にかほ市で産業機械・精密機械加工を手掛ける丸大機工株式会社をオンラインで取材させていただきました!同社は長らく、地元の大手電子部品メーカーの生産設備の部品製作をしてきましたが、1988年に秋田市に設計事務所を開設し、自社製品の開発に力を入れ、経済産業省が選定する「地域未来牽引企業」、同じく経産省の「はばたく中小企業小規模事業者300」、秋田県の「秋田県ものづくり中核企業」に選ばれています。
ワンストップで顧客のニーズに対応
自社開発製品
自社開発製品のうち打ち上げ花火自動玉皮貼り装置は、大仙市の株式会社花火創造企業からの依頼で開発しました。これにより、花火の火薬を詰めた紙製の半球を2つ合わせて紙のテープを巻く工程の自動化を実現しました。引っ張る力の調節をはじめとする花火職人の技の精度を再現するため、難易度の高い開発だったそうです。
丸大機工は機械の設計から大物加工、精密加工、組み立て、配線、
求める人材は文系・理系を問わず、入社後は3カ月間で各部署を回った上で配属を決めます。学歴は高校・高専・専門学校・短大・大学卒、既卒もOKです。
菊地兼治社長はインタビューで、新たな顧客の獲得や従業員の待遇の改善について率直に、そして雄弁に語ってくださいました。言葉の端々に従業員がやりがいを持って働ける環境を整えたいという思いをにじませる一方、新たな事業の立ち上げを決定し、顧客獲得のためのトップセールスに自ら足を運ぶフットワークの軽さも印象的でした。
社長自ら関東地方などのメーカーを積極的に開拓し、極秘にされている工場の中を案内してもらい、それが事業の拡大に結びついたこともあるそうです。
関東の顧客の工場を見学させていただいたとき、男性従業員がなかなか機械では装着できない細かい手作業をやっていました。私はそれを見て、「これは女性がやった方がよい。私に任せてください」と言いました。直前に近隣の工場の事業再編で優秀な女性の仕事がなくなっていたのを知っていたからです。うちはその方たちを一気に13人採用し、その仕事を引き受けました。
コロナ禍の先を見据えて設備投資
事業の拡大に伴って工場の増築を進め、現在は8棟の建物があります。第1工場は高精度大型部品の加工工場、第2工場は最大15t天井クレーンを有する組立・配線工場になっています。
第3工場では多品種小ロット生産に対応する立型・横型・5軸マシニングセンタ、ターニングセンタ、NC旋盤を稼働させ、精密加工を行っています。
2020年には、東北で導入実績のなかった大型の研磨機械を導入するなど、研磨工程にも力を入れています。第4工場は2012年に新設され、2019年に増築された溶接・製缶工場になっています。
こうして、各工場で加工・生産された部品が第2工場で機械装置として組み立てられ、出荷されています。
同社は2016年に他の機械メーカー向けOEM(相手先ブランド生産)に舵を切りました。受注した製品をワンストップで納入できるように機械設備の導入を進めており、常に労働環境の改善と先行投資を欠かさない会社だそうです。
1枚の伝票で設計から最後の据え付けまでやれますとお話しさせていただいています。そうするとお客様から各工程でいろんなご指導もいただくことができます。これにより私たちの知見も増え、逆にお客様へ提案することもできるようになり仕事がスムーズになります。半導体不足も追い風となり、OEMの受注が増え、各工程で人員を増やす必要が出てきました。
OEMを始めた頃は、思うように進まない時期もあったそうですが、今は軌道に乗りました。
県内大学と連携した開発も行っており、秋田大学と共同で点滴台電子機器配線カバーを開発したり、県立大学と大規模細胞内物質導入装置を開発したりもしています。
こうした努力の結果、現在は多くの企業とお取引されているとのことでした。
丸大機工は、県外人材の採用にも積極的です。社員寮もありますし、グループに不動産部門があるので従業員に住居の紹介もしています。にかほ市も移住促進を政策に掲げており移住者への手厚い優遇策が用意されています。
菊地社長は、大きな会社で得てきた知見をリスペクトしており、製造業未経験であっても積極的に採用しています。これは、技術力だけでなく、過去の職歴から得たさまざまな経験が丸大機工の成長に寄与すると考えているからです。
大手企業で品質関係の仕事を何年もやってきた人をお迎えしたことがありますが、我々と全くレベルが違います。生産管理についても同様です。そういう人材に期待しています。
秋田県は人口減少による人手不足が予想されており、丸大機工も例外ではありません。機械による省力化のほか、技能実習生の採用なども考える一方、若い人材や女性も積極的に登用していく方針だそうです。
若い人は考え方がデジタルです。そういう考え方がとても好きですね。ミレニアル世代を起用して、その情報収集力や感性を会社の中で活かしていきたいと考えています。
2030年までに女性管理職比率20%に
女性活躍については、技術者の育成に力を入れており、以前は男性が行っていた仕事も積極的に女性に任せているそうです。フルタイムで働く女性も多く、育児休暇などの制度も整備されています。現在、女性は60名(約25%)。
医療機器関連の仕事をしていた女性が今、育児休暇中です。育休前、「必ず戻って来てくれ、この仕事はあなたしかできないんだ」と言い続けていました。
社長からこんなふうに声を掛けてもらえたらやる気が出ますね!
