横手市で挑戦している「ベジタリアン・ヴィーガン対応のまちづくり」とは?

日本有数の豪雪地帯として知られる秋田県横手市。ここ数年、横手の豊かな自然や伝統文化に魅了され、多くの外国人観光客が訪れるようになっています。しかしながら、秋田県全体のインバウンド観光客数は東北エリアの中でも最低水準という厳しい現状があり、横手市もまた、冬季の観光客減という課題を抱えています。かまくらなど雪まつりが開催される当日こそ多くの観光客で賑わうものの、オフピーク期間には宿泊客数が伸び悩むのが実情です。

こうした状況を打開すべく、近年は台湾やタイといったアジア地域からの誘客を強化すると同時に、アジア圏で増加傾向にあるベジタリアンやヴィーガンへの対応を推進する動きが加速。横手市内でもヴィーガン・ベジタリアンの観光客からの問い合わせが増えていますが、「どの食材が大丈夫なのか分からない」「動物性原料の有無をどう説明すればよいのか」といった声が現場から上がっているのも事実です。

そこで横手市では、「ベジタリアン・ヴィーガン対応のまちづくり」を地域全体で進める機運が高まり、一般社団法人横手市観光推進機構(DMO)を中心に飲食店や宿泊施設、観光施設が一丸となって取り組みを加速させています。

増えるベジタリアン・ヴィーガン、求められる受け入れ体制

横手市はもともとインバウンド誘客の重要ターゲットとして、特に台湾やタイなどアジア地域を想定してきました。近年、アジア圏を中心にベジタリアン・ヴィーガン人口が増加し、日本国内でもそうした食文化への対応を求める声が高まっています。

実際、横手市内の飲食店にも「肉や魚を使わないメニューはありますか?」「調味料は動物由来ではありませんか?」といった問い合わせが寄せられ始めています。しかし現段階では、ヴィーガン・ベジタリアン対応メニューの提供体制が整っている店舗はまだ少なく、地域全体での共有や方針も十分に浸透していないのが現状です。

過去には海外向けの商品開発を単独で試みた例もあったものの、広く普及するまでには至りませんでした。問い合わせこそ増えているものの、本格的な受け入れ体制の構築はこれからが本番といえるでしょう。

食の多様性が鍵を握る、かまくらの時期以外でも訪れたい横手市を目指して

冬の横手市といえば、雪深い土地ならではの風情や、かまくらなど雪まつりシーズンの魅力が大きな目玉。しかし、そのイベント開催期間以外は宿泊客数や観光客数が伸び悩み、地域経済への好影響も一時的にとどまりがちです。こうした課題を解消するためには、祭りやイベントだけに頼らず、年間を通じて選ばれる観光地としての魅力を高めることが不可欠です。

そこで注目されているのが、世界的に広がりつつあるベジタリアンやヴィーガンといった多様な食文化への対応です。動物性由来の食材を避けたい、あるいは宗教上の理由で特定の食材を使えない旅行者の要望に応えられれば、特定のイベントやシーズンだけではなく、“食を楽しむ目的”で横手市を訪れる新たな観光客層を取り込める可能性が高まります。

実際、「冬景色を楽しみたいけれど、食事面の不安で訪問先から外した」というベジタリアンやヴィーガンの声は少なくありません。彼らが安心して滞在できる環境を整えれば、冬季の閑散期にも持続的に観光客を誘致できる下地が整うことでしょう。さらに、「寒い冬こそ味わいたい温かな野菜料理」など、動物性食材を使わなくても魅力的な横手ならではのメニューを発信できれば、他地域との差別化にもつながります。

インクルーシブなまちづくりへ

横手市が目指すのは、地域全体で多様な食習慣や文化を尊重し、「誰もが安心して訪れることができる」観光地になることです。台湾素食やヴィーガン食文化の要素を取り入れながら、横手の豊富な食材や郷土料理と組み合わせることで、オリジナリティあふれる新たな魅力を創出しようとしています。

こうした取り組みはアジア圏(台湾・タイなど)の旅行者だけでなく、国内外のヴィーガン・ベジタリアン愛好者にも大いにアピールできるもの。最終的には「ベジタリアン・ヴィーガン対応が当たり前になっている地域」を目指し、観光客だけでなく地元の人々同士の理解や交流も深めながら、地域の活性化につなげる狙いがあります。

さらに、多言語対応や情報発信の充実によって、海外からの誘客を強化し、横手市が抱える冬季の観光客減少という課題への対策も進めていきたい考えです。オールシーズンで訪れたくなる「インクルーシブな横手」を実現するために、地域一体となった取り組みが加速しています。

DMOと連携団体の専門性を活かして

このベジタリアン・ヴィーガン対応プロジェクトを主導しているのは、一般社団法人横手市観光推進機構(DMO)。加えて、多様な専門性を持つ地元事業者や団体が集まり、横手市全体での受け入れ体制構築を推進しているのが大きな特徴です。


