秋田県能代市、大館市と秋田市で5つの介護施設を運営するあきた創生マネジメントを取材させていただきました。施設を利用する高齢者が施設で幸せに過ごせる場所を提供するため職員が互いに学び合うことに力を入れており、創業者で情熱的な阿波野聖一代表取締役が率いる、向上心にあふれ、介護という仕事を好きになることができる職場だという印象を受けました。
ICT(情報通信技術)の導入にも積極的です。見守りロボット(排泄・バイタルセンサー)の活用、リモート勤務も可能です。また、副業を認めており、多様性に富んだ働き方ができます。
「心を創る」
同社がミッションとして掲げるのは「心を創る」。この言葉には、阿波野代表の介護を通した人づくりの考えが込められています。
「人間は、常に生き方をアップデートしていかなければならない。そうしないと皆が同じ気持ちで進んでいくことができない。社会や時代の変化によって自分の視点を変えていかなければなりません」
阿波野代表が次々に打ち出す新しい取り組みが現場を活性化させています。
将来、日本の介護で重要な役割を期待されている外国人技能実習生の受け入れにも積極的で、インドネシアからの技能実習生を3人迎え入れています。
運営する施設
阿波野代表は、東日本大震災の後、支援に行った女川や南三陸で介護の厳しい現実を目の当たりにし、故郷の秋田と重ね合わせ、地元に帰って介護事業をやろうと決意しました。
同社は、能代市、大館市で介護の必要な高齢者を数日間預かるショートステイや日中だけ預かるデイサービスを運営しています。前回、WE LOVE AKITAが取材した時は3施設でしたが、2019年に株式譲渡で秋田市の住宅型有料老人ホームと訪問介護を行っている2つの施設を譲り受け、現在は5施設で、約80人が働いています。
〇 ショートステイ輪(能代市)
〇 ショートステイ縁(大館市)
〇 認知症対応型通所デイサービス ゆいまーるの家 (大館市)
〇 住宅型有料老人ホーム ごしょの (秋田市)
〇 訪問介護 ろいやる秋田 (秋田市)
同社のビジョンは、「『オモイ』に寄り添い『イキル』を共に創り 『アカシ』を繋ぐ」。施設の利用者である高齢者ひとりひとりをよく知り、その人らしい生き方ができる場所を作り、その人の生きた証を次世代へ繋ぐことを目指しています。
開設当初からのメンバーで、県北の施設を統括するリーダーを務める伊藤要平さんは、「うちでは利用者様へ『寄り添う』という言葉をよく使いますが、『向き合う』のではなく同じ方向を向いて進むことを大切にしています」と話します。利用者の目線で同じものを見ながら支えていく姿勢を感じました。
伊藤さんは、同社の魅力について、多様性に富んだ働き方ができる態勢を整え、ICTや副業の導入にも積極的で、外国人技能実習生の受け入れにも率先して取り組んでいることを挙げました。
「技能実習生とは家族ぐるみのお付き合いをしていて、休みの日に実習生がナシゴレン(インドネシアの炒飯)を作ってくれたりしたことがあります。コロナ禍で出かける機会が少ないですが日本のよさを体験してもらいたいと思っています」
新たな取り組みに積極的
ICT技術は今後、介護の現場に欠かせないものになると見込まれますが、まだそれほど導入は進んでいません。しかし、あきた創生マネジメントでは、現場では見守りロボット(バイタル・排泄センサー)を使い、情報共有の手段としてはケアコラボ、LINE WORKSを使ってきめ細かいコミュニケーションに努めています。最近は、BONX(インカム)を導入、常に連絡し合える仕組みになっています。こうしたテクノロジーによって、人数以上のサービスの提供が可能になっています。
AAB秋田朝日放送のトレタテ!「期待の介護ロボット 県内での普及は進むか」に創生マネジメントの取り組みが紹介されました。
「共育」
同社は、スタッフに対する教育にも情熱的に取り組んでいます。同社に就職して3年を経過し、キャリアアップの意欲のある人に対しては、自ら考え行動できる『自律型人財』への育成を目指し、資格取得を支援したり、個人に合わせた教育プログラムを作り、毎月定期的な研修を行い、「どこに行っても通用する人財」に育てます。
同社では、教育というのは一方通行ではなく、教える側も教わる側も育つものであると考え、それを「共育」という言葉を使っています。教える側も伝え方を増やすことが求められており、そのためには学びが必要です。学びを継続し、リーダーとスタッフが思いを共有することによって一緒に働きたい人が増えるという良い循環が起きます。
下の動画は、スタッフの方が作成した同社のイベントのショートムービー。こんなのをササっと作れるなんてデジタルリテラシーの高さがハンパない。
実習生の資格取得も支援
日本では今後、介護の必要な高齢者が増加する一方、介護人材の確保が難しくなり、外国人材の受け入れが進むと予想されています。