SDGsの目標5のジェンダー平等を掲げて2030年には女性管理職を20%にする目標を設定しております。女性は今、係長が一番上ですが、リーダーには早く係長になれ、さらに課長を目指せと言っているそうです。
外部研修は各階層別に行っていますが、2年前からコンサルティング会社のリーダー研修を受講させたところ、研修に行った者同士がそれまでは使っていなかったような言葉で話すようになりました。そういった意識の変化を感じたため、もっと多くの人に研修を受けさせようと思っているそうです。菊地社長も研修に行ったとか。新型コロナウイルスで移動が制限されるなか、人への投資を増やしたとのことでした。
資格を取得し誰にも負けない加工者になりたい
同社で働いている若い人たちにもお話を聞きました。
機械2課で働く今期入社したばかりの竹島さん。出身はにかほ市で、高校は普通科でした。地元での就職を決めたのは、地元に貢献したいと考えたことと、家族を安心させたいと思ったからだそうです。
まだ、自分が担当する機械は持っていませんが、同社の扱う製品の中では比較的小さなものの加工や材料の取り付けなどを行っており、資格取得を目指して頑張っています。
高校2年の時に3日間、インターンとして丸大機工で働いた時、秋田県で初めて女性でNC旋盤1級を取得した村上さんと一緒に仕事をし、彼女のようになりたいと思い入社を決めました。
また悩んだ時に周囲の人に気軽に相談できる雰囲気があると話していました。ただ、機械2課の約20人のうち女性は3人だけなので、もっと女性に入社してほしいと思っているそうです。
竹島さんは、午前8時10分の始業に合わせて車で20分程度かけて通勤しています。お昼休憩は食堂で同期とお弁当を食べたり、近くで外食したりしています。終業は午後5時10分。休憩時間が合計1時間設けられていて、実働8時間になっています。
週休2日制で、年間の休暇日数は105日。有給休暇の平均取得日数は7日と少なめですが、年間賞与4カ月以上を会社の目標として掲げているそうです。これはかなり高水準です。残業は月平均10時間。
休日には古着屋さん巡りのために秋田市や角館などに出掛けることが多いそうです。パーカーなどストリート系のファッションが好みで、新品にはない味わいや商品との出会いを楽しんでいます。
将来の夢は、丸大機工に入るきっかけとなった村上さんと同じNC旋盤の資格を取ること。技術者としてずっと現場で頑張って、誰にも負けない加工者になりたいと語りました。
機械のプログラミングに時間を忘れる
次にお話をうかがったのは、大卒で入社した鎌田さん。由利本荘市出身で秋田県立大学の機械科を卒業して入社、今期6年目です。現在、竹島さんと同じ機械2課で複合機の一種、ターニングセンターという機械を使った加工を担当しています。軸が回転し金属を削る機械で、穴あけなどさまざまなニーズにこたえられる機械です。
にかほ市に親戚がいたこともあり、以前から国道沿いにある丸大機工のことは知っており、工場見学をさせてもらって入社を決めたそうです。
趣味は草野球。将来の夢は?とうかがうと、最近、お子さんが生まれたので、幸せな家庭を築きたいと思っていると語り、幸せいっぱいな感じでした。職場では先輩たちが優しく、なにかと相談に乗ってくれたり指導してくれると話していました。
製造業の現場というと、かつては先輩が無口な職人気質で、技術は目で見て覚えろと言われ、一言も教えてもらえないといった話を聞いていましたが、それでは若い人がついてこないのでしょう、今はどこの会社でも先輩が優しくなっているように感じます。
