See Visions、仲間を楽しませることをしていたら街が元気になった

See Visionsは、飲食店運営のスパイラル・エーとともに秋田市で若者たちが集まる亀の町エリアでリノベーションを手掛けたことで有名なデザイン会社です。最近は、活動のエリアもジャンルもどんどん広がっています。

両社を率いるのは東海林諭宣(しょうじ あきひろ)さん。彼の周辺には秋田市のクリエイティブな人たちが集まっています。

東海林さん

See Visionsは、秋田市の中心街からちょっぴりはずれた、といっても秋田駅から2キロメートル圏内の南通亀の町で店舗やビルのリノベーションを手掛け、閉店した居酒屋や空き室の多いビルを次々と若者が集まる場所に生まれ変わらせました

ウェブデザイン、グラフィックデザイン、店舗デザインを主として、企業や商品のブランディングをすることをコアビジネスとしていますが、県内の注文住宅建築事業者と施主を結ぶ「JUU」、また秋田市のフリーペーパー「OTTO」の企画・編集・デザインも・・・。どれも、「え?これ、誰がやったの?」と気になってしまうものばかり。

KAMENOCHO

3年ぐらい前、帰省して川反で食事をしていた時、秋田市にとてもおしゃれな場所ができた、是非見せたいといわれ、あとで思えば歩いてもすぐの距離だったのですが、タクシーでこの一角を訪れました。真っ暗な道を少し歩き、ちょっと迷いながら細い暗い路地をのぞき込むと小さな亀が描かれた看板。案内してくれた人がなんとなく得意そうな笑みを浮かべながら開けてくれたドアを入ると暗めの照明の中で、まるで異次元の世界に迷い込んだかと思うぐらいたくさんの若い人たちが楽し気に談笑していました。

それが東海林さんが初めて自社のプロジェクトとして手掛けた酒場カメバルでした。

酒場カメバル   ©鈴木竜典(R-room)

東海林さんは美郷町出身。東京で学生生活を送り、そのまま店舗デザイナーとして就職しましたが、秋田の仕事も手掛けているうちに、だんだん秋田の仕事が増え、2004年に秋田市に帰り、2006年に株式会社See Visionsを設立しました。

それ以降、クライアントの依頼を受け店舗デザインを多く手掛けていきました。その経験を生かして、自ら資金を出し、酒場カメバルを運営することを決めました。

酒場カメバルの店内  ©鈴木竜典(R-room)

亀の町にあった空き店舗が気に入り、なかなか興味を示してくれるクライアントがいなかったので、自社でやってみることにしたのだそうです。お金もなかったので自分たちのデザインやアイデアで費用を抑えるよう工夫して進めました。その結果、店のスタッフや客同士で自然に会話がはずむような空間になりました。

夜になっても暗い通りだった亀の町近辺にこのお店ができたことで20〜40歳代の若い人たちが集まり始めました。さまざまなメディアでも紹介されて、さまざまな年齢層の人々が気軽に訪れるようになりました。

旅行が好きで、いろんな場所に行くけど、僕が行くのはどこに行っても観光スポットじゃなく地元の人が集まっていたり開店待ちの人が外にはみ出していたりしているようなところで。さらにそこで出会う人たちと話をするのも好きだし、教えてもらったお店や情報をもとに街を散策するのも楽しかった街を彩るのも飲食店のファサード(正面のデザイン)の役割で、そういう意味で飲食店ってすごく大切なものだと思っています。

カメバルに続いて、その向かいにワインと魚介料理の「サカナ・カメバール」、さらにすぐそばにあったヤマキウビルをリノベーションして、1階にはコーヒースタンドとデリの「亀の町ストア」とクラフトビールのテナント、2階に貸しオフィス、3階にはSee Visionsが入居しました。

ヤマキウ南倉庫  ©五十嵐 爾

2019年には、「ヤマキウ南倉庫」をオープン。空き倉庫を「多様なモノ、コト、人が自由に集い、憩い、遊び、出会い、『新しい未来』を描け、そこで生まれたつながりがさらなるつながりを生み、街をもっとおもしろくする」クリエイティブな「創庫」に生まれ変わらせました。広いホールがあるヤマキウ南倉庫ではさまざまな人が集い、イベントを多数開催。来る人を飽きさせません。

秋田の街の活性化にすごく貢献してくださっていますねと言うと、「あまりそんな風にはみてなくて、自分たちの仲間にどうやったら楽しんでもらえるのかなということだけ考えていました。ですから小規模店舗しかないし、亀の町のエリアぐらいがちょうどいいんです」と笑っていました。

亀の町から広がる課題解決のデザイン

課題解決はデザイナーの大好物という東海林さん。同社が発行する「JUU」も課題から生まれました。副社長の赤穂祥之さんが家を建てる時、秋田県内にある建築事業者を知る機会がないと感じた経験から県内事業者を紹介する冊子を作ることで事業者さんと施主さんを繋ぐハブになれるのではないかと思い、企画・出版に至りました。

デザイン会社の仕事というのは、そもそも課題を解決することだと思うんです。クライアントさんは自分たちの商品を売りたいという課題があって、デザイナーは、そういう課題が大好物で、それを解決するにはどうすればいいかと考える習性が、もともと備わっている人が多いんです

