工業用宝石から光通信、小型モーターと幅広い分野で先端を走るアダマンド並木の主力工場は秋田!

アダマンド並木精密宝石株式会社。なんかアクセサリー屋さんかなあ?しかし精密ってなんだろう・・・と、時々目にする同社の社名をずっと不思議に思っていました。アダマンドってなまってるように聞こえるけど秋田弁じゃないよなあ・・・

なので同社の並木里也子社長和田統副社長にオンラインでインタビューさせていただけることになり、下調べをしようとホームページ(HP)を見て驚きました。「世界初」とか「世界でも高いシェア」という言葉があちこちに出てくるのです。革新的な技術を持つ製造業の会社らしいことが分かりました。

光通信を支えるフェルールで世界的に高いシェア

アダマンド並木は、1939年に電気メーターに搭載される人工サファイアを使った軸受の製造メーカーとして創業しました。その後、時計用のルビー、ダイヤモンドを使ったレコード針の製造などにも進出します。ダイヤモンドのレコード針は、寿命が長く世界中で爆発的なヒット商品になりました。最近のレコード人気で再び脚光を浴び、売り上げが大幅に伸びているそうです。

こうした製品開発によって硬い素材の加工技術を磨き、1980年と非常に早い時期に光ファイバーのコネクターであるフェルールという部品を開発。今も世界的に高いシェアを維持。アダマンドという社名は、”非常に硬い”を意味する英語のAdamantから来ているとHPに説明してありました。そもそもはダイヤモンドの語源でもあるギリシア語のAdamas。

このフェルールの性能の改善を進める過程で、同社は研磨の技術を高め、コストを下げ大量生産を始めます。1980年代後半は、最先端の素材だったジルコニアセラミックスの射出成形によるフェルールの製造に成功します。これは、精度を上げ、工数を減らす画期的な技術でした。

顧客の要望に耳を傾け、その要望に対応できる匠の技を持っていたからこそできた技術革新です。

こんな話が時計や半導体部品、医療用精密部品などに使われる精密宝石部品事業、光通信事業、小型モーター事業、医療装置事業それぞれにあるのです。

同社のHPには、数多い製品が、3つのカテゴリー別、12の用途別、8つの工程別に探せるようになっていますが、それぞれの大項目の下にたくさんの小項目があり全部並べたら大変な数です。

それぞれの項目を展開すると、その中にこんなにたくさんの項目が含まれています

そんなわけでアダマンド並木の技術を紹介するには、いくら時間があっても足りないのですが、もう一つ、ちょっと触れておきたい部門があります。ロボットの部品、小型モーターです。同社はシャープと共同で業界最小のロボット関節用サーボモーターを開発。12ミリ×24ミリ×12ミリメートルの小さなサーボモーターを、シャープはロボホンというロボットに使っています。

また、ロボホンがきっかけとなりソニーのペット型ロボット「aibo」にも採用されたほか、産業用ロボットにも使われているそうです。このコアレスモーター技術、きのうやきょう、できたわけではなく、1979年にはウォークマンの1号機に使われ、その中に並木のモーターが使われているのを知った米モトローラがポケベル用振動モーターに使いたいと言って来たというエピソードにもその技術の高さがうかがわれます。

人工ダイヤモンドの半導体ウエハー

最近の全国ニュースにもアダマンド並木の名前がありました。同社は大口径の人工ダイヤモンドのウエハーを開発しており、佐賀大学が、同社と共同でこのウエハーを使った次世代のパワー半導体デバイスを発表し、ダイヤモンドウエハーが実用化へ一歩近づいたというニュースでした。

もっと詳しく知りたいというという人はこちらもご覧ください。11分17秒から里也子社長も登場します。

ウエハーは半導体の主材料でシリコンが主流ですが、サファイアやガリウムを使ったものもあります。でも、ダイヤモンドは聞いたことない人がほとんどではないでしょうか?しかし、ダイヤモンドは理論的に放熱性や耐電圧性に優れ、安定に動作させることができはずなので究極の半導体といわれています。しかし、これまでは実用に耐えるデバイスが作れなかったのです。佐賀大学は5年をめどに実用化を目指しており、宇宙事業などへの活用が期待されています。

