2年前、国際教養大学の学生数人が、「秋田の高校生をもっと留学させたい」と言って、秋田県高校留学推進委員会というそのまんまの名前の団体を立ち上げたのを知った時、秋田のためにありがとう!と思う一方、いやぁ、秋田の人、お金出さないでしょうって思い、彼らがかっかりしなければよいがと心配していました。しかし、秋田県に留学を支援する制度がないに等しいことにショックを受け、高校留学というかけがえのない体験を一人でも二人でも留学させてやりたいという情熱に燃えた彼らは、勉学の合間を縫って県内企業を回って資金を集め、なんと初年度3人、次年度2人の留学を実現したのです。
留学は国や県が推進するもので、秋田の企業や個人はお金出さないでしょうと思った筆者としては、どんな人がどんな思いで寄附をしてくれたのだろう、と首を傾げておりましたので、留学推進委員会の小野澤杏(あんず)さんから委員会創設当初から積極的に応援してくれているYURIホールディングスのインタビュー記事を寄稿したいと言われて二つ返事でOKしました。
というわけで、高校留学推進委員会の活動を初年度から応援されているYURI ホールディングスの須田哲生社長への推進委員会の小野澤さんと高原堅太郎さんによるインタビューをお届けします。支援を決めた理由や留学を経験した高校生に期待することなどをお聞きしています。
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小野澤杏:YURIホールディングスはどんな思いで私たちの活動を応援してくださっているのですか?
須田社長:英語で、「Think Outside the Box」っていう表現があるじゃないですか。枠を外して考えるってことが大事だと思っています。自分もアメリカのミネソタに1年間行きましたが、離れてみて初めて分かる日本の価値、秋田の価値があると思いました。留学前の暗黙知、日本人なら言わなくても分かる知識が海外ではコミュニケーションをしなければ伝わらない。そういうことを若いうちに経験したほうがいいな、と思ったのが一番大きな理由です。
Q:帰って来た留学1期生や今留学している2期生の話を聞いてどう思われましたか?
須田社長:やっぱり経験って素晴らしいなと思いました。それぞれが、自分を見つめ直したり、向こうの人との関わり合いでいろんな気づきをいただいたり。
Q:留学生との話で、YURIホールディングスとして得るところはありましたか?
須田社長:海外と日本の間のずれというか、ギャップにビジネスチャンスがあると思っています。当たり前と思っていたことが「あれ?これ違うんだな」と気付くところからチャンスが生まれる。そこを深掘りして事業可能性を模索していきたいと思いました。留学生の方々のナレッジやインフォメーションを整理して展開するだけで政策提言にも繋がると思います。面白いなと感じました。
Q:ご自身の留学経験はどんなところに生かされましたか?
須田社長:外国人とのコミュニケーションに気後れしなくなったというのはありますし、日本や秋田をもっと盛り上げるように何かできないかなということを考えるようになりました。一度、日本や秋田を離れることによって、それまで当たり前だったことや、「秋田なんもねえ」みたいに思わなくなり、むしろ秋田のQuality of Life(QOL)が高いと思うようになりました。
Q:私たちもいろんな方とお話しさせていただいていますが、「秋田には何もない」っていうことをおっしゃる方が多いです。外から来た自分からすると、ものすごく魅力にあふれていますし、大学を卒業しても関わり続けたいと思える土地ですし、それは高校生にとっても同じだと思います。留学によってそうしたことに気付いてくれたらいいと思います。
須田社長:大人のマインドチェンジっていうのも必要だと思います。秋田では、大人が無意識に「何もない」って言っちゃうけど、それ、止めましょうって言いたい。
若い時は、仙台だとか東京だとかに魅力を感じるかもしれないけど、やっぱり、生活を楽しんで、お金をしっかり稼いで、癒しがあるのがQOLです。ヨーロッパとか、特にイタリアに行くと生活を楽しんでいると感じますね。
Q:フィンランドに留学した先輩が、休みに山に行ってブルーベリーを摘んで、それでパンを作ったという話をしていて、そういう小さな幸せを大切にする生活がいいなと思いました。
須田社長:QOLってお金があれば実現できるものじゃなく、いろんな意味があって。秋田に何もないという人はそれに気付いていないだけ。秋田で長く暮らしていると気付きにくいのかもしれない。そういう意味でも一回離れてみるってのは大事で、住まなくても交流人口というか秋田に関わり続ける人口が増えていけばいいと思っています。人口が減ることを悲観する必要はなくて、秋田に思いがある人が集まれば、そこにビジネスが生まれて人が来るようになるし、気に入れば住む人も出てくるし。私も希望を持って行動していきたいなと思っています。
Q:今、若い人が減る中で、企業と学生が繋がる機会がないと感じておられるそうですが、その点についてはどうお考えですか?
