自分の「好き!」で地域課題を解決 秋田コネクト2025

2月22日、「あきた寺子屋」が運営する「秋田コネクト」が東京・上野とオンラインで開催されました。今年で13回目となりましたが、ご紹介したい人が多すぎ、今年もあっという間に時間が過ぎてしまいました。皆さんの取り組みを知ってもらおうと勢い込んで書いたら、この記事もすごい長編になってしまいました。

今回の登壇者も、秋田の問題解決にいろんなアプローチから取り組んでいる方々です。まずは県内各地に放置された柿の木を収穫・加工・販売している柿木崇誌さん。次は、15年前にX(旧ツイッター)を使って情報発信をすることから横手のまちおこしに取り組み始めたNPO法人Yokotterの理事の田畑晃子さん。Yokotterは、横手市の情報のポータルサイト、MINEBAの運営も手掛けています。三番手は、全国各地の自治体などとタイアップし、なぞ解きを通じて地域への関心を高める取り組みをしている日景太郎(KAGETARO)さんにご登壇いただきました。

さらに県内25市町村の中で幸福度&住み続けたい街ランキングで4年連続1位を続ける美郷町役場の高橋晋一さん、秋田県におけるスタートアップの支援体制についてあきた企業活性化センターの羽川彦禄さんと秋田銀行の三浦怜さんにお話をうかがいました。

クマが食べに来る放置柿を収穫し商品化するカッキー

まずは地域に放置されている柿を商品化してスムージーや柿チップ、お好み焼きのソースなどにして販売しているカッキーこと柿木さんです。「畑のない農家」というブランドでいつも頭の先から足の先まで柿色のコーディネイトで県内ではけっこう有名な方です。2023年にクマが市街地に出没して深刻な社会問題になった時、柿木さんはひっぱりだこになりました。

しかし、儲からないのだそうです。

柿木:大きな理由を挙げると、①収穫場所が点在している、②熟すタイミングが全然違う、③移動のためにガソリン代と時間がかかる、④渋柿を渋抜きをして、それをジャムやソース、チップ製造を委託しているのでお金がかかります。その上、県や市町村が補助金を出して柿の木を伐採させているので柿の木が減っているんです。

YouTubeでホリエモンさんの番組とか、「令和の虎」とかにも出演させてはもらったんですが、やっぱビジネスとしては厳しいと言われてしまいました。今、キッチンカーで夏、スムージーやお好み焼きを販売してどうにか生計を立てられるところまで来たので、今年こそはと思っています。

Q:なぜ柿の木に注目したんですか?

柿木:広島から秋田に来た時、柿の木の多さにびっくりしました。けっこう謎だったんですよ。それに誰も採らないって意味わかんないな、もったいないなという気持ちがあったんです。そこに友人から柿木が柿のことやったら説得力がやばいよって言われて、じゃあ、やろうと思いました。柿木さん、本名です!

Q:売れているんですか?

柿木:柿のおいしい状態って人によって違うんですよ。固いのが好きな人もいればやわらかいのが好きな人もいる。でも、ドライフルーツだと若者も食べてくれます。

クラウドファンディングの返礼品にも使っているので、数は出ています。在庫はありません。でも利益は出ていないです。

ほとんど一人でやっています。あとは収穫体験のために手伝いに来てくださっているひとが数人。生産は大館市の就労支援施設にお願いしています。

 

SNSで呼びかけて、みんなで一緒に収穫するようにできないかと思います。この事業を始めたときから、応援してくださる方は多いです。SNSでシェアとか、めちゃくちゃ力になります。県や市町村と連携して、僕が補助金をもらって収穫し、その加工品をふるさと納税の返礼にするといったことを提案したいと思っています。

Q:起業のサポートは受けてますか?