アダマンド並木の公式ブログ「ADNa MAGAZINE」には、同社の技術や業界トレンドについての説明たくさんあるので、ご興味のある方は是非ご覧ください。

アダマンド並木と秋田

アダマンド並木精密宝石は創業80年を超える東京に本社がある会社なのですが、国内の主要工場を秋田県の湯沢市と横手市に置いています。湯沢市には雄物川をはさんで2つの工場があり、ダイヤモンド、サファイア、ルビーなどの工業用宝石の素材開発を行うとともに、精密加工・精密研磨を行い、半導体関連部品から時計関連製品まで幅広く製造しています。横手にあるアキタ・アダマンドは精密加工・各種成形技術を基礎とした光通信製品の基幹工場です。

余談ですが、1970年代に同社が次々に秋田県内に工場を建設した頃、若かりし佐竹敬久(のりひさ)現秋田県知事が県庁職員として尽力されたことが今も語り継がれているそうです。

新社長と新体制

同社は昨年、大きな機構改革を行い、創業者のお孫さんに当たる並木里也子さんが今年3月末に新社長に就任しました。 

社長を紹介してくれた友人は、里也子社長と宇宙をテーマにしたイベントで知り合ったということでしたので、最先端の技術の専門家だと思っていたのですが、なんと里也子社長、元スノーボードのワールドカップ選手として世界を転戦していたというアスリート!

新体制のスタート

実は同社は数年前、経営不振に陥りましたが、抜本的な立て直しを進め、2018年には旧2社の合併(並木精密宝石とアダマンド)および黒字転換・V字回復に成功して苦難の時期を乗り越えました。今は米国や中国などを含む国内外の顧客からの引き合いも増え、業績が大きく拡大中です。

今期の売り上げは前期比40%増を見込んでいます。今年は約20人の採用を検討しており、7月にはインターンを迎え入れるための準備中だそうです。

里也子社長は、昨年から社内の改革に取り組んでいます。アダマンドと並木精密宝石はもともと別会社だったため、部署間のコミュニケーションを良くすることに努めています。

一社如一家

現在は、従業員一人ひとりとの面談を定期的に行い、社内が「一社如一家(一社が一家のごとし)」という創業者の言葉のように社員が幸せを感じられる会社を目指しています。社内報「JEWEL(ジュエル)」にコラムを執筆したり、各社員にバースデーカードを手渡しするなど細やかなきずな作りに努めています。

並木里也子社長

「ものづくりは人づくり。大切なのは人です。これまで私は教育に携わってきましたので、この会社でも学校を作りたいと考えています」

里也子社長は、自然との触れ合いやサバイバル英会話や研修など社員の学びの場づくりを進める構想をあたためているとのことでした。従業員との面談で、DIYや料理などの趣味を楽しんでいる社員が多いことが分かり、社内の部活動なども応援したいともおっしゃっていました。

待遇改善や人材開発

今年の経営改革では、真っ先に従業員の給与や賞与の引き上げなど待遇改善を実施しました。また、ユニフォームも刷新しました。里也子社長は、「従業員の意識を変えるには時間がかかると思いますが、従業員の意見をよく聞きながら進めていく方針」だと強調されました。またこれまでも力を入れてきたことですが、持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向けた活動にも力を入れていきたいと語っておられました。不要になった古いユニフォーム2200着以上もリサイクルしたそうです。

アダマンド並木の強み

同社の各事業部を統括するのは、和田統副社長です。和田さんはアダマンド並木をとてもポテンシャルの高い会社だと話します。

和田統副社長

「アダマンド並木の製造現場には長い経験によって培われた匠(たくみ)の技が活かされています」

アダマンド並木は個性的な事業分野でしっかりとしたブランドを築いており、過去4年間は、売り上げも利益も堅調で、各部門で国内外からの引き合いが増えているそうです。

和田さんは、コンサルティング会社出身で、事業再生やM&A(企業買収・合併)、海外展開などで製造業を中心に100社以上を支援してきたという経歴の持ち主。そもそもアダマンド並木へもコンサルタントとして関与して信頼を得て、先代社長に請われ同社へ転籍する決意をしました。

多くの会社の経営改革に携わる中、和田さんは日本の会社が海外企業に買収されたり製造業の工場が海外に移転したりするのを目の当たりにし、日本国内の雇用や日本の製造業の先行きを懸念していました。

