大館の昔ながらの商店街に活気を与えるママと子どものコミュニティー

核家族化と少子化が進み、昔のようなご近所付き合いも少なくなった今、子育てママは孤立しがちです。 島田真紀子さんは、3人のお子さんと一緒に大館市に引っ越すと同時にフリーライターになり、小さい子どもを抱えて働くことの難しさや、知り合いのいない地域で子育てをすることに不安や寂しさを感じたのをきっかけに、子育て支援活動をはじめました。今は、ライターとして雑誌やウェブサイト向けに記事の執筆をしながら、大館市の商店街でママさんと小さなお子さんの居場所を運営しています。

島田真紀子さん

「MARUWWAニコメ」(通称、ニコメ)というこのスペースは大館市の大町商店街にある空き店舗でした。10年ほど前には、大館出身のクリエイターたちがアートの力で町おこしに取り組んだプロジェクト「ゼロダテ」の拠点だった場所です。その古い建物を赤ちゃん連れのママが利用しやすいようにリノベーション。入るとすぐに赤ちゃんがハイハイできるクッションフロアの広い部屋があり、木製の遊具が置いてあります。このニコメで島田さんにこれまでの活動についてお話を伺いました。

子育て支援活動の始まり

島田さんが大館市に引っ越してきたのは東日本大震災の直後、2011年の春でした。3人目のお子さんはまだ0歳。もともと、秋田市の出版社で働いていましたが、夫の異動で大館市に引っ越し、それを機にフリーランスへ転身。しかし、慣れない土地で小さい子どもを抱えて働くのはとても大変でした。秋田市で友達と一緒に小学校に入学するのを楽しみにしていた長男は、新しい環境ですぐには友達もできず寂しそう。島田さんは、0歳の三男を連れて子どもと行ける場所や他のママさんたちと交流できる場所を探したものの、当時はなかなか情報が手に入りませんでした。

数カ月がたち、子どもたちにとっても自分にとってもこのままではいけないと一念発起し、新たな挑戦を始めました。まずは子育て情報を調べ、それをウェブサイトで発信し始めました。当時、大館市には子育てママのための施設として特別なものはなかったのですが、あちこちでいろんな活動をしている人がいることが分かってきたので、それを一覧にした「おおだて子育てカレンダー」の発行も始めました。

サイト作りの過程で、さまざまな活動をしている人たちとの出会いがあり、2012年に「おおだてde子育て」という団体を立ち上げました。今は、ママが子どもたちと一緒に交流できる場所の運営やイベント開催、子育て情報の発信などの活動をしています。

島田さんは当初、その活動経費に補助金を充てていました。しかし、徐々に限界を感じ始めます。

最初はいろんな活動の資金を補助金に頼っていたのですが、補助金の目的に合うように活動を変えたりしているうちに、本当にやりたいことではないことをやらなければいけない場面も出てきて、これでは続かないと思うようになりました。

そこで島田さんは、本当にやりたい活動に専念するため、ライターの仕事で得た収入をおおだてde子育ての活動に充てるようになりました。

市役所との連携

島田さんが「子育てカレンダー」を作って、それを市役所に置いてもらおうと持って行ったところ、最初は民間の人が作ったものを市役所に置くことはできないと断られたそうです。しかし、定期的にイベントを開いたりしているうちに島田さんの活動が認知され、2014年ごろからはおおだてde子育てが主催するイベントに、市の子ども課や生涯学習課がコラボする機会が増えました。今では、「おおだて子育てカレンダー」の発行にあたって、情報収集と紙面制作をおおだてde子育てが担当し、印刷と配布(市の施設や保育園、こども園など)を子ども課がするなど、連携して活動できるようになりました。

また、2016年からは、大館市教育委員会の生涯学習課が運営している家庭教育支援チームのメンバーになり、年に数回、乳幼児がいる若いママさんたちをターゲットにして市とコラボイベントを実施しているそうです。

MARUWWAニコメへの移転

自宅で仕事をしていた島田さんが外に拠点を作るきっかけになったのは、大館市のデザイン会社、いしころ合同会社代表の石山拓真さんが2018年に立ち上げたシェアオフィス「MARUWWA」でした。島田さんはここの最初の入居者になりました。

仕事も増えてきて事務所がほしいと思っていたのですが、家賃や光熱費の額を考えると普通のオフィスの賃貸には踏み切れずにいました。そうした時にMARUWWAができてお手頃な賃料で借りられることが分かり、これなら大丈夫と思って入居することにしました。

同じ頃にフリーランスで活躍する女性の団体mamaplan(ママプラン)を立ち上げました。ライター、グラフィックデザイナー、Webクリエイターなどが集まり、4人で活動しています。

