サノ・ホールディングス、健康で快適な社会と社員の幸福を実現する老舗

秋田県内を基盤として、”健康”をテーマに事業展開しているサノ・ホールディングス。今回は、その傘下で秋田県内を中心に55店舗を展開する薬局チェーン、サノ・ファーマシーの佐野元彦社長と、医療機関・研究機関やものづくり企業向け薬品卸売業を手掛けるサノの佐野宗孝社長、それから両社の若手社員2人にオンラインでインタビューさせていただきました。両氏ともに佐野さんなので、元彦社長宗孝社長と呼ばせていただきます。

サノ・ファーマシーの主力店舗ブランドである「佐野薬局」は、秋田県人なら知らない人はいない薬局名。しかし、同社が県内だけでなく岩手県と宮城県にも「銀河薬局」のブランドで店を出していることや東京や神奈川などにも薬局を展開していることはご存知ない方も多いのではないでしょうか?

サノ・ファーマシー、店舗展開のナゾ

この東北3県と首都圏という店舗展開を不思議に思い、元彦社長に質問したところ、なるほどー、と思う2つの理由がありました。

 

秋田県は人口減少が激しく、現在93万人の人口が2040年には62万人になるという予想です。秋田だけでビジネスを考えていたのではシュリンクしてしまう。ならば県外に展開していかざるをえないと考えました。一方、秋田には薬学部がないので薬剤師になって世のために尽くしたいという高校生は、岩手や宮城、あるいは首都圏の大学に進学します。その卒業生で秋田にストレートに帰ってくるのは25~30%ぐらい。それ以外の方はその地域の病院や薬局に勤めたり製薬会社に就職します。そこで進学した先に薬局を作ってそのエリアの秋田出身の薬学部卒業生の受け皿になり、しばらくそこで働き、30~40歳代になって親のために秋田に戻りたいといった時に、社風になじんでいてそれまでのキャリアも活かせる県内の佐野薬局で仕事を続けてもらえると考えたのです。

単に事業拡大のためだけでなく、薬学部がないため薬剤師が不足しがちな秋田県に薬剤師を呼び込む戦略です。

220年の歴史

サノ・ファーマシーの歴史は江戸時代の寛政年間(1800年ごろ)に遡ります。1886年の俵屋火事で古文書が焼けてしまったので正確なことは分からないそうですが、漢方薬の原料の薬草や熊の胆を仕入れて薬師(くすし)に売るBtoB(卸売り)と、一般的な調合をした龍角散のような薬を薬師からレシピをもらって調合して販売するBtoC(小売り)の仕事を両方やっていたらしいとのことでした。

経営理念は、「人々の健康で快適な生活に貢献することを通じて全従業員の物心両面の幸福を追求する」。

健康な人が増えると薬局としては儲かりませんが、薬で病気を治すのは最終手段。その前に生活習慣を整えて健康的な生活を送れるように地域の健康ステーションとなることを目指し、そのために薬局に管理栄養士も配置しているそうです。

薬を売ればいいということではなく、なかなか手に入らない商品を佐野薬局なら入手してくれるんじゃないかと思ってもらえることや、健康のことで分からないことがあったら佐野薬局に聞けば何とかなると頼りにしてもらえることを大切にしています。過去の積み重ねで信頼を得られており、これはずっと続けていきたいと思っています

ノーザンハピネッツ

元彦社長は、社長就任から30年以上になります。社業以外にも秋田市の企業を支援す秋田商工会議所の副会頭を務めるほか、プロバスケットボールチーム、ノーザンハピネッツの会長も務めており秋田経済界の重鎮です。

ノーザンハピネッツの誕生については、一大学生の夢を秋田の先輩経営者らが応援した、といういろいろな意味で感動的な話があります。

国際教養大学の第1期生だった水野勇気さんが4年次の時、訪ねて来たんです。彼はスポーツビジネスをやりたいと思っていて、その勉強を海外の大学でするために国際教養大学に入りました。同大学では英語を集中的に勉強してTOEFLで一定の点数以上を取れば提携大学に交換留学生として留学できるんですね。当時の学費は年間53万8000円でした。彼はオーストラリアに留学してスポーツビジネスを学んできました。入学試験で秋田に来た時は、寂しい街だという印象を受けたそうですが、学生生活を送るうちに世話になった秋田の人たちを元気にしたい、と目を付けたのがプロバスケットボールでした

秋田出身じゃない人(彼は東京出身)が秋田のためにやろうとしていることを無視することはできない。”義を見てせざるは勇なきなり”だと思いました。それに、彼は私のところに来た時にきちんとした市場分析5年間の収支計画書を持ってきました。既に実績のあるプロバスケットボールのチームの経営数値を基にして通常のパターンだとこのぐらい、下振れした時はこのぐらい、上振れした時はこうなりますという説明を聞いて、実現の可能性がめちゃめちゃ高いなと思いました。それで支援することを決め、彼からスポンサーを集めたり出資を集めたりするのに佐野さん後ろ盾になっていただけませんかと頼まれ、会長を引き受けました

