ピンチをチャンスに変えた八代目。佐藤養助商店のこれからと求める人材

創業160年以上の歴史と伝統がある佐藤養助商店。ここで作られているのは、日本を代表する喉ごし滑らかな「稲庭うどん」です。うどんは湯沢市稲庭町にある工場で作られ、全国各地の直営店舗や取引先へ届けられます。

明治期には、明治天皇奥州御巡幸の際の天覧を受け、宮内省(当時)からの御買上があった稲庭うどん。その後も大正天皇の御即位御大礼、昭和天皇の御即位御大礼の際に商品を献上し、数多くの賞を受賞しています。コロナ禍以前までは海外客からも人気で、関東にある店舗には多くの外国人が来店していました。

現在、佐藤養助商店の伝統を受け継いでいるのは、八代目の佐藤正明社長です。今回は佐藤養助商店の歴史やビジョン、求めている人材について取材しました。

逆境を乗り越えて

佐藤正明社長(写真左)と営業部の鈴木滉司さん(写真右)

― 佐藤養助商店の近況を教えてください。

佐藤社長:私が社長に就任してからは、県内外に直営店の数を増やすことに力を入れました。店舗内には佐藤養助商店のブランドを広めるために、限定品等を売店に並べ、アンテナショップとして機能するよう意識しています。

銀座佐藤養助の店内

佐藤社長:七代目はネットや店舗で販売できる、「稲庭うどんの商品作り」を主に展開していきました。しかし私が八代目になってからは、佐藤養助商店の稲庭うどんを広めるために直営店を増やして、着実にブランド化を進めています。

― コロナ禍で変化したことはありますか?

佐藤社長:直営店への客足が減ってしまいましたね。そこで、七代目が力を入れていた「稲庭うどんの商品作り」に着目して、新しい商品開発に力を入れてきました。

― その中で、新しく生まれたものはありますか?

佐藤社長:「稲庭干素麺(いなにわほしそうめん)」です。実は佐藤養助の歴史を紐解くと、140年ほど前に、素麺を作ったという記録があるんです。現在はそのブランドをアップデートして販売しています。

稲庭うどんさながらのコシと喉越し、小麦のうまみが感じられる逸品

佐藤社長:稲庭干素麺はうどんと同様に、昔から変わらない伝統の技を用いて作っています。お客様からの評判もよく、おかげさまで昨年の夏からお中元シーズンには完売するほど人気商品になりました。コロナ禍があったからこそ経営を見直すことができましたし、こうして人気商品を生み出すことができました。ピンチをチャンスに変えられたかなと思います。

佐藤養助商店が抱える課題

ピンチをチャンスに変え、伝統を守り抜く佐藤養助商店。本来の輝きを取り戻してきたように見えますが、課題もあるようです。

佐藤社長:新商品の開発や製造に力を入れたいのですが、生産性を向上させるには人手が足りません。今後の人手不足の解決策として考えているのは、オールラウンドで活躍できる人材を育成することです。事務所の作業もできて、うどんの製造もできる、オールラウンドプレイヤーを増やしていこうと考えています。

― 入社を希望する人に求めることは?

佐藤社長:とにかく元気なスタッフが多いです。それについていけるような、パワフルな製造担当(稲庭うどん職人)を募集しています。うどん作りといっても、当社の稲庭うどんはすべて手作業なので重労働です。若いパワーと吸収力のある方を採用したいですね。

生地を練る作業は気力と体力が必要。職人の技術力も伴う

― 製造担当にはどのように教育をしていますか?

佐藤社長:新しく入った製造担当には先輩をつけて、マンツーマンで指導しています。アドバイスや会話といったコミュニケーションの中で良好な人間関係の構築を行いつつ、必要なスキルを学んでもらいます。

稲庭うどん作りにおいて、一番大事なのはコミュニケーションです。コミュニケーションをとらないと”ただの作業”になってしまい、良い稲庭うどんができません。言われてから行動するのではなく、自ら考えて行動できる人材を求めています。

稲庭うどんを定着させたい!

