コロナ禍をチャンスに変えた由利本荘市の若手リーダー

由利本荘市でスポーツバー「GARAGE」を経営する橋島達也さん(35)は、コロナ禍で来店客が激減した時、抜群の行動力で地域の飲食店のためにフードデリバリーサービスを実現し、注目を浴びました。また、コロナで沈滞した空気を盛り上げようとイベントや花火を企画するなどして、若手リーダーの一人として期待されています。

羽州浜街道の由利橋にほど近いGARAGEの店舗で、橋島さんにお話をお聞きしました。

フードデリバリーサービスの実施

橋島達也さん

コロナ禍で、飲食店だけでなく多くの業種が休業しなければならなかった時、デリバリーサービスが必要だと思ったんですね。でも、都会では大手のフードデリバリーがはやっていたのに、地方にはなかった。なぜないんだろうと調べてみると、地方では通用しない理由が分かってきました。だったら地方でも通用する形にして自分でやろうって思ったのがきっかけです。

他の人も考えそうなことなのになかなか始めない理由の1つ目は、配送業の許可とかがたくさんあるからなんです。自分の店の料理を運ぶのはいいんですが、他の店の料理を運ぶにはいろんな許認可が必要です。でも、あの時はコロナ禍だったせいもあって、いろんな人が協力してくれて、思い付いてからたった1週間で許認可を揃えることができました。

理由の2つ目は、上乗せされる配達料が高いからです。大手のフードデリバリーは、店によってはメニュー価格の半分ぐらいを配達料として上乗せするんです。でも、田舎だとそんな値段ではお客さんは利用しないですよね。だから旧本荘市内だったら100円で配達しますと提案しました。そうやって5軒の飲食店と契約してスタートしました。

コロナの時は、従業員を抱え、売り上げがなくても給料を払わなければいけない居酒屋が一番困っていると考えたので、加盟してくれた居酒屋が料理を作り、自分と同業のバーの店主や従業員で配達をやろうと声をかけました。配達員の給料は自分が借金して払えばいいって思っていました。自分としても客が来ないのでやることもないし、誰もやる人がいないデリバリーをやれば評判になるだろうからコロナを逆手に取って宣伝しようという読みもありました。

実施のためにいろんな許認可を取りました。車に軽貨物を載せられるように構造変更して運輸支局で貨物登録をし、さらに食べ物を運ぶための保健所の許可も必要で、各種保険も掛けなければなりません。初期投資にかなりお金がかかりました。

GARAGEが入居するビル

居酒屋さんからは、「配送料100円では商売が成り立たないだろう」と言われました。「成り立たないですけど、よければ自分たちに賄いでお弁当作ってください、それで十分です」って言いました。

その後、新聞で大きく取り上げてもらい、注文が増えました。多い時は1日に200~250個の注文がありました。「2個だけだけどいい?」っていう注文もあって、「配送料が割高になりますよ」と言ってもそれでもいいという人も多かった。旧本荘市以外は配送料が上乗せされるにも関わらず、秋田市やにかほ市からも注文がありました。

最初は電話で注文を受けていたんですが、追いつかなくなったので、受注システムを作りたいと商工会で相談したら、「じゃあ、助成金があるから、それを使ってやりましょう」ということになりました。150万円ぐらい掛かったんですが、そのうち100万円は助成金で賄いました。

今でも電話で注文が来ることがあります。そういう時はそれぞれの店につながせてもらっています。

「アマビヱ市」を企画

デリバリーを始めてしばらくするとコロナが少し落ち着いてきたので、デリバリーで仲間になった居酒屋さんを誘って、飲食のイベントを計画しました。それぞれの店から商品を持ち寄って始めたのが「アマビヱ市」です。

はじめに保健所に相談に行ったら、外でイベントやるには市長の許可が必要で、下りるまで1~2カ月は掛かるって言われたんですよ。「今週中に市長の許可を持って来るから」と言い返して、4日後に提出し、びっくりされました。

早く許可証を用意できたのには理由があって、実はフードデリバリーで市役所の職員さんからも注文を受けていたんです。自分たちの活動を知ってくれていたんで、市へイベントをやりたいと相談すれば、すぐに主旨を理解してくれるだろうと思っていました。

アマビエ市のポスター

急な思いつきだったんで時間もないし、告知はSNSと自作のポスターしか使いませんでした。だからせいぜい100人ぐらい来てくれればいいかと思っていたんですが500人ぐらい来てくれました

テレビでも取り上げられた”海鮮酒場はまはま”の岩がきの詰め放題なんかは、一個300円ぐらいのカキをビニール袋に1,000円で入るだけ入れられるんですが、5個ぐらい入りますから大評判になりました。

