協和工業、モットーは「清潔板金」 社員教育に積極的

にかほ市で精密板金加工を手掛ける協和工業の取材に行ってきました。今年の企業取材はコロナ禍のため、ほとんどオンラインで行っていますが、同社の強い希望もあり、県の移動に関する規制も緩和されていた時期でしたので、能代市出身、仙台市在住のWE LOVE AKITAのメンバー、工藤直之さんと取材にお邪魔しました。

鳥海山の山頂には雲が掛かっていました。たぶん雪が降っている。

「清潔板金」

板金加工とは、ステンレスやアルミなど金属の板からさまざまな形を切り抜き、それを曲げたり、溶接して設計図どおりの形に加工することです。同社では、その中でも寸法などの精密さを要求される精密板金加工を得意としています。マシニングセンタNC旋盤を使った機械加工や、製品の組み立ても請け負っています。

協和工業の特徴は、「清潔板金」。金属の加工に伴う傷を極力少なくしたり、溶接の熱で生じる焦げ跡などを、薬品や鏡面研磨機で丁寧に除去することで、鏡のような美しさに仕上げます。出荷する際もまるでプレゼントのように製品の周りにしっかり梱包材を入れて大切に送り出します。

須藤茂樹社長は、「うちでしか加工できないというような技術は残念ながらありません。でも、品質・コスト・デリバリー(納期)の順守でお客様に喜んでいただいています」と謙虚な中に自信をにじませます。

須藤社長

協和工業は、従来、産業機械大手電機メーカーのパソコンの筐体(外側の金属の箱)などの板金加工が大半でした。しかし、こうした業界は好不況の波が激しいため安定した取引先を探していたところ、商談会で眼科の検査装置のメーカーと出会いました。それがきっかけとなり、しだいに医療関係の取引が増え、今では売り上げの35%を医療・介護系が占めています。

ここ1、2年はコロナ禍の影響もあって半導体が不足しているため、半導体の製造装置など産業機械の需要が高まっています。医療機器と産業機器の製造の比率は今後も維持していく方針です。

一方、SDGs(持続可能な開発目標)やカーボンニュートラルといった世界的な潮流に乗って、再生可能エネルギーなど新分野にも目を向けて営業を展開しようと考えています。

営業職の強化に意欲

同社は現在、営業職を募集しています。顧客の新規開拓もありますが、それより既存の得意先の深掘りが必要と考えています。顧客企業が発注する板金加工製品のうち、同社が何パーセントのシェアを取れているかを調査したところ、最大でも50%程度にとどまっていることが分かったからです。

営業としてどんな人材を求めているかをお聞きしたところ、須藤社長は、「営業というと会社のことだけ話していればいいように思われるかもしれませんが、お客様とよい人間関係を構築し、困っていることを聞き出し、それを提案に結び付けていけるような対話型の営業職が好きですね」と話されました。

評価が高い独自の生産管理システム

キラリと光る取り組み賞を受賞した生産管理のシステム

協和工業は2018年に、生産性向上と雇用管理改善(魅力ある職場づくり)の両立に取り組んでいる企業へ贈られる「働きやすく生産性の高い企業・職場表彰」の「キラリと光る取り組み賞」を受賞しています。この活動の中で、須藤社長が特に力を入れたのが、独自の生産管理システムの構築だそうです。納期順守と働きやすさを一段と向上させるため、長年、山形県のシステム開発会社と一緒にバージョンアップを続けています

 

製品は多品種少量生産が多く、4割は試作品や一品ものなので既存の生産管理システムでは対応できませんでした。そのため、工程と工程の間で空き時間が発生するなど効率の悪さにくわえて、納期順守のために、長時間の残業が必要なことが多く、小さな子どものいる従業員が辞めてしまったこともあったのだそうです。

早坂幸一工場長

そこで、20年ぐらい前から、独自の生産管理システムの構築をスタートしました。このシステムで社内をネットワーク化することにより、図面や顧客の要望、納期、製造指示などが従業員の間で共有できるようになりました。運用を続けた結果、だんだんと生産性が向上し、残業時間を3分の1にまで減らすことができたそうです。現在の残業時間は、月平均8時間程度です。また、納期にも柔軟に対応できるようになり、顧客満足度調査では、納期順守において非常に高い評価をいただいていることが分かりました。

生産管理システムの改善は、一人ひとり着工・完了などのデータを入力しなければならないので、最初は現場に反発もありました。しかし、成果が見えるようになってくると従業員の意識も変わり、積極的に運用してくれるようになりました。(早坂工場長)