あきた創生マネジメントでは2019年11月にインドネシアから技能実習生3人を受け入れました。技能実習生の制度は日本で習得した技能を母国で活かすことを目的としているので期間は最長5年ですが、同社では、技能実習生が、いったん帰国したのちに再来日し、実務者研修を受け、国家資格である介護福祉士になれるように、来年(2022年)3月に外国人専用の実務者研修学校を開設する計画です。
大変といわれる介護の仕事で自分を試したい
入社2年目の介護スタッフ、田川葉月さんにお話を聞きました。この仕事を選んだのは、人と関わる仕事がしたかったことに加え介護の仕事が一般的に大変だと言われているので自分を試したいと思ったから・・・というから頼もしい。
県内への就職を決めたのは、自分を育ててくれた地元に恩返しをしたいと思っていたことと、家族をそばで支えたいと思ったから。高校の企業説明会でアットホームな雰囲気を感じたことに加え、チャレンジを奨励する社風を感じたことが、多くの介護施設からあきた創生マネジメントを選ぶ決め手になりました。
実際に入社してみて感じたのは、回りのスタッフの優しさ。分からないことを聞くと「自分はこうしてるよ~」とか「こういうやり方もあるよ~」と、田川さんのやり方を認めながら視野を広げてくれるアドバイスの仕方に感謝したそうです。
また、「頑張ってるね~」とか、「無理すんなよ」と、ことあるごとに気にかけてくれているのを感じ、安心して仕事ができる職場だと語っていました。インタビューでも田川さんの真面目で頑張屋な性格が伝わってきました。
田川さんはシフト制で働いています。遅番のシフトの典型的な1日はこんな感じです。
働き始める前、田川さんは介護の仕事が大変だと言われるのは、体が不自由な高齢者をベッドから抱きかかえて車いすに移したり、入浴させるというような力仕事や排泄物の処理だと思っていました。しかし、実際に働き始めて、そうしたこと以上に大変なことがあることに気づきました。それは利用者に満足してもらうこと、楽しんでもらうことです。
家に帰りたいのに帰れず不安を感じている人や、ケアに対して拒否する人がいます。その日によって反応が違う人もいます。利用者の方たちをよく見て、気持ちに寄り添ったケアをしていきたいと思います。
趣味はドライブ。休みには海を見に行ったり、温泉に行ったり。また、先輩たちと食事に行ったり一緒にスポーツをしにいったりもしているそうです。
田川さんは将来について、「夢はたくさんあります。介護のほかに飲食系や心理学も学びたい」と学びへの意欲を示す一方、「何らかの形で地域に貢献していきたい 」と、仕事以外でも地域のことを考えています。
「食を通して季節を感じられるようにガンバります!」
同社のウェブサイトのブログを見ていたら、畑で栽培した大根葉でお味噌汁を作ったり、昼食にご近所さんからもらった枝豆を茹でたり、だまっこ(ごはんを半分潰して丸めたもの)を作ったり、キクのおひたしを作ったりしている様子が投稿されていました。
秋田なら農産物はそこら中にあるし当たり前のように思えるかもしれませんが、利用者に旬のおいしい野菜を食べてもらいたいという優しい気持ちに加え、食材を育てたり、手配したり料理する手間を惜しまない実行力が必要。どれだけの高齢者施設でそれが実現できているだろうかと思いました。
副業とテレワーク
同社では副業やテレワークも認めています。副業には、社内副業と社外副業があり、社内副業は、他の職種の経験を積む機会を与えることを目的としています。形だけみると、他の事業所で別な仕事をしているだけのように見られるかもしれませんが、もちろん自ら希望した人が対象です。社外副業については農業とか地域活動に使ってもらうことを念頭に仕組みを整備しました。現在、一人が、この制度を利用して地域活動をしているそうです。
テレワークについてはハードを揃え社内規定も整備しました。実際の運用はこれからですが、まずは社内でテレワーク時間を作っています。そこで試して、それから実際に自宅での運用に入る予定です。事務スタッフや管理職、相談員の業務などがテレワーク利用可能です。
介護施設の仕事は、そこに行かなければできないと思っていたのですが、テレワークが可能な業務も多いはず。常に考え続け、チャレンジし続ける同社の姿勢が表れています。
阿波野代表は、「若い世代には会社に依存し指示を待っているのでなく、自ら未来に希望を見いだせる人に育ってもらいたいと思います。あきた創生マネジメントでは、それが可能だと思っています」と語り、介護を通じた「共育」によって「人財」を育成し未来に貢献したいという思いを感じました。
取材:工藤直之・竹内カンナ 文:竹内カンナ
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