秋田のアルファ・エレクトロニクス株式会社の抵抗器が世界の標準を変えた!

 昨年、重さの単位1キログラムの定義が130年ぶりに変更されました。この時、秋田の企業が重要な役割を果たしたのをご存じですか?

アルファ・エレクトロニクスという由利本荘市の会社です!正確に言うと本社は、東京都千代田区内神田なのですが、唯一の生産拠点が秋田。同社は主力電気部品の一つである抵抗器の専門メーカーです。

そして同社の開発した「標準抵抗器」が、キログラムを定義する方法を、パリに保管されていた「キログラム原器」を基準にする方法から量子物理学に基づく計算による方法に移行する時に使われたのです。

なぜ重さを測るのに抵抗器が必要なのかは専門的すぎるので省きます。ご興味のある人は、計量標準総合センターの基本単位の標準についてのページに説明がありますのでお読みください。

こんなすごい秋田の会社があると聞き、これは取材に行かなければと思い、まず、小笠原明夫社長に会いに神田本社に伺い、その後、工藤広喜工場長3人の標準抵抗器の開発メンバー、そして入社2年目の若手社員を秋田工場に訪ね、工場見学もさせていただきました!

抵抗器の世界

抵抗器は、主要電子部品の一つ。スマホをはじめあらゆる電子機器に使われています。日本国内で年間約1760億個が生産され、売上高は1010億円。平均価格はわずか0.57円なのですが、アルファの製品は、なんと平均300円。抵抗器の高級品なのです。しかし、これでスマホを作ったら100万円になってしまいます。スマホやパソコンでは活かしきれないほど高スペックな抵抗器なのです。

しかし、そうした精密な抵抗器を必要としている市場があります。アルファ・エレクトロニクスの製品はどんな環境でも安定しているため、太陽に照らされて120度になり太陽が隠れるとマイナス150度になる人工衛星や、地中深くにもぐり込みながらセンサーで温度や周囲の土壌の成分を測る資源探査の現場などで必要とされているのです。なんと米航空宇宙局(NASA)に製品を納入したこともあるのです!

アルファ・エレクトロニクスの歴史

同社は、約40年前、ある大手企業の関連会社からスピンアウトして誕生しました。この会社がアルミホイルよりもずっと薄いニッケルクロム合金の箔を使った高性能抵抗器を開発したのですが、いざ事業化という段階になって、それほど精密な抵抗器を事業化するほどの市場規模がないことが判明しました。しかし、その分野に特化した小さな会社ならその技術を活かせると、開発者たちが分離独立したのです。

アルファ・エレクトロニクスの抵抗器に使われる厚さ数ミクロンメートルの金属箔

抵抗器には、いくつかの種類がありますが、同社の抵抗器のように金属箔を使うタイプのライバルは、世界中を探してもイスラエルを拠点とするビシェイインターテクノロジー1社しかありませんでした。実は両社は2005年に経営統合し、その後、ビシェイが買収した数社の企業とともに2010年にVPGグループとして分社化し、4つの事業部体制で米国に上場しています。このVPGグループはニッチな市場を得意とする製品を各事業部が持っており、それぞれの得意分野でビジネスの拡大と社会貢献を目指す企業集合体なのだそうです。世界的な販売網を持つグループに入り顧客網や営業力を拡大しようという戦略です。以前からライバルとしてリスペクトし合っていたことから実現した関係です。

標準抵抗器の開発

アルファ・エレクトロニクスの抵抗器は、世界に類のない安定性が評価され、日本で計測技術の研究開発を専門に行う産業技術総合研究所計量標準総合センター(茨城県つくば市)から依頼を受け、二人三脚で「標準抵抗器」を開発、これまでの常識を覆す小さくて扱いやすい製品を完成させました。

左から伊藤順一工場管理部部長、熊谷誠弥開発部課長、工藤広喜工場長、座間松雄チーフエンジニア、須磨秀之開発部長

開発には、1979年の創業メンバーの一人で、特許を取得した研究にも携わった座間松雄チーフエンジニア、須磨秀之開発部長、熊谷誠弥開発部課長の3人が中心となり、計量標準総合センターの金子晋久主席研究員とタッグを組んで取り組みました。

複雑な標準抵抗器の仕組みについて、パワーポイントを使って極力分かりやすく説明してくださいました

従来の標準抵抗器は重さが5kgもあり、周辺の温度の影響を受けやすく、持ち運ぶと安定した値が出るようになるまで半日以上掛かったので、普段は油(!)の容器の中に保管しているのだそうです。その上、測定には高度なノウハウが必要で誰にでもできるものではなかったのです。