コンサルタントから副社長へ

そのため秋田や青森といった日本の中でも過疎や製造業の集積が遅れている地域に工場を持つアダマンド並木から副社長のオファーを受け、迷いなく承諾したとのこと。コンサルティングの仕事は充実していましたが、所詮は、よその会社のサポート。当事者として日本のものづくりの会社の舵取りができることに魅力を感じ、新しい環境に飛び込もうと決意しました。

和田さんによると、アダマンド並木には大企業にはない強みがあります。例えばIT・通信・半導体・自動車などの巨大企業が開発製品を試作したいと思った時に選ぶのは大手メーカーではなく、機動性があり匠の技を持つ技術者が多いアダマンド並木なのだそうです。独立系であるため企業系列を問わずに注文を受けられるのも同社の強みです。顧客の数は1000社を数え、それも長いところでは40~50年の付き合いが続いているとのこと。

景気の波を受けにくい体質

また、どんな業界にも景気の波がありますが、同社は同社の各事業部が多岐にわたっているため、ある事業部が不調なときは他の事業部が好調で全体としては安定した業績になります。

「世界的に今は、光通信向け部品、半導体向けウエハー、小型モーターなどの需要が拡大しています。また、創業時からの事業であるレコード針は、この10年のレコード人気の高まりに加えコロナ禍によって家で過ごす時間が増えたことで売り上げが伸びています」

アナログレコードが、意外に20歳代にも人気だそうです。「analog(アナログ)」というレコード専門誌の2021年春号では同社のブランドである「オルソニック(ORSONIC)」のサファイアを使ったオーディオ・アクセサリーを「珠玉アイテム」と呼んで絶賛しています。

今期は大幅な売上高拡大を予想

現在は、売り上げ比率の高い光通信向けのファイバ・コネクタ、半導体向けのウエハー・消耗材、医療装置・医療機器向けの小型モーターなど同社の事業部すべてが良い方向に行っているようです。連結売上高については、2020年12月期は144億円でしたが、2021年12月期は200億円へと大幅UPの見通し。連結営業利益も2020年12月期の2.4億円から2021年12月期は12億円強へと増加する見通しです

会社の体力のバロメーターともいえる自己資本額も70億円自己資本比率も40%になりました。日本の上場企業の平均である30%強を上回っています。5年後にはそれぞれ100億円50%超を目指しています。

新規採用について

採用方針についてうかがいました。どんな人材が欲しいかと聞くと、里也子社長は「専門性・スキルは問わず、製造現場であれば情熱があってマニアックに取り組む人」と答えられました。熟練の技を持つ先輩がたくさんいるので基礎から応用まで学べるそうです。事務職ではコミュニケーション能力を重視したいとのことでした。希望すれば海外勤務や秋田、東京間の人事異動の可能性もあります。

製造現場と事務職の2人の若手のお話もお聞きすることができました!

製造現場の先輩

湯沢工場の斎藤貴明さん

精密宝石やレコード針を製造する湯沢工場の齋藤貴明さんは入社6年目。にかほ市出身で、秋田大学大学院地球資源学専攻(現:国際資源学部)の出身です。大学で学んだことは今の仕事には直接関係ないですが、秋田市で行われた合同会社説明会に行った時に同社が人工サファイアを製造していることを知り興味を持ったとのこと。

進学でも就職でも秋田県内を選んだことについて、「就職活動では首都圏の会社も受けましたが、人混みが好きではないので秋田の方がいいと思いました」と語っておられました。

現在はサファイアの基板にレーザーで穴を開ける工程を担当しています。医療装置などに使われるそうです。レーザーで穴を開けるのは、その日の気温などの条件によって精密な調整が必要なのだそうです。

「試作品の製作は面白いです。CAD(コンピューターによる設計)で図面を起し、自分でプログラムを組み、思い通りのものが出来ると達成感を感じます」

CADも、会社に入ってから学びました。必要な技能を身につける機会も用意されていて、昨年は名古屋にNCプログラムという工作機械に入力するプログラムの研修に行ったそうです。

齋藤さんの一日

朝は8時半に始まり、30分~1時間は3台のレーザーの調子の確認します。それから基板の穴あけの作業と後の工程を経て戻ってきたものを検査するという作業を開始し12時までが午前中。ランチ休憩は45分で、5時15分に終業。

