ソトコトの指出編集長が「関係人口」についてじっくり語ってくれた(1)

地方を元気にしたい若者のバイブル、雑誌「ソトコト」の編集長、指出一正編集長が1月31日、忙しい時間を縫って秋田産業サポータークラブのメンバーのために「関係人口」についてお話ししてくださいました。ちょっと時間がたってしまいましたが、さまざまなエピソードがどれも面白く、カットすることができず、ほぼそのまま書き起こしてしまいました!(笑) ただでも長いといわれるWE LOVE AKITAの投稿の中でも最長不倒間違いないので3分割でお送りします。

指出さんは、若者たちと一緒に全国各地に行き、若者が持つエネルギーが、彼らと触れ合った地元の大人に伝わって、地域を活性化するエネルギーに転じるのを感じています。では、指出さん、よろしくお願いします!

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ソトコトという雑誌の編集長をしている指出といいます。秋田は大好きで一年に何度も行っています。日帰りで大館能代空港を使っています。主な目的は渓流釣りです。でも仕事で行ったり秋田の若いローカルヒーローの人たちと親交を深めています。なので秋田のお役に立てることなら何でもと思い、先ほど、島根県の益田市からやってきました。週のうち5日から6日は東京にいません。6日間で9回、トークイベントをやっています。1日に3回やっています。やりすぎです。でもそのぐらい「関係人口」に興味を持っている人が多いので共有できるものは共有するのが僕の責務だろうなと思っています。きょうは、関係人口、それからローカルベンチャーの新しい働き方の話をさせてください。

今、僕は秋田の湯沢市からお声を掛けていただき、また2月10日に湯沢に行きます。ゆざわローカルアカデミーというのを立ち上げました。これは湯沢に関係人口を作るという講座です。湯沢市の市役所の村山さん、阿部さんからお声を掛けていただきました。

Facebookから

講座には、こんなかわいらしい方たちが集まりました。最後は神田錦町の「Foodは風土から」でやりました。真ん中の大関羅捺さんは横浜市立大学でまちづくりを勉強していて、2月の連休に湯沢で(特製カレーを作って地元の人に振る舞う)カレーイベントを開きます。これが関係人口です。地域の盛り上がりを遠くからでも作れる人たちが現れ始めました。

そういう人たちを関係人口と呼び、注目されていったのが2016年でした。

関係人口とは?

それ以前から関係人口という言葉を使っていたんですが、たまたま2016年に出版した僕の著書『ぼくらは地方で幸せを見つける』の中から国や地方自治体の担当者がこの言葉を見つけてくれました。人口減少が止まらないなか、この考え方を一つの主軸にしようということになりました。内閣官房、総務省、環境省、農林省、国土交通省、さらに財務省からも、ヒアリングに呼ばれました。それほど国は困っているんだなあと分かったわけです。

2011年3月に編集長になったとき、地域のことに楽しみを感じる若い人たちに、もしくは地域に出会えてないけど、東京ではないところにかっこよさを感じる人たちに、僕はローカルの美しさと豊かさを伝えようと思いました。それでソトコトをモデルチェンジしました。それまで発信していた、ミーハーに捉えられがちだったロハスなどのような(バカにしているんじゃありません。そもそも僕がロハスの担当だったんですから)、あまり大きなくくりではなく、目の前にいる誰かを幸せにすることから何でも始まるはずだからと考えて、もっとコミュニティーに寄り添った雑誌にしようということで2012年にフルモデルチェンジしたんです。そしたら思いっきり売れなくなりました。会社で「指出、やる気あるのか」と言われました。当時の販売や広告のメンバーから「編集長を辞めたほうがいいんじゃないか?」と暗に示されました。「韓流の特集でもやって早く売り上げ伸ばしてくれ」とも。でもくじけないで作ったのが、「若い農家が日本を変える」という号でした。

木楽舎ウェブサイトから

これは1週間で完売し増刷がかかりました。それからは快進撃とは言わないまでも、地域の若い人たちと都市の若い人たちとが出会うきっかけとなる媒体として評価が高まりました。

今、僕は環境省からの依頼を受けて、SDGs(持続可能な開発目標)と「地域循環共生園」のことをわかりやすく各地のみなさんに伝え、実践する人を増やしていくために、全国10カ所を回っています。「SDGsローカルツアー」です。きょうはそのツアーで島根県益田市に行った帰りになります。大きな人数に伝えるのではなく、小さく、その地域の20人から30人ぐらいに想いがしっかり伝わればと考え、各場所を回ろうとしたのですが、申し込みを受け付け始めたとたんに10カ所のうち8~9カ所が満員になり、定員を大幅に上回る参加人数となりました。その10カ所は僕が大好きな場所なんですが、秋田県も選ばせてもらいました。秋田市にある亀の町ストアです。3月に伺います。(新型コロナウイルスの影響で、これはとても残念なことに中止になったそうです)

