高校生がなんとなく「やってみたい!」とか「自分を変えたい!」と思っていることを半年間にわたり伴走支援する国際教養大学(秋田市雄和 AIU)の学生グループのプログラムに参加した生徒たちの最終報告会が2025年12月1日、AIUキャンパスで開催されました。
このグループは、一般社団法人「FROM PROJECT(ふろぷろ)秋田」(木俣香穂代表)。今回が第14期になります。
2025年5月に始まった今期のふろぷろに参加したのは秋田高の3人、横手清陵高と聖霊学園高の各1人の計5人でした。彼らは、約半年間に十数回の講座を受け、各自のプロジェクトの内容を磨き上げ、計画を立てて実践し、この日の最終報告会に臨みました。
半年間の伴走支援で「やってみたい」を形に
ふろぷろってなんだという人も多いと思います。「フロムプロジェクト」の略なんですが、それを知ってもまだ、何だか全然分からないですよね。「社会に“Good Impact”を与える人材の輩出」を目的に、慶應義塾大学で教育政策やソーシャルビジネスが専門の鈴木寛ゼミの学生たちが始めた組織で、秋田ではAIUの学生だった竹内菫さんが 2014 年に立ち上げました。
かつての日本の教育では重視されていなかった、でも人生を生きていく上では知識よりも大切なプロジェクトベースドラーニングの取り組みです。ご興味のある人はホームページをお読みになると分かるかなと思います。あるいは一般社団法人になった頃なので少し古く、ここからさらに進化していると思いますが、WE LOVE AKITAの記事もお読みいただければと思います。
14期に参加した高校生のうち聖霊高2年の藤本眞生(まお)さんは、2度目の参加で、昨年の学びを生かして新たなプロジェクトに挑戦しました。参加する時点では何をやりたいかが明確な生徒は少なく、したいことなんとなくがあるが、どこから始めたらよいのか分からないというモヤモヤとした状態なことが多いそうです。それでいいんです。やっているうちに分かってきて、終わる頃には、もう一度やりたいという生徒も多いのです。
プロジェクトに必要な「公益」と「個益」
ふろぷろは、高校生たちが立ち上げるプロジェクトが、「公益(社会のため)」にも「個益(自分のため)」にもなることを求めます。高校生はまず、そこで考え込んでしまいます。大学生たちは、そんな高校生と一緒にプロジェクトを具体化させ、実行の計画を立て、準備をサポートし、実行します。そこで中間報告をし、うまく行かないことがあれば、修正を加えながら、目標の実現を目指します。
そして迎えた最終報告会の日、高校生たちは、AIUの同窓会ホールの壇に登り、自分がどのように「公益」と「個益」が重なる目標を定め、その目標を達成するために行った調査や開催したイベント、作成した文書などについて説明、そこまでの道筋を振り返り、自分なりの評価を行います。この壇上でのプレゼンテーションもふろぷろのプログラムの重要な一部です。日本の学校は欧米の学校に比べこうしたパブリックスピーキングの機会が少なく、苦手意識を持つ人が多いので、プレゼンの準備から多くの人の前で話すことまで大切な学びになります。
今年は5人の高校生を、7人の大学生がサポートしました。ふろぷろの活動は高校生にとって新鮮な体験なだけでなく、運営する大学生も教える側に立つことやイベントの運営は初めてなことが多く、自分たちもそこから多くのことを学んでいます。
さて、今回参加した高校生と、そのプロジェクトは以下の通りです。
本間勝博さん 学校の省エネのためグリーンカーテン設置

最初の報告は、横手清陵高校1年の本間勝博さんでした。本間さんは学校の環境負荷を低減し自然と共生できる学校施設を実現するとともに、生徒たちの環境やエネルギーに対する意識を高めたいと考えていました。これが公益になります。個益としては、好きな園芸を学校でもやりたいという思いがありました。すごいのは、本間さん、なんと国に補助金を申請したんです。
