お客さんとの会話のある商店街へ 大曲RUSH 久保田健一郎氏の挑戦

旗もBGMも禁止!「バイローカル」の常識破りなルールと「会話」の力

バイローカルの会場入り口

久保田健一郎さん、大曲駅の目の前のビルでバー「RUSH」を経営しています。商店街だけでなく市役所からも頼られる大曲の若きリーダーのひとりです。

久保田健一郎さん

 昨春、「バイローカル(Buy Local)」という商店街活性化プロジェクトを大曲駅前西口で実施しようという誘いを受け、駅前商店街のまとめ役を担いました。バイローカル大曲は、6月7日と10月13日の2回開催され、どちらも約1000人と予想を大幅に上回る盛況でした。

 バイローカルは、都市計画家の加藤寛之氏が提唱し、大阪市阿倍野区で始まったまちづくり運動で、2024年に「グッドデザイン賞」を受賞した注目度の高い活動です。

 その活動がなぜ遠く離れた大曲駅前に飛び火したのでしょうか?その仕掛け人は、一般社団法人バイローカルで理事を務めるシービジョンズ(See Visions)の東海林諭宣社長とJR東日本秋田支社。See Visionsは秋田市の南通亀の町の古いビルをリノベしてエリアをおしゃれに生き返らせたことでよく知られています。彼らの誘いに久保田さんが興味を持ったことから大曲のバイローカル が始まりました。 

看板も旗も立てないのがルール

 その最大のコンセプトは、地元商店街が出店するイベントを開催し、地域に根差す「よき商い」と住民を繋げるきっかけを作り、地域に緩やかな繋がりやコミュニティを生み出すことにあります。

 このコンセプトを達成するため、「あえて不便」でユニークなルールが設けられています。 

  •    のぼり(旗)や値段を書いたメニューは厳禁
  •    会話を邪魔する要素(BGM、発電機など)は禁止
  •    出店は駅から徒歩15分圏内の店に限定

2025年のバイローカルは2回とも1000人以上の人出でにぎわった

久保田さんはバイローカルで提供するお酒を敢えて1種類に絞りました

 久保田さん自身も、ウィスキー1種にメニューを絞り、看板にも店名を入れない徹底ぶりで出店しました。お客さんに興味をもってもらい、店主と会話をするうちに、「面白そうな人だな、今度は店に行ってみよう」という気持ちを起こさせ、商店街で買い物をする人を増やすのがバイローカルの目的だからです。

 

 センスのいい人たちが揃う!大曲界隈に根付く「やればできてしまう」カルチャー

 久保田さんは、大曲界隈にはアンテナを高く上げたセンスのいい人たちが多いと感じています。

 「中学・高校の時、なんでここに店が?と感じるようなところにスノボーショップがあって、スケボーも取り扱っていたので夢中になり、よくそこに友達と集まっていました。当時、日本中でその店しかないような商品が置いてありました」。東北、とりわけ秋田県では珍しい、個性的な店が大曲にはあったのだそうです。

久保田さんは、カッコいい仲間たちがいたので、大曲を出ることはまったく考えませんでした」と話していました。

大曲駅の正面にあるRUSH。左奥には大曲の花火会場に続く花火通り商店街の入り口がある

 「ここに住んでいる人はけっこう先進的ですよ。なんでここに、こんなカルチャーがあるんだ?って思います。田舎だから何でも一人でやらなければいけないようなところはあるけど、やればできてしまう人たちが揃っているんです」

コロナ禍を打ち破った熱意! 大曲の夜を変えた「丸子川ナイトマーケット」の軌跡

 久保田さんの商店街活性化への情熱は、バイローカルが始まるずっと前から燃えていました。コロナ禍に始まり、今も続く「丸子川ナイトマーケット」でもイベント主催者グループの中心的役割を担っています。

 2020年の春、ウイルスが広がり、外出自粛が求められていたころ、商店街存亡の危機を感じた大仙市の若手経営者たちが、「テイクアウトだけでは物足りない。こんな大変な状況だからこそ、みんながワイワイ集まれる熱い場所を作ろう!」と屋外のマルシェの企画を始めました。

2025年10月4日の丸子川ナイトマーケットのチラシ

 久保田さんはその中心メンバーの一人として、丸子川の土手沿いという開放感あふれる場所を舞台に、いろんなジャンルのキッチンカー屋台がズラッと並ぶ、大きな夜市を企画。そして、様々な困難を跳ね返して、20217月に第1回が実現しました。

