能代の自治会長は困っている人を放っておけない「お節介」? 能登祐子さん

自治会や町内会って何をしているの?近所付き合いに関心のない人が増える中、自治会が、かろうじて地域と住民をつないでくれているのを感じます。ただ、何をする組織かと問われるとぐっと詰まってしまいます。

しかし、この自治会の活動を通じてご近所さんの困りごとを解決しようとするうちに、市全体のモデルとなる除排雪や防災の組織を作り、行政に貢献しただけでなく、自治会の仲間と一緒に地域の商店街で朝市やマルシェをひらいたり、得意なことや好きなことを教え合ったり、ハンドクラフトの作品を展示したりできる場所を作って女性が生き生きと生活できる地域を実現している女性がいます!秋田県能代市上町の自治会長を務める能登祐子さん(65)です。

上町は、能代の市役所や郵便局、銀行、大きな会社の能代支店がある中心エリアですが、今は静かな住宅地という風情。能登さんはここで20年近く、さまざまな活動に取り組んできました。

近所のおばあちゃんの課題解決から始まった活動

上町の自治会では、20年前、地域の活性化のためにもっと女性の意見を聞くべきだという声が上がり、女性部「すみれ会」が設立されました。能登さんはPTAの役員などの経験を買われて会長に推されました。

能登さんは、長野県の出身で、学生時代に夫と知り合い、結婚と同時に夫のふるさとである能代に来ました。

すみれ会はご近所の女同士の気安さでテーブルを囲んでよくおしゃべりしていました。そんな中で身近な「困りごと」が浮かんできました。最初に取り組んだのは、自治会のおばあちゃんたちが長年守り続けてきた伝統行事「観音堂の札打ち」の世代交代でした。

その次は、ひとり暮らしのおばあちゃんから雪かきがしんどくなってきたという話を聞き、市長と市民の対話の会に一緒に出掛け、市長にその話をしました。たまたま市も「除排雪組織」の整備のためにモデル地区を募集していたので、さっそく手を挙げ、市と「協働のまちづくり」を始めました。援助が必要な世帯を決め、歩いて凍りやすいところを確認し、融雪剤を置く場所を決めました。能代市としては初めての「協働」と名の付く事業だったそうです。同じように災害時の自治会の安否確認や防災訓練を行う「自主防災組織」を作りました。

最初は不安ばかりでしたが、こうした実績を積むことによって女性にもできるんだという自信になりました。

その後、自治会長さんが亡くなった時、後任に能登さんが推されました。初めは気が進まなかったそうですが、もう一人会計担当に女性を入れるからと言われ、会長を引き受ける決心をしました。

自治会というのは、少数の男性役員が飲み会をしながら打ち合わせをし、総会に諮る程度の簡単なもので驚きました。それまで他の地域の女性たちから女性の提案は通らないことが多いと聞いていたので、女性のリーダーを増やすことで地域を変えていきたいと思い会長を引き受けました。

こうして上町の自治会長になった能登さん。今は、能代市全体の自治会連合協議会の会長さんでもあります。

私財を投じて「夢工房咲く・咲く」を創設

能登さんは、10年前に自宅の隣に赤い瓦に白い壁の小さな家を建てました。ドアを開けるとキッチンと椅子・テーブルが置かれカフェのようです。実際、ランチタイムには能登さんが忙しい合間をぬってご自身で地産地消のオリジナルメニュー、能代うどん×しょっつる=「アジアン能代うどん」やカレー、パスタを提供してくださっています。でも、それだけではありません。そのキッチンを飲食店をやってみたい人に貸し出したり、ハンドクラフトが好きな人が自分の作品を展示したり、英語教室や書道教室をやったりと地域の住民がさまざまな目的で集える場所になっているのです。秋田市のイタリアンレストラン、ぺコリーナのシェフが腕を振ってくれるディナーの会まであります。

人に教えたい、学びたい、交流したいといった地域住民の小さな楽しみや生きがいをつくる場所なのです。

この小さなコミュニティセンターのような夢工房は、能登さんが私財を投じて建てました。

10年前にこれからの人生をどう過ごすかを考えて、コミュニティを中心にしようと覚悟をしたんです。夫からは、「そんな場所を個人で作る必要があるの?それだけのお金があったら何回旅行に行ける?」と反対されましたが、わたしはこのコミュニティを選んだのです。

夢工房咲く・咲くの玄関には、能登さんいるかな?とのぞき込む知り合いが絶えない

「朝市」と「ときめ木マルシェ」

能登さんは、民・学・官の多様な団体が参加する広域的な地域づくり組織「のしろ白神ネットワーク」でも代表を務めています。この団体の活動を通じて能代市の郊外・常盤の農家のおかあさんたちのNPO法人(特定非営利活動法人)「常盤ときめき隊」と上町自治会の交流が生まれ、上町商店街の空き店舗で朝市を始めました。10年前からは場所を夢工房咲く・咲くに移し、春から秋にかけて毎週、朝市を運営しています。