柿木:このプロジェクトは最初、能代市二ツ井の商工会に相談しました。そしたら県の募集している「若者チャレンジ応援事業」への応募を勧められました。これはとても大きな支援になりました。銀行やメディアもサポートしてくれます。今は、秋田市にある企業活性化センターから県の総合食品研究センターを紹介してもらい一緒に商品を開発しています。「みらい応援ファンド」という助成金のことを聞いて応募しました。

Q:秋田で起業してみて印象に残ったこととかありますか?

柿木:秋田の人は思いやりがあるけど、過干渉しない。この距離感がよくて。それに秋田県の若者チャレンジ応援事業の起業サポートはめっちゃいいです。市町村のふるさと納税の返礼品にするなど行政との連携で持続可能なビジネスにしようとしています。

 

柿木さんは現在、軽トラを探しているそうです。どなたか心当たりの方がいらしたらよろしくお願いします。

Xを使ったまちおこし、実は意外にアナログ

次に登壇したのはNPO法人Yokotterの田畑晃子さん。Yokotterは、Twitter(現X.com)による情報発信を通じてまちおこしをしようという活動を起点にして、横手経済新聞や市内20カ所のデジタルサイネージ「よこてれび」を運営。2020年にはアプリMINEBAを自主開発し、横手市推奨アプリとして認定されました。また、アプリとスマートウォッチを活用した介護予防啓発事業をはじめ、一般社団法人在宅オンライン医療センターや横手在宅医療推進コンソーシアムの事務局も務めるなど活動分野を広げています。

田畑:Yokotterは、15年前に「30年後にこの街で子どもを育てたいといわれる街」を目指して活動しています。うちの代表は医者で、副代表が駅前のホテルグループの専務なんですが、2人で「駅前が寂しすぎる、何とかできないか」ということで始めました。私は副代表からtwitterで街おこしするから手伝ってくれって言われて、「何言ってんだろう、この人」って思いました。でもやり始めたら、思いのほか温かい場所がそこにありまして、どんどん引き込まれてしまいました。

15年前だったので、Twitterとか「ハッシュタグ(#)yokote」とか言っても知らない人が多かったんですが、Twitterの講習会を開いて#yokoteを使ってつぶやいてくれる人を増やしました。Twitterだからデジタルなの?って思われますが、アナログと融合したところがあります。

デジタルとアナログの融合という意味でご紹介したいのが「よこまき。」です。twitter上でお兄さん、お姉さんたちが昔あそこでお箸に巻いたなんか売ってたよねって盛り上がってたんですね。そしたら「じゃあ、作ってみようか」って話になって、せっかくだから横手やきそばとコラボしてみようか、ということになり、横手やきそば用麺やキャベツ、ひき肉や福神漬けなどを混ぜたタネをお好み焼きのように薄く焼き上げ、割りばしに巻いてソースやマヨネーズをかけて食べる「よこまき。」ができました。せっかくできたんだから屋台で売ろうよということになったら、#yokoteに参加してくれている人たちがどんどん手伝いに来てくれて。そのあと関東でやったら、また#yokoteでつながっている人たちが来てくれて。

もう一つ、デジタルとアナログの融合が起きたのは、ミニかまくらです。最初は中学生と高校生が700個ぐらい作っていたんですが、ある年、高校がインフルエンザで学校閉鎖になり、ミニかまくらを作る人をtwitterで集められないかと相談され、呼びかけてみたら数十人集まってくれて。それ以来、「灯り点し隊」という名前を付けて、今では総勢300人ぐらいがボランティアで集まり、遠くは博多からも駆けつけてくれて3500個のミニかまくらを作り、灯りを点します。観光客の方たちも参加して楽しんでもらっています。

東日本大震災の時は、#yokoteで、「あそこのガソリンスタンドで何時からガソリン売るよ」とうようないろんな情報交換がされました。この時、気づいたのが、情報は便利さや安全にも役に立つということでした。でもtwitterは、やっている人がそこまで多くない。それで作ったのが、MINEBAという横手市の情報を集めたアプリなんです。MINEBAはyokotterが作りました。横手市にはアプリの中の場所を提供することで利用料をいただき、横手市の推奨アプリという認定をもらっています。