 ナイトマーケットは回を重ねるごとに出店、来場者数ともに伸び、コロナ禍が終わった今も年に4回ほど、これまでに21回開催しました。丸子橋近くの河岸に50~60店舗が出店するそうです。秋田県内はもとより、県外からも出店者が集結し、会場は活気に満ち溢れています。その賑わいは、まるで台湾や東南アジアのナイトマーケットを彷彿とさせる熱気。お花見や伝統的な祭典を除き、夜のイベントがまれな秋田において、このナイトマーケットは、地域にとってかけがえのない存在になっています。

「キモチワルイ」ほどの偶然が結んだ仲間

協力隊として大仙市に着任した明石さんに久保田さんは強い縁を感じました

 ナイトマーケットの活動を支えるメンバーの中には、久保田さんが「キモチワルイ」というほど強い縁を感じた仲間もいます。大仙市の地域おこし協力隊である明石浩一さんです。

秋田市出身で、東京の音楽系の民間企業企画・デザインの仕事に長年携わってきた明石さんは、コロナ禍を機に帰郷することを考えたとき、大曲の花火に魅力を感じ、ここなら自分の培ってきた経験が生かせそうだと考え、大仙市の地域おこし協力隊に応募しました。

明石浩一さん

 そんな明石さんが丸子川ナイトマーケットでボランティアとして活動を始めた頃、予期せぬ出来事が起こります。久保田さんがライブに招いた音楽アーティストが、なんと明石さんが昔、仕事で非常にお世話になった方だったのです。

大仙という場所で偶然明石さんに再会したアーティストは、「え?なんでお前ここにいるの?」と心底驚いたといいます。実はこのライブ、明石さんが協力隊に入る前に行われるはずだったのですが、紆余曲折あって明石さんの着任直後の開催になったのです。アーティストと偶然大仙市の協力隊になった明石さんが繋がっていた!この久保田さんにとって「キモチワルイ」ほどの偶然が2人を急接近させ、こうして生まれた強固な信頼関係が丸子川ナイトマーケットやバイローカルを推進する力になっているようです。

一過性でもいい

とはいえ、ナイトマーケットの運営だけでも大変なはず。ある意味、それだけで十分では?とも思えるのに、なぜ久保田さんは新たな取り組みを始めたのでしょうか?

 「イベントってよく一過性って言われがちですが、その一過性のことすらやらない人が多いのが現状です。それを『一過性でもいいからやってみよう』という方向に変えたいんです」という久保田さん。イベントをやっても経済効果は持続しないとよく言われますが、それでもいい、やってみようというのが久保田さんのスタンスです。

バイローカルは、イベントでの店との出会いやその時の会話をきっかけにして長期的に商店街を訪れる客を増やすことを目指す取り組み。これが久保田さんの大曲駅前の商店街活性化への思いと合致したのです。 

「まちづくりは不動産だ!」借金をしてでも空き店舗を全部買いたい久保田さんの野望

  商店街の一員になった時、ほとんどの経営者は久保田さんより年上で後継者がいないため、商店街には「もういいや感」がただよっていると感じました。バーの経営は、リーマンショックやコロナ禍で、いつも「やばい、やばいともがいているような状態」だそうですが、商店街に活気を取り戻すにはどうしたらいいかという思いがいつも久保田さんの頭から離れません。 

「駅前商店街は場所がいいので店を出したいという人はいるんですが、商店街にはシャッターを閉めていてもそこに住んでいる人がいるので、店をやりたい人にその店舗を使ってもらうためのハードルは高い。行政がいくら補助金を出しても難しい 

そんなことを考えるうち、久保田さんは空き店舗があったら借金をしてでも全部自分で買ってしまいたいと思うようになりました。コロナ禍の頃、自分のバーが入っているビルを買ったのですが、その経験から、全部買ってしまえば自分の好きなように活用できるという思いが強まりました。

「岩手県紫波町のまちづくりの大先輩が、『まちづくりは不動産だ!』と言っていました。買ってしまえば自分のもの。何をしようが文句はいわれない。空き店舗を買い取って好きなように使いたい。借金して買えば、必死で稼ごうとするから何とかなる」。久保田さんは、大変さを楽しんでいるような気がします。 

「子どもたちがこの土地に愛着を感じてほしい」 久保田さんの熱い想い 

久保田さんがまちおこしに情熱を傾けるのは、何よりも子どもたちにふるさとへのいい思い出を残したい、愛着を感じてほしいという想いからです。 

今、ナイトマーケットは子どもたちが新しい服を買ってオシャレをして出かける、トレンドスポットになっているんですよ」。久保田さんには、大曲で過ごした楽しい思い出が子どもたちの心にふるさとへの愛着を育み、たとえ進学や就職で県外に出ても、必ず大曲へと戻って来るはずだという強い確信があるのです。

文:竹内カンナ