インスペック、世界トップの半導体検査装置を開発から一貫生産

秋田県には現在、県内に本社を置く上場企業が2社しかありません。上場すればいいというものではありませんが、全国で3800社が上場している中で2社なのですからちょっと寂しい。

では、その上場している2社とはどことどこでしょうか?

1社は多くの人が正解するでしょう。秋田銀行です。そして、もう1社は・・・インスペックという会社です。いかがでしょう。ご存知でしょうか?仙北市角館に本社がある角館出身菅原雅史社長が約30年前に立ち上げた生粋の秋田の会社で、現在東証二部に上場しています。今は二部ですが、菅原社長は今年4月に市場改編に伴い東証プライム市場に移る秋田銀行に続き、プライム市場に「必ず行くぞ」という決意をお持ちだそうなので応援したい。

今回は同社の事業の内容について菅原社長、会社の雰囲気や働きがいについて、開発部門の大石健太さん生産部門の佐々木玄(げん) さん技術部門の平岡陽菜(ひな) さんにお聞きしました。

インスペックは半導体パッケージ基板検査装置の会社です。普段の生活で製品を目にする機会はないのでご存知ない方が多いと思いますが、知っておくべき会社です。高い技術を持ち、半導体パッケージ基板メーカーが使う検査装置の研究開発から設計、製造、設置、アフターサービスまでをすべて自社で行っています。経済産業省が選ぶ「はばたく中小企業・小規模事業者300社」に秋田県から選ばれた2社のうちの1社でもあります。

同社は2003年にロールtoロール型COF検査装置という製品を発表しました。一つの言葉に2つも意味のわからない単語が含まれているとため息が出ますが、気を取り直して調べてみると、COFというのは(Chip on Film)のことで、FPC(フレキシブルプリント基板)と呼ばれるフィルムのような基板の上に精密な回路が描かれたもの。う〜ん、1つ説明しようとするとまた1つ分からない言葉が出てくるという困った事態ではありますが、ざっくり言うと、最近はぺらぺらとしたフィルムの上に回路が描かれた精密FPCが増えていて、それがくるくるとトイレットペーパーのようにロール状に巻かれた状態になっているのですが、インスペックのロールtoロール型COF検査装置は、巻かれたロールの端を少しずつ伸ばしながら、連続的に光を当てて機械の目で検査します。検査が進むと検査済みの精密FPCがロールになっていくのでロールtoロールと呼ばれるのです。

第一工場

菅原社長によると、長いロール状のFPCを流れている状態で検査できる装置は世界で初めてだったので、同社はこの分野で一気にトップに躍り出て、今もトップを走っているそうです。

薄くて曲げられる小型のFPCがあればこそ2つ折りの携帯電話などが可能になりました。薄くて曲げられることで狭い空間でも配線が可能になり電子機器の小型軽量化に貢献しました。また大型のFPCは、自動車用として注目され、需要がどんどん拡大しています。つまり、その検査装置への需要も増えること間違いなし。

今どきの自動車には、ドアロック、カーナビ、エンジンの燃料噴射から、周囲の安全を確かめるセンサー、カメラなど数え切れないほどの電子機器が使われており、一台の自動車のワイヤハーネス(自動車用組電線)は100キログラムになるものもあるそうです。軽量化が大きな課題とされていましたが、FPCを使うことで相当に軽くできるようになったそうです。少しでも軽くしたい自動車メーカーがFPCに熱い視線を注いでいるので、インスペックのロールtoロール型検査装置の需要も右肩上がりなのです。

インスペックは、いろんなものがネットにつながるIoT(インターネット・オブ・シングス)や高速通信規格の5Gの普及によってFPC市場が拡大すると見越し、2016年に精密FPC向けロールtoロール型検査装置RA7000を発表、画期的な性能によって、この市場での地位をさらに確固たるものにしました。

強敵がいるのはイスラエルです。韓国台湾の会社にもライバルがいます。しかしFPCのロールの検査装置の市場ではインスペックがトップランナーで、一番競争力があると思っています。またそれ以外の半導体パッケージ基板でも最先端のものについてはインスペックしか対応できていないと思っています

しかし、誰から見ても成長分野ですから、この競争力を維持していかなければすぐに市場から退場させられてしまいます。菅原社長によると、インスペックの競争力は、装置の性能だけではなく製造部門の技術力の高さサポートの良さにも理由があるそうです。

似たような装置を作っている会社さんに協力していただいたことがあるんですが、その会社さんが、うちの製造部門の精度にびっくりしていました。また、お客様からはサポートも高く評価していただいています

顧客の注文通りの製品が出来たかどうかを検査する時は、検査のための様々な設定やカメラで写すための照明の条件などを設定した「レシピ(作業手順書)」を作るのだそうです。出来上がった装置の検査も顧客任せにしない丁寧なサポートが評価されているのです。

同社は、2020年には世界初のシームレス・レーザー直描露光機「RD3000」を発表しました。これはロールtoロール型検査装置で培った技術によって長いFPCを途切れることなく露光させることができる装置です。露光とは精密FPCの製造過程でFPCに光を当てること。それを化学処理することによって長いシームレスな精密FPCができるのです。フィルムカメラがどういうものか知っていれば分かると思います。

最初にそうしたものができないかと顧客から相談を受けたのが2017年冬。秋田県産業技術センターと共同で経済産業省2018年度戦略的基盤技術高度化支援事業(サポイン)の助成金を活用して研究を進めました。それから3年がかりでRD3000を発表し、今は次世代モデルの開発を進めています。シームレスレーザー直描露光機は、自動車の省エネにつながるとして国立研究開発法人NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の戦略的省エネルギー技術革新プログラムに採択され、2023年に発表する予定です。

こちらは同社の会社説明資料です。

こう言い切れるってかっこいい!