休みの日にはゲームしてを楽しんでいることが多いそうです。ファイナルファンタジーなどを、オンラインで全然知らない人と協力しながらプレイするのが楽しいとおっしゃっていました。外に出掛けるときは、車でご実家のあるにかほ市の土田牧場などに出掛けるそうです。

将来の目標として、「レーザーの穴あけなら斎藤に任せろと言われるようになりたい」と語っていました。仕事以外では、猫を飼いたいそうです。(笑)ただ、今は8月にお子さんが生まれるのをとても楽しみにしていると語っていました。

事務系のお仕事

光通信部門の工場である横手市のアキタ・アダマンドで、経理を担当している小武海(こぶかい)華奈さんにもお話をうかがいました。地元横手市山内の出身で県立横手城南高校の普通科を卒業後、同社に入社しました。

小武海(こぶかい)華奈さん

知り合いが同社で働いていて会社のことを知っていたことや、工場見学をしてみて「見たこともないものを作っている、触ってみたい」と思ったそうです。そして、女性が多く社内の雰囲気がいいと感じたことが決め手になりました。

細かいものを作るのが好きで、製造現場を希望していたのですが、配属されたのは生産管理という事務系の部署でした。しかし、知らない分野にチャレンジしてみようと思い生産管理で3年、その後、経理に異動になりました。

経理に配属になったときは、あまり数字が得意ではないので「無理!」と思ったそうですが、スキルアップにつながると思い直して頑張ってきました。

経理は奥が深く5年たってもまだまだ学ぶことが多いそうですが、「周囲の方々が親切にサポートしてくださるので続けてこれました」とおっしゃっていました。だんだん知識や経験が積み重なり自分の頭で考えられるようになったと成長を実感している様子でした。

小武海さんの一日

午前8時半始まりですが、15分前には出社しているそうです。事務部門は十数人。月・水・金には朝礼が行われ、1人ずつ話をすることになっているそうです。こうしたことがコミュニケーションの向上につながっているのでしょう。

昼休みはコロナの影響で密にならないよう2班に分かれて取ります。早い班は11時45分~12時半、遅い班は12時半~1時15分。月末・月初以外はほとんど残業はなく、あっても1時間~1時間半程度とのことです。

お休みの日は一眼レフのカメラを携えてカフェ巡りを楽しんでいたのですが、この1年はコロナの感染拡大であまり行けなかったそうです。地元のお勧めカフェは、ダイニングカフェ蓮(REN)。おお、調べてみると店構えもメニューもとても素敵です。

小武海さんは昨年ご結婚され、それまで山内から20~30分かけて通っていたのが10分ぐらいで通勤できるようになったそうです。20分でも十分近いですが。

地元に就職しようと思ったのは、父親が単身赴任で家にいないことが多いため、母親のそばにいて雪寄せなどを手伝ってあげようと思ったからだそうです。ご実家のある地域はご近所さん同士仲が良く、旬の山菜や野菜を持ってきてくれるそうです。小武海さんがいちばん好きなわらびなど、近くのおばあちゃんがめんどくさいあく抜きをして持って来てくれると嬉しそうに笑っていました。自分のうちの雪寄せが終わると近所の手伝いに行くというようなことが当たり前のコミュニティって都会にはないですね。

製造現場を希望していたのに事務系のお仕事が続いている小武海さんですが、今は事務職を楽しんでいるようでした。

これからも長く働き続けるかどうかについては、旦那様の転勤が多いのが心配だとおっしゃっていました。今も勤務は湯沢市なので横手市から湯沢に車で40分かけて通勤しているそうです。(雪の時には2時間半かかったこともあるそうです)

きっと大丈夫!里也子社長がリモートワーク体制を整えてくれると思います!

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アダマンド並木は、数年前の困難な時期を乗り越え、若い経営陣がやる気にあふれています。この部品なら同社に頼もう・・・という技術をいくつも持っており、最先端の研究で新聞に取り上げられるなどすごい会社です。大手メーカーの医療機器や情報機器に製品を採用され、顧客ネットワークは1000社を超え、事業ポートフォリオが多角的なので景気の波にも強い。過去の反省に立った新しい経営陣は従業員の幸せを最優先に考えています。2021年12月期の業績は今どきこんな会社があるのか!というほどの大幅な伸びになりそうです。

◇アダマンド並木精密宝石株式会社のウェブサイト

 

 

文:竹内カンナ

写真:アダマンド並木精密宝石株式会社