本間さんは、ネットなどで環境やエネルギーに関するさまざまな取り組みを調査し、鹿島建設の建物の省エネ化の施工例を見付け、これだ!と思いました。また、文部科学省の「学校ゼロエネルギー化に向けて」のウェブサイトを知り、「エコスクールプラス」という学校でのエコな活動に対して提供される補助金を申請し、夏の暑さをさえぎる植物のカーテンを共通教室の窓に掛けようと考えました。
補助金の申請にチャレンジ
補助金の申請はなかなかのチャレンジでした。計画申請書は空欄が多く、都道府県に割り当てられているコードなど、分かりづらいところあり相当な労力が必要でした。
実際のグリーンカーテンを育て始めると、植物ならではの日々水やりなどの世話が必要でした。このためひとりでは無理だと思い友達や先生を巻き込む必要があると感じました。その上、本間さんはこのプロジェクトを一過性に終わらせず継続的な活動にしたいと思い、先生方や生徒など多くの人にこの活動について説明して回りました。その結果、人を巻き込む力、問題が生じた時、すぐ対処するきめ細やかな管理能力や適応能力が身に付いたと感じたそうです。
塚田怜奈さん 子どもを学校の外に連れ出し、一緒に遊び友達を増やす

次に発表したのは、秋田高校2年の塚田怜奈さんでした。子ども好きな塚田さんは、地元の子どもたちと触れ合うことを「個益」、少子化でクラスの人数が減少するなど子ども同士の交流の機会が減っていることから子どもたちを外に連れ出し学校外で多くの友達を作り、交流の輪を広げることや、人口減に伴って減っている公園の利用者を増やすことが「公益」になると考えました。
そこで塚田さんは、小学生と公園で遊ぶイベントを企画しました。ところが当日、塚田さんの体調が悪く中止せざるを得なくなるという想定外の事態が発生してしまいました。イベントが中止になった場合のプランを考えていなかったため、参加者に少し迷惑を掛けてしまいました。塚田さんは、主催者であるからといってすべてを抱え込まず、周囲の大人に頼ることも必要だったと反省しました。
予定が変更になった場合のプランもしっかり考える
そして、2回目のイベントにはその反省を生かし、中止の場合の代替案として家から参加出来るオンラインでのゲームイベントも準備したそうです。プロジェクトの遂行に当たっては初めての経験も多く、ためらいや不安を感じることも多かったそうですが、勇気を出して行動することで積極性や決断力がついたと感じたそうです。
しかし、イベントの日がちかづいた頃、今年はクマの出没が懸念されたため、公園での開催を断念せざるを得なくなり、室内イベントに変更しました。この変更のためキャンセルが多く出てしまいましたが、頑張ってSNSやインターネット掲示板を使って告知に努めました。その結果、掲示板を見て参加してくれた親子もいたそうで、告知の重要性を実感しました。
塚田さんは最初、たくさんの人を集めることに意識が向いていたのですが、途中で目的は子どもに楽しんでもらうことだったと気づき、プログラムの内容の充実を頑張りました。この気づきは大きな収穫だったと語りました。
また、アンケートによると、参加した小学生が、「他の参加者と協力しあってゲームを楽しんだ」、とか、「次もあったら参加したい」と答えてくれるなど、子どもたちは100%ポジティブな回答をしてくれました。また、多くの親も久しぶりに運動ができたと評価してくれた人が多かったそうです。
塚田さんは、「プロジェクトを通じて身に付けた力は、世界中の人を笑顔にする人になるという私の夢につながる大きな一歩になったと思います」と話していました。
武田百花さん フェアトレードを知り、この運動を広げたいと動く

秋田高校2年の武田百花さんは、ふとしたきっかけで「フェアトレード」という取り組みを知り、興味を持ちました。フェアトレードとは、「生産者に正しい対価を支払い、生活と環境を守る貿易の仕組み」のこと。1946年アメリカのキリスト教系NGOである点サウザンドウエッジのエドガー・バイラーズさんがプエルトリコの貧しい女性たちが織る製品を購入し教会のチャリティーイベントで販売したことから始まったそうです。
武田さんは、途上国で先進国の大企業が環境破壊や児童労働などの問題に目をつぶって不当に安い値段で生産物を購入していると知り、実態を知りたいとカンボジアに飛びました!
