理趣、新機軸のアパレル通販で全社員スタイリスト化計画、こだわりの食品ビジネスにも進出

理趣は、湯沢市を本拠とするアパレル小売業の会社です。創業から96年になる伝統ある会社で、最近までタカハシというシンプルな社名でした。三代目社長の高橋文柄(ぶんぺい)さんは、オンライン通販やファストファッションによって姿を変えつつあるファッション業界の潮流に対応するためICT(情報通信技術)を使った新たな事業を徐々に展開しています。また東日本大震災を機に食品の機能性へのこだわりと好奇心が高まり、同じ嗜好を持つ方々向けのオンラインショップを始めるなど新たな取り組みを次々に打ち出しています。

人間にとってのファッションとか、食品をもっとおいしくする方法などについての高橋社長のお話はとどまることを知らず、あっという間に1時間以上たっていました。

実店舗とオンライン販売の中間を狙う新ビジネス

同社は県内外に顧客年齢層やコンセプトが異なる実店舗、クラッシーアンドマーニー、WANTS・AND・FREE(ウォンツアンドフリー)、WR アザレア、レイネアザレア、ウーマンリミックス盛岡店の5店舗とオンラインショップを展開しています。東京の吉祥寺でも20年前からショップ運営していましたが新型コロウイルスで休業中です。高橋社長のおばあさんが洋服仕立て業から身を起こし、県認可の洋裁学校を運営。二代目が業態を総合衣料品店からブティックに転換、三代目高橋社長がショップの多店舗化食品事業への参入を図っています。

今、高橋社長が準備を進めている事業は、新しいビジネスモデルのアパレル通信販売。アプリを使って顧客が自分の顔やスタイルを登録すると、スタイリストたちが分析して、似合う洋服をピックして送付します。その後にオンライン接客を行い、不要なものは返品してもらうという会員制のマンツーマンスタイリスト型オンラインショップです。

地方のセレクトショップは人口減少で客数が漸減していく定めです。一方、成長中のEコマースには試着ができないという弱点があります。その中間を狙おうと考えました

販売員を全員スタイリストに!

このサービスを他の通販と差別化するのはスタイリスト。現在、理趣のスタッフ全員が、渋谷にある国内最大手のスタイリスト養成スクールでスタイリストになるためのレッスンを受けており、一般社団法人日本ファッションスタイリスト協会認定スタイリストの資格取得を目指しています。

このスタイリストの技術習得を通して、骨格や顔のパーツ、髪の色、肌の薄さなどを診断して似合うスタイリングを理論的に説明する力を身につけていこうとしています。例えば白目と黒目の境がハッキリしている人はコントラストの強い服を着こなせるが、そうでない人はグラデーション系のスタイリングの方がなじみやすい。小鼻が広がっている人は、厚い素材や大きな柄物を着こなせるが、小鼻より鼻筋が目立つ人は、スッキリ系のスタイリングの方がなじむなど、これまでセンスという言葉でひとくくりにされていた世界を言葉で表現できるようになるのだそう。プロのスタイリストに服選びをお願いすると時間に応じ費用が掛かります。理趣は今、芸能人やファッション雑誌を通じてしか触れることができなかったプロのスタイリストのスキルを無料で提供しようとしています。

お客様をさらに輝かせ、一人ひとりの個性の表現をサポートできるプロを育成したい。バブル期にくらべ販売額が半減したファッション業界を盛り上げるムーブメントをつくりたい。

ユニクロやZARAなどのファストファッション隆盛により、洋服の単価は劇的に下がり、コロナの影響でファッションマーケットはピークだった1990年の15兆円から直近の予測では7.2兆円にまで縮小しています。

ファストファッションの多くは安価な化学繊維で作られていて、人と環境に優しくありません。また低価格化により洋服は使い捨てと考える人が増えています。

高橋社長によると、「動物や昆虫と違い、ヒトは皮膚を着替えてしまう。毎日、脱皮、すなわち変態してるんですよ、ワタシたち! これ、生命体としてクリエイティブすぎるでしょ!」「きょう、どんな場所に行き、どんな人と会い、どんな1日になるかを想像して服を選ぶ。それは日々の最も身近な創造性の発揮なんです。きょうの脱皮(変態)は、音楽やアートや文学と同じぐらいの創造的です」