行政がアプリを作るとクーポンとかは入れられないんです。そうなると市民は毎日見ない。毎日てもらえるように民間であるyokotterが作ったんです。

市からの情報だけでなく、市民、企業、団体さんからの情報を集約しています。人気第1位は何だと思いますか?除雪車出動情報です。雪が降って除雪車が出動すると、朝、家の前に除雪された雪が山になっているので、皆さん、1時間ぐらい早く起きて自分のうちの前の雪寄せをしなければいけない。今までは朝1時間早く起きて玄関に行って除雪車が来たかどうかを確認していたんですが、今ではベッドの中で確認できるので、「あ、除雪車来てないな。じゃ、もう1時間寝よう」という判断をふとんの中で出来るんです。それで多くの方にMinebaに登録していただいて、冬場はめちゃくちゃアクティブ数が上がります。

 

Yokotterの代表は医者なんですが、今、在宅医療を頑張っています。市民の高齢化が進んで車に乗れないから病院にいけない、薬ももらえないというようなことが起きるし、できれば住み慣れたところに住み続けたいという人が多いので、在宅医療を推進しなければいけない。でも、在宅医療にはめちゃくちゃ書類が多いんです。しかも連絡はファックスが多いのが現状。お医者さん一人で書類書いていると効率が悪いので、私たちがAI(人工知能)などを使いながらリモートで書類作りをサポートして、お医者さんが少しでも多くの患者を訪問できるようにしようとしています。

謎解きで地域のファンを広げる

次は、謎解きと地域や企業の活性化を目指すクリエイターチーム「KAGENAZO」を率いるかげたろーこと日景太郎さんです。

日景:僕たちは2023年にFUN SPIRITS株式会社を設立、地域の魅力にエンターテイメントを掛け合わせて、その地域に足を運んでもらうファン作りを行っていく「エンターテイメント地域活性化会社」です。

僕は秋田県大館市の生まれで、大学を卒業してバンダイナムコっていうおもちゃメーカーに3年ほどいました。就職した頃から、やりたいと思っていた謎解きクリエイターの活動を始め、その仕事が大きくなってきたタイミングで独立しました。謎解きとか脱出ゲームって東京、大阪、名古屋とかでかなり広まって来た遊びですが、まだまだ浸透していないと思っています。

span style=”font-weight: 400;”>秋田県でも県の観光連盟と一緒に県全域に日本語と英語、中国語の3カ国語で謎解きを仕掛け、それを県内の7カ所に配置し、クリアしたらクーポンがもらえる仕組みにしました。これまで約3年で全国60地域で、11万人を超える人に謎解きエンターテイメントを楽しんでもらいました。法人化し、今、合計15名前後のクリエイターチームになっています。元俳優、脚本家、お笑い芸人さんとかも所属していて、彼らが物語を作ったりとか、謎を作ったり、オープニング・エンディングムービーとかウェブサイトとかお客様が触れたり楽しむものをプロデュースできます。

謎解きは、クイズと違って目の前にある色とか形とかの情報を拾って、ひらめきで問題を解いていくのが特徴で、小学生から大人まで同じ目線で楽しむことができるコンテンツです。

われわれは、この謎解きに地域という要素を盛り込んで、実際の街の風景とか、例えば博物館のこの土器を見ると謎が解けるみたいなコンテンツにしています。

埼玉県深谷市では、市内の飲食店とか道の駅とかに宝石箱を置き、その宝石箱を開けるとヒントがもらえて次のステージに進めるというゲームにしました。深谷市は人口11万人を切っているんですが、謎解きゲームを3カ月実施して、約5000人の方々が深谷に足を踏み入れました。その4割が市外からでした。年代・性別に分析したら、一番多かったのは40代女性でした。

