斉藤光学製作所を秋田のリーディングカンパニーにしたい! 齊藤大樹社長 

斉藤光学製作所の齊藤大樹社長千葉翔悟経営企画室室長にオンラインで取材させていただきました。同社は、美郷町にある高い研磨技術を持つ会社です。カメラのレンズフィルター半導体の基板などの研磨を行っており、多くの大手製造業と共同で研究開発にも取り組んでいます。

2021年8月末に就任した3代目の齊藤大樹社長は、同社を秋田のリーディングカンパニーにするという高い目標を掲げています。といっても売上高や社員数など規模を大きくすることではなく、「社員が会社に誇りを持ち、外の人からもいい会社だ」と思ってもらえる会社にすることです。

 

3代目、化学メーカーから斉藤光学製作所へ

大樹社長は、大学進学を機に仙台に行き、卒業後は化学メーカーに就職、メイン工場のある山口県と東京本社で主に財務や経理を経験しました。さらに会社全体の業務プロセスの整備などガバナンス関係のプロジェクトを完了させたタイミングで、4年半前、父伸英さんが社長を務めていた斉藤光学製作所に入社しました。

その頃、同社では頑張ってるなと期待していた人が突然辞めてしまうことが相次いでいました。どうも社員の間に不満がうっ積しているようでした。

そこで大樹社長は、社員の不満をヒアリングするため、3カ月に1度、全社員と面談し、思いを吐き出してもらい、できるところから対策を始めました。不満は一般社員にとどまらず管理職の間にも広がっていたので、情報共有を徹底し経営会議でしっかりと議論して課題を浮き彫りにし、対処していきました。

コーポレートブランディング

齊藤家は、伸英前社長も大樹社長もポジティブで明るい性格です。大樹社長は仙台の大学に進学、弁護士を目指して法学部に入ったのですが、「仙台の街にいろいろ誘惑されてしまいまして、あまり勉強にも熱が入らなくて」と屈託なく笑っているタイプ。

しかし秋田には、「うちの会社ってよそからすごいとか言われているけど、別にそんなことないし・・・」と思っているネガティブ人間がけっこう多くまっすぐな大樹社長は残念で仕方がありません。

斉藤光学製作所は、2013年に内閣府のものづくり日本大賞で「優秀賞」を受賞したり、2017年に経済産業省の地域未来牽引企業に選定されたり、翌年に秋田県優良中小企業者表彰を受賞、2020年に経済産業省のはばたく中小企業・小規模事業者300社に選ばれるなど、高い評価を得ているのです。

大樹社長は、「社員が誇りを持てないのは会社が社員にきちんと伝える努力をしてこなかったことも一因だと思い、社内外に向けたコーポレートブランディングに取り組み、ようやく少しずつだが手ごたえを感じてきました」と語っていました。

給与の18%引き上げを目標に

大樹社長が社員の会社に対する認識をポジティブに変えるためにもう一つ大事だと考えているのは、給与の引き上げです。

僕は社員が輝いている会社を作りたい。そのためには社員に満足してもらえる給料を出したいのですが、今はそれができているとはいえません。なので新しい5カ年計画では、必死に会社の利益率を上げるために努力し、平均年収を18%引き上げるというビジョンを掲げて取り組んでいます。

18%とは細かいですが、秋田県の賃金統計の製造業の平均賃金をベースにして設定した目標値だそうです。

5カ年計画では、社内の心理的な安全性の構築も大きな目標に掲げています。心理的な安全が確保されていないと、「社内に問題が生じていても声を上げると面倒なことになりそうだ」と見て見ぬふりをしてしまいます。声を上げたことで不利益を受けることがないという確信があってこそ、思ったことを率直に言えるのです。意見を言いやすくなり、風通しが良くなれば、会社を良くしたいと思う人がもっと増えると考えています。

「社長賞」で10万円!

同社は、頑張っている社員を認めてあげる制度として2019年に会社の利益に貢献した社員を表彰する「社長賞」を設け、年に1回表彰しています。賞金10万円!

