実は首都圏にめちゃ近いのに大自然がある北秋田市で実現できる多様な働き方

ウィズコロナ時代、都会の感染者の多さや満員電車の超過密空間で数十分を過ごす生活が怖くなり、安心して暮らせる地方への移住を考える人が増えています。9月19日、こうした移住希望者にフォーカスした秋田県北秋田市のオンラインツアーが行われました。

北秋田市は、東京から飛行機で70分、そこから10分で町の中心地にたどり着ける上、周囲を山に囲まれ大自然を満喫できるため、リモートで働きながら自然を楽しみたい若者、自然の中で子育てしたい家族、朝から晩まで自然に浸り切って暮らしたい人に最適な場所。

このオンラインツアーは、こうした北秋田市の魅力を知ってもらいたいという秋田県と北秋田市移住・定住支援室、北秋田移住定住ネットワーク スムスムが企画したツアーです。

ツアーに先だって9月5日には、北秋田と東京の二拠点居住を実践している起業家で北秋田市出身の武田昌大さんがファシリテーターを務め、横浜市から北秋田市にお試し移住中の高鳥可那さん・ことりちゃん親子とマタギ修行中の益田光(こう)さんのインタビューを中心としたオンライン・イベントがありました。

このイベントについては、こちらの記事をお読みください。

ほんとはリアルツアーになるはずだった今回のオンラインツアー。まず大館能代空港に北秋田市の移住促進チームと「北秋田移住定住ネットワーク スムスム」の米倉信人さんがお出迎えくださいました。

次に向かったのは、空港から車で10分のJR鷹ノ巣駅にほど近い「北秋田市民ふれあいプラザ コムコム」。いかに北秋田市が住民の交流を大事にしているかを体現した建物だと思いました。

米倉さんの案内で中を回ります。1階には、お試し起業ができる「チャレンジブース」、2階にはラウンジなどがあり、勉強している学生や仕事をしている人の姿がありました。自由に使えるパソコンも置いてあるので、子供たちも遊びに来ているそうです。研修室、音楽スタジオ、創作スタジオもあり、市民の文化活動の中心になっています。

起業したい人が気軽に使えるスペース

次に向かったのが、「community station KITAKITA(キタキタ)」。ここは、「コマド意匠設計室」のデザイナー、柳原まどかさんが運営しているコワーキングスペースです。駅前のにぎわいの中心だった「河哲商店」をリノベした建物です。

柳原まどかさん(左)と米倉信人さん

現在2階には、ウェブマガジンのライターやグラフィックデザイナーがオフィスを構えています。時々、ワークショップやイベントも行っています。

まどかさんは、秋田県の真ん中にある大仙市の出身、東京の設計事務所で働いていましたが、群馬県の伊香保温泉で街の景観を整えるプロジェクトに関わったのをきっかけに、秋田でも同じように町を元気にできたらと思うようになりました。東京でそうした活動をする人達とのネットワークづくりをしているうちに大館市を中心に活動している「ゼロダテ」というアーティスト系の町おこしグループと知り合い、鷹巣に移り住みました。

キタキタは鷹ノ巣駅の真正面

「移住してきて、個人で仕事を始めることになったとき、家でも仕事はできるのですが、誰でも入ってこられるところでやりたいと思いました。そのころは周囲にお茶を飲めるような場所がなかったので、休憩したり、コーヒーを飲んだりできて、イベントに使えるような場所を作りたかったんです」(柳原さん)

2年たって、まどかさんが中心になって進めてきたcommunity station KITAKITAが、シャッター街になりかかっていた鷹ノ巣駅前に人の流れを創り出し、カフェHOLTO(ホルト)の開店以降、さまざまな人が集まってくるようになりました。

「年齢が近い、ものを作っている人達が集まってきて、お互いに行き来をし、気軽に話せる仲間になり、こうした若者が集まって暮らせる環境が整ってきたなと思います」(柳原さん)

