北秋田市に世界シェアナンバーワンを10年続けている会社があります。それも競争が激しい自動車部品のターボチャージャーのシャフトなのですからすごくありませんか?秋田青木精機という埼玉県に本社を置く青木精機工業の唯一の国内生産拠点です。上海やスロバキアにある海外工場を技術面でサポートするマザー工場です。地域未来牽引企業に選ばれています。
同社のすごさについて、現地責任者の青木俊樹常務取締役にご説明をお願いしました。
ターボチャージャーのシャフトというのは、1000度近い排気ガスが直接吹き付け、高速回転する部品なので高い製造技術と品質の信頼性が求められます。青木精機の製品は独自の生産技術で、高性能な上に価格競争力があるため世界の四大ターボチャージャーメーカーであるギャレット、ボルグワーナー、三菱重工、IHIの全部と取引があり、シェアは世界の3分の1を優に超え、トップとみられています。
将来を考えると、温暖化ガスの排出削減目標を達成するための世界的な電気自動車(EV)化への大きな流れがあり、ガソリンエンジンの排気ガスを利用してパワーアップを図るターボチャージャーの市場は縮小していくとみられています。
ターボ市場はこの10年で2倍に
しかし、2010年頃からターボチャージャー市場は2倍に拡大しているのです。また、この先も2021年に118億ドル(1兆3600億円)だった車載ターボチャージャーの市場規模は、2026年に192億ドルに拡大すると予想するリサーチもあります。これは、温暖化ガス排出基準が厳しくなる中で、自動車メーカーが小さなエンジンでパワーを出すためにターボチャージャーの搭載を増やしているからです。
ターボチャージャーはもともとスポーツタイプの車に搭載されるものと思っていました・・・。時代の変化を感じます。
こうした自動車業界の変化の中で、青木精機は非常に有利な立ち位置を占めています。市場の拡大を見越して2010年代には新規参入の動きもあったのですが、青木精機はすでに独自の生産方法を構築し、トータルコストを引き下げていたので、新規参入の会社は歯が立たなかったのです。
ターボ市場は10年以内に減少に転ずると思います。減少していく中でも青木グループ全体での生産できる数量を維持した受注活動を積極的にしていきたい。またEVに対しても独自の生産体制を構築出来る柱となるものを模索し営業活動をしております。柱をみつけて、北秋田での雇用を維持、拡大していけるような体制作りができればと考えています
ターボシャフト参入のきっかけは自動車メーカー系列崩壊
青木精機は当初、自動車メーカーの系列で自動車用オートマチック関連部品の製造拠点でしたが、1997年頃からその系列が崩壊し、新たな取引先を自力で探さなければならなくなった時に、米大手ターボチャージャーメーカーからの引き合いを受けたのがきっかけでした。それまでは特定の自動車会社から受注したものを作っていればよかったのですが、その頃は出来ることには何でも挑戦するという必死な思いで困難を乗り越え、シェア世界一を手にすることが出来ました。
現場オペレーターの育成
現場に配属された新入社員の教育については、経験者を教育係に付けて一から教える態勢を取っています。自動車業界には、IATF 16949というこの業界に特化した品質マネジメントシステムがあり、この認証を維持するには研修や訓練などが重要なため、IATF 16949の基準を毎年クリアするためだけでも相当な社員教育を行っていかなければならないそうです。
IATF 16949を維持するために毎年大変な思いをしています。ただ、これがお客様への信頼につながりますので、社員は大変ですがしっかりと身に付けてもらっています。
また機械の操作を習得したい人は、会社の承認が得られれば外部の教育機関でのトレーニングへの支援を受けることができるそうです。
青木精機の女性比率は20%弱。育児休業取得者は過去に4人。勤続年数は平均15年で平均年齢は45歳。長く働いている人が多いそうです。
青木常務から就活生に向けてメッセージをいただきました。
自分の意見を持ち、自分の判断で行動できる人に来てもらいたいと思っています。また、青木精機は海外志向の強い人にも面白い職場ではないかと思います。海外営業ではコロナ前は2カ月に1回ぐらい海外出張がありました。ターボシャフトのシェア世界一は維持していきます!こんな会社、秋田県で珍しいと思いますので、面白そうと思ったら、まず見学に来ていただければと思います
若手に聞く
青木精機で働く総務部の藏本悠希(ゆうき)さん、海外営業の平田頌(ひらた しょう)さん、生産現場のリーダーの佐藤政則(まさのり)さんに同社の雰囲気や働きがいについてお聞きしました。
現場リーダーの佐藤さん、ものづくりと機械が大好き
まずは製造部門の佐藤さん。製造ラインの管理をしています。2011年3月10日入社。東日本大震災の前日でした!地震が起きたときは、そもそも何がどうなっているのか分からない状態でしたが、大きな揺れが来て忘れられない体験になったと話されていました。幸い同社に大きな被害はなかったそうです。