ただし、プレゼンテーションできちんと説明することを義務づけています。そこで応募をためらってしまう人も多いのですが、それも社員のコミュニケーション力向上のためです。

大学生インターンの活躍

斉藤光学製作所は、大学生のインターンシップも積極的に受け入れています。国際教養大学の学生が参加したインターンシップは数カ月にわたり、会社の課題の分析をしてもらったり、SNSによる会社情報の発信会社のブランディングを手伝ってもらったり、SDGsについての会社の方針を整理するといった社長室や総務部の所管だが手が回っていないようなことを手伝ってもらっています。しかし、そうした具体的な成果と同時に、大学生と接することによって社員たちが会社を客観的に見ることができるようになる効果も期待できると思います。実際、社長も大学生たちからさまざまな気付きを得ているとおっしゃっていました。

中小企業というのはリソースが足りません。学生ももちろんですし、都会でお仕事をされている方にも副業で斉藤光学製作所に関わってもらいたいし、ファンになってもらいたいと思っています。

学生たちは会社の寮に住んでいます。インターン体験は学生にとってはフィールドスタディーになり、これによって単位を取得することができ、オンラインで授業に出ながら、空いている時間で斉藤光学製作所でのプロジェクトに取り組んでいる学生もいるそうです。

大樹社長は、秋田に戻ってきて非常に充実した生活を送っているので、社員が幸せな生活を送れるようにするのが自分の使命だと思っています。

これから、僕が考えているビジョンだったり、みんなへの感謝の気持ちみたいのを週に1回ぐらいYouTubeで配信していこうと思っています。やめないように今ここで宣言しました!笑

先々代が秋田に工場を作った頃は十数人の会社でした。現在では60~70人になりましたが、改革は進めやすい大きさです。

頑張れ、大樹社長。

会社の沿革

斉藤光学製作所は1972年埼玉県福岡町(現上福岡町)に大樹社長のおじいさんの齊藤登二さんが創設し、腕時計のカバーガラスを生産していました。同社は1985年に秋田県仙北郡千畑村(現仙北郡美郷町)に県の誘致企業として秋田工場を建設し、1988年から半導体向け石英フォトマスク端面研磨の生産を開始しました。

先代社長の伸英さんは秋田工場ができた時、25歳で千畑村に移住、おしんこだけで何時間も飲み続ける秋田の健康によくないノミニケーションも性に合い、秋田女性と社内結婚し、秋田が大好きになりました。2015年には本社も美郷町に移しました。

同社は、創業当初の時計のガラスやレンズフィルターといった光学ガラスに続いて大きな研磨の市場となった半導体へも順調に業容を拡大してきました。そして、2009年にインターオプティック社からサファイア事業を買収。これをきっかけに新たな領域へと進出します。

オープンイノベーション

それが顧客が求める製品や技術を顧客と共同で開発していくオープンイノベーション事業です。下請け的な受託生産だけではなく、現場の人たちが磨き上げてきた職人技をベースにした技術開発型企業に生まれ変わろうとしたのです。

技術を他社に盗まれるリスクを伴う決断ではありましたが、結果として国内の大手企業だけでなく海外からも引き合いが増え、伸英前社長の読み通り、技術を盗もうとするのではなく齊藤光学の技術力を信頼し一緒に研究開発を進めたいという顧客が増えました。

オープンイノベーションとは、例えば基板メーカーから、こういう素材の基板の磨き方が分からないと相談を持ちかけられ、場合によっては会社に来てもらって一緒に磨き方を実験するとか、研磨剤のメーカーが新しい製品を持ち込んで一緒にテストして削れ方や特徴を明らかにしていくというようなことです。信頼関係で結ばれた顧客が多いため市場の新製品動向も自然に入ってきますし、大手企業の技術を垣間見ることもできるという同社にとっては非常に旨味のある事業となりました。

斉藤光学製作所の顧客は高い技術力のある大手メーカーが多く、同社のことをよく知っているので、営業活動をしなくても顧客が訪ねて来てくれます。エンジニアたちが学会や展示会に行って作り上げた技術者や学者とのネットワークが新しい受注につながるのです。技術の分からない営業だと伝言ゲームのようになり時間が掛かってしまいますが、エンジニアが直接顧客と話すことによるスピード感も同社への顧客の高い評価につながっています。

顧客企業から遠いことはハンデではないそうです。都会から来てもらって実験をしたりするには数日かかりますから泊りがけで来ます。そうなれは夜はもちろん地元のおいしいお酒やお料理でおもてなしをするのが秋田。

顧客企業の担当者たちが、「ちょっと斉藤光学製作所に行って来ます。遠いので泊まらなきゃいけなくて大変ですよ」と言いながら、心の中ではうきうきしている様子が目に浮かぶようです。

手厚い「保育費」支援

女性比率は38%と製造業としては非常に高い。産休・育児休暇などの通常の支援策に加え、同社は子育て中の社員に幼稚園や保育園の費用の7割を「保育費」として支援しています。また、お母さんたちが定時に帰れるようにバックアップ体制を取っています。