なんともユニークな・・・。そんなことを考えながら洋服を選んだことはありませんでした。理趣のスタイリストが、どのようなファッションを提案してくれるのか、急に気になってきました。

スタイリスト学校とのコラボ事業

今、理趣は将来、スタイリストレッスン付きの会員制店舗の展開を夢想しているとか。お客様のビフォーアフターを画像で記録するため店内に撮影スタジオを設け、ヘアメイクアーティストたちの力も借りて、”自分の最高性能”を引き出して欲しい、と高橋社長。

モデルや芸能人はたくさんの画像や映像を撮られ、それを客観的に見る機会が、普通の人の何千倍も多いから磨かれていく。自分に向き合い、自分を客観的に見れば見るほど、自分への理解が深まり、洗練されていくのです

WANTS・AND・FREEなど県内の店舗で撮影コーナーを併設。秋田美人を世界へ」というコンセプトのもとに、顔出し可能な方を募集し、ヘアメイクスタジオと連携しながらプロデュースしていく活動も進めているそうです。あの佐々木希ちゃんが秋田駅前のファッションビルOPA(元フォーラス)でスカウトされたように、理趣の店舗で撮影した写真がきっかけになってモデルへの道が開けるかも。秋田の女子よ、佐々木希ちゃんに続け!

食品事業にも進出

高橋社長のお話は”唯一服を着る動物”という人間考察から始まりましたが、食品事業についてもかなり深いお話が聞けました。

メロンなど多くの果物は流通に乗せるために完熟前に収穫しています。時間がたつと酵素が働いて単糖化が進み甘くなります。農作物は年によって出来不出来があります。果物も甘くみずみずしい年もあればそうでもない年もある

高橋さんは、その食品の内部に元から備わっている酵素を活性化させて食品の”最高性能”を引き出す製法を追求しています。内部酵素の活性化で保存性を高め素材の旨味や甘みを引き出し、添加物なしで味そのものを楽しめるようになるのだそうです。香りがなくなった食品は多くの栄養が飛んでしまったものだと考え、本来の香りを引き立てることを大事にしています。

食品内部の酵素の活性化について、秋田県総合食品研究センターのOBの方秋田大学ともそれぞれ共同研究を行っています。

量産には多額の費用がかかるため、いちばん初期投資が少ないコーヒーから始めることにし、ネット通販と店舗で販売しながら卸し先を開拓しています。

また、高橋さんは、老化は酸化によって進むので抗酸化性の高い食品を普段の食生活にたくさん取り入れたいと、身近なものから商品開発をしています。その一つがオーガニックスパイスを使ったカレー。高橋社長、本場インドのような毎日でも食べたくなるカレーが出来たんだ!とはしゃいでいました。

高橋さん、何についてもこだわりが強すぎます・・・ 笑

求める人材

2020年に社名を「タカハシ」から「理趣」に変更。同社のホームページによると理趣とは道筋のことで、地球全体が良くなるようにという願いが込められているそうです。

理趣が求める人材について高橋社長は、「MAKE IT HIGHER 最高性能を発揮せよ!」という会社のスローガンに共感してもらえる方と出会いたいと思っておられるそうです。理趣の理念である「清々しさと歓喜をベースに一人ひとりが輝く」と書いたパネルを最初に見た時はチンプンカンプンだったのですが、なるほど、人間も食材も最高性能を発揮させて輝こうという意図なんだということが見えてきました。高橋さんの取り組みの一つひとつがこの理念につながっているようです。

