北秋田市にある鷹ノ巣駅南側のアーケードが連なる商店街。ここに若手経営者の集いがあります。その名は”TANOC(タノック)”。このグループは、コロナ禍の際にオリジナル商品を製作したり、イベントを実施したりして地域の賑やかしを行って注目を浴びました。自分たちのモットーは楽しむことだというTANOCメンバー、シード株式会社 代表取締役社長 中嶋俊輔さん(39)と家具工房「HOLTO」 布田信哉さん(41)にお話を伺いました。
TANOCが結成されるまで
シード株式会社は1990年代に中嶋さんの父親が創業した繊維製品のメーカーです。現在はスポーツウェアを中心に製造・販売を行っています。
中嶋さんは阿仁地区育ちで、学生時代はアルペンスキーの全国レベルの選手でした。仙台の大学へ進学し、卒業後の進路をどうしようかと考えていた頃、父の「東京事務所を設立するから手伝え」という一言でシード株式会社への就職を決めました。企画や商社機能を担う東京事務所開設に奔走しながら経営ノウハウを身につけ、2年前に社長に就任しました。今も東京と鷹巣を行き来する生活を続けています。
家具職人の布田さんは子どものころから「木が好き過ぎて」、木に触れられる仕事をしたいと考えていました。高校卒業時には、高度な技術を持つ宮大工に憧れ、専門学校に入学。しかし、そこで教えられることに飽きたらず、独学で技術を学び始めます。いったんは木材を扱う一般会社に入りますが、理想とするものづくりとは違うと感じ、鷹巣に戻って別の仕事をする傍ら、趣味で木工製品を作っては友達にプレゼントしていました。
布田さんのこだわりは、釘やねじを極力使わずに木を組み合わせて家具を作ること。次第にその技術にほれこんだ人から注文が入るようになり、高級家具の受注生産を始め、2016年にHOLTOを立ち上げ、家具職人として独立しました。
中嶋さんと布田さんが知り合ったのは子どもの保育園の卒園式の後の謝恩会。お子さんたちが同い年で、一瞬で意気投合し、すぐに飲み友達になりました。
その後、布田さんの「鍋しようぜ!」の声かけで互いの友達を呼び、飲み会を開き、仲間が増えていきました。この集まりがTANOCの始まりです。
TANOCの活動
TANOCには「鷹巣(TA)の(NO)チャレンジ(C)」という意味が込められているそうです。また、アルファベット5文字は、タノックと読めるだけでなく「楽しい」とも読めるつづりになっています。
中嶋さん、布田さんのほか、藤島木材工業株式会社 専務取締役 藤島新さん、コマド意匠設計室 柳原 まどかさんと小倉 大さん、写真家でアキテッジ株式会社代表 コンドウダイスケさん、農業を営む高杉拓磨さん、株式会社上杉組 上杉潤さん、庄司創建 庄司琢磨さん、インテリア煌 畠山幸己さんがメンバーとして活動しています。
TANOCの特徴は、メンバーが親密であることと、互いのスキルを尊敬しあっているところにあります。木を使ったショールームを作りたいと話すシードのクライアントがいれば、中嶋さんが「鷹巣にいい仕事をしている家具職人がいる」と話して、クライアントを呼んで布田さんを紹介します。知り合いの経営者から木をふんだんに使った店舗を作りたいと相談されると、今度はコマド意匠工房にデザインを頼み、藤島木材工業が材料を提供し、HOLTOが内装を担当するなど、自然と仕事を紹介し合う関係になっていきました。
コロナ禍の時は、それまで出張が多かった中嶋さんは県外に行く機会が少なくなり、学校の部活が制限されるなどスポーツをする機会も激減したためスポーツウェアの在庫が増えていきました。街全体が暗い雰囲気に覆われていた頃、「人が集まるようなことをやろうぜ!」と、TANOCメンバーで「Sunny SATURDAY’s」というマルシェを企画しました。
「まちおこしというよりは、在庫を売るためのイベントでした。あとは打ち上げという口実で飲み会を開きたかったんです。商店街の活性化は結果としてついてきただけです」(中嶋さん)
「Sunny SATURDAY’sは、2020年6月に始めて、年2回、2022年秋までに合計6回開催しました。最初は6社の参加でしたが、2回目には9社になるなど、参加者も増えていきました。宣伝はSNSや市の広報を活用しました。そう大きな集客は期待せず、自分たちが楽しめればいいというスタンスでした。」(中嶋さん)
肩ひじ張らず気楽に始めたイベントの企画でしたが、クリエイティブ精神にあふれたメンバーは、「せっかくイベントを開くのだから、鷹巣でブランド力のあるものをつくって売りたい」と盛り上がり、TANOCブランドの商品が誕生しました。第1弾として帆布を張った組み立て式のスツール、第2弾として折り畳み式のリクライニングチェアを製作しました。今もTANOCのホームページで販売しているほか、北秋田市のふるさと納税の返礼品にもなっています。
コロナ禍の収束でメンバーの仕事が忙しくなり、Sunny SATURDAY’sはひとまず6回で終了しました。周囲からはもっと企画してほしいという声もあるそうです。また、このイベントをきっかけにTANOCの存在が知れ渡り、困ったことがあればTANOCに相談しようという流れが出来上がったそうです。
大事なことは「本気で楽しむこと」
布田さんは、大人が楽しんで仕事をしているのを子どもたちが見ていれば、一度は町を出たとしてもいずれ帰って来ると思うと話します。
TANOCは子どもたちとの関わりを大切にしており、学校から講演などを頼まれるとメンバー2~3人が一緒に行くことにしているそうです。自由闊達な話で子どもたちの受けも良いようです。
「自分たちは笑って仕事している姿を子どもたちに見せている自信があります。TANOCの活動で商店街を元気にするには、『活性化しよう』という意気込みも大事ですが、それよりも、企画する側が『本気で楽しむこと』だと思います。」(布田さん)
TANOCが次にどんなことをするのか気になりますが、今は鋭意検討中とのことです。これからも「本気で楽しむ」という姿勢を第一に活動を続け、鷹巣の商店街でこんなかっこいいものづくりをしている大人がいるということを知ってもらいたいと語っていました。
取材を終えて
仕事をする大人たちのコミュニティーが地域の商店街にあることで自然に人が集まり、町を行き交う人々が増えます。街ってそもそもそうやって出来てきたんだろうなあと感じさせる鷹ノ巣駅前でした。
北秋田市材木町7-30
TEL 0186-84-8220
北秋田市材木町1-17 TANOCビル1F
TEL 090-6782-5193