しかし、アルファ・エレクトロニクスの製品は、重さがわずか25g、コネクターを付けた測定器の形にしても130gと超小型な上、精度は従来のものより1桁上がり、保管も輸送も特に気を使わなくてよく、今までの苦労はなんだったのみたいな、もう笑えちゃうぐらい優秀な抵抗器なのです。特許も取得しています。

標準抵抗器の中はこんなにシンプル

計量標準総合センターの金子さんから話があったとき、そんな高度な要請に応えられないのではないかという不安がなかったかとお聞きすると、「実は前にも依頼があり、そのときは目標を達成できなかったのですが、どうすればいいかは分かっていたんです。ただ計量標準総合センターの協力なしに民間会社だけで続けるのは難しい研究だったので、しばらく棚上げになっていました」(座間さん)。実は、二度目のチャレンジだったのです。

どうすればいいか分かっていたと言うものの、研究を始めた最初の半年は失敗の繰り返しでした。いろんな条件を変えて何百回と実験をしても思うような結果が出なかったのですが、うまく行った時の条件をベースに他の条件を変えて試すうちに徐々に道が開けたそうです。

低い離職率

アルファ・エレクトロニクスは、神田の本社に小笠原社長ら18人、旧大内町の「秋田工場」(といっても他に工場はありません)と合わせて従業員数は約140人。設立当初は本社も工場も東京の向島にありましたが、手狭になり工場用地を探していた時、旧大内町の誘いを受けて同地に工場を建設しました。

1個1個の抵抗素子に切断する前の基板。この状態で刃先にダイヤモンドをまぶした切断刃を使って純水を流しながら1個1個の素子に切断します

東京は営業とファイナンス。旧大内町出身の小笠原社長は、入社2年後に東京に出て来た時、人口減少が進み、主な産業である農業の先行きに不透明感が漂う地元を支えるのだという覚悟だったそうです。

「過疎化が進むし、農業だけでは食べていけない、次の世代の若者が生活できないというので農家の長男も生活を支えるために勤めに出ざるを得ませんでした。わたしもそれを聞かされていたので、自分が注文を取って何としても秋田工場を潰さないぞという気持ちでした。それに工場の人たちも、ものすごく頑張ってくれました」(小笠原社長)

秋田の人は地味で根気のいる作業を丁寧にやってくれると小笠原社長は秋田人の粘り強さを絶賛していました。従業員の方たちも同社で働けることに対する感謝の気持ちが強く、最近、定年退職された方は、社員全員(東京の人にまで)自分の家でとれたお米をプレゼントしてくれたそうです。

若手のお仕事

菊地理人さん

若手代表として秋田工場の菊地理人さんにお話を伺いました。菊地さんは、秋田市出身で秋田県立大学では自動運転車の勉強をしました。地元での就職を考える中、インターネットで検索してアルファ・エレクトロニクスのことを知り、応募しました。現在は、開発部の熊谷課長の下で、標準抵抗器の製造過程への落とし込みの作業を進めているそうです。

今、取り組んでいる仕事は大学で学んだこととはかなり違う分野ですが、新しいことが多いので面白いそうです。将来は、自分で設計して、顧客に喜んでもらえる抵抗器を作るのが夢だと語っていました。

菊地さんに会社のどのような点が魅力かを聞くと、「上下のコミュニケーションがよくアットホームなところという答えが返ってきました。最近、会社の人に誘われて釣りに行くようになり、以前は怖いと思っていた先輩が実はいい人だと分かったそうです。(笑)

由利本荘周辺の釣り好きの間では、冬はハタハタ釣りが人気だそうです。ハタハタって網で獲るのだと思っていましたが、このあたりの岸壁では、冬場、釣り人たちがひしめき合っているそうです。同社には、朝、ハタハタ釣りに行ってから会社に来る人もいるとか。

取材を終えて

アルファ・エレクトロニクスには、市場規模は小さいながら同社の製品を必要とする顧客が確実にいる非常に恵まれた環境にあり、なおかつ海外企業との統合という大きな決断を下して世界市場で戦っているすごい会社だなと思いました。

◆アルファ・エレクトロニクスの紹介動画(由利本荘市商工会)

◆アルファ・エレクトロニクスのホームページ

◆秋田県就活情報サイト KocchAke!

取材・写真:竹内カンナ、じゃんご