加工の作業はずっと神経を張り詰めていなければいけないのかと思いましたが、難易度はまちまちなんだそうです。ただ、航空機系の部品などは特殊な素材を使っているのでミスが許されないと思い、緊張すると語っていました。ほかには印刷機や半導体関連装置の部品なども作っています。
プログラミングなど頭を使う作業は時間があっという間に過ぎるぐらい楽しいそうです。また、図面を渡され、プログラミングをして作業をし、それが一つの製品になった時には達成感を感じるとおっしゃっていました。
作業はかなり自動化が進んでおり、可能な限り機械で加工し、最後だけ手作業で行うように心掛けているとのことでした。
鎌田さんは、「ここまで技術を身に付けるにはすごい努力が必要だったんだろうなという先輩たちがたくさんいるので、自分も追い付きたいと思いながら仕事をしています」と、技術の向上への意欲を示しました。
現在、旋盤の2級にチャレンジ中で、筆記は合格し、これから実技の試験だそうです。同社には資格取得奨励制度があり、2級を取ると月に3000円、1級を取ると5000円の資格手当があるそうです。
敢えて地元に残り社長を目指す!
今回のインタビューを設定してくれた総務課の櫻庭さんにもお話をお聞きしました。ご出身はにかほ市、地元の高校から県立大学に進学、経営システム工学科を卒業しました。経営は文系の学問ですが、県立大学には数理的な手法を用いた経営工学を学ぶ同学科があるそうです。
最初の3カ月は研修期間となっており、新入社員が全員、機械加工や組み立てといった各部署を1週間ごとにローテーションしてから配属となります。櫻庭さんは研修後、総務課に配属され、現在入社5年目です。
櫻庭さんは、会社について、菊地社長だけでなく渋谷正敏会長も「うちの四番バッターは製造現場だ」といって現場を大事にし、工場を歩き回って作業をしている人たちに声を掛けるなど幹部との距離が近いことが魅力だと語られました。幹部のそうした姿勢が会社全体が1つのチームという意識を育て、「急ぎの仕事が入るからよろしく」などと頼まれると一丸となって取り組む雰囲気があるそうです。
櫻庭さんは全国転勤がある会社からも内定をもらいましたが、家族や友達の近くにいて幸せな時も不幸な時もすぐに駆けつけられることを大切にしたいと思って丸大機工を選びました。趣味の野球やスノーボードなどスポーツも、釣りやバーベキューなどアウトドア・レジャーへのアクセスも良く、こんな環境は全国を見渡してもなかなかないと思っていて、それも地元に残ることを決断した理由の1つだったそうです。確かに、にかほ市は山と海がすぐ近くにある上、芭蕉が「象潟や雨に西施がねぶの花」と詠んだ風光明媚な象潟もあります。
しかし、櫻庭さんは地元に就職して趣味を楽しみプライベードライフをエンジョイする一方、全国企業で高い給料をもらっている同級生に対する負けん気もあって、新入社員歓迎会では将来は社長を目指すと宣言したツワモノです。すばらしい!
同社には高卒で入社し40代で取締役に抜擢された前例もあり、そういう方を目標に、多くの従業員の生活を背負って立てるようになりたいと力を込めて語っておられました。思い続けていればきっと実現すると思います!
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菊地社長も、「とにかく仕事を断らないで勇気を持って、挫折を恐れずに、今後も挑戦し続けていきたいと思っております」とおっしゃり、とてもポジティブ。OEMが軌道に乗るまでは苦労した時期もあったようですが、今は新たな事業の可能性に自信を深めているようです。
■秋田県企業の就職情報サイト Kocchake
取材:照井翔登、竹内カンナ
文:竹内カンナ