しかし、10年の間に農村の活性化を目指すNPO法人として活発に活動していた常磐ときめき隊も高齢化でメンバーが減少しました。能登さんは、この危機を乗り切るため、ご自宅の一部に加工場を作り、常磐ときめき隊メンバーの佐々木茂子さんが中心となって郷土料理の伝承や農産物の6次産業化を目指す「ときめき工房・ねま~る」を開設しました。また、朝市を進化させ、ハンドクラフトを販売したい人など幅広い層の人を巻き込んだ「ときめ木マルシェ」を6年前から月に1回開催しています。この日ばかりは、普段は静かな上町の通りが多くの人でごった返します。

ときめ木マルシェ(2023年9月17日)

能代のおみやげになるビールを作りたい!

能登さんは2018年、お土産が少ない能代のために地元素材を生かしてお土産になるビールを作りたいと動き始めます。もともと長野に里帰りすると軽井沢の「よなよなエール」を買って来ていたビール好き。秋田でも地元の産品を使ってビールを作りたいと秋田県総合食品研究センターの専門家に相談に行きました。まずは小ロットで作れて輸送距離が短いほうがよいとアドバイスを受け、羽後町にある羽後麦酒に生産を委託することにしました。

4種類のクラフトビールはすべて能代や周辺地域の農作物を生かしたフレーバー

地元のきみまち阪公園の桜から生まれたビール用の「秋田美桜酵母」を使い、能代のハマナス、ハックルベリー、白神ネギ、男鹿や五城目のポーポーを使ったクラフトビール「彩(いろどり)いろは」を開発。能代市のふるさと納税の返礼品にも使われ、地元の食材を使っているので県外の人だけでなく地元の人も喜んで買ってくれるそうです。

何の経験もなくただ地元の資源を生かしてお土産を作りたいという思いだけで始めたので、いろいろ大変なこともありましたが、諦めなければ必ず出来るんです。

夢工房に入るとすぐに能代のイベントなどを紹介するパンフレットが壁に貼られ、能代の産品を使った商品がテーブルの上にぎっしりと並んでいます。

能登さんは、能代市内の50店舗ほどの商店主の集まりである「能代逸品会」にも参加しています。この会は各商店が魅力づくりのために品揃えを考え、それぞれにひとつの商品、ひとつのサービスを磨き上げて情報発信や、お店巡りなどのイベントを共同で開催して商店街を振興しようとする全国的な「一店逸品運動」の一つ。能代逸品会の会長は仏壇屋の千栄堂の阿部誠さん。阿部さんは駅前商店会の活性化を進める「のしろ家守舎」のメンバーでもあります。

能登さんは夢工房咲く・咲くに能代逸品会のメンバーの作品や商品を置いて応援しています。

一番大事なのは「人」

さまざまなプロジェクトに次から次へと取り組む能登さんに、その活動の原動力をお聞きしました。

私のテーマは、人。一番大事なことは人と関わることだと思っています。面倒と思わないこと。中学の時、生徒の名前を書いた紙を配って、受け取った生徒がその名前の生徒の個性を書くっていうのをやったんです。私の紙には「お節介」って書いてありました。(笑) 中学の時からお節介だったみたい。

昔から「自利利他(じりりた)」という言葉が好きだとおっしゃる能登さん。この言葉は、仏教の修行により得た功徳を自分が受け取るとともに、皆の利益も図ることを意味する仏教用語です。

商店街が生き残っていくためには

商店街の衰退が目立つ能代。数年前、大型スーパーが進出したことでさらに商店街を訪れる人は減るだろうと懸念されています。そのような状況の中、商店街活性化のために何が必要か、能登さんの意見を聞きました。

スーパーが出来れば、まあ、3年から5年は客が流れます。商店街はその間を耐えなければいけない。出来てしまった以上、スーパーと共存していかなければいけません。

まずは商店街に来てもらうことです。大変なことですが、諦めないこと、人を巻き込み、新たな流れを作ることです。

全国をみれば、ものすごく頑張っている商店街があります。補助金を利用して商店街とスーパー共通のポイントカードを作ったり、若いおかあさんのために子育て支援施設や子どもの居場所を作って買い物以外で商店街を訪れる人を増やす努力もしています。

能代の商店街でも、若い世代はスーパーでイベントを計画したりして共存しようとしています。

取材を終えて

「自利利他」という仏教の言葉が好きとおっしゃる能登さん。困っている人を放っておけない能登さんにぴったりの言葉です。そんな能登さんだから周りにはいつも人が集まって来るのです。

夢工房咲く・咲く
住所:秋田県能代市上町8-21
TEL:090-2279-4492