佐藤さんは青森県出身。元々、部品を作ったり組み立てたりすることが好きだった上、車好きだったので青木精機がターボチャージャーのシャフトで大きな存在感を持った会社だということを知り、どのように製品化しているのかが気になり応募したそうです。そしてオペレーターとして機械の操作を覚え、入社7年後の2年半前にリーダーになりました。
入社してみて、自分のような県外出身者にも分け隔てなく接してくれる親しみやすい人が多いと思ったそうです。社員同士のコミュニケーションもよく、午前10時からの10分間の休憩時間は、わいわいがやがやと趣味の話をしたりして盛り上がるそうです。
ランチタイムは12時からの1時間で、お弁当を持ってきたり買ってきたりして食堂で食べる人が多いですが、自分の車で食べる人もいるそうです。車通勤の人が多い地域では、車でランチを食べるという話をよく聞きます。自分の部屋のようにラジオや好きな音楽を流しながらひとりの時間を楽しんでいるのですね。
同社では現場の改善提案制度というのがあり、1年に1回、ほぼ全員が品質を向上させる提案、コストを下げる提案などをすることになっています。こうした制度があると、いつも何か提案することがないかと考える習慣がつくと思います。
佐藤さんは能代から通勤しており、趣味は釣りだそうです。能代から近いので八郎潟の残存湖などに行くことが多いそうです。
米国で映画音楽を勉強した平田さん
平田さんは海外営業課に所属しています。埼玉県が本社の会社なので貿易関係の業務は埼玉でやっているのだろうと思っていました。自動車業界では受注情報が頻繁に変わることが多く、顧客から突然数量の変更を求められたりするため、顧客の要求に対応するには窓口である営業課が工場のそばにあったほうがすぐに対応しやすいのです。また、新たな製品の見積もりの際も、北秋田にある技術部と話し合いながらお客様との交渉を進める必要があることも理由の一つだそうです。
平田さんは2011年10月に入社。米国に留学し、映画音楽の作曲の勉強をしていたのですが、2010年に日本に帰って出身地である岩手県で就職を探そうとしていた矢先に震災が起きました。なかなか就職先が見つからなかったため、東北6県に就職先の検索を拡大し、青木精機に出会いました。勉強したこととは全く違う世界ではありましたが、自動車は嫌いではなかった上、英語が役に立つと思い入社を決めました。
四大ターボメーカーのうち2社は日本の会社ですが、顧客企業は欧州、米国、中南米と世界各地にあり、コロナの前は欧州に行くことが多かったそうです。インドの顧客のところにも1回行ったとのこと。青木精機は上海にグループ会社があり、スロバキアに現地法人を設立し、欧州のメーカーに納入しています。また、タイには合弁会社があります。秋田青木精機は、こうした海外拠点から人が来たり、逆に北秋田から海外に行って技術指導をしたりすることもあります。
いろんなお客様や文化と接することができますし、世界中を走っている車の中にうちの製品が入っていると考えるだけで楽しいです
平田さんのような営業担当の方でも、入社直後は現場の仕事を知るため1~2週間ごとに各部署を回り、実際に製品の検査をしたりして、製品にどのぐらいの精度を求められるかなどを学びました。海外営業課では、顧客から新製品の見積もりを求められたり、その週の出荷のためのインボイスを作成したり、出荷の手配をしたり輸出業者に連絡したりというような業務をしています。
平田さんは小学生の娘さんがおり、子育ての上で北秋田市での生活が気に入っています。
ここでは、公園などに遊びに行っても人があまりいないので、コロナ禍になってから気を使わずのびのびと遊べることがすごくありがたいと思っています。会社のそばに北欧の杜という公園があるので大自然の中で安心して遊ばせられます。
藏本さんは経理もできる総務課員
総務課の藏本さんは、地元の出身。働いていた病院がなくなってしまったことがきっかけで2019年に青木精機に入社しました。総務課とはいえ、同社では経理的な業務もこなせなければならないので、医療事務の仕事をしていた藏本さんのスキルが生かされる職場だということです。
入社したてのころは分からないことが多かったので、最初は付きっ切りで仕事を教えてもらいました。その後も聞きやすい雰囲気なので早く仕事に慣れられました
藏本さんは、日本酒と自然が大好きなので、北秋田市はほんとにいいところだと思っているそうです。
将来の夢
3人に将来の夢をお聞きしました。
佐藤さん:ものづくりが好きなので、会社にある機械を全部、とまでは言わないまでも、まだ使ったことがない機械を使えるようになりたいと思っています。
平田さん:ターボシャフトの世界ナンバーワンのシェアをこれからも維持していくことに貢献していきたいと思っています。それから、子どもを順調に育てていくことが目標です。
藏本さん:あの人に聞けば何でも分かる、と言われるような人になりたいと思っています。
■こっちゃけの秋田青木精機情報