商品は、年に1回プリマハムグループで開催する新商品のコンテストにも出品される予定だそうです。
若手活躍のチャンス
新人はどのように一人前に育っていくのでしょうか?
新人研修はありますが、それがすぐに現場で役立つというものでもありません。生産現場で重要な生産性とか歩留まりといったことはOJTで学んでもらうしかありません。しかし押し付けになってもいけない。質問に答えたり、ミーティングをしたりしながら、少しずつベテランから若手に知識や権限を譲り渡していくそうです。
伊藤社長によると、新人採用を控えていた時期があるため、今、管理職になる30~40歳代の年代の人たちが少ないそうです。そのためその世代を採用したいとのこと。また、ここ数年は10~20歳代の入社が多く、会社全体として若手を育てようという機運が盛り上がっているため、未経験者が入っても学びやすい環境である上、若くても責任ある仕事に就けるチャンスでもあるそうです!
いったん、定年を迎えた世代に頑張ってもらっていますが、ある程度管理職の経験がある人に入ってもらい早く世代交代をしたいと思っています。
実際に3年前に機械の技術者として入社された中堅世代の方も、既に重要な役割を担っているとのことでした。
控え目すぎる秋田の人
ただ、秋田の人は管理職に登用しようとすると腰が引けてしまうのが幹部の悩みの種。全国的にみても学力が高くて辛抱強く素質は全国でトップクラスですが、人の前に出るのを嫌がり、控えめな性格の人が多いと福岡出身の伊藤社長。一方で、女性のパワーにも期待しています。同社の約170人の従業員のうち60%強は女性。食べ物を扱う仕事のためか、女性の希望者が多く、比率は徐々に高まっています。そのため女性にももっと管理職を任せたいとも思っています。(男女比率を確認!)
伊藤社長が不思議に思っていることがあります。
「秋田の女性はけっこう強いと思うんですよ。普段は。でも、いざ何か重要な決断となると男性の顔をみるようなところがある。なぜなんでしょうかねえ」
う~ん、他の会社でもそんな話を聞きました。男性も女性も、秋田出身者、もっと自信を持ちましょう!
女性が結婚、子育て期を通じて働き続けられるような制度は整備されています。残業も月20時間未満です。
地域の食材へのこだわりと「地産外消」の夢
秋田プリマ食品は、地域の食材を研究し商品開発に生かしています。この話題になると伊藤社長をはじめ皆さんも話に熱が入ります。
きりたんぽは、湯沢市の佐藤養助商店の稲庭うどんや西目町のハーブワールドAKITAで製造しているたんぽと秋田プリマ食品の比内地鶏のスープを入れた「きりたんぽ鍋セット」が全国で販売されています。同社では鶏ガラだけでなく比内地鶏を丸ごと使ってスープを取っているそうです。普通の鶏肉よりはるかに高価な比内地鶏をそんなに贅沢に使ったスープはなかなか見かけません。
由利本荘市東由利地域のある農家が飼育しているフランス鴨を使った鴨のコンフィも製造していますが、量が少ないので東京の三越伊勢丹でしか買えないそうです。鴨肉の需要はほぼもも肉だけなので、むね肉をどう使ったらいいかという相談を受け、低温の油でゆっくり煮るように調理することで柔らかくジューシーに仕上がるフランス料理のコンフィという調理法を使ってみたそうです。またもち入り鶏つくねには秋田いなふく米菓(秋田市)の餅を入れて独特の食感を出しています。作り手の顔が見えると急に食べてみたくなりました。
その他、地元の秋田由利牛を使ったローストビーフなども製造しています。こうした黒毛和牛の商品はプリマハムも力を入れているので、秋田プリマ食品としてはもっと全国的に売り出したいのですが、生産量が少ないのが悩みの種。同社は、秋田県の食材の「地産地消」だけでなく「地産外消」も進めたいものの、量の問題で商品開発に結びつかないことが多いそうです。
全国的に人気が高い「いぶりがっこ」を使った商品にも力を入れたいと考えています。いぶりがっこにはブランドイメージを守るためにいろいろな制約があるので秋田県総合食品研究センターの支援を受けて機械を使っていぶす仕組みを作りました。しかし、思ったようにいかなかったそうです。いぶした後に40日間漬け込む必要があるのですが、40日間入れておく冷蔵庫も必要。いぶりがっこを作っているところから調達しようとも考えましたが、同社で扱う数十トンという量を供給できる業者がいないのだそうです。
企業とのコラボ・地域への貢献
他の有名企業とのコラボにも積極的です。はごろもフーズとは、「シーチキン®チキン」を共同で開発。両社がいずれも2019年に創業88周年を迎えたご縁もあって始まった企画のようです。かなり力の入ったショートムービーも作っています!(※「シーチキン」は、
過去には、湖池屋との「サラダチキン(カラムーチョ)」、日清食品との「サラダチキン(悪魔のキムラー)」といったコラボの実績もあります。
同社は地域への貢献にも熱心です。由利本荘市のB級グルメのハムフライを市民グループの「本荘ハムフライ・ハム民(たみ)の会」とコラボしています。元々は地元の肉屋さんが店頭で揚げ、子供たちがお小遣いでおやつに買っていたハムフライ。由利本荘市民だけでなく懐かさを感じる人も多いでしょう。
秋田由利牛の普及振興のためにディナーパーティーを開催したり、勉強会・研修会を実施している「由利牛を丸ごと味わい尽くす会」が年6回、開催するイベントにも協力しています。ただし、この会合は残念ながら招待制です。
こうした話題は尽きることを知りませんでした。(笑)
毎年夏には大規模な納涼祭を開き、同社の製品をお手頃価格で販売するそうで、2019年は1300人が訪れました。毎年人数が増えており、駐車場が足りなくなるほど。また、この時に打ち上げる花火も人気だそうです。有名な花火大会のように協賛企業や花火師さんの紹介などがなく連続でドンドン上げ続けるので迫力があり、これを楽しみに参加する人もいるそうです。
また、由利本荘市はボートが盛んな町で、子吉川レガッタ大会にも男女1チームずつ参加しているそうです。2019年は女子が2位だったので、2020年は優勝を狙っているとか。増村さんも参加しました!
伊藤社長は、「若い人には、明るく伸び伸びと自由な発想でやって欲しい。若い人が増えてきているのでやりやすいと思います。サラダチキンが伸びたので今はやりたいことを試せる時期です」とおっしゃっていました。
取材を終えて
食品の開発は面白い!食べるのが嫌いな人はいないし、多分、秋田プリマ食品では開発担当者だけでなく誰もが毎日、新しい商品のことを考えているのではないかと思いました。現在、募集している職種は製造、品質管理、メカニック、事務関係だそうです。
◆ 会社紹介動画 (2013年制作)
◆秋田県就活情報サイト KocchAke!の秋田プリマ食品の情報
◆取材・写真・記事:竹内カンナ、渡部みのり