生産者が労働に対し正当な対価を受け取って生活を向上させていけるように、先進国の大企業に働きかけていく必要を強く感じ、そのためにもっと多くの人にフェアトレードのことを知ってほしいと思いました。
フェアトレードの商品は高いけれど途上国の成長のためになる
秋田でもフェアトレードの考え方への理解を広げたいと考え、武田さんは秋田県内における取り組みを調べてみました。しかし、秋田市南通りの「スイートマーケット」と男鹿市の「さとやまコーヒー」の2つしか見つけられませんでした。
武田さんはまず、この2つの店に話を聞きに行き、その内容をまとめてポスターを作りました。ところが、特定店舗の紹介は営利目的とみなされ、そのポスターを公共施設に貼ってもらうことができませんでした。ならば、興味を持ってくれそうな人に絞ってアプローチしようと考え、フェアトレードのお菓子作りのワークショップを開催しました。
フェアトレードに興味を持って深く調べ、それを実践している人に取材に行ったこと、学校でもフェアトレードについて生徒に知ってもらえるように話をしたことを経て、武田さんはコミュニケーション能力が高まったと感じました。また、ゼロからプロジェクトを計画し、コストやリスクをあらゆる場合を想定して考え抜きました。自分にすべての責任があると考えてプレッシャーを感じることもありました。しかし、この経験はこれから大学生や社会人として生きていく上で非常に役立つと実感し、自信につながりました。
労働者にまともな賃金を払おうとするとチョコレート1枚が1000円といったびっくりするような値段になります。武田さんは、「フェアトレードの商品は高いと思います。でも自分へのご褒美と考えて買ってはどうでしょうか?作られた場所によって異なるチョコレートやコーヒーの味を楽しんで、世界や地球の未来のために自分なら何ができるだろうと考える機会にしてほしい」と語りました。
藤本眞生さん 母親が負う子育ての負担を軽減したい!
聖霊学園高校2年の藤本眞生さんは昨年に続いて2回目の参加でした。秋田を育児のしやすい県にしたいというテーマを追い続けています。藤本さんは昨年のふろぷろの時に聖霊幼稚園の園児の母親たちにアンケートを取ったところ、子どもの体調で自分の仕事を休むことが多いので有給休暇が取りにくいとか母親に育児の負担が集中しているといった回答が多く、改めて育児は大変だと感じましたが、何とか育児を楽しんでもらえるようにしたいと今年のプロジェクトを立ち上げました。
まず秋田市の子育て相談支援課に秋田市の育児の実態や支援について取材しました。担当者からは、育児における母親の負担が大きいことは課題ではあるが、男性の育児休暇取得率が少しずつ上昇しているなど変化も見られることを教えてもらいました。また、育児は制度の整備だけでなく家庭内の理解や職場の理解が大切だということや育児について親が誰かに相談することはハードルが高いということも学びました。
そこで、藤本さんは、「まなび X あそび Day」というイベントの実施を計画しました。AIUで、母親向けに子育てのセミナーを開催、その間、子どもは別の所で英語のゲームをすることで親子共にリフレッシュできるイベントを実施しようと考えました。
1回目のイベントでは、親にワークライフバランスについての動画を視聴してもらったあと、秋田市で子育てをしながらタレントとして活動する藤田ゆうみんさんに講演をお願いしました。その間、子どもたちは英語のゲームをしました。
イベント開催場所探しに苦労
1回目のイベント終了後のアンケートでは開催場所が遠かったというコメントがあったため2回目は中心市街で開催しようと場所を探しました。しかし、無料で開催させてくれる場所を見つけられず、2回目もAIUで行うことになりました。この時はキッズコーチィングの株式会社tetoteのわたなべりさこさんに講演を依頼し、親たちに子どもへの接し方や教育について話をしてもらう一方、子ども向けには英語のゲームを用意しました。しかし、この時は参加者が親子1組だったので、子どもはゲームの代わりに英単語を学ぶことにしました。
藤本さんは、このプロジェクトを遂行してイベントの場所を借りることや講演の講師を依頼することなどを初めて経験し、その難しさを知る一方、やりたいことを成し遂げられた楽しさも感じました。大変ではあったが、さまざまな人と関わりながら、自分の考えを深めることができたと述べていました。
今井心咲さん 減塩や野菜摂取量を増やし秋田県民をもっと健康に!