研究開発型メーカーの面白さ

通常は、このあたりで入社1、2年の若手社員にいろいろお話を聞くところなのですが、斉藤光学製作所の場合、研磨技術のどこがどうすごいのかをお聞きしたかったので、技術畑の執行役員、千葉翔悟経営企画室室長にインタビューさせていただきました。

まず、研磨がいかに重要な技術かについてお聞きしました。

斉藤光学製作所が追求している技術は半導体の素材の研磨です。半導体は、電子というとても小さなものの動きをコントロールするものなので、半導体の素材であるシリコンなどのちょっとした凸凹も電子にとっては断崖絶壁のようなもの。ですからなめらかに磨く作業が非常に重要なのです。

シリコンなどは磨く技術も確立されていますが、斉藤光学製作所は、炭化ケイ素や窒化ガリウムなど次世代、次々世代の素材の研磨を大学や研究所と一緒に進めているのだそうです。

まだ技術が確立されていない素材の場合、予想外の現象が起きることがあります。その現象にはいろんなパラメーター(変数)が複雑に絡みあって起きるので、問題を解決するには絡みあったパラメーターを論理的に解きほぐして実験を繰り返して原因を見つけ出さなければなりません。その分からないことを解明していく過程が斉藤光学製作所の仕事の面白さなのだそうです。

世界的に見ても研磨の研究は前に進んでおり、斉藤光学製作所はその最先端を走っていると思っているそうです。

僕は、もともと東京で調理師をやっていたんですが、フランス料理はいろんなものを足していく料理。日本料理って引き算の料理と言われているんです。例えばお刺身は、素材のおいしさを出すためにどう切るかというのが大事です。料理には国民性が表れるのですが、材料の余分なところを除去してその価値を最大化させる研磨は、日本料理に似ていて、日本人に合っていると思いますし、今も世界のトップレベルだと思います

え?調理師だったんですか?!料理と国民性の話、非常に説得力ありましたが、ばりばりの理系と思っていた斉藤光学製作所のエンジニアのトップが調理師出身というのに驚き、つい話は横道にそれて千葉さんの経歴の話になってしまいました。

千葉さんは、東京で調理師として働いていましたが、家の事情で秋田に戻ってきました。そして2社目に就職したのが表面処理装置を製造している会社でした。その会社で新しい研磨装置を開発するプロジェクトを担当した時、インターネットで情報を収集したり、いろんな研究者や大学の先生から教えてもらううちに、磨く技術についても知識を深めていきました。

四年制の大学には行かなかったのですが、研究開発のプロジェクトに参画したときに論文を書き、学会で発表したりしていたので、それを修士相当の研究成果と認めてもらい秋田大学の博士課程に入学、博士号を取得しました。

修士ぐらいならまじめに論文をまとめればもらえると聞きますが博士号はすごい!

研磨は明確な答えは決まっていて、そこに至るためのアイデアやロジックを積み重ねて、それを試してみる。ある瞬間、この状態を作れるのは自分しかいないと感じることもあります。 

次に、斉藤光学製作所がなぜ顧客企業から信頼されるのかについてうかがいました。

日本人というのは、偉い人が参加している会議でも結論を出さずに持ち帰って検討するようなところがあり、海外の人から日本人は時間が掛かると言われることがよくあるんですが、僕らは、規模ではなく別のところで勝負しなければいけないと思っているので、レスポンスのスピードや質を大切にしています。

就活生へのメッセージ

千葉さんから就活生へのメッセージをいただきました。

最近は、技術の進歩がこれまでの延長線上にはなくなってきました。面白そうだからやってみようということがすごく大事になってきていると思います。そして、うちのような小さな会社では、新卒の新入社員でも、これ面白そうなのでやりたいと手を上げれば、やらせてもらえる確率がとても高いし、やりたいことだから成果が出やすいと思います。

大樹社長からも一言。

秋田は、自分が挑戦したいことをやるには本当にいい場所だと思ってます。斎藤光学製作所に入って仕事を通じて秋田に貢献したりとか自分がやってみたいことに会社のお金を使ってチャレンジしてほしい。僕は斎藤光学製作所がそういうことができる会社にしていきたいと思っています。関わり方はいろいろあると思います。関わりたい方は是非、私にご相談下さい!

◆ 秋田県の就職情報サイト「KocchAke!」の斉藤光学製作所のページ◆ 斉藤光学製作所のホームページ