若手のお話

理趣の店舗で働く若手の方たちにも、お話をお聞きしました。横手市のWANTS・AND・FREEで働く3人です。

猪狩優介さん、東京から家族で横手に移住し初めてアパレル販売に

まずは猪狩優介さん東京出身ですが、お母さんが横手市出身で、2020年5月に家族で移住してきました。たまたま、WANTS・AND・FREEの店舗に入ったとき、横手にこんなお店があるのかと驚き、さらにスタッフの接客がとても丁寧だったことが印象的で、ここで働きたいと思ったそうです。また、面接に来たときには、店舗の改装が終わりカフェが出来ていて、そのコーヒーがすごくおいしくてさらに働きたい気持ちが高まったとのこと。

入社して感じたのは自由な社風。小売店だと普通はバイヤーがいて服を仕入れていますが、スタッフが選んだものを仕入れて販売させてくれるとのこと。

それはモチベーションにつながるでしょうね。

毎日のルーティンをお聞きしました。開店前にスタッフでミーティングをして前の日にどんなものが売れたとか、これが売れているからディスプレーをこうしようというような話をする。また曜日によっては全社ミーティングも行っているそうです。情報共有が行き届き風通しのよさを感じさせます。猪狩さんは、アパレル小売りで働くのはここが初めてだったため経験のある人の意見を聞ける上、接客の仕方などを質問すると時間を割いてくれ、聞けばすぐに答えてくれるのでやりやすいと話されていました。

お客様は友達感覚でふらりと来店しプライベートな話をしたりすることもあり、欲しいものを分かってくれているので無駄な買い物をしなくてすむとおっしゃっていただいています。

社員全員スタイリストの資格取得を目指しているので、一人ひとりの肌、目の色、顔の形、体形に合わせて洋服を選び、ボディ(人形)に着せてみるというようなミーティングを社内で行っています。

休みの日は、自然が身近でアウトドアをしやすい条件が整っているので、よくキャンプに出掛けるそうです。また、いいカフェが多いのでカフェめぐりも楽しみだそうです。

東京から横手に来るといろんなものがなくて困るのではないかとお聞きすると、別に不便と思ったことはなく、昨年のような大雪も、雪かきが大変だったが、筋トレになると前向きに考えていたそうです。

将来の夢については、秋田にはおしゃれを楽しめる環境が少なかったり、どこで買っていいか分からないという人も多いので、WANTS・AND・FREEをそういう人のランドマークにしたいと思っているそうです。もともとおしゃれをするのが好きで、気にいった服を着ると生活が豊かになると思うので、そういった経験を少しでも多くの人に届けたいと語っておられました。

田中悠美奈さん、社員を輝かせたいという社長の言葉に共感

田中悠美奈さんは、入社1年目です。生まれてからずっと横手で暮らしています。SNS担当になり、インスタの写真を撮影したり投稿したりしていましたが、最近、接客も始めました。動画の撮影や見せ方を先輩に相談したり、撮った写真の中からいい写真を選び、どう投稿したらよくなるかを考えながらやっているそうです。モデルは彼女を含むスタッフのみなさんですが、カメラもモデルも本業じゃないかと思うような出来栄え

同社のインスタグラムの投稿です。


 

理趣を選んだのは、企業理念に入っている「輝く」という言葉に魅力を感じたから。面接で高橋社長が働く人一人ひとりを輝かせることを大切にしていると語ったことも印象的だったそうです。入社してみて、新しい挑戦もでき、目標を高く掲げているところにも共感しているそうです。

もともと向上心がある方ほうだと思っていましたが、ここでは自分ももっとレベルを上げていきたいなと感じさせられます。

実は田中さん、3,4年前にスタイリストになりたいと考えたことがあったのですが、調べてみると大卒の資格が必要とかスタイリストの下でアシスタントをした経験がないといけないという情報があったので諦めました。でも、ここでアパレルの仕事やSNSの投稿をしながらスタイリストの資格を目指せることが分かりましたと、とても嬉しそうに語っていました。