でも最初からこんなに自信に満ち溢れていたわけではありませんでした。

1984年に創業しましたが11年間は県から紹介していただいた誘致企業さんの下請けをやっていました。ですが自主独立の会社としてやっていきたいという非常に強い思いがありまして、1996年に最初の検査装置を開発し、以来、検査装置の専業メーカーとして今日までやってきました

精密FPCは、自動の検査装置ができるまでは人間が目視で問題を検出しなければならず人海戦術だったそうです。相当目がよくないとできませんし、集中力も必要でした。今はそれをインスペックは高度な画像処理技術とAI(人工知能)で行えるようにしたのですが、かといって、誰でもすぐにその装置を使いこなせるわけではなく非常に高度な技術やノウハウが必要なのです。

菅原社長は、同社の検査装置は「車に例えればF1カーのようなもの」と言います。開発も高度ですが、製造するのも決して部品をネジで繋ぎ合わせれば完成というわけではなく、非常に高い精度が求められるため、ひと粒のほこりが紛れ込むことも許されないし、組み立てたあとも微妙な調整が必要、さらに顧客の工場に行って据え付けてすぐに動くものではなく顧客とともに進化させていくといったことを日々繰り返しているそうです。

創業から38年を経て、会社が世代交代の時期を迎えており、向こう1、2年で経営理念や組織を大きく改革して若返りを図ろうとしているそうです。

そこで同社が導入しようとしているのがパーパス経営です。元々社員が幸せになれる会社にしたいと考えていたところ、その考え方がパーパス経営の理論と重なることが分かり、この考え方を取り入れていくことにしました。

これは、比較的新しい経営理論で、会社は何のためにあるのか、社員一人ひとりは何のために働くのかを明確にして、全社員がそれに向かって取り組んでいくという考え方です。具体的に言えば、すべてのステークホルダー(社員・顧客・地域社会・株主)に貢献することが会社の社会的な存在意義であるというという考え方だそうです。

第2工場でレーザーシステムの調整中

県のSDGs(持続可能な開発目標)パートナーにも登録し、具体的な取り組みの第1歩として角館の武家屋敷通りの清掃を行いました。ただ、同社のコアビジネスであるFPCの検査装置の製造自体が自動車の軽量化、ひいては二酸化炭素(Co2)削減につながるのでSDGsの目標達成に貢献すると考えているそうです。

社員数は72人と少数精鋭で、本社・工場はほとんどが秋田県内の出身者。ヒューレックス社転職サービスの情報によると秋田県内企業の年収ランキングでは秋田銀行に次いで2位です。秋田以外の拠点としては東京台湾に顧客をサポートするエンジニアと営業担当者が数名いるそうです。

さて、ここで同社に最近入社した若手3人に、インスペックでのリアルな生活についてお話をお聞きしましょう。

まずは開発部の大石健太さん。照明などの開発をされています。秋田大学・大学院出身で、入社3年目の27歳。大学での研究テーマに関わる仕事ができる会社を探していてインスペックに出会いました。

検査装置で照明といわれても、はじめはピンとこなかったのですが、同社の検査装置は画像を撮影して検査するため、照明が重要な役割を果たしているのです。開発担当の大石さんは、装置の性能をさらに高くするためにパソコンのシミュレーターシステムに向かって設定を少しずつ変えながら画像を撮影し、それを検証するといった作業を繰り返しています。精密FPCの検査装置は画一的な製品ではなく顧客のニーズに合わせたオーダーだったり、セミオーダーだったりするので、国内外の顧客とのオンラインでのやり取りも多いそうです。

思った以上にいろんなことに自由にチャレンジさせていただいています。こんなものが必要になっているからやってみよう、というようなことで新たな開発が始まることもよくあります

大石さんは、大仙市のご実家から車で約30分かけて通勤しています。最近、ボルダリングに凝っているそうです。中学までは野球、高校では陸上部と運動好きだったのですが運動不足になっていると感じていたので会社の人に誘われて始めたボルダリングを楽しんでいるそうです。

始業は午前8時半、終業が5時20分で残業は多くても月10時間。製造業の会社では事務系でも制服を着ている人が多いですが、大石さんは制服と同じネイビーですが私服。常識の範囲であれば何を着ていてもいい自由もあるそうです。

目標をうかがうと「上の人からいろいろ教えてもらったりやらせてもらったり、良くしてもらっていると感じています。そういう方々をサポートできる範囲を広げていきたいと思います」と語っていました。

