自然本来の味を引き出す、ぶれない酒造り 株式会社齋彌酒造店

創業から受け継ぐ「秋田だから生きる味」を追求する

「日本酒は自由に楽しんで、感じていただくものです」と語るのは株式会社齋彌酒造店(由利本荘市)齋藤浩太郎代表取締役だ。同社は、日本酒の要となる「水」、「米」、「酵母」、「技術」を創業当時から追求し続け、地元からの揺るがない人気を誇る酒蔵である。2019年3月に放送された「NHKプロフェッショナル仕事の流儀」では、秋田伝説の高橋藤一杜氏が取り上げられ、全国的に有名となったが、この取材では齋藤社長に酒造りへのこだわりや経営方針について伺った。(取材日2019年11月26日)

インタビュー

横並びの酒造からの脱却へ

揺るがない人気を誇る「雪の茅舎」シリーズ

― 御社は、「お酒は人ではなく微生物が醸す」という杜氏の考えのもと、「櫂(かい)入れ」、「加水」、「濾過」を一切しないことで有名ですが、こうした酒造りの姿勢はどのようにして生まれたのでしょうか。

昭和の終わり頃、お酒の需要が少し落ち始めたときに、先代が「横並びの酒造ではだめだ」という危機感を感じ、杜氏を筆頭に独自の技術を開発したことが始まりです。そこから、醪(もろみ)をかき混ぜる「櫂(かい)入れ」をせずに自然対流に任せることや、加熱・加水をしないなど、自然の営みに委ねた弊社独自の酒造りが生まれました。

由利本荘市石脇地区は新山からの湧き水に恵まれた自然豊かな地。昔は海鮮問屋街で賑わいのある物流拠点だった

醸造後の熟成管理が肝となる

― 平成以降は全国新酒鑑評会で金賞を20回、東北清酒鑑評会で優等賞は40回以上、そのほか国際的な受賞も多数されています。御社の安定した品質が高く評価されていると伺いました。

大変光栄なことですね。当社は「つくる」だけではなく、いかに熟成の過程を管理するかということに力を注いでいます。「お酒は1日にしてならず」で、熟成の度合いは搾ったタンクによって異なり、適温はお酒ごとに違います。つくった後の「第二の醸造」といいますか、いかに管理していくかが品質の決め手となりますし、今後の日本酒業界の課題となっていくでしょう。

2019(令和元)年に全国新酒鑑評会で金賞を受賞した「大吟醸 花朝月夕(かちょうげっせき)」

― 醸造した日本酒を熟成させるという考え方は、昔はなかったのでしょうか。

昔は「日本酒級別制度」によって、級ごとに日本酒が分類されており、熟成の感覚はなかったです。当時は、醸造した日本酒をいかに悪くせず、腐らせないかということばかりに目が向けられていました。1992(平成4)年に制度が完全に廃止されてから、より良くしていこうという方向に変わっていったんです。今では瓶ごと殺菌・加熱し、大量の日本酒を安定した品質で管理する技術が普及し、弊社も設備投資をして、品質管理ができる蔵人の育成にも力を注いできました。

全11棟ある蔵や住宅は国の有形登録文化財に登録されている

石脇地区の資源を生かし、独自の酵母を用いた酒造り

― 日本酒の原料となる「水」、「米」、「酵母」を追求し、それらを美味しい日本酒に導く「技術」をもって、こだわりの酒造りをされているそうですね。

原料の良さを引き出すことをとても大切にしています。ここ石脇地区は良質な湧き水に恵まれており、お米は地元農家が栽培した酒造好適米である「秋田酒こまち」を6割使用しています。年に2回はすべての契約農家を視察し、収穫された酒米の分析や生産者と情報交換をすることで、毎年品質を向上させています。良質なお米を用いた酒造りを蔵人に学んでほしいので、「山田錦」を2割使用しています。

蔵人自ら米作りに携わっている。契約農家の中には20年以上の付き合いになる農家もあるのだそう

30年以上前から、酵母の自家培養に取り組んでおり、全11種類を商品ごとに使い分けています。最近は「分かりやすい味」が主流となっていますが、弊社は行き過ぎず、香りが高過ぎない「健全」な酵母を目指しています。自家培養を始めた頃は、独自の酵母をつくることはタブー視されていました。そんな中、当時の杜氏が始めた新しい取り組みを4代目(父親)が許可したんです。「一緒に行くぞ」という杜氏との信頼関係があったのだと思います