HOLTOの布田信哉さんは、家具職人。奥さんはカフェを経営しています。2020年9月に元々店舗を構えていた場所の向かいのビルに移転し1階のカフェスペースの奥に工房を設置、さらに2階と3階にシェアオフィスやコワーキングスペースを設けました。

布田さんが制作した、はめ込むだけの組立式アウトドア用椅子

布田さんは、「駅前はとにかく閑散としていました。自分は駅前メンバーがわいわいがやがや楽しくやっているなと思ってもらえればそれでいいと思っています」と自然体です。

工房は、木材をたくさん使った家具職人らしい造り。「自分は木を使って作ることしかできないので」と謙遜されますが、町の特産である木材を使ってものづくりをする若者が元気に働いている姿は絶対に町の人を元気にすると思います。

「楽しいことをやっていて笑いの絶えない場所であれば自然に人が集まって来ると思います。一緒に笑ってくれる人が来てくれると嬉しい」(布田さん)

次にツアーの一行がやってきたのは、米内沢小学校。学力が全国トップクラスの秋田県の教育現場を紹介していただきました。この高学力については、秋田県出身者の中にもナゾだと思っている人が多いのですが、その秘密について同校の佐藤裕介先生から説明していただきました。

佐藤裕介先生

佐藤先生によると、秋田の子供たちの学力が高いのは「探究型授業」を実施しているからだそうです。探究型授業というのは、子供たちがしっかり課題意識を持ち、勉強したことと日常生活がつながるように自分たちで話し合って課題を解決していく学習方法だそうです。

家庭学習については、担任の先生が宿題を出すことも、もちろんあるのですが、それとは別に子供たちが自分で学習の計画を作成し、勉強したことを自習ノートに書き込んでいくため、子供たち自身も周囲も学習の成果を実感できます。また、先生がノートの見本を見せたり、友達同士でノートを見せあったり、ノート展なども開かれるそうです。

このように学習の過程や成果が常に見えるようになっているので、ついて来られない子も早期に発見できます。また、授業に先生が2人参加し、重点的に難しいところを教えてくれる「ティームティーチング」を実施しています。生活支援員という、生活面のサポートをしてくれる人もいます。

木がたくさん使われた米内沢小学校の校舎。自然が近く空気がきれいそうだなあと思いました。

お試し移住中の高鳥可那さんは、「挨拶がまず違う。街を歩いていると『おはようございます』と声を掛けてくれます。とてもよい習慣、よい社会教育だなと思いました」と語ります。以前、大館を訪ねた時、わたしも同じことを感じました。

高鳥可那さんとことりちゃん

高鳥親子は昨年夏に北秋田市が開催した秋田流の教育・子育て体験ツアーに参加して数日間、秋田の小学校を体験しました。そしてこの夏は、コロナで可那さんの仕事がリモートワークになったこともあり、親子で北秋田市に住み、ことりちゃんは阿仁合小学校に通っています。米内沢小学校に比べ児童数が少なく複式学級で1、2年生が一緒の教室で勉強しています。しかし先生は2人いて学年ごとの内容を教えているそうです。

複式学級のメリット・デメリットについて質問され、高鳥可那さんは、「デメリットはほとんど思いつきません」とおっしゃいました。「たとえば1年生は全員男の子なんです。2年生も3人が男の子で女の子は最近までことり一人でした。でもことりは、『おねえさん』をしながら共に成長できているのでデメリットとは思いませんね」。

米倉さんは、学習ノートについて、「毎日何を勉強するかを自分で考えます。漢字の練習だったり、作文だったり算数だったり。自分が子供のころはそういうのはなかったですね。出されたものしかやらない。それさえやらないという風だった」と笑います。子供ってそんなもんですよね、普通・・・。

「横浜にいたときは自分も子供も余裕がなく大変でしたが、子供が自分で何を勉強するかを決めて計画を立てるので、120%楽になりました」(可那さん)