女性比率が35%

そのおかげもあるのでしょうか、同社の女性比率は35%と製造業としてはかなり高い。女性はもともと検査や出荷部門で活躍していましたが、同社は軽い製品が多いので最近は製造現場にも増えているとのことでした。

生産管理システムによって残業を減らすことに加え、産前産後休暇・育児休業はもちろん、育児時間看護休業の制度なども整備することで、子育てしながらでも気兼ねなく働けるよう配慮しています。育児休業については、女性だけでなく男性も取得した実績があります。

工藤直之(左)

ユースエールとともに地域未来牽引企業にも選ばれています

また、厚生労働省のユースエールの認定を受け、若者の採用・育成に積極的で、働きやすい環境を整えています。

作業の属人性を排し標準化を推進

製造現場では、15年前にISO9001の認証を取得。溶接など各工程の作業標準を充実させ、「この人でなければできない」というものをできるだけ減らしたそうです。機械を使える人が少ないと、できる人が退職した時に困ったり、機械が空いている時間が増えがちなので属人化しないように配慮しています。

新入社員は、入社して半年ぐらいは、配属になった部署でオペレーターとして機械の操作などを学びます。作業のプログラムを機械に入力すれば、そのまま全自動で加工できるわけではなく、どの加工をどの順番で行うかという判断が必要になります。こうした作業を通して、加工者としてのスキルも習得していきます。

「メカは苦手そうだ」「パソコンは得意そうだ」などの得手不得手は1カ月ぐらいで分かるものの、簡単に育成を諦め別な業務をやらせることはあまりないそうです。なかなか上手くできない人がいても、教育係が「もう少しやらせてみましょう」と指導を続けると上手くなることが多いからです。

内部教育と外部研修

入社時の10日ほどの社外での基礎教育の後、加工技術は現場で身に付けていきますが、由利本荘市や秋田市で行われている「QC7つ道具」などの外部講習にも積極的に参加させています。QC7つ道具とは、データの分析によって現場の問題点などを見える化するために欠かせない手法ですが、行ってみたら協和工業の人しか来ておらずマンツーマンのような形で受講でき、非常によかったというようなこともあったとか。コロナ禍で行けなくなってしまった関東でのCAD(コンピューター支援設計)の講習などは、オンラインで行われるようになり、結構、うまくいっているそうです。

リーダー研修は、職階に合わせて行っており、以前はリーダークラスになってから行かせていましたが、最近は、3、4年生にも行かせるようになりました。

リーダーひとりだけが声高に叫んでも伝わりません。リーダーが言っていることを理解するには部下の人たちも研修に行かせなければなりません。それによって責任感が育まれてきた気がします。(須藤社長)

社長と工場長は、会社が何を求めているかを自分で考え自分から動く人を育てたいと、長年、技術の資格取得のための勉強会を続けてきました。最近、ようやくその努力が実り、若い人たちの間で技術に対する意識が変わってきたように感じているそうです。

最近は自分たちで率先して勉強し残業時間に実技の練習をしたりして毎年2、3人が合格するようになりました。今では6割ぐらいの人が何らかの資格を持っています。

会社に誇りを持つ総務の柴田真喜さん

柴田さん

若手の代表として、このインタビューのためにいろいろ調整をしてくださった総務部の柴田真喜さんにお話をお聞きしました。柴田さんは入社3年目。横手市の出身です。

横手市の会社に勤めていましたが、転職エージェントから協和工業を紹介され、高校で学んだパソコンなどの技能を生かせると思い一度も来たことのなかったにかほ市への就職を決めました。

『あなたの会社何やっているの?』と聞かれた時、『別にふつうの会社だよ』、というのではなく、『うちの会社、傷のない板金製品を作っているんだよ』と胸を張って言える強みがある会社がいいと思いました

横手市外に出てみたいという気持ちはあったのですが、何かあったときには実家に駆けつけられ、あるいは駆けつけてもらえる距離感がよいと思ったそうです。

また、ものづくりが好きで、DIYをやっているので、自分が理解できるものづくりの分野で働きたいと考えていたそうです。

入社してみて、優しくおおらかな人が多いと感じているそうです。80人ほどの会社なので、柴田さんは現場の一人ひとりに書類を渡すのですが、気楽に冗談を言い合える和気あいあいとした雰囲気だそうです。それはインタビュー後の工場見学のときによく分かりました。

柴田さんの1日は、午前8時から始まります。同社の場合、総務部は人事・労務・経理・広報も含んでいるので、その時々によって忙しい業務が違います。通年でやっているのは請求書の処理や出納帳ソフトの入力、清掃やお弁当の注文、食堂の準備などの仕事。終業は午後5時。残業はほとんどないそうです。