モデルはスタッフですが、撮られるうちに、より美しくみえるように自分の外見と心を磨いていくことが大事だなと思いました。

田中さんも好きな服を着ると気持ちが高まるので、そういうことを洋服に興味のない人や「秋田でそれはないでしょ」と、おしゃれに消極的な人に対して、「ここで自分が輝ける洋服に出会えるんだよ」ということを伝えていきたいと思っているそうです。

趣味はドライブグルメ。ドライブは、ナビを使わず標識だけをみながらドライブするのを楽しんでいるそうです。ラーメンの食べ歩きも大好きで、大曲のモッシュさんが、お勧めだそうです。

奥 葉衣里さん、まちづくりへの興味から理趣に入社

最後にお話をうかがった奥 葉衣里(はいり)さんは、猪狩さんとほぼ同期で、2020年春に入社しました。横手市出身で、大学を卒業して東京から帰ってきました。WANTS・AND・FREEには以前、顧客として来ていて、金岡店長と仲良くなり、店舗のリニューアル後に一緒に働かないかと声を掛けられたことがきっかけ。観光学部で学び、まちづくりに興味があり、もっと地元の魅力を知りたいと思っていたことや、この店舗で開催している住民を巻き込んだイベントにも関わりたいと思ったそうです。

若者向けのファッションの店なので高齢の住民とは壁があったりしますが、スタッフはみんなもっと地域の人と触れあいたいという人たちなので、会話をしていくうちにすごく打ち解けてくれるお客様が多いです。

また、社長が率先して新しい情報を拾ってきて、今までにないものを作っていこうという気概が好きだと語っていました。

社内には全社員が参加するニューバリューというLINE グループがあり、取り扱っている商品・サービス全般について、アイデアを提案できる場所になっています。

由利本荘市の店舗でのカレーの提供ですが、これもニューバリューでの提案が実現したケースだそうです。

奥さんは、学生時代からDJ活動を行っていて、今も2カ月に1度、上京して活動をしているそうです。新型コロナウイルス禍の影響で行けないことも多かったものの、参加できないときも画像を作ったり、みんなでイベントを作ったりといった活動をしていました。

戻って来たことで「諦めたの?」とも言われましたが、全然そんなことはなくて、それぞれに違う楽しみ方ができます。以前、WANTS・AND・FREEの2階にあったクラブはなくなってしまったのですが、なければ作ろうという精神で、スキー場に機材一式全部持ち込んだり、仙台や山形に行くこともあります。そういう話をすると東京の友達にうらやましがられます。

将来の夢については、秋田の魅力とか住んでる場所の魅力を言語化して広く発信できるような人材になりたいと思っているそうです。商品の紹介でも、背景にあるストーリーをしっかり伝えたいとと語っておられました。

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高橋文柄社長は、ファッションだけでなく食品についても突き詰めて考えて、それを新たなビジネスに結び付けています。また、若手たちは、社長の下で伸び伸び自分のやりたいことを楽しそうにやっていると思いました。スタイリストという、ファッションアドバイザーにはあこがれの対象の資格を、働きながらみんなで取れることにわくわくしているのを感じました。

そういえば、同社で輝いているのは若い人たちだけではないそうです。

うちの会社に60代の女性が3人います。非常に個性的で輝いている。3人の写真集を作ってキンドルに載せようと思っています。タイトルは「ハロー60s!予測不能な彼女たち」。そのうちの1人は、「いもっこ家」という湯沢名物オランダ焼き屋の奥さん。土日はオランダ焼きを焼き、ウィークデーは朝4時からうちの洋服のお直しの仕事をして、日中は商品管理係と三つの仕事を掛け持ちしてフルパワーで活動しています。学生時代に体育大学でダンスを専攻していたスタッフは、LINE動画で踊っています。彼女たちの写真を撮りためて春頃に完成予定です。

「社長も60歳になったので入りなさい」と言われ、初めは逃げていたのですが、結局、コバルトブルーのウィッグを付けて撮影するはめに。

楽しそうな会社だなあ。 

■理趣のホームページ

■食品事業のウェブサイト

 

 

 

取材:有馬徹、竹内カンナ

文:竹内カンナ