ただ、コロナの影響で、首都圏で働いている旦那さまとは久しく会えておらず、旦那さまの転職活動も進まないのだそうですが、「ワンオペでもやっていけるなと思っています。これは奇跡に近いことです。学校の先生や町の人とかが目を配ってくれる上、自然環境が良いので本人(ことりちゃん)のストレス軽減になっています」と話されていました。

次は、北秋田市の大自然を体験してもらうツアー。残念ながら山菜採りや渓流釣りなど本物の自然は体験できませんでしたが、代わりにマタギのしかり(リーダー)の鈴木英雄さん、新たな移住者でマタギ見習いの益田光さんと山岳ガイドの大川美紀さんらが花の百名山にも選ばれている森吉山(もりよしざん)のそばにある「安(やす)の滝」に行って動画を撮影してきました。安の滝は日本の滝100選で2位に選ばれた名瀑です。途中には、秋田の人に親しまれている山菜のミズが生え、渓流をのぞき込むとヤマメが泳いでいて、渓流釣り好きなスムスムの米倉さんが興奮していました!

ランチは熊肉の煮付け、地元の北鷹高校の生徒さんが開発した比内地鶏とししとうのレトルトカレー。熊肉は食べたことのない人が多いと思いますが、丁寧に下味をつけて料理したものは、とてもおいしいです。嘘じゃありません。(笑) 是非、試してみてください。

安の滝は、黒い岩の上を水が白い幕のように流れ落ちる滝です。ガイドの大川さんは、「何回来ても、いつ来ても表情が違う」とおっしゃっていました。

熊は登山道で会うことはめったにありませんが、見通しの悪いところに隠れるように生活しており、安の滝の上の山にもいるそうです。突然出会うと向こうもびっくりして攻撃的になるので、行くときはクマよけの鈴をつけたり、大声で歌をうたったりして熊に警告します。

動画のあと、英雄さんからマタギの生活について話を聞きました。北秋田は、昔は交通が不便だったため、山の恵みを大切にして生活をしてきました。熊は肉を食べるだけでなく内臓が薬として尊ばれ、貴重な現金収入源でした。熊の内臓「熊の胆」の薬効は科学的に証明されているのですが、今は薬事法によって売ることができなくなりました。

熊の胆のうを乾燥させた熊の胆

また、昔は座敷に敷くカーペットとして珍重されていた熊の毛皮も売れなくなってしまったので、マタギの収入だけでは生計が立てられなくなったそうです。子供のころ、秋田の家で熊の毛皮を敷いている家はけっこうありました。毛皮には熊の頭もついていて子供には少し恐かったですが、ふわふわでした。これは防寒のために柔らかい毛が密に生えている冬の熊の毛皮なのだということを初めて知りました。

フワフワのクマの毛皮

「熊は山の神様が授けてくれるもの。熊を仕留めると『授かった』といい、ケボカイという儀式をして山の神様に感謝します」(英雄さん)

熊猟の時、マタギは十人前後のグループが「せこ」と上で待ち構える「まっぱ」に分かれしかりの指示でせこが熊を山に追い上げ、最後にそのうちの一人が銃でクマと「勝負」します。

仕留めた熊の肉は、猟に参加した全員できちんと計って分けます。また、熊の毛皮など分けられないものはお金を出して買い、このお金を等分するそうで、これをマタギ勘定と呼ぶそうです。

益田さん、かっこよすぎます

マタギと呼ばれる山の民は、山形や新潟にもいますが、各地のマタギの祖先をたどると阿仁のマタギに行きつくそうです。昔のマタギは袋ナガサ(柄の部分が空洞になり棒を差して槍のようにして使える短剣)一丁持って旅に出ることも多く、旅先に住みついたマタギが各地でマタギの文化を継承してきたと考えられています。

