愛知県の自動車部品メーカー、大橋鉄工の大橋雅史社長ら役員3人と若手社員2人をオンラインで取材させていただきました!
同社は、横手市に大橋鉄工秋田を設立、2017年からパーキングロッドなどを生産し、トヨタ自動車やアイシンに納めています。
大橋鉄工秋田の誕生は、自動車業界を巡る大きな環境変化とも関わりが深いので、最初にちょっと最近のトヨタ自動車を中心とする自動車産業のトレンドについて説明しておきます。
この10年、秋田をはじめ東北地方にトヨタ自動車系列企業の進出が続いています。大橋社長によると、同社が秋田に工場を建てることを決定した最大の理由は、BCP(事業継続計画)のためでした。ビーシーピーというのは、災害時などに製品の供給責任を果たすための計画です。
愛知県は南海トラフ大地震が懸念されており、万が一、懸念されている規模の地震が起きた場合、甚大な被害が予想されます。しかし、それほど大きな災害でなくても最近は大雨などのたびに自動車のように多くの部品を必要とする製造業の生産が影響を受けます。というか今まさに、コロナ禍で半導体不足が起き、自動車生産が減少しています。なにせ自動車は総部品数が2~3万個もあるので、そのうちの一つでも在庫がなくなると大騒ぎになります。大橋鉄工が愛知県で製造している製品の中には世界シェアが15%にも上るものもあり、製品の供給責任を果たすため製造拠点の分散が必要と判断、秋田への進出を決めたのです。
日本経済を支える自動車産業。自動車メーカーだけでなく部品サプライヤー、販売会社、メンテナンス会社など関連産業の裾野が広く、日本国内で550万人が働いています。
その自動車産業は今、百年に一度の変革期にあると言われています。最も大きな変化は電動化。ガソリン車から全世界が電気自動車へと転換しようとしています。もう一つは自動運転技術の向上。最近の自動車は多くのセンサーやカメラを備え、多くの機能を電子機器によって制御され、安全性も向上しました。また水素で走り、水しか排出しない燃料電池車も実用化されています。こうした自動運転技術や電動化など自動車業界の大きな変化は、まとめて「CASE」(Connected、Autonomous/ Automated、Shared、Electric)と呼ばれていますので覚えておきましょう。
そうした大変革の中、2012年にトヨタ自動車グループの小型車生産の中核として宮城県大衡村(おおひらむら)に本社を置くトヨタ自動車東日本が誕生。それを受け、地元企業が自動車部品を造り始めたり、おひざ元、中部地方の部品サプライヤーが東北に進出してきたりしています。大橋鉄工の横手進出にはそういう背景もあります。
大橋鉄工は横手市でトランスミッションの部品であるパーキングロッドやボンネットを開けた際に支えるフードサポートなどを製造しています。
こうしたトヨタ系列のサプライヤーの大移動によって東北地方の輸送用機械製造業の出荷額は、2010年と比べコロナ禍前の2018年には67%も増加していました。
大橋鉄工が日本の機械産業が分厚く集積した愛知県から秋田に進出するに当たっては苦労もあったようです。愛知ならパートナー企業に依頼できたメッキなどの加工で、同社が求める基準を満たすことができる会社が秋田県内にはなく東北全体まで範囲を広げても見当たらず、内製化まで考えた末、愛知から運んでくることにした部品もあるそうです。
大橋鉄工秋田の現在の規模は45人(2021年12月現在)ですが、新たな自動車部品の受注を受け、工場の規模を2倍に拡張する工事を進めており、今年(2022年)5月にも稼働させる予定。雇用も10人増やすそうです。
「ここには秋田の未来のため、自動車産業の未来のため、一生懸命勉強して技能を習得して挑戦していく仲間がいます。日本の産業構造を支える自動車産業で働くことができるというのは、大橋鉄工秋田で仕事をしていく面白さでありやりがいではないかと思います」と大橋社長は語ります。
同社は横手の工場で高い基準を満たす製品の生産を行うだけでなく、意欲のある地元の企業に同社の持つ技術を広げていきたいと考えているようです。
現在、大橋鉄工は、2022年度の新卒で、製品設計や開発を行う技術職、設備計画、設計、導入を行う生産技術職、および、生産、出荷計画作成、進捗管理、総務(経理、人事)を担当する事務職、それぞれ2名募集しています。高専卒、大卒以上で、既卒者の応募もOKです。
