【寄稿】新型コロナウイルスに対するココロの持ち方

臨床心理士の久保山武成と申します。1年前に東京から秋田に戻り、心理カウンセリングオフィスを開設しております。秋田県は、自殺率が全国1位になるなど県民の心の健康について問題を抱えています。しかし、実はカウンセリングを受けられる機関はかなり限られています。医療機関より敷居は低く、なおかつ高い専門性を持ったカウンセリングを提供したいと思い、カウンセリングオフィスをオープンさせました。

この寄稿では、新型コロナウイルスに対して、どういう心構えでいるのが良いかについて書きたいと思います。こういう時期に、ことさらに心理的な危険性を強調し、不安をあおることも良くないと思いつつ、多くの人が知っておいた方が良いこともありますので、その点について書きます。

ポイントは個人差の理解

新型コロナウイルスが蔓延して、皆さんの生活に変化が生じたのではないでしょうか。当たり前にやれていたことに不自由が生じ、ストレスに感じていた人も多いと思います。

ここでストレスについて少し説明します。ストレスは、一般的に使われるようになった言葉ですが、その特徴を十分に理解している人は少ないかもしれません。ストレスにはいくつかの特徴があり、その1つに個人差の大きさがあげられます。

同じ状況でも、負担に感じる人と、感じない人がいるのです。例えば、冬になって雪が降りだす状況について考えてみます。県外から移住した人にとっては不慣れなのでストレスを強く感じるかもしれません。しかし、秋田で生まれ育った人にとっては、慣れているので大きなストレスとはならないかもしれません。

ウィンタースポーツが好きな人にとっては、ストレスどころかワクワクするかもしれません。このように同じ雪が降るという状況に対しても、受け止め方はそれぞれ違います。

今、みなさん窮屈な生活を強いられているのですが、それも人によって受け止め方が違います。強いストレスと感じ、不安が高くなる人もいれば、比較的ポジティブに捉えている人もいるのです。

もちろん、新型コロナウイルスにより親しい人を亡くされた方や、仕事を失った方は、ストレスの質が異なります。

しかし、生活の変化によるストレスを感じている方の間でも、今後、受け取り方の差は、大きくなるかもしれません。

これまでは、どんな人にとっても経験したことがない事態でしたので、ほとんどの人は不安を感じていたと思います。しかし、問題が顕在化して3ヶ月ほど経ちましたし、地域によって差もあります。自粛も緩和されてきました。自然災害のときもそうなのですが、時間の経過と共に心理的動揺がおさまる方が増えてきます。

一方で、回復に時間がかかる方もおり、そのような方が「なんで自分は他の人みたいになれないんだ」と落ち込むことがあるのです。今回の状況でも、同じことが起こるかもしれません。その際にも、ストレスに個人差があることを理解していれば、不安がおさまらない自分に焦る必要はありません。また、周囲の人の言葉掛けも変わってくるかもしれません。

攻撃的な人間関係

少し先のことを書きましたが、今の状況に目を向けると、ストレスによって攻撃的になっている方が多いように思います。ニュースやSNSを見ていると、マスクをしていない人や自粛をしない人、つまり感染意識が低い人を攻撃する傾向があります。

不適切な発言をした人に対して過剰に攻撃する人も多いようです。そして、それらを見聞きすることに辟易している方もたくさんいるのではないでしょうか。もちろん、否定的な意見を主張することが悪いと言いたいわけではありません。それらの意見は、物事を正しい方向へ修正することにもつながっています。ただ、表現の仕方として、攻撃的になりすぎているようにも見えてしまいます。つまり、内容ではなく表現方法に問題があると思うのです。

怒りは、ぶつけられた人にもストレスがかかりますので、その人がまた別の人に対して攻撃的になることがあり、だんだんと、社会全体に広がっていく傾向があります。もしかしたら、こちらの方が、新型コロナウイルスよりも感染力が強いかもしれません。

では、どうして多くの人が攻撃的な表現になっているのでしょうか?心理学的にみると、怒りという感情は、それに先駆けて別の感情が生じていることがあります。例えば、子どもが学校に行かなくなってしまったとき、子どもを怒る親御さんがいます。しかし、それは怒りの前に、子どもの将来に対する不安という感情が喚起されていることがほとんどです。今回の場合も、怒りの前に未知のウイルスに対する不安、恐怖などの感情があるのだと思います。これらの不安を自覚しない、あるいは自覚しても放置していると、怒りのコントロールは難しくなってしまいます。その結果、表現が強くなり過ぎてしまうのです。

自覚し、共有することでコントロール

そう考えると、対処の仕方も分かってきます。怒りに先駆けて喚起されている不安を自覚すれば良いのです。自覚した後に誰かと共有することで、さらに落ち着きを取り戻します。学生の頃、試験前に「やばい!全然勉強してない!」「私もー。」と話した経験はありませんか?

このコミュニケーションは、不安を打ち明けて共有することにより、不安を低下させています。打ち明ける相手は選んだ方が良いのですが、今の状況について不安に感じていることがあるのなら、誰かと共有してみてください。それにより感情のコントロールはずいぶん良くなるはずです。

人間関係のポジティブな面も

ここまで今の状況についてのネガティブな面を書きました。しかし、ネガティブな面があれば、ポジティブな面もあるものです。イギリスでは最前線で戦う医療や介護従事者に感謝の気持ちを表すため、夜の決まった時間に庭やバルコニーに出て拍手をするというキャンペーンが行われているそうです。これはイギリスに留まらない広がりを見せています。このような大きな取り組みでなくても、大変なときだからこそ、誰かのありがたさを認識することや、ちょっとした助け合いが生じやすくなると思います。それによって心が少しだけ癒されることもあります。窮屈な生活によるストレスや、攻撃的な人間関係に辟易することもありますが、こういう状況だからこそ、本来、人間関係が持っているポジティブな面を思い出させてくれる機会にもなり得ます。できれば、多くの人にとってそれを再認識する機会になればと思います。

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◆久保山さんのブログ 「心の整え方」