狩猟ナイフとしてナガサがいかに素晴らしいものかをたまたま見つけたウェブサイトで読んで感動しました

最近、若い人がマタギになりたいと阿仁にやって来るようになったことについて、「わたしは9代目で、長男なので中学ぐらいから親について猟に出るようになりましたが、後を継ぐという感覚で、マタギになるという意識はなくこういう生活に入りました。最近はマタギも高学歴になってきました」と笑います。この数年間に弟子入りした3人全員が大卒なのです。

3人のうち一番若い益田さんは、「学生時代から人間らしい生活がしたいと思っていました。自然が好きで大学では植物の研究をしていましたが、大学2年の時、阿仁に来てビビっときました。マタギの文化は森林総合科学です。日本の山で人間らしく暮らしていくための知恵です」と語ります。

しかし、広島県広島市という雪のない地方で町育ちなので、いきなり雪深い阿仁で暮らすのは大変だろうと、大学卒業後、新聞で見つけた秋田市にある林業大学校に入学、2年間秋田市で重機の扱いや林業について学び、準備をしました。

「阿仁は、雪の中から顔を出している杭に座ったらそれが電柱だったというようなところです。でも雪かきも近所の人が助けてくれます」(益田さん)

益田さんの住んでいる家の家賃は2万円。自然の中なのでトイレは「ぼっとん式」かと思うでしょうが浄化槽(実質的に水洗)だそうです。

阿仁に移住して来て、最初は民間会社に就職したのですが、マタギの活動は週末だけではないので、このままでは修行が進まないと考え、自分で「もりごもり」という会社を設立し、クロモジという木のお茶を商品化して販売することにしました。

「クロモジは広く生育しており、マタギは昔から胃腸の薬にしてきました。既に商品化されたクロモジ茶もありますが、使う部位によって味や成分が違います。僕は荒い粉と細かい粉を混ぜて使います。香りや味は煮出す時に使うやかんによっても変わってきます」(益田さん)

益田さんのクロモジ茶「マタギのお茶っこ」はとても香りがよく、さわやかな味わい。今後は、煮出さなくてもティーバッグなどで手軽に飲めるものも作りたいと考えているそうです。

自然の恵みを大切にする生き方が共感を呼び、若い人材が増えてはきましたが、英雄さんはもっと増えて欲しいと考えています。

「人が減って自然が押し寄せてきています。里にも熊だけでなく猪や鹿も入ってきています。マタギの重要性が増しています」(英雄さん)

マタギに興味のある人のために、マタギ学校も実施しているそうです。いきなりマタギのように雪の急斜面を垂直に登ったりするわけではなく、マタギ資料館を見学、一緒に山を歩いたり、焚火で串焼きをしたり雪中鍋を食べるといった体験ができます。(もちろんマタギの湯 打当温泉でぬくぬくすることもできます!)今なら「GOTOトラベル」も利用できます。(2020年10月現在)

この日のイベント参加者のうち希望者には、地元の北鷹(ほくよう)高校の生徒さんがプロデュースしたプレミアムカレー、日本酒の「大吟醸 北秋田」、益田さんの作ったマタギのお茶っこなどが事前に宅配便で送られてきていました。北秋田市が総力を挙げて選んだ地元の魅力あふれる品々。また、熊の爪を使ったアクセサリーも入っていました。このワイルドなアクセサリー、道の駅「あに」で販売しているそうです。

熊の爪を使ったアクセサリー、ワイルドです

 

コロナのせいでオンライン開催になった北秋田ツアー。駅前を元気にしているものづくりの若者たちシェアオフィス高い学力水準を誇り全国の羨望の的になっている学校や全国2位にランクインした安の滝へのウォーキングなど盛りだくさんで、北秋田市での暮らしを垣間見せてくれました。次回以降は是非、リアルツアーを楽しみたいと思います!

北秋田市に興味を持たれた方は、北秋田市役所の移住・定住支援室連絡してみてください。みなさん、ノリノリの親切な方たちです。

文:竹内カンナ

写真は、イベントを記録したYouTube動画やウェブサイトから使用させていただきました。

◆北秋田市の移住支援制度