子育てSEが続々 株式会社エイチ・アイ・ティ

 

秋田市でシステム開発やITサポートサービスを手掛ける株式会社エイチ・アイ・ティ(HIT)を取材してきました! 社名はヒューマン・インターフェース・テクノロジーという造語の頭文字です。技術で人を繋げたいという川合俊昭社長の思いがこもっています。 

3つの主要部門

大きく3つの部門があり、第1は、ソフトウェアの受諾開発で、顧客は金融機関や印刷会社、製造工場など多業種にわたるそうです。県外の顧客が多く、秋田で開発したソフトウエアを導入するため、数カ月にわたって顧客先である県外で仕事をすることもあるそうです。 

第2は、サポートサービス。主に、企業のお客様で稼働しているコンピュータシステムのトラブルシューティング(例えば、OS (基本ソフト)上でエラーが発生した、意図したとおりに動作しないなどの問題解決)や、利用方法の質問対応(システムを目的に合わせて構築するにはどうすればいいか)といった、コンピュータを管理している方々(SE)などからの問い合わせに対応する仕事で、高い技術力が要求されます。日本を代表するコンピュータ会社の技術者からも問い合わせが来るそうです。

 第3は、顧客管理の統合ツールとして日本でも導入する企業が拡大している米セールスフォースのソフトウエア導入や運用をサポートする部門。

 エイチ・アイ・ティには、セールスフォースの技術者認定制度で上位にランクされる「認定上級Platformデベロッパー」が2人います。日本全国でもこのランクの技術者はまだ少ないので、関西など遠方の会社から受注することもあるそうです。とはいえ、仕事はすべてウェブ上で完結、顧客企業にわざわざ足を運ぶ必要はないとのこと。

恵まれた育児環境

 遠隔でできる仕事が多く、IT(情報技術)は秋田に合った産業として期待されていますが、今回、同社の取材に来たのにはもう一つ理由があります。

 それは同社が働く女性に優しいだけでなく、男性もイクメン休暇を取得している働き方改革への対応が進んだ会社だからです。

同社には総務の渋谷さんが入社した7年前まで女性が一人もおらず、育児休暇制度など女性をサポートする制度もありませんでした。

渋谷暁子さん

しかし、渋谷さんが法律を調べ、そうした制度を一つひとつ導入していった結果、現在では女性が8人になり、2017年はベビーラッシュ!!2人の女性社員が育児休暇を1年取得した一方、お父さんになった男性3人も1週間ずつ育休を取得したそうです。40人弱の会社だと1人減るだけでも業務への影響は大きいと思うのですが、これだけの制度を作り、作っただけでなく実践できている会社はそれほど多くありません。

 というわけで、エイチ・アイ・ティの若手社員からは、育休を取った男性社員第一号武田裕之さんと、育休取得2人目で1年間のお休みから昨年6月に復帰し、今も午後4時までの時間短縮勤務星川繭子さんと、セールスフォースの上位ランクの資格を取得した菅生千穂さんの3人にお話をうかがいました。

男性も育児休暇

武田裕之さん

最初にお話をお聞きしたのが男性育休取得第1号となった武田裕之さん。1週間の育休を奥さんが出産2カ月後に実家から帰って来た時に取りました。1週間では短すぎないかとお尋ねしたら、それでも夜中に3時間ごとに起きてミルクを作ったりしたことで子育ての大変さがよく分かり、育休を取ってよかったとおっしゃっていました。子供が好きで以前から子育ては夫婦で一緒にと思っていたので、会社から育休を取ってはどうかと打診され、二つ返事で決めたそうです。

 武田さんは、サポートサービス部門。休むことで他の人に迷惑を掛ける心配がなかったかとお聞きしたところ、お互いに助け合えるシステムになっているため、まったく問題なかったそうです。 

実は、これまで取材した企業で、会社が男性に育児休暇を取らないかと声を掛けても、社員の方が拒否するという話を聞いていました。それは、「男が育休だなんて」という古い考え方か、実は休むと仕事が回らなくなるからで、男性が育休を取ったということはエイチ・アイ・ティが制度を整えただけでなく働きやすい環境も整え育児は夫婦でするものという意識が浸透しているからだと思います。

星川繭子さん

 また、女性の育休取得2人目となった星川繭子さん。現在は前述のように午後4時までの6時間勤務です。2人目の産休取得者だったので手続きもスムーズで、昨年6月に復帰したときもセールスフォースの設定回りという元の仕事に戻ったのでストレスなく職場復帰することができました。

 星川さんは、「実績もできたので、女性に安心して入ってきてもらい、結婚して出産して働き続けてもらえたらと思っています」と語り、女性の後輩が増えることを期待しています。

 Aターン歓迎 

武田さんと星川さんは、首都圏で就職してから秋田に帰って来たAターン組。武田さんは、秋田が好きで秋田を拠点とする会社に就職したのですが、40歳ぐらいまでは東京の事務所で働いてくれと言われました。しかし、東京で暮らすうちに、40歳過ぎて秋田に戻り生活の基盤を作りなおすのは大変だと思い転職を決意しました。