東海林さんの活動範囲はどんどん広がっています。今、力を入れているのは、See Visionsやスパイラル・エーのスタッフが持っているスキルを事業化すること。

JUUも、課題を感じていた頃に、一緒にやろうと入ってきた仲間が編集スキルを持つ人だったので、その人と秋田の課題を合体させて事業となったのだそうです。

他にも、何かやりたい人を支えていこうという考えの一環で、店舗スペースと機材を揃え、「亀の町 UP TO YOU 」という、飲食店をやってみたい人が週に1回、昼か夜に店を出すというシェアレストランの仕組みもサポートしています。

また、五城目町でドチャベンを運営する丑田俊輔さんハバタク株式会社社長)を中心に、株式会社Local Power寺田耕也社長らと、起業したい人たちのサポートなどもしています。

やりたいという気持ちが先行してしまっている若者には、続けることが重要で、そのためには利益を出さないといけないとアドバイスしているそうです。

東海林さんは美郷町の農家の21代目の長男なので、そろそろ農業も考えなければとも思っているそうです。

こんなふうに、東海林さん の周辺には、いろいろな計画が進んでいて、とても書ききれません。

若者が活躍

See Visionsでは、若手にもどんどん仕事を任せてくれます。

山本さん

ヤマキウ南倉庫の運営責任者の山本美雪子(みゆこ)さんは入社2年目。秋田市出身で、高校生の頃からまちづくりやイベントの運営に興味があり、横浜市の大学のまちづくりを学ぶ学科を卒業。しばらくは関東にいるつもりだったのですが、就職活動を進めるうちにSee Visionsを知り、4年生の時にインターンで1週間働いたのがきっかけで就職を決めたそうです。

田口咲月(さつき)さんは大仙市出身で、秋田公立美術大学卒です。

田口さん

「大学3年までものづくりにひたっていて4年になってようやくポートフォリオ(作品集)を作り、気になるデザイン事務所や制作会社に持ち込む中でSee Visionsに巡り合いました。インターンを経験し、雰囲気もとても良かったし、ここならよいものが作れそうだなと思ったので書類選考や面接の末、採用してもらいました」

学生時代に東日本大震災の被災地支援のボランティアをし、東北という土地で根付いてやっていきたいという気持ちが芽生えたと語っていました。

会社の好きなところ

See Visionsのどんなところが気に入っているかをお聞きしました。

山本さんは、社員が皆、個性豊かで趣味も多彩で、いろんなことに詳しいので刺激になるとのこと。スーツを着ずに自由に働けるところもいいと思っています。

田口さんは、ウェブデザインの技術を学ぶ中で、疑問を感じて質問すると、上司や同僚が自分と同じ目線で丁寧に教えてくれると話しておられました。

子育て環境

子育て中のスタッフも多いSee Visionsでは、子連れ出社も認められています。放課後の部活に送って行く男性スタッフもいて、子どもが会社に出入りするのは日常的な風景だそうです。

将来の夢

山本さんは、「わたしは自分の実家がある新屋の商店街を元気にしたいというのが一番の目的で秋田に戻ってきました。それを、この会社の力を借りながら実現出来たらいいなと思っています。子どもの頃、お絵描きの道具がなくなったら近所の文房具屋に行ったり、喉が渇いたら湧き水の水を飲んだりして育った商店街でも、今、亀の町で起きているようなことが起きたらいいなと思っています」と熱く話されました。今のキャリア、そのまま夢の実現につながりそうです。

田口さんは、ウェブデザインやコーディングの技術をしっかり身に付け、より良いものづくりをしていきたいと語っておられました。

趣味

山本さんは、学生時代からずっと音楽活動を続けていて、それを知ったヤマキウビルに入っている音響会社のスタッフに誘われ、バンド活動を再開しました。ドラムをやっているそうです。取材の日の夜もバンドの練習だとおっしゃっていました。

田口さんは、デザイナーというお仕事からはやや意外性のあるアウトドア派で、キャンプや登山が趣味。最近は北秋田市の阿仁方面に出掛け、道の駅で売っている鹿や熊の冷凍肉を買っていちばんおいしい食べ方を教えてもらい、キャンプしながらそれを料理するのが楽しみだそうです。

田口さんは、大学生の頃は「秋田ってぱっとしない」と思っていましたが、社会人になって行動範囲が広がったことにより、秋田県内に、実はすてきな場所やお店がたくさんあることに気付き、今ではもっとその魅力をたくさんの人に知ってほしいと思っています。

©西根打刃物製作所

例えばマタギの使うナガサ。熊や鹿を仕留める時に使われるナイフですが、実は今、阿仁地域の製作所で作られていたナガサがキャンプ用品としてすごく高い評価を得ているのだそうです。

秋田にはそうした知られざる貴重な宝がたくさんあることを秋田で退屈している人たちに知ってほしいですね。

 

どんな人と働きたいか

山本さんは、イベントを企画するとき、いろんな人に楽しんでもらいたいけど自分がいちばん楽しむぞ!と思っているので、そういう気持ちを持っている人となら同じ温度感で仕事ができそうと思っています。

田口さんは、デザインをやっている人には、はっきりとした考えを持っている人が多いので、意見の相違が生じることも多いですが、衝突を恐れず話し合って、いいものを作っていきたいと語りました。

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お話を聞いていて、これって会社ですか?これって働いているってことですか?と、いい意味で思いました。何かプロジェクトを温めている人、See Visions・スパイラル・エーがそれを実現できる場所かもしれません!

取材:照井翔登、竹内カンナ

文:竹内カンナ

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