須田社長:繋がれる場所をもっと作っていかないといけないと思います。いろんなイベントに絡んで大学生や高校生と接する機会はありますけど、継続的な付き合いというのはないですね。
Q:いくつかの企業から高校生や大学生と関わる機会を持ちたいという希望をお聞きしました。留学推進委員会の活動を支援してくださるのも、その活動を通じて高校生と交流したいと思っておられるように感じました。高校生は、企業というのは遠い存在、近づきがたい存在と思っていると思うので、両者を繋げる機会を作りたいと思っています。
もし大学生や高校生と関わるのであれば、どういうことをしたいですか?
須田社長:ざっくばらんにいろんな話ができる場所がほしいですね。ブレインストーミングのような時間がほしいです。異業種の経営者の仲間もたくさんいるので、高校生や大学生の話を聞いて、「じゃあ、おれはこれができる」というような人が集まって、お金も集まると思います。必ずしも秋田の人である必要もなく、県外でも海外でもいいでしょう。
Q:私は県外出身ですが、大学に入る前、自分の住む地域のことを知る機会は、あまりありませんでした。こうした活動をしていて、高校生も何かできたらいいのかなって思ったりしています。
留学推進委員会に期待することはありますか?
須田社長:これから留学される方は、その体験を財産にして、QOLを高めてもらえればそれでいいと思っています。一方で、留学から帰って来た人は、留学したからこそ知り得る「あれ?これ変だな」という気づき、自分が普通だと思っていたことが普通じゃない、これってこうなんじゃない?という気づきというか、ギャップの部分にすごいビジネスチャンスがあると思うので、それをしっかりと蓄積していただいて、それを新しいビジネスとか事業にしていっていただければ最高じゃないでしょうか。そうするとサステナブルな社会を実現できるんじゃないかと思います。
Q:AIU(国際教養大学)は1年生の時に寮生活をするので、同じ日本人、同じ秋田県の中でも地域ごとに文化や考え方の違いがあることに気付くことがあります。留学だけじゃなく、与えられた枠組みから出て、ものを見ることによって、いろいろなレンズを持てたらと思います。
須田社長:同じ一つの事実でもどう捉えるかによって違ってきます。それを自分がどう外向けに表現するか、リフレーミングするかで、同じ事実がネガティブにもポジティブにもなりうる。そういうことを留学を通して学んできてもらえたらと思いますね。
Q:YURIホールディングスにも留学経験のある方がいらっしゃると思うんですが、留学経験をどう生かしていらっしゃるのでしょうか?そういう社員に何を期待しますか?
須田社長:留学経験を本当の意味で生かすのはこれからだと思うんですけど、やっぱり、日本人ってこうしなければいけないというマインドで考えていところがあるんですが、ウォンツとかエンジョイというものを大事にした方がパフォーマンスが上がると思っています。これから多様性の高い世界をどう生きるかという意味で、考え方を変えていくことも必要だと思います。留学とか海外を経験した人がエンジョイしてもらえるように環境を整備していきたいと思います。
Q:海外経験者には、「日本ってこういうところ」というフレームを壊して、もっと違う見方もあるということを提起してもらいたいということでしょうか?
須田社長:期待していますね。「ジョハリの窓」じゃないですけれど、自分が知っている自分、知らないということを知っている自分、知らないということすらも知らない自分というのがあると思うんですよ。本当に見えていない自分を知ることで新しい視点を持てる、そこにチャンスがあると思います。
Q:次の留学生にかける言葉をお願いします。
須田社長:もうエンジョイ!だけですね。「良く遊び、よく学ぶ」ってことだと思います。そうすることによっていろんな可能性が広がります。