アマビヱ市は3回やったんですが、3回目の時は企業経営者の知り合いが、「そんな面白いことやっているの?じゃあ、俺、協賛金だすよ」って言ってくれました。冗談かなと思っていたら、本当に100万円を出してくれたんです。「その分、面白いイベントにしてよ」って言われたので、何をやろうかと考え、花火を上げることにしました。本荘では夏に「菖蒲カーニバル」というお祭りがあって、その時、花火を上げるんですが、それもコロナで中止になっていたので、きっとみんな花火を見たがっているだろうと思ったんです。

花火屋さんに相談に行ったら、個人から花火を上げたいなんて言われるのは初めてだって喜んで引き受けてくれました。花火はゲリラ的にやろうと思い、告知しないことにしました。でも、病院や施設にいる人には是非見てもらいたいと思ったので、事前に連絡して見られるところに連れていってあげてほしいとお願いしました。

花火のことはごく一部の人にしか話さなかったので誰がやったか分からないままだったと思うんですが、夏らしいイベントのない中で、花火をやれたという満足感がありました。ただ、次にやるならこれを超えなきゃいけないという謎の使命感が生まれて、4回目には挑めなくなってしまいました。コロナも収まってきましたし。

それ以来、自分がイベントの開催は得意だということになって、各飲食店などがイベントをやるときに相談を受けるようになりました。許認可やらがいろいろ必要だし告知とかの手配も必要だし、助成金を申請できる場合もあるので、アドバイスをするようにしています。

コロナ禍が転機に

コロナは大変でしたが、自分はそれを逆手に取ってチャンスに変えられたと思っています。東日本大震災までは東京のダーツバーで働いていましたが、たまたま震災の直後に帰省し、そのまま地元に戻ることにしました。2016年にGARAGEをオープンしましたが、地元の商工団体の活動には興味がなく距離を置いていました。

しかし、コロナがきっかけとなってたくさんのご縁に恵まれ、最近、本荘の青年会議所の専務理事を引き受けたんですが、来年は理事長になる予定です。商工会の青年部でも役員をやっていますし、そういう団体との繋がりができました。コロナ禍を経験して、人間は一人で生きているんじゃないんだな近くにいる人同士で助け合って生きているんだなと実感しました。

今はコロナ前と比べいろんな活動をしているので睡眠時間も短くて、そこまでしてやんなきゃいけないかって思ったりもするんですが、「これは今のためじゃない。将来のためだ。将来やってよかったと思えるならやろう」というふうに考えています。コロナで考え方がガラっと変わりましたね。自分が行動を起こした時に、それまで全然関わりがなかった若い市議や県議が一緒になって動いてくれて。田舎のバー店主のやることにそういう人たちが協力してくれたことが嬉しかった。周囲の人の気持ちとかにも気付けるようになったと思います。

バーカウンターの中に立つ橋島さん

 

最近、GARAGEの7周年記念に、自分の店で初めてイベントをやりました。ここ数年で自分が出会った人たち同士が出会う場になって「じゃあ今度一緒に何かやろうよ」なんていう話が生まれたらいいなという思いもありました。昔DJをやっていたという人を何人も手配して音楽イベントを企画しました。クラブみたいなイベントって、あまり柄がよくない人が集まるイメージがありますが、それこそ議員さんたちとか介護施設の施設長とか日本舞踊の先生たちとかが遊びに来てくれました。娘を連れて来てくれた人もいたし、自分ぐらいの年齢の人からその親世代の人たちが多かったです。

近頃は、40代、50代のお客さんが多いんです。夜中の2時、3時に来てくれるんですよ。時間が遅くなると若い人が増えると思われがちですが、若い頃の気持ちを持っている大人が集まる店になったようです。

多くの人の協力を得る方法

自分が犠牲になる覚悟を持って行動すればみんな協力してくれるんです。世の中には責任を取らされるのが嫌で動かない人が多いと思います。先頭に立って責任を取る覚悟があれば人は付いてくると思うんですよ。あいつ本気だなと思わせることができれば人を動かせる。その覚悟を持って一歩を踏み出せるかどうかが何を始めるにも大事だと思います。そして、人の良いところを見つけて手伝ってほしいと声を掛けます。でも相手に無理をさせないことが大事です。

自分としても、こうした活動はみんなの心に残るし、それまで付き合いがなかった人たちと知り合えるのもメリットだと思ってやっていました。

本荘地区の商店街

本荘地区は、由利橋から本荘駅にかけて区画整理をし、空き店舗もあまりありません。昔は一方通行だった通りを拡幅して夜も由利橋をライトアップし、景観に配慮してゴミ置き場も設けていないので収集車が来る直前にゴミを出してネットをかぶせてすぐに撤収するんです。この通りを本荘のシンボルにしようという考えだそうです。

本荘には飲み屋が集まっているところがあまりなくて、一番店の数が多いのは駅前ですが、あのあたりはにぎやかだった頃と比べて店の数が半分ぐらいに減っています

だから駅前にもっと若い人の店が増えてほしい。駅前の市場とか、もっと活性化できないかなと思っています。

◆ GARAGE  由利本荘市本荘64 AIBAビル2F  

https://www.instagram.com/sports_bar_garage/