仕事はいろいろありますが、一つひとつ培ってきたスキルが生きることばかりなので、もっと仕事を覚えて上司のように手際よくこなせるようになりたいです。

将来の夢をうかがうと「ふだんはにこやかでも、何かあった時には鶴の一声で納められるような人になりたいです」と語りました。それから少しためらって、「私は、お局(つぼね)さんみたいになるような気がするんですよ・・・」。

柴田さんが作ったキッチンのネットパネル。キッチンカウンターも既製品を改造し表面に水に強いタイル風シールを貼った

自分でお局さんになりそうという人に初めて会いました。笑 でも、そう心配している人は、お局さんにならないように気を付けるから大丈夫でしょう。

趣味はDIY。最近、引っ越しをし、キッチン・カウンターにシートを張ったり、棚の扉をはずしてカフェカーテンを付けたりして使いやすくしました。

作ることが好きなせいでしょうか、柴田さんが自社の製品に誇りを持っているのを言葉の端々に感じました。

今は、猫を飼いたくて、あれこれ夢見ているそうです。

工場見学

インタビュー後には、工場見学もさせていただきました。引き続き柴田さんの案内で、受注から順を追って製品ができるまでを巡りました。途中の各係ではそれぞれの係長から技術的な補足説明もお聞きしました。11月下旬でしたから外は寒かったですが、中は適温に空調されていました。

受注から出荷までの流れ

全て掲載したいのですが、盛りだくさんすぎるため、特に気になった部分をピックアップしてご紹介します。

営業が受注すると、完成品のイメージが生産管理係に送られます。生産管理係は納期や外注するめっきなどの加工が必要かとか材料があるかとかを確認します。

その次は生産技術係で、製品イメージから展開図を作り、加工するNC機械にデータを送りプログラミングします。

製造1係では材料(金属板)の切り抜きや穴を開ける作業を行います。

レーザー・パンチ複合加工機 タッチパネルで指示をすると、ガラスの向こうで加工が行われます

切り抜きにはレーザーを使うものと金型を使うものがあるそうです。

タレットパンチプレス(金型で金属板を打ち抜く機械)

バリ(金属の細かいギザギザ)は、バリトリ機や手作業で丁寧に除去するので安全です

製造2係では、材料を曲げる工程を行います。協和工業の製造する製品は比較的軽いものが多いのですが、中にはこんな重そうなものもあります。赤い板の下に黒いものが並んでいますが、ここに金型を入れて、上下に分かれた金型の間に金属をはさんでぎゅっと押さえると分厚い金属がものの見事に曲がります。

曲げ工程やプレス工程を担当する製造2係の三船係長。2係は図面を確実に把握しダイヤルゲージを使いこなせるスペシャリストの集団だと語っていました。

三船係長

製造3係では、溶接や表面の焼けた部分の除去、機械加工、組み立ての作業を行います。機械加工では、角柱や円柱に穴を開けたりする加工をするので、切りぬきや穴あけをする1係とどう違うのか不思議でしたが、1係の素材は金属板であるのに対し、3係の素材は金属の塊で、2係に行かずそのまま組み立てられることが多いそうです。

CNC旋盤 金属を削ったり穴を開けるのが得意な機械です

金属同士を”点”で溶接するスポット溶接の作業

Tig溶接(タングステン、イナート・ガスを使った溶接)高性能で高品質かつキレイな仕上がりになります

溶接したときに付く焼け焦げを化学薬品で除去します

丁寧に包装します

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製造業にはコミュニケーションが苦手な人が多いという印象を持っていましたが、協和工業を訪問し社内を回ってみて「なごやか」という言葉が浮かび、同社が力を入れている生産管理システムによってきめ細かい情報共有がされていることがそうした雰囲気と関係があるのではないかと思いました。コミュニケーションを重要視しているからこのシステムができたのか、システムがあるからコミュニケーションがよくなったのか・・・。リーダーの言っていることを理解するためには若手にも研修を受けさせる必要があるとして積極的に研修に行かせていることも影響しているかもしれないとも思いました。

同社は、プロバスケットボールの秋田ノーザンハピネッツとプロサッカーのブラウブリッツ秋田をどちらも応援しています。どちらかを応援している企業は多いですが、両方という会社はあまりないと思います。須藤社長によると、両社とも社長は県外出身なのに、すごく秋田のために頑張っているので、秋田県人としては応援しないわけにいかないと思っているそうです。確かに・・・その恩恵で、総務部にはチケットがたくさんあるので、両チームのファンの人は、ちょっと総務部に寄ってみるといいことがあるかもしれません。

■協和工業のホームページ

■秋田県の企業・就職情報ウェブサイト KocchAke!

取材:工藤直之、竹内カンナ

分:竹内カンナ