商店街の活性化に向けた取り組みを行っている方をご紹介するシリーズです!
今回訪問したのは、横手市増田地区。同地区は、雄物川支流の成瀬川と皆瀬川が合流する横手盆地の南東に位置し、かつては商業が盛んであるとともに、葉タバコの栽培や養蚕でも県内最大の生産量を誇り、明治以降は銀行や電力会社が設立された場所でもありました。商家の中に入り内蔵(うちぐら)を見るとありし日の風景が思い起こされます。
今回取材したのは、祖父の代から増田に店を構える佐藤こんぶ店の佐藤丈浩さん。豪華な内蔵(うちぐら)を持つ商家が並ぶたたずまいに魅力を見出し、増田を「内蔵の町」として県内有数の観光地にした地元の人たちの取り組みについて語っていただきました。

佐藤こんぶ店の佐藤丈浩さん
増田の小安街道沿いは、家の中に建てられた土蔵「内蔵」を持つ大きな商家が立ち並ぶ観光地であり、国の重要伝統的建造物群保存地区に選定されています。雪が多い地域ならではの内蔵で、密閉性を高めるために三重四重の段が付けられた分厚い扉と建物側の枠があり、漆で黒光りしています。中に入るとぜいたくに木材が使われており、人の目に触れない内蔵に意匠を凝らしていたことが分かります。こうした内蔵を公開し、多くの観光客が訪れるようになったのは2010年代に入ってからであり、案外最近のことなのです。

佐藤こんぶ店の内蔵
店内に入ると、棚には昔ながらのとろろ昆布やだし昆布など、様々な種類の乾物が並んでいます。佐藤こんぶ店では昔ながらの製法で乾物を製造しており、県内外のお客様から注文があります。
店の奥から出てきた佐藤さんは、「ここには、町を盛り上げてくれる人がたくさんいるんですよ。この町について話すのが本当に自分でいいんですか?」と謙遜しながら、増田が内蔵の町として県内有数の観光地へ生まれ変わった経緯を話してくださいました。

店内の商品について説明する佐藤さん
「内蔵って外から見えないじゃないですか。だから町外の人は内蔵の存在を知らなかったし、内蔵がある家に住んでいる人は、それが外の人にとって魅力的だということを知らなかったんですよ」
「1990年頃、商工会や銀行の方が内蔵の魅力に気づき、これを観光資源として活用できないかという声が挙がりましたが、内蔵は生活空間の一部であることからも、公開したいと言う住人はいませんでした」
そんな住民たちにとって転機となったのは2005年、増田町文化財協会が発行した内蔵の写真集でした。この写真集が人気になり報道されて内蔵の認知度が高まったことで、公開することに対する住民の意識が少しずつ変わっていきました。写真集「増田の蔵」は第3版まで出版され、完売となりました。現在は増田のまちなみ案内所「ほたる」と「蔵の駅」で第3版を閲覧することができます。

「増田の蔵」第三版の表紙
「写真集の制作にあたっては、1 軒 1 軒丁寧にお願いしながら撮影させていただき、完成に至ったと伺っております。その写真集が評判を呼び、マスコミでもずいぶん取り上げられました。最初、住人たちは自分たちの自宅の一部である内蔵が注目されることが理解できない様子でしたが、市役所や県庁も新しい観光の目玉になると動き始めました」
「内蔵を見たいという人が増えて、だんだん、内蔵を活用しようという人たちの実行部隊ができてきました。今は『蔵の会』という組織が中心になっています。蔵の会は、内蔵の所有者が集まる会です。私は最初の頃は関わっていなかったのですが、3年前から副会長を務めています」