川合俊昭社長

川合社長によると、同社の社員の約半数がいったん都会で就職して帰って来た人たちだそうです。「一度は中央でいろんな経験をするのがいいと思います。視野が広がりますから」とAターン歓迎の姿勢です。

 残業は月20時間程度

 星川さんのような時短で働いている人は残業ゼロ。普通の社員でも月20時間にもならない程度だそうです。以前に比べ減ってきたとのことでした。 

武田さんは時間にゆとりがあり、奥さんよりも休みを取りやすい環境なので、子供が熱を出した時に保育園に迎えに行く役目も引き受けています。奥さんと自分のどちらかが休まなければならないときは武田さんが休むことが多いそうです。

同社では育児休暇に限らず慶弔休暇も取りやすく、事前にきちんと調整しておけば2週間前後の新婚旅行に行くなんていうのもありだとか。有給休暇も全国平均に比べて高取得率を維持しているそうです。

 求める人材

 エイチ・アイ・ティはプロフェッショナル集団という印象があり、入社のハードルも高そうに見えますが、社員の中には全く別業種からSEを志望して同社に入社し、社内で勉強してSEになった人もいるそうです。

 経験ゼロの人の場合は、最初に気兼ねなく質問できる先輩を決め、その先輩の下でデータ入力など易しい仕事をしながら勉強し、少しずつ仕事を教えてもらうそうです。ですから学ぼうという意欲が重要だと川合社長はおっしゃってくれました。

セールスフォースの担当チーム

「SEは技術が命ですから、技術に対する貪欲な向上心がないとできません。それとコミュニケーションの取れる人であることが大切です。人と話しながら何をやればいいのかを理解できる人が伸びます」(川合社長)

 武田さんも、「相談しながらでないと、うちの部署では仕事ができないです」とおっしゃいます。SEは一人ひとり違う強みを持っているので、この問題ならこの人というように聞きながら課題を解決していくことが求められるのです。

 星川さんは、埼玉県の短大で英語の勉強をし、就職は秋田の会社にしようと思っていたのですが、大学の勧めで首都圏で就職しました。

 就職の時はSEという仕事に不安を感じたそうですが、「コンピューターのプログラムも言語だから大丈夫」と言われて決意したそうです。秋田に戻りエイチ・アイ・ティに入社して約5年。3年半ぐらいたったところで育休を取得しました。

 渋谷さんによると、星川さんのメールは気配りにあふれていながら的確だと社内で絶賛されているそうです。顧客とのやり取りも大半はメールやSNSであるため、文章で説明する力が求められます。このため学校で文系コースだった人が意外にSEに向いているそうです。

 セールスフォースの上位認定を受けた女性SE 

社員がこの数年で約20人から約40人へと急拡大したエイチ・アイ・ティ。女性はゼロから8人に増えました。その中で女性のリーダー的ポジションなのが菅生千穂さん。セールスフォースの技術者認定制度で上位のランクを取得した優秀なSEです。

菅生千穂さん

 もともとは気象に興味があり、気象予報士の資格を取って仕事をするうち、ITの知識が必要だと感じ前に勤めていたIT系の会社に初心者の状態で入社し、基本情報技術者の資格は15年ほど前に取得しました。エイチ・アイ・ティには4年前に入社、セールスフォース部門で働き始め、OJTで学びながら上位の資格を取得しました。選択式の問題と実際にパソコンでプログラムを書く試験。試験会場は東京ですが、受験料・交通費、資格を維持するための費用などは会社が全額負担してくれるそうです。

 セールスフォースのソフトウエアの企業への導入は、ウェブ上で行い、プロジェクトのメンバーとはオンラインの会議やSNSでのやり取りだけで実際に現場に行く必要はないとのこと。

菅生さんは、「プロジェクトのメンバーと距離を感じずに秋田のゆったりした環境の中で仕事ができるのがメリット」と語り、この働き方を楽しんでいるようでした。

 将来は、好きな気象の知識とプログラムの知識を生かしたシステムやアプリを作ってみたいそうです。

 取材を終えて

取材させていただいた方たちは、なんとなくSEと聞いて思い浮かべる、硬いイメージの方ではまったくありませんでした。菅生さんたちが働いている部屋を見学させていただきましたが、私たちが入っていくと顔を上げ、にこやかに接してくださいました。同社の離職率についても社長に少し突っ込んでお聞きしてみたのですが、「離職率は非常に低いです」とおっしゃっていました。会社が社員の働きやすさを高める制度を次々に取り入れていることに加え、皆さんのお話や明るい自信に満ちた表情をみて、社長の言葉に嘘はないと思いました。

◆エイチ・アイ・ティのウェブサイト

 

◆秋田県就活情報サイト KocchAke!

◆取材・写真・記事:竹内カンナ、じゃんご