独自の酵母づくりに挑戦し続ける

醸造環境がオーガニック認定を受けており、衛生管理が徹底されている

自分たちの酒造りを体現し、託していける人材を育成

― 齋藤社長は5代目ということですが、今後の経営方針を教えてください。

創業当時から受け継いできた「形」を追求し続けたいと語る齋藤社長

これまで様々な環境変化がありましたが、基本的には「人」に関わることしか改良していません。日本酒の需要が変わる中で、自分たちの酒造りを体現できる人材を固めることが最も大事なことだからです。弊社が代々受け継いできた「形(=秋田だから生きる味)」を崩さずに、託していけるような人材を育成しています。

酒造りに関しては、色や香りをつけることが流行っていますが、原料本来の魅力をさらに引き出すことを目指します。そうした姿勢をお客様にもご理解いただいて、日本酒を自由に楽しんで感じていただければと思います。弊社は創業当時からずっと地元に根付いてやってきました。今でも販売先の5割は地元ですし、山廃仕込みに特化したのも地元の方の反応が良かったからです。秋田にある資源や風土をないがしろにして安易に県外や海外に出ていくのではなく、地元で揉まれてさらに良い酒造りを目指していきたいです

「雪の茅舎 秘伝山廃」の熟成3日目のタンク。ぽこぽこと泡立っている様子は、まるで生きているよう

― 人材はどのような基準で採用していますか?

蔵人のほとんどは素人です。真っ白な状態で入ってもらい、酒造りの基本から教えています。なので、何か特別なスキルや資格というよりも、その人の人間性や健康で体力がしっかりあるかというところを見て判断しています。組織で動いていく必要があるので、個性は持ちつつも、前を向いて一緒にやっていこうという気持ちのある人が弊社には合うと思います

― 最後に秋田の魅力を教えてください!

秋田は色々な課題がありますが、発酵文化が根付いており、その長い歴史は誇るべきものだと思います。発酵食品を通じて全国に秋田を発信していけたらと思います

偉大な杜氏と造り手の背中を見て、日々勉強中(若手インタビュー)

ここからは若手社員のインタビューということで、品質管理のお仕事をする今野真人さん(26)にインタビューしました。

今野さんは由利本荘市出身で、入社4年目となる

― 入社のきっかけは何でしたか?

もともと遺伝子に興味があったのですが、秋田県立大学に入学してからお酒の研究に興味が湧いてきて、醸造学研究室に入りました。教授と社長が知り合いという縁もあり、入社することになりました。

― 今はどのような仕事をしていますか?

品質管理の仕事で、お酒が瓶につまってからの管理に携わっています。温度帯の管理をしながら、出荷するまで責任をもって見ています。業務の合間に酒造りや販売も手伝っていて、夏は営業で東京や仙台の百貨店に出向くこともあります。

仕事は完全分業ではなく、お互いに忙しいときは助け合う

― 仕事のやりがいは何でしょうか?

弊社には偉大な杜氏と造り手がいて、まだまだついていくのに精一杯で毎日が勉強です。振り落とされないように頑張っています。社員の年齢層が幅広く、職場は和気あいあいとしているので働きやすいですね

齋藤社長、高橋杜氏と蔵人のみなさん

蔵内を案内してくれた今野さん。落ち着いた物腰で、責任感をもって仕事に取り組んでいることが感じられた

― 最後に、秋田で働く魅力を教えてください!

私は県外就職を考えたことがなく、住み慣れた地元で安心して働きたいと考えていました。秋田は人付き合いもよくて、たまに東京へ行くと、どこかさみしい街だなと感じることもあります。豊かな自然があり、秋田で働いているとすごく清々しいですよ

編集長・みのりの一言コメント

取材を通して、原料本来の魅力を引き出し追求し続ける姿勢を、齋藤社長の言葉の端々から感じました。「変えないこと」と「変えること」を見極め、信念をもって酒造りをする姿はとてもかっこよかったです。日本酒が大好きな私ですが、改めて齋彌酒造店のファンになってしまいました!

動画紹介

▼「あんべいいチャンネル」より高橋杜氏のインタビュー

会社概要

会社名 株式会社 齋彌酒造店
代表取締役社長 齋藤 浩太郎
創業年月日 1902(明治35)年
本社所在地 秋田県由利本荘市石脇字石脇53
従業員数 30名(正社員)ほか、季節社員・パートなど
平均年齢 37歳
業種 酒類製造業
事業内容 清酒製造・販売、発酵食品製造・販売
若手社員が所属する職種 製造部門、品質管理部門、営業部門
入社後の研修 あり(製造技術者研修等)
賞与 2回(6月、12月)
昇給 1回(6月)
勤務時間 8:00~17:00
福利厚生 産後休暇、育児休暇、介護休暇等
ホームページ http://www.yukinobousha.jp/index.html

本社所在地

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文:渡部 みのり
写真:竹内 カンナ、渡部 みのり、県職員の方