ひとりだと引き受けられない量の仕事も引き受けられるので、mamaplanを作ってから仕事の量も増え単価も上がりました。

島田さんがMARUWWAで仕事をしたり、そこでママさんたちとワークショップを開いたりしているのを見て、石山さんはママさんたちが働きながら子どもと一緒に気兼ねなく過ごせる場所が必要だと感じ、島田さんと一緒に「MARUWWAニコメ」の開設に動き出します。

大町商店街にあった空き店舗を少し改装して子どもが走り回っても安心なクッションフロアにし、ママたちが働けるスペースやキッチンも整備し2019年10月にオープンしました。

シャッターの閉まった店の多い商店街の中でのぼりや立て看板が目を引くニコメの入り口

ニコメという名前は2つ目のMARUWWAという意味です。ニコメの1階で「わわわde子育てカフェ」を運営し、育児サークルや助産師さんと連携したママさん向けのイベントを開催しています。

毎月開催している助産師さんのお話会「わわわdeLALALA」(写真提供:おおだてde子育て)

しかし、ニコメに移転してからは家賃や人件費などの固定費がそれまでとは全く違う規模で掛かるようになりました。家賃6万円、駐車場も2万2,000円。スタッフもいないと回らないので人件費も必要で、収入がなくてもお金が出ていきます。さらに開設から半年でコロナ禍が始まってイベントなどもできなくなりました。

活動を続けていくためには経営について学ぶ必要があると感じ、商工会議所や大館市商工課が主催する起業のための勉強会に参加しました。その結果、収支のバランスを整えることができ、数年かけて経営を安定させることができました。

商工会議所の勉強会に参加し、経営について学んだ経験が生きました。あのままではニコメの経営は早々に立ち行かなくなっていたと思います。

島田さんは、イベントなどでママさんたちと話す中で、もっと子どもが欲しいけれど家計が厳しくなると思って諦めている人がいることに気付き、ママたちがmamaplanの女性たちのようにフリーランスや個人事業主として自分の得意なことを仕事にして世帯収入をアップさせる支援もしたいと考えています。その取り組みの一つが「レンタルキッチン」です。ニコメのキッチンで飲食店営業許可、そうざい製造業許可、菓子製造業許可を取得し、店舗を持たずに活動している人へ時間貸しをしています。自分の店舗を持つ準備をしている人、複数のレンタルキッチンを活用して営業している人など、さまざまな働き方を応援する取り組みです。

商店街での活動

ニコメは大町商店街に位置しています。かつては大館市で一番にぎわっていた商店街ですが、今はシャッターの下りた店も少なくありません。ニコメの誕生によって子育てママが行き来する場所になったことで商店街の人からも「シルバーカーを押しているような世代しか歩いていなかった商店街に子育て世代の姿が増えた」と喜ばれているそうです。

「おおだてde子育て」は商店街活動にも参加しています。大館市役所の一角で市内の商店が毎週木曜日に開催している「お出かけ商店街」というイベントには、ニコメのキッチンをレンタルして地域の飲食店経営者がお菓子やおにぎりなどを作って販売しています。他にも、毎年5月に全国的に行われている地域住民の健康増進を目的とした「チャレンジデー」に、商店街ウォーキングのスタンプラリー店舗として参加したり、毎年秋に開催される商店街のスタンプラリーにも参加したりしています。

商店街は、人と人が触れ合える点が魅力だと思います。コンビニやチェーン店などとの違いは、商店街は人の魅力を感じ取れる場所だという部分だと思っています。

また、商店街の活性化についてこう語ります。

大町は、比較的若い世代も多く、商店街に残っているレトロ感というか昭和っぽい感じをうまく生かして、いくらでも活性化する方法があると思います。

若い人たちは、自分にはないアイデアを持っているなぁと思うことが、よくあります。起業して日が浅くても、私ができないことをやっている人もいて教わることが多いです。こういう人たちの考えを取り入れて変化に対応していくことで、商店街の活性化につながるかもしれません。大館市には高校生まちづくり会議「HACHI」という高校生に町おこしに関わってもらう仕組みもあります。そういう活動に関わっている高校生と企業がコラボして町のことを考えられたら面白いと思っています。

 

今後の目標

mamaplanは現在4人ですが、もっと大きなグループになって、ウェブ制作とか、動画制作とか、今は東京の企業に発注されているような大きな仕事を地方にいながら引き受けられるようにしていきたいと思っているそうです。

取材を終えて

島田さんは、見知らぬ土地に引っ越し、ライターとして働きながら、時に市役所の背中を押し、時に市役所と共に、ご自身が必要としていた子育て支援活動に取り組んできました。大館市に来たときに0歳だった末っ子も中学生になり、自身の子育ては次のステージに移りましたが、島田さんは引き続きママさんたちが大館で楽しく子育てをし、なりわいを身に付けて第2子、第3子を持てるようにきめ細かい活動を続け、それが大館市の昔ながらの商店街を活気づけていくでしょう。

MARUWWAニコメ
大館市字大町9
TEL:0186-59-6777