営業部 主任 鈴木滉司さん(秋田県美郷町出身)

ここからは営業部の鈴木さんに、仕事現場の雰囲気や今後のビジョンを伺いました。

― 入社した理由を教えてください。

鈴木さん:食べることが好きなので、将来は食に関連する仕事に就きたいと思っていました。企業研究をしている際、佐藤社長が同じ高校の先輩という共通点を見つけたこともあって、高卒で入社を希望しました。入社した1年目は様々な部署を経験し、最終的に営業部に配属されました。

― 普段の会社の雰囲気は?

鈴木さん:入社当時から、元気で明るい職場でした。今はあの頃よりもパワフルになっていると思います。入社時はそれについていこうと必死で、振り落とされないように、しがみつきながら先輩方の背中を追う日々でしたね。

生地を両手でよりながら、2本の棒にあやがけしていく「手綯い(てない)」という作業。一朝一夕では身につかない職人技

うどんを手でさすりながら約120cm程に延ばす工程

乾燥したうどんは太さや細さなど、目で見極めて選別している

鈴木さん:この会社は目標に対して、社員が一丸となって達成する力があります。社長がよく「ワンチーム」と言葉にしますが、社員も文字通り結束力が強いです。自分の考えを発言しにくい会社ということではなく、目標を達成するために意見を言い合い、全員が同じ方向を見て取り組みます。

― 営業部ではどんな仕事をしていますか?

鈴木さん:受注の管理をメインに行っています。内容としては、お取引先様の受注や当社の物流センターへの指示などです。現在は小麦の値上がりに伴い、どうコストを削減するかを考えて提案しています。ほかにも新しい商品開発や限定品などの企画提案もしています。

鈴木さんがデスクワークをする様子

鈴木さん:「どこに商品を売り込むか」を考えたり、「この地域にはどんな商品が売れるのか」ということを考えるのが好きなので、やりがいをもって業務を行っています。

― 今後のビジョンを教えてください。

鈴木さん:稲庭うどんは、名のあるご当地うどんの中でも深い歴史を誇ります。ですが、まだまだ全国的に知られていないのが現実です。「秋田といえば稲庭うどん」と紐づけて覚えてもらえるよう、営業活動やブランディングを強化していきたいです。
うどんといえば、「讃岐うどん」とイメージされる方はまだまだ多いですよね。今後は発信力を高めて若い世代にもアプローチできたらと考えています。

伝統を守り抜くためには

― 八代目になり、心境の変化はありましたか?

佐藤社長:今までは「七代目のブランド」を売っているイメージでしたが、今は「自分(八代目)のブランド」をどう広めていこうかと必死です。ブランドに対する誇りや自覚が芽生え、佐藤養助商店のすべてが自分事のように感じています。
コロナ禍のように、社会の変化が起きたら柔軟に対応する必要がありますし、決断するスピードも大事になってきます。これまでとはまた違った責任が伴うので、常に気を引き締めないといけません。

― この先、どのようなビジョンを掲げていますか?

佐藤社長:「伝統を守り抜き、どう後継者を生み出すか」が、今後の課題です。これまでは自分が成長して結果を出していましたが、これからは次世代にどうバトンを渡していくか、が大きなテーマになってくると考えています。
変えて良い部分と変えられない部分、それをしっかり見極めて決断していく必要があります。10年先と言わず、目の前の1年を大切にして、これからもお客様に喜ばれる商品を提供し続けたいです。

【有限会社 佐藤養助商店】
《住所》 秋田県湯沢市稲庭町字稲庭229
《TEL》0183-43-2226
《HP》https://www.sato-yoske.co.jp/

取材・文:じゃんご:https://dochaku.com/

■佐藤養助商店のホームページ

■秋田県の企業・就職情報ウェブサイト KocchAke!