同社への就職を検討している人に向け、「いろんなことをやらせてもらえるので、具体的に何がやりたいと決めてこなくても大丈夫です。いつも新鮮な気持ちで仕事に臨めます」と語っておられました。

生産課の佐々木玄(げん)さんは、転職組で6年前にハローワークで同社を紹介されて入社しました。製造というとネジを締めて組み立てているというイメージですが、組み立てるといっても1000分の1ミリメートルを求められる場所ではほこりが一粒ついていても精度が落ちてしまいますし、組み立てて終わりではありません。部品段階から組み立てが終わるまで仕様に合わせて調整が必要で、なかなか思ったようにいかずに苦しい思いをすることもあるとか。

装置全体の機能や技術的なことを知らなくても組み立ては可能ですが、同社では社員が全体を理解した上で作業をすることが社員を育てると考えて社内勉強会を開いて学んでもらっているそうです。

佐々木さんは装置の設置のために顧客企業の工場に行ったときに、他社の検査装置を目にして、「やっぱりうちの装置の方が一歩進んでいるな」と思うことも多く、そうした時に会社を誇らしく思うと語っていました。

会社創業当初から30年に渡って働いているベテランもおり、そういう人たちはわれわれが気付けないところに気付いてくれます。ノウハウや作業効率の点でもまだまだ追い付けません。

佐々木さんは角館出身で通勤は車で5分山歩きが趣味。鳥海山に登った時、お天気のいい日だったので、頂上から海と田んぼがどちらも見える鳥海山の独特の眺望に心を動かされたと語っておられました。今は東北の山が中心ですが、いずれは立山や長野の山を登りたいと夢見ているそうです。

仕事面では、現在、部内の業務改善活動に携わっており、そこからいろいろと学ぶことが多く、今後は学んだことを現場に落とし込んだり、伝えていきたい。また、今、50~60歳代のベテランと20歳代の間のギャップを埋める役割を担い、みんながコミュニケーションを取りやすくしたいと思っているとのことでした。

生産部門の仕事は、理系の人が多いですが、入社してから学ぶことが多く、文系の人でもいいと思っています。いろんな人がいた方が多様な意見が出て来るので、いろんな人に来てもらいたいと思っています。是非、お待ちしています。

平岡陽菜さん

平岡陽菜さんは事務職として入社しましたが、研修後に技術部に配属されて3年になります。現在は、事務の仕事とともにCADを使って設計者のサポートを行っているそうです。事務とCADのオペレーターの両立は負担ではないかとお尋ねすると、「事務はWordやExcelを使った基本的なことなので、そんなに負担には思っていません」とのことでした。

同社ではCADなどの設計者や技術者がやっていた仕事から事務的な部分を切り分けて事務職として入社された平岡さんに担当してもらっているそうです。

平岡さんは角館で生まれ、子どもの頃からインスペックが地元に本社を置き、上場会社であることを知っており、日本のみならず海外にも活躍の場を広げているところに魅力を感じていたので、就職の時はインスペック一本に絞って応募したそうです。また、学生時代から地元に貢献したいという気持ちを持っていたため県外に出ることには興味なかったと話しておられました。

普通科を卒業したので専門分野の知識は全然なかったものの、外部セミナーを受講させてもらったり、ベテラン社員が定期的に開く勉強会など社員教育が充実しているとのことでした。

勉強会はとても役に立ちました。最初は専門用語が全然分からなかったのですが、先輩社員さんたちが工夫して分かりやすく伝えてくださったので技術を志望していたのではなかったんですけれど、入社後1カ月間の研修で分かるようになりました。

通勤は角館のご実家から車で10分。残業は1カ月に1~2時間とほぼゼロ。友人たちもけっこう地元に就職しているそうです。

最近、スノーボードを購入し、田沢湖スキー場などに滑りに行っているそうです。今年は雪が多く雪質もいいのでボーダーにはいい年だったと思います。

平岡さんは、このまま事務職も技術職のサポートも両方とも続けていきたいと考えているそうです。同社では同じ普通科出身で生産部で組み立て業務のエキスパートになっている人もおり、未経験でもさまざまな分野で活躍できると感じています。

また、女性が働きやすい職場だと思うので、ワークライフバランスを取りながら長く働き続け、仕事も生活も楽しんでいきたいと思っているとのことでした。

総務課の小林さんから「当社はロールtoロール検査装置や新製品のレーザー直描露光機CO2の削減に貢献することや、社員教育の充実ボランティア活動などSDGsへの取り組みを経営に積極的に取り入れています。認知度はまだまだ低いですが、当社が持つ高い技術失敗を恐れないチャレンジ精神をベースに、明るい未来の実現のために一緒に働きませんか!」 と就活生に向けてメッセージをいただきました。

インスペックは、秋田県内の就活イベントや県外のAターンフェアには、ほぼ毎回参加していますし、コロナ禍でオンラインでのイベント開催が多くなっているので気軽にのぞけますから是非、直接、どんな会社か見てみてください。

◆インスペックのホームページ

 

 

◆県の就職情報サイトKocchakeのインスペックのページ

 

 

取材:照井翔登、竹内カンナ
文:竹内カンナ