特定非営利活動法人Yokotter

認定モデルの中長期的な方向性を具体化
横手版ベジタリアン・ヴィーガン・ムスリム認定モデルが継続的に運用できるよう、施策や仕組みを検討。

事業者向けレクチャーや指導
飲食店・宿泊施設・観光施設に対し、メニュー表や店内掲示の整備方法、ベジタリアン・ヴィーガン・ムスリムに関する基本事項を解説し、導入をサポート。

株式会社ワンダーマート

フードコーディネーターによるメニュー開発支援
ベジタリアン・ヴィーガン・ムスリムの食文化に精通した専門家が、新メニューの開発や既存メニューのアレンジをサポート。

地域の食材を活かすアドバイス
動物性原料を使わずにおいしさを維持する工夫や、郷土料理との組み合わせなど、専門的ノウハウを提供。

株式会社NEXTPUBLIC

認定ロゴのデザインと公式WEBサイトの構築
横手版ベジタリアン・ヴィーガン対応を視覚的にわかりやすく伝えるためのロゴデザインや専用サイトを制作。

ブランディングと認知度向上
ロゴやウェブサイトを活用し、外部への情報発信を強化。「ベジタリアン・ヴィーガン対応の横手市」としてブランドイメージを確立。

YOKOTE-BITO VEGAN公式WEBサイト
https://yokote-tourism.com/vegan/top

「YOKOTE-BITO VEGAN RULE(横手人ヴィーガンルール)」を策定

今回の事業では、横手の地域性を踏まえ、市内の飲食事業者を中心に活用いただくルールを策定しました。それが、「YOKOTE-BITO VEGAN RULE(横手人ヴィーガンルール)」です。

地域の食文化を大切にしながらも、動物性食材を避けたい観光客や利用者のニーズに応えられるよう、具体的なガイドラインがまとめられています。


主な特徴

NG食材のセルフチェック表
肉や魚、乳製品や卵、蜂蜜、さらにかつお節やゼラチンなど、見落としがちな動物性由来の食材もリスト化。メニューを確認する際に一目で把握できるよう整備。

VEGANマークの運用方法
基準を満たしたメニューに貼るための認証プロセスを明文化。利用者が「動物性原料を使っていない」と安心して選択できるよう、見た目にもわかりやすい形で周知。

地域独自の視点
横手ならではの発酵食品や地元野菜を使った調理法を提案。従来の郷土料理をヴィーガン対応へとアレンジする具体例も盛り込み、事業者が導入しやすい仕組みを整備。

こうしたガイドラインによって、初めてベジタリアン・ヴィーガン対応に取り組む事業者でもわかりやすくスタートできる点が大きな魅力です。株式会社ワンダーマートのフードコーディネーター田中さんをはじめ、本事業の専門家の協力のもと「何から始めればいいか分からない」という声に応える形で、セルフチェックやメニュー表示方法など、実践的なサポートを行っています。

注目の参加店舗

新メニュー開発店舗

カフェヒラジョー
JR横手駅東口徒歩5分のカフェ。
今回、VEGAN用の新メニュー「ごろごろ横手野菜の米粉グラタン」を開発!横手の冬野菜を大き目カット! 乳製品を使用しないヴィーガン対応の 熱々グラタンです。
その他、通常カフェメニューや焼き菓子なども豊富!
〒013-0027
秋田県横手市平城町6−36
Instagram:https://www.instagram.com/hirajo_cafeteria/


GELATERIA SHEETA

横手駅東口徒歩2分のジェラート専門店。
地元で採れた新鮮な野菜・果物をふんだんに使用した、風味豊かなジェラートを作っています。
今回、VEGAN用の新メニュー「豆乳ジェラート」を開発!
「ジェラートは無限大」を合言葉に様々な活動に取り組み、地元 横手市の有名品を使った限定フレーバーなど、地産地消にこだわった、ここでしか味わえないジェラートをご用意しております。
※季節によりメニューは変更いたします。
〒013-0025
秋田県横手市寿町9-8 寿ビル1F
HP:https://gelateria-sheeta.com/

ラベル開発が進行中


天の戸醸造元 浅舞酒造

浅舞酒造は日本一の広さを誇る横手盆地の真ん中で、米作りから始まる酒造りの気持ちを大切に「全量横手盆地産米による純米酒製造」を守り続けている酒蔵です。
2011年より米と水しか使わない純米酒だけを仕込んでいます。
横手人VEGAN対応の日本酒は「さけ処和凛」でご準備しております。
HP:https://amanoto.co.jp/index.php
〒013-0105
秋田県横手市平鹿町浅舞浅舞388

既存メニューをブラッシュアップ


スカイレストラン コスモス

ソースで食べるパスタとピザ 本格イタリアンの店
五葦野菜を取り除くことで、VEGAN対応メニューにすることが可能です。スタッフにお問い合わせください。
HP:https://yokote.co.jp/restaurant/cosmos/
〒013-0036
秋田県横手市駅前町7−7 ホテルプラザアネックス横手