水野さんの情熱は、掛け値なしにすばらしいですが、元彦社長の貢献なくしては今のノーザンハピネッツはなかったと思います。

ノーザンハピネッツは、最初の2期こそ赤字でしたが、試合の興行ができるようになってからは11期連続で黒字という優良企業に育ちました。

元彦社長は資金集めに奔走し、多くの人に借りをいっぱい作ったと笑いながらも、「いろんな人に喜んでもらっています、ほんとに秋田を元気にしていると思います」と嬉しそうに語りました。

一方、商工会議所では今、事業承継に力を入れているそうです。秋田は全国でも経営者の高齢化が進んでいる県で、後継者のいない企業で第三者への承継を希望する企業の登録数は二百数十社もある一方、事業意欲・経営意欲のある個人が約200人。承継を希望する企業も百数十社ありますが、1年に決まるのは4~5件だけ。最近は医師会も開業医の後継者探しを始めたそうです。県内の勤務医だけでなく県外にも呼び掛けています。元彦社長の幅広い活動は秋田にとって重要なことばかりだと思いました。

サノ、売り上げの4割は検査薬、4割は工業用薬品

 

続いて薬品卸売会社サノの佐野宗孝社長にお話をうかがいました。宗孝社長は元彦社長のおいで、3年前に社長に就任したばかりの31歳。サノ・ファーマシーとはホールディングカンパニーの下にぶらさがった兄弟会社。川の流れでいうと小売業のファーマシーが下流、サノは中流です。

売り上げの4割が、最近のコロナ禍で注目された検査キットなどの臨床検査薬、健康診断で血液の状態を調べる装置やその中に流す薬品といった病院向けの商品です。それから、ものづくりに使われている工業用の薬品(例えば半導体の回路なども今は薬品を使い化学変化によって作られています)や秋田市の保健所、研究所、大学など向けの試薬などで4割です。残り2割を福祉や自社開発商品などが占めています。

卸売業というのは消費者に見えないだけになかなか役割が分かりづらいですが、多くの種類の薬品を購入しなければいけない病院や大学などが、一つひとつ必要なものをメーカーから取り寄せるのが大変そうだと気付けば、その必要性が分かりやすいかもしれません。

コロナウイルスの感染が拡大する中、検査キットを届けるためにメーカーに緊急対応をお願いしたり、クラスター発生病院への供給を重視して、他病院への供給量や時期を交渉したりと、緊迫した事態を経験しました。それを受けて、社員が皆、卸売業も社会インフラの一部だということを身にしみて感じました。

サノの誰かがコロナに感染するなどして機能不全になったら病院に検査キットが行きわたらなくなると思い、重責を感じていたそうです。

卸売業は人口減の影響をもろに被る

しかし、卸売業の重要性を実感した一方で、同社は県外や海外のメーカーから秋田県内の病院や企業に薬品を供給するビジネスモデルのため、人口減少の影響をもろに受けます。そこで、川上、つまり自社製品の開発製造に向かうことを考えました。

数年前にも秋田名産のジュンサイのサプリメントを作りましたが、今も新たなジュンサイのサプリ杉の葉を使った消毒用エタノールを開発しています。ジュンサイも杉も、捨てられる部分を利用します。

杉の葉の成分を使った消毒アルコールは、県醸造試験場の特許を使ったもので、エタノール濃度が低くてもウイルスを死滅させる効果が高いそうです。

秋田の名産品の棄てられる部分を利活用し、農家や林業従事者へ恩恵をもたらす上、持続可能な開発目標(SDGs)にも合致する商品です。

フレイル予防 高齢者問題に取り組む

宗孝社長も、秋田の課題解決に向けた活動に一役買っています。例えば、高齢者のフレイル予防に役立つモノやサービスのアイデアを競う県のビジネスコンテストの事務局を担っています。

フレイルとは介護が必要になる前の状態で、その状態ならば運動などの適切な予防によって介護が必要な状態になるのを防げるとして最近、注目が集まっています。このビジコンには県内外から149件もの応募があったそうです。それをいかに秋田県内の企業のビジネスにつなげていくかを考えながら審査をしているそうです。高齢化では最先端の秋田県は、高齢化による新たなビジネスのシーズ(種)を見付けやすいはず。こうした取り組みを積極的に進めて先進的なビジネスを生み出していっていただきたい。

鈴木さん、やる気があればやらせてもらえる雰囲気が魅力

サノ・ファーマシーで薬剤師として働く鈴木愛理さんに、職場としてのサノ・ファーマシーについてうかがいました。鈴木さんは入社4年目。秋田市出身で、東京の薬科大学を卒業して新卒で入社しました。

関東圏で働こうと思っていたのですが、秋田の薬局での働き方を知った上で決めようと思い、帰省したときにサノ・ファーマシーの門を叩きました。そこで同社で働く薬剤師の方々が得意分野を生かしながら活き活きと働いているのを知って、やる気があれば大手の会社より若いうちからいろんなことをやらせてもらえるという感触を得ました。