必要なスキルとしては、技術職については機械工学、電気電子工学、事務職は法学部、商学部の卒業生を歓迎するとしています。
気になる年間休日は119日で、長期連休もあります。残業は月平均20時間となっています。1日にすれば1時間程度。有給休暇の平均取得日数は6日。
同社も初めからすごい技術を持っていたわけではないようです。江口邦彦執行役員によると、1917年の創業時は自転車修理の会社でした。
しかし、その後、1934年に、日本で初めて自転車用の空気入れの量産ラインを立ち上げました。その空気入れがトヨタ自動車の目に留まり、トラックに搭載する空気入れを納め始め、売り上げが急増しました。1970年代初頭は円高の進行で輸出が打撃を受けましたが、トヨタから丸棒を使って部品を造れないかと打診されたのをきっかけに、自動車部品の製造にシフトしました。
◆大橋鉄工の歴史を紹介する動画
そして、トヨタのサポートを受けながら、自動機械を入れたり、CADやCAMのシステムを導入したり、トヨタ生産方式(TPS)を教えてもらったりしながら、次第に技術の水準を高め、系列会社の表彰制度でいくつもの賞を受賞しています。
トヨタさんからは、良い人、良い道具、よいパートナー、この3つが合わさって良いものづくり経営ができると教えていただき、それを基礎としてこれまでものづくりに取り組んできました。われわれが愛知県で学んできたものづくりの文化をしっかりとこの横手にも根付かせたいと思います(江口執行役員)
横手に根付かせてください。よろしくお願いいたします。
調達関係を担当されている江口さんは、コロナ前は月に1回程度、愛知から秋田に出張してきていました。最初に来たのが大雪の時だったそうです。横手の社員たちが遅れてはいけないと早めに家を出てすごく早く会社に着いて待機してくれていることに非常に感銘を受けました。
こうしたことが影響したのでしょうか?同社はなんと全社員のために駐車場に屋根を付けてくれたのです!
秋田の雪の多い地域では、雪が降ったら30分早起きして雪かきをし、会社に車をとめてから帰るころまでに車が雪に埋もれて雪かきをしないと車を出せないこともたびたびですから、屋根付き駐車場はめちゃ嬉しい。
大橋雅史社長は、「屋根を付けようということになったのは、2017年から現在に至るまで秋田の社員の皆さんが頑張ってきてくれたからですし、将来に向かって期待を持たせてくれているからでもあります」と語っておられました。
工場の増築の際には、女性ロッカールームにドレッサー(化粧台)を設置しました。ロッカールームも広くなり女性社員に大好評だそうです。ロッカールームの一部はくつろげるように畳敷きにしたそうです。
東北に工場を設けたことで、同社は、BCPの観点から全く違う状況への対応も必要になりました。数多くの部品を必要とする完成車工場は部品が一つでも足りなくなると停止してしまう可能性が高い。南海トラフ地震でトヨタ自動車の完成車工場が被災したり、ほかの部品メーカーが被災した場合、大橋鉄工がいくら部品を生産しても売れなくなってしまいます。
同社はそうした場合に備え、秋田で主力自動車部品以外のものを造ることも検討し始めました。いろいろ模索していた時に、秋田県産業技術センターが持っているレーザー焼き入れの技術を使えないかということになり、共同研究を行っているそうです。部品の熱処理に高周波焼き入れ技術を使うと熱ひずみというのが生じますが、レーザーだとひずみが少ないのだそうです。
大橋社長は、初めて秋田県庁に行った時、この技術のことを知り、すぐさま共同研究を申し入れました。2023年に実用化を目指しており、実現すれば世界初ということになるそうです。現在、経済産業省の戦略的基盤技術高度化支援事業の補助金を使って開発中です。
大橋社長は、この技術は自動車部品だけでなく異なる分野のものづくりにも役に立つと考えています。
また、秋田で生産する自動車部品以外のものとしては、愛知では社内で作ったり協力会社に発注している製造工程で必要になる型などの道具作りも考えており、これも他の業界にも売っていこうと考えているとのことでした。
同社の経営理念は、「世のため人のためになるものづくりで社会に貢献しその喜びと誇りを分かち合っていく」。同社の進出が刺激になって秋田の製造業によい影響が及ぶような気がします。
カーボンニュートラルへの取り組み
同社は、カーボンニュートラルにも積極的に取り組んでおり、秋田でも工場や事務所のエアコンの消費電力を抑えるために工夫をしているそうです。