そこで伝えたいことは、ここにあるキーワード。「誰かの尺度とか価値ではなく自分が楽しいとか幸せだと思うことを自分の真ん中で作り切れればいい」。そういう話をしに行くんですが、ものすごい人数の若い人たちが来てくれます。地元の市長さんがびっくりします。「なんでこんな若い人たちがまちづくりに興味あるんだ。指出さん教えてくれ」と言われました

「教えますよ、簡単です」と答えました。違うレイヤーにいるんです。でもそのレイヤーに届けられないから、まちづくりが伸びないだけです。若い人たちは、まちづくりがやりたいわけではありません。自分の子供を大事にしたい、彼女や友達を大事にしたいのです。それが結果的にまちづくりになっていく。もし、そういう町になりたいなら、その町に住みたいなと思えるようなメッセンジャーが必要です。だから僕はそのメッセンジャーとエバンジェリストをやっています。

関係案内所

今年、創立150周年を迎えた日本を代表する企業グループ(三菱)から依頼を受けて、場づくりのプロデューサーをやっています。こちらは「マイクロフード&アイデアマーケット」です。東京の千代田区有楽町に2019年12月にできました。かっこいいんですよね。「このあたりの若い人たちは優秀だけど、道をはみ出すようなことをやらなくなった。だから、日本がつまんなくなった。はみ出すような若者を作る場所を有楽町に作りたい。それを作るのに日本を代表する変態を集めたい。指出さんも入ってください」というようなコンセプトです。

「わたしは変態じゃありません。どうみてもそうじゃないでしょう」と思ったんですが、ローカルを紹介する変態として、日本の各地域の大字(おおあざ)とか字(あざ)などに見られる美しい地名のついた地域の豊かなものを有楽町に表出させる一人を務めています。

ここは「関係案内所」です。これは造語です。「観光案内所」ではなく、人と人との関係を案内する場所です。これこそ日本の地域に必要なものだと思います。この言葉も、国の第2期の「まちひとしごと総合戦略」のキーワードに取り入れられました。確かにそうなんです。今、関係人口を作る上では関係案内所がその町にあるかどうかが大事です

この「SAAI(サイ)」も、もうすぐできるんです(2020年2月14日オープン)が、電力連合という電力関連の会社の偉い人たちが集まっていた場所をリノベして、そこを若い人が起業を目指す場所にします。

ここに僕のスタジオもあります。プロデューサーは僕だけでありません。みんな変態です。リーダーは古田秘馬さん。六本木に田んぼを作ったり、新潟にダブルデッカーのバスを走らせ、スローツーリズムを作ったりした人です。映像作家、建築家、僧侶、けん玉パフォーマーなど、秘馬さんのもとに魅力的な変態が集まり、日本を面白くするアクションを有楽町から作っていこうということで今年から始動します。

若い人がいっぱい来てくれます。まちづくりとか社会福祉、教育ってしんどくて避けたいものという印象ですが、それは違うんじゃないかと、ソトコトと20年間伴走してきて思っています。おしゃれな男の子や女の子がこういう社会課題に面白がって突っ込んでくるそういうレイヤーがあるんですよね。

2月に大分県から依頼をうけた、関係人口のプログラムがあります。大分県は鋭い。プロモーションを組んだパートナーが、青山のスパイラルのチームです。

Facebookから

youtubeで温泉県の動画流れましたよね。知事が公約で遊園地作るとかいいましたが、あれで注意喚起したあとに彼らがシフトしたのが関係人口でした。youtubeでバズった。その後に、実際に大分を訪れ、大分を好きになり、大分との関係を紡げる人を増やした。そこから大分で会いましょうというプロジェクトが生まれ、今年は初めて関係人口を考えるサミットが開かれる。僕がモデレーターをやらせてもらい、登壇する人たちも選びました。

官能都市ということばはご存知ですか?これは大事な言葉です。日本の都市を語る上で官能都市であるかどうかは大きな分かれ目です。例えば静岡県には静岡市と浜松市がある。浜松よりも静岡のほうが官能都市なのだそうです。なぜか。身体性と関係性を伴った町がそこにあるかどうかです。そういうことをHome’s 総研所長の島原万丈さんという人が提唱している。官能都市という本もありますので読んでみてください。関係人口を世に出してくれた僕の尊敬するジャーナリスト田中輝美さんと小布施に若者が来る流れを作った小布施若者会議の大宮透君、創生すべきは地方ではない、創生すべきは人の流れだと「流動創生」を提唱する荒木幸子さん、そして気仙沼の唐桑半島に社会人1年生で移住した女の子のグループ「ペンターン女子」のリーダー根岸えまさん、それから大分のクリエーターの人たち。このサミットが関係人口を考えるうえでの起点になるんじゃないかなと思います。

(続く)

 

◆取材・記事:竹内カンナ