最後の発表者は秋田高校1年の今井心咲さん。今井さんは、秋田県民が塩分を摂りすぎであることや野菜摂取量が厚生労働省の目標値である1日350グラムよりもかなり少ない286グラム(令和4年)だったことを知り、県民の野菜摂取量を増やすプロジェクトを計画しました。
今井さんは、デザインが好きで、食べることも大好きなため、「シールラリー」をやろうと考えました。秋田市内でおいしい野菜が買える店や野菜料理を多く提供している店の中から3店舗を選び、店舗に協力を依頼し、参加者がその店舗で野菜の入った食事をすればデジタルシールがもらえ、シールを3枚ためると応募して景品をもらうことができるという仕組みです。
協力をお願いしたのは、トマトの出汁を使ったお料理を提供している秋田市東通の「Cafeとまとの店」、無農薬の玄米と有機野菜を使った日替わりランチが食べられる「スイートマーケット」、野菜をたくさん使った日替わりランチプレートが魅力的な「KAMENOCHO STORE」の3店でした。
今井さんは、このシールラリーのリーフレットのデザインでは色使いや文字の大きさや配置に気を付けて分かりやすくなるように工夫しました。そして各店舗に置いてもらったほか、保育園の利用者の方々に配布しました。
シールラリーでは持続的な野菜摂取につながるかに疑問
ラリーの結果、3店を回った人は2人だけでした。今井さんは、思ったより少なかったのは、①景品があまり魅力的ではなかったこと、②各店舗の料理のスタイルがコンセプトと合っていなかったと分析しました。もう一つ、シールラリーが成功したとしても、日常的な野菜摂取量の増加に繋がったかどうかに疑問を感じました。継続的な野菜摂取の増加に繋がらなければ健康増進という目標は達せられません。
そこで、今井さんは野菜の力についてまとめたリーフレットも作成しました。A4を3つ折りにして内容を厳選して野菜の効用をまとめました。イラストや写真を入れ、カラフルにし、見ていて飽きないデザインになるように配慮しました。
分析好きの今井さん、反省点もたくさん挙げました。タスクをやり忘れたり、シールラリーの用紙の印刷が直前になってしまうなど、タスクやスケジュール管理がうまくできなかったこと。その反省から、やらなければいけないことを手帳に書き出し、その手帳を朝晩見るようにしたそうです。しかし、体調不良や学校のテストなどがあると手帳を見るのを忘れてしまいました。いくつもの対策を考えたにもかかわらずリーフレットの印刷がギリギリになってしまい配布に苦労しました。物事を実行するには、自分が考えるよりも時間が掛かるものだということに気づき、余裕を持って計画しなければならないことを学びました。
また、プロジェクトの活動をしていると大学生やお店の人、同じ高校の友達などから「頑張って」とか「応援しているよ」とたくさん声を掛けてもらえたことがとても力になりました。そして「なんだか社会がとても身近に感じられるようになった」と語っていました。
いろんな失敗があっていい、そこから学ぶことができれば
ふろぷろ秋田の活動は、今年で7年目。最初は認知度が低く参加者を募るのに一つひとつの高校の先生に電話を掛けてふろぷろの活動の説明をするなど苦労しましたが、今では先生たちがこうした「プロジェクトベーストラーニング」の重要性を理解し、応援してもらえるようになり、最近は高校の協力を得て参加者募集ができるようになったそうです。
ふろぷろは、高校生たちに自分を見つめ直し、主体性や自己肯定感を持ち、プロジェクトをやり遂げる過程で、将来社会で生きていくうえで必要となる実践的なスキル身に付けられます。
毎年最終報告会に参加していますが、高校生たちがぐんぐん成長していく過程が感じられ、とても元気が出ます。
ふろぷろ秋田の立ち上げの頃に創立者の竹内菫さんに取材させていただいて以来、その活動を見守っています。AIUの学生は3年生の時に留学するため、ふろぷろをサポートするメンバーはどんどん入れ替わっているのに、この活動が続いているのはすごいことだと思います。秋田の高校生の成長のために、これからもよろしくお願いします。
文・写真:竹内 カンナ



