「やってみたい」が街を動かす種火になる。「Creerナイトマーケット」が照らす能代市の商店街の物語

ナイトマーケット(夜市)って素敵だと思いませんか?夜の街に小さな灯りがたくさんともり、人が行き交い笑い声が聞こえる。賑やかな雰囲気に心がワクワクしてきます。そんな光景が、秋田県能代市の商店街に新しい日常として根付き始めています。

「Creer(クレエ)ナイトマーケット in だんだん・のしろ」は、能代駅前の畠町大通りで数か月に1度、金曜の夕方に開催されているイベントで、2024年6月から始まり、2025年10月までに5回開催し、夜の商店街を盛り上げてきました。今回、中心的な役割を担う3人にお話を伺いました。

左から堀口誠さん、岩本恵さん、阿部誠さん

堀口誠さん
大学を卒業後、小学校、支援学校の教員を経て2001年に能代市役所に入庁。税務や福祉、エネルギーや農業振興などの業務を担当した後、2018年に商工労働課に異動し、中心市街地活性化担当となりました。現在は、業務では移住定住推進課で、移住定住の推進や高校魅力化、若者に選ばれる地域づくりなどを進めていますが、ライフワークとして商店街の活性化に向けた活動を継続しています。

阿部誠さん
湯沢市出身。2003年から能代市内の仏壇店に勤務していましたが、その後独立し2017年11月に能代駅前に「お仏壇の千栄堂」を開店しました。2022年4月より能代市議会議員。「駅前商店会の一人として、エリアを活性化したい!」という強い思いを持ち、現在は、商店街の店主たちと共に地域の活性化に汗を流しています。

岩本恵さん
旧二ツ井町出身。現在はご家族と青森県内に居住していますが、生活圏である能代市で仕事や子育て支援の活動を行ってきました。現在はマルヒコビルヂング内のカフェ「cafe & asobiba4-6」に勤務しながら、子育て中の女性支援や、ハンドメイドサークル「Creer(クレエ)」の代表としても活動しています。

「スタンプラリー」から始める商店街の活性化

能代市の中心市街地は、かつては多くの人で賑わった商店街であり、「東北一のアーケード通り」と称されるほどでしたが、時代の流れとともに活気を失い、シャッターが閉まった空き店舗が増え、静かな街へと変わっていきました。

そんな商店街にある能代市役所の分室「畠町新拠点」に2018年、中心市街地活性化担当として堀口さんが異動してきました。堀口さんは、街にいる子どもの数が少ないことに気が付きました。「何をしたら良いのだろう」と悩みながら、堀口さんはまず、小さな一歩を踏み出します。2018年8月、市役所と商店街が連携し、「商店街ワクワクイベント」という子ども向けのイベントを開催しました。子どもたちが商店街の店を回り、スタンプを集めると賞品がもらえるスタンプラリーは好評で、商店街で見かけることが少なかった子どもたちが徐々に遊びに来るようになりました。

時を同じくして、能代駅前で仏壇店を営んでいる阿部さんもまた、店先から眺める人通りの少なさに危機感を抱き、街の活性化を模索していました。「商店街を何とかしたい」という市役所の担当者と、「商人の立場からエリアを盛り上げたい」と願う店主。立場は違えど、同じ方向を見つめる二人の志が重なるのに、時間はかかりませんでした。2人は能代駅前商店会と連携しながら、「能代駅前フェスティバルin市民プラザ」を開催しました。コンサート笑いヨガスタンプラリー等を取り入れながら飲食も販売。大規模なイベントではありませんが、2人は確かな手応えを感じ、まちづくりにどんどんとのめり込んでいきました。

動き出す商店街プロジェクトへの参加

動き出す商店街の講演会や公開プレゼンテーションのチラシ

2019年、県庁から堀口さんのもとに「動き出す商店街プロジェクト」という事業の案内がありました。このプロジェクトは、起業家や商店街活性化を目指す地元の人を巻き込み、空き店舗を活用した持続可能なまちづくりを支援する事業です。堀口さんはすぐに手を挙げましたが、民間プレーヤーと共に参加することが条件だったため、一緒に商店街活性化に取り組んできた阿部さんに相談し、家具職人のミナトファニチャー代表・湊哲一さんも誘い、プロジェクトに参加することとなりました。湊さんもまた、能代の街には子どもの遊び場や高校生が放課後に行く場所がない、といったことを課題に感じていました。

このプロジェクトは、半年にわたり定期的に東京から専門家を招き、そのまちおこしの達人たちが身を以て実践したまちづくりの事例を学んだり、その事例を基に能代で何ができるかについて具体的なアドバイスを受けながら、参加者が明確なビジョンを育めるように伴走支援をしてもらいました。