薬学部の学生は5年生の時に薬局と病院に2カ月半ずつ実務実習に行きます。私の大学ではその上、治験の施設にも2カ月半行きましたのでほぼ1年、社会人の疑似体験をしましたが、その時に周りの人との人間関係に労力を使わなければならない環境では自分のやりたいことに集中できないと感じました。その点、サノ・ファーマシーの雰囲気はとてもいいと思いました。

店舗によって異なりますが、鈴木さんの働く店舗の営業時間は午前9時から午後7時まで。シフトで午前8時45分からの日と午前10時15分からの日があり、実質8時間勤務。年中無休なので休みは基本的に申請して取る仕組みです。

女性が多い職場で、鈴木さんの店でも産休・育休を取っている人が常に何人かいる状態です。また時短で働いている人もいますし、急に保育園に呼ばれたりしてもバックアップ体制が取られているので、安心して子育てができると思っているそうです。

将来の夢についてお聞きすると、まだ具体的に何をやりたいというのは見えていないとおっしゃる一方、医師不足がいわれる中で最期をどこで迎えるかの選択肢として在宅医療に注目しており、それを薬剤師としてサポートしていきたいと語りました。

また佐野薬局では、若いうちから手を上げれば、リスク管理や在宅医療についての方針など会社の幹部が決めるような話し合いに参加させてもらえる仕組みがあり、こういう経験は大手では得られないと感じているそうです。

矢口さん、サノの営業担当はいつも新鮮な気持ちで働ける

 

サノの営業担当の矢口亜澄美さんにもお話をうかがいました。矢口さんは、山形県出身で秋田大学に進学、入社6年目だそうです。専攻は生命科学で赤血球の研究をしていたとか。就活で悩んでいたときに、研究室に出入りしていたサノの社員に話を聞き、まさに自分が実験に使っているようなものを販売していることを知り、自分の経験や知識が生きる仕事だと思ったそうです。サノは定期採用をしていなかったのですが、思い切って聞いてみたところ、タイミングよくちょうどもう1人いてもいいなと思っていたところだったといわれ採用されました。

これ大事なことだと思います。興味がある仕事があったら、求人していなくても聞いてみましょう!ダメもとです。

営業の仕事は、日々新しいことがあり、いつも新鮮な気持ちで仕事ができるので、やり甲斐を感じています。

営業といっても商談を決めるだけではなく、メーカーに発注したり、請求書を書いたり納品をしたりといろんな仕事があり、どうせならいろんなことができるようになりたいので、それもありがたいと思っていると語っていました。

典型的な1日は、午前9時に出勤し午前中は会社にいて書類を整えたり問い合わせに答えたりとデスクワークをし、昼ぐらいに外出することが多いとのこと。

一応、ランチタイムは正午から午後1時と決まっていますが、顧客先の昼休憩が終わるころに到着するように移動し、午後3時ごろに昼食をとるというようなこともあり、自由な雰囲気です

周囲の社員は父親・母親世代だそうですが、あれこれと人生の話を聞かせてもらったりする一方、パソコンの使い方では頼られたりすることが嬉しいと話していました。

将来の夢をお聞きしたら、そばにいる宗孝社長に臆することもなく「社長ですかね」と言ってにっと笑いました。宗孝社長に、「どうですか?」とお聞きしたら、後でちょっと話しますと返しつつ、矢口さんは社長の1つ年下で、同年代として何か意見を求めると歯に衣着せずにズバっと意見を言ってくれるのでとてもありがたい存在だと話していました。

矢口さん、他の会社のことを知らないがサノは風通しがいいと思うと言っておられましたが、これぞ究極の風通しのよさではないでしょうか?

最後に元彦社長と宗孝社長に、就活中の方たちへのメッセージをお願いしました。

元彦社長:

今の時代は、社会も私たちの仕事の現場も素材やAI(人工知能)、ソサイエティ5.0、ロボットなどと大きく枠組みが変わっていっていますから、若い人たちの力で新しい社会を切り開いていってほしいと思います。薬学部が6年制になって十数年たちますが、6年制になってからの学生は志を持って世の中に出て来るようになったと思います。この人たちがあと5、6年で会社の中心になるので、是非、上の世代を突き上げて火をつけて新しいサノ・ファーマシーを作ってもらいたいと強く思います。

宗孝社長:

東京の大学を卒業し、名古屋や大阪などの大都市圏で働き、28歳の時に秋田に帰ってきました。秋田県内でBtoBで病院やものづくりの会社などの話を聞いていると、ほんとにいい会社がいっぱいあるなと感じました。一方で、中高の同級生でそろそろ秋田に帰って来ようかなという人たちから一足先に帰って秋田ってどうよと聞かれる時があるのですが、働く場所は県庁、市役所、銀行ぐらいしかないと思っているんです。もっといい会社がいっぱいあることを知ってもらいたいと思いますし、うちも私が社長をやっているうちに人材の受け皿になれる会社にしていきたいと思っています。秋田のような高齢化社会はそのうち全国、全世界に広がっていきますから、こうした社会課題を解決するためのビジネスモデルが秋田から全国や世界に広がっていくと思います。そういう最先端のビジネスが生まれる場所で働いてみたい人は是非、当社に来ていただけたらと思います。

取材:有馬徹、竹内カンナ

文:竹内カンナ

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