カーボンニュートラルの実現は簡単ではありません。お金も掛かるし新しい技術の導入も必要です。愛知でも大変ですが、秋田でもそういうところをサポートしていきたいと思っています。
社長から就活生に向けたメッセージをいただきました。
自動車産業は100年に1度の変革期を迎えています。大変ではありますが、この大変革を業界の一員として見守っていけるというのは本当にすごいことじゃないかと思っています。そういうことに興味を持って若い人たちに来てもらえたら大変嬉しく思います
女性社員の働きやすさについては、木村好美執行役員にうかがいました。
女性が働きやすい環境を整備しています。保育園のお迎えの時間を考えて通常8時間の勤務時間を6時間にできる制度も設けていますし、通常勤務の方でも用事がある時には早退したり、勤務時間をずらしたりすることもできます
秋田では事務部門だけでなく製造現場にも数名女性がいるそうですが、重いものを無理なく持てるようにしたり工夫をしているとのことでした。
大橋鉄工秋田の若手社員に聞く
佐藤勇太さん、愛知の工場で加工技術を修行
佐藤勇太さんは、入社3年目。刃物を回転させて金属や木材を切削するフライス盤やドリルなどを取り付けて穴を開けるボール盤を使って鉄やアルミの材料に穴を開ける加工をしています。大橋鉄工を志望したのは、パーキングロッドという自動車に不可欠な部品を製造している会社であり、高校で学んだ技術が生かせると思ったからとのことでした。
高い精度が求められる難しい仕事ですが、少しずつ腕が上がっているのを感じています。初めての加工は先輩に教えてもらいながらやってみて、その後は、自分で考えて応用したりしながら加工しているそうです。
始業は午前8時ですが、早めに出社して機械を暖める暖気運転をして作業に入り、その後はずっと機械の前で作業しているそうです。ランチは、コロナのせいで集まって食堂で食べるのが難しいため、それぞれに持ち場で食べることが多いそうです。昼休みは午後0時半から1時15分と短いですが、その分終業時間は午後5時15分と早く帰れます。
出身は湯沢市で、実家から車で通っています。冬場は少し時間がかかりますがそれでも30分程度だそうです。
佐藤さんは愛知の本社工場に2年間、出向していました。本社工場への出向は1年に1人ぐらいで、長い人では5年も行っている人もいるそうです。初めて実家を離れて慣れない環境で加工技術を学び、鍛えられたなーと感じていると語っていました。
休みの日にはラーメン店巡りを楽しんでいるそうです。大仙市ぐらいまでは足を延ばします。お気に入りは湯沢市のトラガス。調べてみると看板を出していないのに行列があるのでそれと分かる名店らしい。
将来の夢をお聞きすると、加工技術を高め、安全・品質・生産性の高い作業手順を自分で見付けて、その技術を後輩に教えられるようになりたいそうです。
就活生に向けて「お客様の命に関わる大事な製品であり、とてもやりがいを感じる仕事です」と語っておられました。
高橋涼太さん、通勤は車で10分
次に高橋涼太さんにお話をお聞きしました。入社2年目。出身は地元の横手市で、会社から車で10分程度のところだそうです。パーキングロッドに溶接機などで別の部品を接着したりする加工を担当しています。
会社は、とても雰囲気がよく困っているとすぐに助けてくれると話していました。日勤と夜勤が1週間交替。夜勤は午後7時半から朝4時半まで。生活のリズムを作るのが大変そうですが、高橋さんは寝られなくなったりすることもなく1週間ごとの昼夜逆転生活に順応しているとのことでした。
就職して1年10カ月、自分の担当する仕事は自信を持ってやれるようになりました。さらに技術を磨いてどんな仕事でも人に頼られるように頑張っていきたいと語っていました。
自由な時間はYouTubeなど動画を観たりして過ごしているそうです。
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トヨタをはじめとする自動車産業の生産方式は非常にレベルが高く、かなり厳しく、新規にサプライヤーになるためには非常に高いハードルがあるそうですが、この自動車産業の変革の波はやる気のある製造業にはチャンスです!秋田の製造業の技術の向上につながってほしいと思います。
取材:工藤直之、竹内カンナ
文:竹内カンナ
◆大橋鉄工秋田のホームページ
◆秋田県の就職情報サイト「KocchAke!」の大橋鉄工秋田のページ