和食処 和蘭

プロの技光る本格和食と蕎麦の店。
天ぷら料理で魚介類を野菜に変更した上で、卵不使用の衣を使用するなど、一部原材料を変更し、VEGAN対応メニューにすることが可能です。スタッフにお問い合わせください。
HP:https://yokote.co.jp/restaurant/karan/
〒013-0036
秋田県横手市駅前町7−7 2階


さけ処 和凛

駅近のうまい肴と酒の異空間。
豊富な秋田の地酒ラインナップと地元食材を多用したメニューが人気の居酒屋。
天の戸さんの横手人VEGAN対応純米酒もこちらで飲むことができます。
HP:https://yokote.co.jp/restaurant/karin/
〒013-0036
秋田県横手市駅前町7−1


魯句彩亭

地元の農産物を多く使いながら、多彩なメニューが人気の居酒屋。
特に、秋田県横手市のソールフードである「横手やきそば」は、過去4度四天王を受賞。フルーティなソースで焼き上げている店主こだわりの一品!
食べログ:https://tabelog.com/akita/A0505/A050501/5003077/
〒013-0063
秋田県横手市婦気大堤西野11−1


Restaurant BarPasaPorte

レストランにサウナやホステルが併設されている「Regions hostel」
「ととのう」「休む」「食べる」。
この一つ一つに向き合い、学び、たくさんの想いと秋田のこだわりを詰め込んだ居場所です。
レストランでは自家製の熟成肉をメインに、名物のローストビーフや切りたての生ハム、季節ごとの創作料理を、広々としたロースターブースで楽しめます。
その中で、豆乳リコッタ果実カプレーゼなど、元々、VEGAN対応料理は数種あり、積極的にVEGAN対応に取り組んでいるお店。
※季節によりメニューは変更いたします。
HP:https://regionshostel.com/
〒013-0063
秋田県横手市婦気大堤田久保下204−1


Dela’s Kitchen

モットーは「誰でも気軽に!」
地域密着型コミュニティーを飲食店というツールを使って表現し、人と人を繋ぐための料理とお酒。そして空間を創造しているお店です。
欧州の家庭料理をベースとしながらも、世界を旅した経験から、いろんな国のテイストをプラス。
VIGAN対応料理も数種類用意しております。
※季節によりメニューは変更いたします。
Instagram:https://www.instagram.com/delas_kitchen2023/
〒019-0524
秋田県横手市十文字町本町26−3


小松屋本店

大正5年から続く老舗洋菓子店。
小さな一口から大きな笑顔を。をもっとに、洋菓子、和菓子、アイスと昆虫の見た目をしたお菓子など、正統派から変わり種まで地域に愛され続けています。
その中でもカラダにも心にも優しいスイーツとして近年注目を浴びる「和菓子」。
伝統的な和菓子である「ねりきり」はヴィーガンライフを過ごしている方におすすめなスイーツです。
Instagram:https://www.instagram.com/komatsuyaaa/
〒013-0024
秋田県横手市田中町9−17

冬季観光とのシナジー創出を目指して

横手市で進められているベジタリアン・ヴィーガン対応の取り組み、いかがでしょうか。新メニューの開発や既存メニューのブラッシュアップなど、さまざまなプロジェクトが進行中とのことで、今後がとても楽しみです。

さて、冒頭でも触れたように、横手市が抱える大きな観光課題の一つに冬季の誘客減があります。豪雪地帯ならではのかまくら祭りや雪遊び体験など魅力的なコンテンツがあるものの、イベント開催期間以外はどうしても観光客が少なくなるのが現状です。そこで注目されているのが、ベジタリアン・ヴィーガン対応の食事と冬のアクティビティを組み合わせた新たな観光プランです。

たとえば、「雪で冷えた体を、動物性原料不使用のあたたかいラーメンやスープで温める」、「伝統行事『かまくら』体験と、ヘルシーなヴィーガン郷土料理の組み合わせを楽しむ」といったユニークな体験メニューを打ち出すことで、冬ならではの“寒さ”を逆手に取った“あたたかい食の魅力”*をアピールできます。こうした新しい切り口は、「雪国の冬=大変そう」というイメージを「雪国だからこそ味わえる特別な体験」に転換するチャンスにもなり得るでしょう。

今後は旅行会社との連携をさらに進め、ベジタリアン・ヴィーガン対応プランをパッケージ化し、宿泊や送迎、アクティビティを含めた手軽な旅行商品として販売する構想もあるそうです。たとえば、かまくら体験やスノーアクティビティをセットにしたヴィーガンフードツアーを企画すれば、インバウンドはもちろん国内の健康志向な旅行者からも注目される可能性が高まります。

こうした取り組みによって、横手市は冬季の観光客数を底上げし、通年での誘客につなげたい考えです。雪祭りの当日だけでなく、冬の期間いつでも「食と雪の魅力」を楽しみに訪れる人が増えれば、地域経済への波及効果も一層期待できるでしょう。

YOKOTE-BITO VEGAN公式WEBサイト
https://yokote-tourism.com/vegan/top