増田の内蔵のある地域は重要伝統的建造物群保存地区(伝建地区)に指定されている
町には内蔵を積極的に活用しようという蔵の会だけでなく、『増田まちなみ保存会』もあるそうです。佐藤さんは、この団体では幹事をされています。
「蔵の会は内蔵の利用を目指していましたが、まちなみ保存会の活動は、建物の保全や景観を守ることが目的です。無電柱化も保存会が中心になって進めました。このほかにも、防災マニュアルを作って防災意識の向上や、後継者問題にも取り組んでいます。一見すると町並みの保存と関係がないように見えるかもしれませんが、こうした活動は町の一体感を高めるうえで役に立っていると思います」
佐藤さんは以前、商工会に勤務していましたが、1990年代半ばに観光施設である秋田ふるさと村へ出向。その後、観光市場に将来性を感じてふるさと村に転籍し、各種イベントの企画、会場利用の誘致、旅行会社との折衝などを
こうした少し離れた立ち位置から増田の観光振興に関わっていた佐藤さんですが、2010年に父親が亡くなったことをきっかけに、こんぶ店の代表は母親が継ぎ、佐藤さんはふるさと村で働きながら父親が携わっていた中七日町町内会の会計などを引き継ぐことになりました。この町内会は年に一度の月山神社の祭典に合わせ、イベントを開催し賑わいを醸成したり、蔵の会やまちなみ保存会、観光協会といった各団体と、プランター設置事業、灯籠祭りイベント、ミニかまくらイベントなど、商店街の活性化につながるような事業を展開してます。
また、ちょうどその頃、増田の内蔵のある地域を重要伝統的建造物群保存地区(伝建地区)にしようという機運が高まってきたことから、佐藤さんは他の内蔵所有者らと一緒に、先行して伝建地区に指定された地域の視察や、伝建地区に関する研修への参加を始めました。
「伝建地区の指定を受けるには『町並み保存会』というのを組織することが必要なんです。町並み保存会を組織するには、構成員のうち保存される建物の所有者が70%以上を占めている必要があります。だから、所有者の気持ちが一つにならなくてはなりません。伝建地区の指定を受けると家の改築等に制限が掛かることになるため、それを不安に思う内蔵の所有者たちに寄り添っていく必要がありました」
「町内会で、所有者を回ってメリットとデメリットを丁寧に説明しました。2008年ごろから活動を開始し、町並み保存会を設立したのは2013年でした。横手市の担当課も観光名所に育てたいという思いがあって積極的に支援してくれました」
しかし、他の県の伝建地区に行って分かりましたが、公開している大半は人が住んでいない家です。でも増田では対象の建物で生活している方が多くいますから、建物を公開することに合意してもらうのはとても大変でした。それでも少しずつ公開へ向かって動き始め、まずは商工会が中心になって年に1回、内蔵を公開する「蔵の日」を設け、公開してくれる家を募りました。町おこしに熱心な方々、行政、民間の組織などの活動が重層的に盛り上がり、少しずつ増田の内蔵が観光スポットになっていきました。2024年には第16回増田蔵の日を開催し、26棟が公開されました。
今では蔵の日だけでなく、各家が日を決めて見学させてくれます。当主自らが説明してくれる内蔵もあります。また、内蔵を持つ各個店では、集客に向けた様々な取り組みを行っています。酒蔵だった建物を改装し、発酵をテーマにした飲食店や味噌の販売店、稲庭うどんやそば、ソフトクリームやコーヒーを提供しているお店もあります。それ以外にも内蔵で昔話の会をやったり、ライブをやったり、いけばな展をやったりと、活発に活動されています。

豪雪地帯の増田地区
佐藤こんぶ店でも個性的な取り組みを行っています。店内入口にはカラフルなペコちゃん人形がたくさん展示されています。取材時に来店していたお客さんは、記念にペコちゃん人形を撮影していました。
「九州の豊後高田市の一店一宝運動(いってんいっぽううんどう) にならって、うちでは店内にペコちゃんを展示しているんですよ。販売する商品以外に何か面白いものや懐かしいものを展示する運動です。先代社長がペコちゃん人形をコレクションしていて、今では手に入らない珍しいペコちゃん人形もあります」

増田を訪れる観光客には若い人も多いですがペコちゃん人形はあらゆる世代に人気
地域貢献の活動も行っています。佐藤こんぶ店は、毎年、受験シーズンに増田中学校の3年生に「合格祈願昆布」を贈っています。昆布を加工する際、削られた昆布が高く舞い上がることにあやかり、昆布を食べることで中学生の成績も上がってほしいとの願いが込められています。佐藤こんぶ店と増田中学校の恒例行事となっており、生徒からも喜ばれています。
「蔵の会として、中七日町の通りをメインに、夏には皆で風鈴を吊るしたり、店の前の水撒きを一緒にやったりしています。皆で店の前を掃き、水を撒いて清めながら、互いに挨拶をするなど、住民間のコミュニケーションを大切にすることが、町を訪れる人に対するおもてなしにつながると考えています」
「増田では、多くの住民が町の活性化のために活動しています。私もふるさと村の仕事がありますが、ふるさと村のことだけを考えるのではなく、『秋田の営業マン』として県内全域への集客を目指した活動を行っていきます」
佐藤こんぶ店
〒019-0701 横手市増田町増田字中町97

佐藤こんぶ店のホームページhttps://satokonbu.shop-pro.jp/
文:竹内カンナ