秋田市の竿燈大通りを山王に向かって歩いていると右側に保育園や学童クラブ、福祉用品レンタルショップなど、壁や窓にさまざまな看板が掲げられたビルが目に入ります。きららホールディングスの本社です。9階建てのビルでいろんな施設を運営しています。
ゼロ歳から100歳まで
1階は保育園、2階は学童クラブ、習字、そろばん、ピアノ、バイオリン教室。3階は高齢者のためのデイサービス(通所介護)、4~7階はショートステイ(短期入所生活介護)、8~9階はサービス付き高齢者向け住宅になっています。同社はその他にも介護施設や訪問看護事業所、居宅介護支援事業所などを経営し、ゼロ歳から100歳までの生活や教育をサポートしています。
鈴木嘉彦社長は2005年にデイサービスやショートステイなど介護事業に参入、それから少しずつ事業を拡大してきました。このビルは、元々ホテルだったもので、それをリノベーションして活用しているのですが、結婚式場用の大きな宴会場だったスペースは、子供の遊び場になったり、高齢者のためのレクリエーションの催しが行われたりしています。
鈴木社長は、介護事業について、「私は元々、経営学部から銀行に入り、介護の仕事には特に興味を持っていたわけではなかったのですが、今は介護の現場ってすばらしいなと思っています。介護は多くの人に喜んでもらえる仕事ですから」と話されました。同社は鈴木社長のお父さんが経営していた不動産会社でしたが、業績が悪化し、再建を託された鈴木社長が時代の要請を踏まえて介護事業に参入したのです。
介護業界の人手不足で傘下施設が増加
社員数はこのビルだけで約200人、それぞれの介護施設の人員を含め総勢約270人。次々に施設が増えているのは、介護の担い手不足が非常に深刻で、必要な人員を確保できずに閉鎖や身売りを迫られる施設を傘下に加えてきたためです。きららは採用支援の会社を利用して人材を確保しているため、人手が足りず行き詰まった同業者から経営譲渡の話が次々に舞い込むのです。
介護職員の採用は随時行っています。また毎年、新卒2人の採用を続けています。どのような人材を求めているかについて、鈴木社長は、「利用者の方たちに思いやりをもって接することができれば、知識は後から付いてきます。基本はハート。経験がなくても問題ありません」と話されました。
県外展開
同社の理念であるゼロ歳から100歳までの居場所作りには共感する人が多く、他県からも進出の要請があり、近隣の県や首都圏での事業展開を視野に入れています。ただ、進出した地域の既存の介護施設と職員や保育士の奪い合いになったり、そうした介護施設の経営を圧迫してしまうことも懸念され、進出はそう簡単ではないとのことでした。
介護施設は、入所者の人数に合わせて最低の職員数が決められていますし、サービスの質を重視しているため、人は多い方がいい、でも採用しすぎれば採算が合いません。
また事業拡大のための資金調達のために、少し先にはなるそうですが株式上場も視野に入れています。
女性の活躍推進企業として表彰
それぞれの家庭によって違うとは思いますが、残業しなければならないと長く働き続けられない女性職員が多いため、今は女性職員が残業しないで済む体制を作ることを優先しているそうです。
そうした努力が評価され、同社は令和元年度「秋田県女性の活躍推進事業表彰」を受賞しています!
きららアーバンパレス
きららはシングルマザーへの支援にも力を入れてきました。シングルマザーとして働いているうちに再婚して大家族になった人もいれば、シングルマザーのまま、市内の一等地に立派な家を建てた人など、いろんな方がいらっしゃるそうです。
秋田は通勤にそれ程時間を取られず住居費も安いので、シングルマザーにとってもきららホールディングスは働きやすい職場なのではないかと思います。
太平に町づくりを計画
鈴木社長は介護施設に関連した事業を拡大するだけでなく、介護施設を核にした町づくりにも意欲を持っています。同社は太平山の麓の太平でショートステイやデイサービスなどを行うケアセンターきららを運営していますが、この周辺に県などの支援も受けて、さまざまなコミュニティの機能を付け加えていきたいと考えています。核となるのは道の駅で、スーパーや農家レストラン・カフェ、ドッグラン、保育園などを建設する構想です。
現在は、この計画を資料にまとめ、様々な方面に説明をしている段階。秋田出身で首都圏で働き退職した人や田舎で子育てをしたい世代を呼び込むため、首都圏の秋田県人会でも説明しました。
株式上場の夢
計画のための資金調達もあり、今、鈴木社長は、すぐにとはいかないものの、株式の上場も検討しているそうです。秋田県内には現在、3社しか上場企業がありませんから実現するといいですね。
鈴木社長は、このきららコミュニティ太平に建設するシェアハウスが、首都圏から移住してくる人たちの中継地点になることを期待しています。地元の事情が分からないため戻ることに二の足を踏んでいる人が多いため、情報収集をし、就職や最終的な落ち着きどころを探すための拠点にしてもらえたらと考えているのです。
この構想のまとめ役となったのが、総合企画課営業部の佐藤大樹さん。佐藤さんは、同社に入社して4年。最初の半年間は太平のケアセンターで現場を経験、その後、現在の部署に配属されました。以前は東京の大手企業でシステムエンジニア(SE)をしていました。東京で就職した時、秋田に帰ることはまったく考えていなかったのですが、母親が体調を崩し、祖母も同居しているため、父親の負担が重くなることを心配して地元に戻ることを決めました。
一流企業のスペシャリストとしての道を歩んでいた中で、住む場所も職業も変える決断は難しかったのではないかとお聞きすると、佐藤さんは「今、何のために仕事をしているかと言われたら、『親孝行のため』と答えます」と話されました。また、秋田で仕事を探すとき、これまでやってきたことを生かすより、これから取り組もうとしている家族のサポートに役立つことをやりたいと考え、介護の会社で働く道を選んだそうです。
佐藤さんが経営企画に移って最初に任されたのは介護タクシー事業の立ち上げ。何の経験も予備知識もない分野でしたが、所管は国土交通省だというところから調べ始め、車両を手配し、デザインを考え、すべて手探りで1年がかりでスタートに漕ぎつけました。介護タクシーには介護保険制度が絡むため、普通のタクシー会社とは違う難しさがあるそうです。
次のプロジェクトが、社長が熱く語っていたきららコミュニティ太平のプラン作り。県からの助成を受け、全国にあるいくつかの成功事例を視察に行き、計画を作成しました。様々な夢やアイデアがあり、まとめるのは大変だったようです。夢のコミュニティ作り、今後の展開が楽しみです。
若者へのメッセージ
最後に鈴木社長と佐藤さんに、若者たちへのメッセージをお願いしました。鈴木社長は、「これからは地方の時代だと思います、首都圏と比べ給料は安いかもしれないけれど家を持てるし、通勤距離は短いし、豊かな時間を過ごせます。それにインターネットの普及で秋田にいても自分の夢にチャレンジしやすく、何でも手に入る。ただ、外から秋田を見る視点は大事で、秋田に閉じこもっていてはいけないと思います」と話されました。
佐藤さんも同様に、若い人には首都圏の大きな会社で最先端の仕事に就いて、通勤電車にもまれる生活を経験し、しかし漫然とレールの上を走るのではなく、いずれは秋田に戻って東京で培った力を生かして、秋田にないものを作っていってほしいと思っているそうです。
◆きららホールディングスのホームページ
◆秋田県就活情報サイト KocchAke!(きららホールディングスの採用に関する詳細が掲載されています)
取材・文・写真:竹内カンナ・じゃんご