公道がリビングに!~だんだん・のしろ~

「動き出す商店街プロジェクト」の勉強会は参加者にさまざまな刺激を与えました。中でも参加者の注目を集めたのは車道や歩道を活用した池袋の「まちなかリビング」の取り組みです。「まちなかをリビングのように心地よく」をコンセプトに池袋の公園や大通りを会場に、カフェやマルシェ、音楽イベントなどを開催し、地域のコミュニティ形成をはかるものです。堀口さん、阿部さん、岩本さんや他の参加者たちはこの取り組みに興味を持ち、能代でも同じような取り組みをしたい!と考えました。

その想いを形にしたのが、「だんだん・のしろ」です。旧丸彦商店がある畠町通りの広い歩道を活かし、歩道に人工芝を敷き、その上に「ちゃぶ台」を設置することで、屋外なのにお茶の間でくつろぐように座って語り合ったり、ごろんと寝転んだりできる「心地よい空間」を創りました。訪れた人々には、「いつも歩いている歩道とは違う、非日常感が良かった」と好評でした。

岩本さんも、「だんだん・のしろの歩道で芝生に座ってみたら、すごく気持ちが良くて、ここで歩道を活用したハンドメイドのマルシェをやってみたい!」と考えるようになりました。

動き出す商店街プロジェクトへの参加者は、商店街を活性化させるプレイヤーとして成長していきました。

おなごりフェスティバルの終了~商店街で新たにのしろいちを開催~

このようにして、商店街は新たに動き出しましたが、2020年4月、新型コロナ流行の影響や担い手不足を理由に、長年続いてきた能代市最大規模の恒例イベント「おなごりフェスティバル」の終了が決まりました。

長年親しまれてきたイベントがなくなることになり、特に子どもや若者たちががっかりしているのを見た商店街の事業主らは、代わりになるイベントを作ろうと動き始めました。

それが駅前商店街を中心とした大規模イベント「のしろいち」の開催です。大通りを歩行者天国にして、キッチンカーや屋台、ハンドメイドマルシェやライブ、3×3バスケットボールなど、さまざまなコンテンツが用意されました。2021年10月に開催された第1回目は、ハロウィーンシーズンと重なったこともあり、仮装して参加する人たちや子どもなど、およそ1万5000人の来場があり、駅前商店街は活気であふれかえりました。

のしろいちには遠くからも人が訪れ、予想以上に盛り上がりました

ナイトマーケットの開催へ

岩本さんは、のしろ家守舎の協力を得ながら、2021年6月にマルヒコビルヂングで第1回「Creerマルシェ」として、ハンドメイド雑貨の販売やワークショップ子どもが撮影した写真の展示会を開催しました。「だんだん・のしろ」も同日に開催することで、マルヒコビルヂングは内も外も参加者で賑わい、その後の「のしろいち」開催につながっていきます。

一方で、のしろいちは規模が大きいため、準備や運営に時間と労力を要します。そこで、もっと日常的で手軽にできるイベントをやろうという機運が盛り上がり、イベントの企画について話し合うなかで、「金曜日の夕方から夜にかけてイベントを開催するのはどうか?」という意見が浮上しました。堀口さんには、子どもたちが放課後に自分たちだけで遊びに来られる時間帯(16時~)にイベントを開催することで、「子どもの頃にここで遊んだ」という楽しい思い出が残り、進学や就職で街を出ても戻ってくるのではないかという思いがありました。また、子育て中の女性の支援に取り組む岩本さんは、夜の時間帯だからこそ、出店や挑戦の新たな機会創出になるのではないかと考えました。そこで、だんだん・のしろと連携しながらCreerマルシェの夜版の企画を始め「Creerナイトマーケットinだんだん・のしろ」と名付けました。また、彼らがこだわったのは、行政のお金に頼らない「自走するイベント」です。自分たちでお金を出し合いながら準備を進め、開催にこぎつけました。
こうして2024年6月に開催された第1回Creerナイトマーケットinだんだん・のしろではハンドメイド雑貨の販売やワークショップ、飲食物の販売、キッチンカー出店のほか、歩道にベンチや芝生を活用したくつろげる場所も設けられ、普段は静かな夜の畠町大通りの歩道が幅広い年代の人々とお店の明かりで賑わい、「居心地が良い場所・時間」を作り出したのでした。

子どもが参加しやすいイベントになりました

官民連携で進む新たなまちづくり

堀口さんは2025年4月、移住定住推進課に異動しましたが、現在もプライベートな時間にライフワークとして商店街の活性化に取り組んでいます。

7年間の商工労働課での経験を振り返り、堀口さんは「何店舗のシャッターが開いたかという数字よりも、どれだけ多くの人がこのエリアで活動しているかが重要」と語ります。

能代駅前で始まったのは、単なるイベントではありません。一人一人の「やってみたい」という小さな熱意が種火となり、互いに寄り添い深く繋がり、やがて街全体を照らす大きな輝きへと変わっていく可能性を感じさせます。能代の駅前商店街の挑戦は続きます。

文:竹内 カンナ