謎解きは、企業研修にも使われていて、社員同士のコミュニケーションを増やすとか、会社の経営理念とかが分からないと謎解きがができないというようなコンテンツを作ったりもしました。会社のファミリーデーに、オフィス全体で謎解きをやりました。

それからイマーシブシアターっていう没入型の演劇を作ったこともあります。お客様も俳優の一人になって、その演劇の世界観の中に入り込んで一緒に宝探しをします。

ひとつ、秋田でめちゃくちゃ可能性があるなと思っているのが空き家を使った脱出ゲームです。今、名古屋で実証実験しているんですが、チケットがほぼ完売で、15パーセントは大阪や京都から来ています。空き家になっている商店街の中の紳士服店だったところで、45分以内に閉じ込められた部屋から謎解きをして脱出するというゲームです。クーポン券も発行してゲームが終わったあと飲食とかに使ってもらい、地元に還元するような仕組みを作ったり。これを4月から常設店舗化して運営していこうかなって考えています。

遊びという切り口を通して年間10万人ぐらいの関係人口を作っていきたいと思っています。

まだ、累計で15都道府県しかやれてなくて、今後3年で47都道府県全部にKAGENAZOを作りたいと思っています。謎解きって1回作ると、ずっと遊び続けられるんですね。観光資源として残るんです。1回やってみて面白ければ、次もやりたくなるので、旅行ついでに謎解きをするっていうふうになったらいいなって思っています。

白いラベンダーで特産品を開発

今回の秋田コネクトでは、大東建託の「街の幸福度&住み続けたい街ランキング」で、秋田県内1位を4年連続で獲得している美郷町の役場から高橋晋一さんにオンラインで参加していただきました。美郷町は水がおいしく、初夏には広大なラベンダー畑が美しい、自然に恵まれた町です。高橋さんは、幸福度ナンバーワンなのは、町の施策によるものだけではなく、住んでる方が日々、いろいろなことを幸せと感じられるような生活が送れる場所だからではないかと話されました。

同町では町内で見つかった白いラベンダー「美郷雪華」を利用して特産品を開発し、フレグランス、お酒、化粧品などの商品を発表、栽培農家も令和2年度の1戸から令和6年度は10戸にまで広がりました。今回の秋田コネクトには美郷雪華の香りを使ったクレイクリームシャンプーをプレゼントとして送っていただきました。トリートメント効果が高く忙しい子育て中の女性などに喜ばれているそうです。「これをきっかけに美郷町に関心を持ち訪問してもらえると嬉しい」、とラベンダーによるまちおこしについて丁寧に解説してくださいました。

起業をがっちり伴走支援

次はあきた企業活性化センターで起業を目指す特に若者への支援に情熱を傾ける羽川彦禄専務理事兼事務局長にご登壇いただきました。

羽川:3、4年ほど前に東京にある県の企業立地事務所で企業誘致に取り組んでいたときのことですが、東京にも秋田への思いを寄せる人材が驚くほど多くいて、秋田で活動するスタートアップの強力なパートナーや、その主役になりうる存在だと思いました。

都圏のワカモノのスタートアップの力で社会課題解決と経済成長を加速していくには、地域にしっかりと連携できるプラットフォームを作る必要がある。もうひとつ大事なのが県内の関係者をどう巻き込むかです。そこで昨年7月、県で「アキスタ」というプラットフォームをキックオフしました。

またスタートアップのモデルをしっかりと作り上げるため、「認定スタートアップ」を決め、発酵飲料の製造販売の「エス」、森の魅力を伝え森林の活用を考える「このほし」、大学生による高齢者サービスを提供する「Liberty Gate」、除菌消臭水「iPOSH(アイポッシュ)」の製造販売や社会課題解決をビジネスにする「Local Power」の4社を集中支援していくことにしました。

さきほど柿木さんがお話されていた「若者チャレンジ応援事業」は、スタートアップの登竜門とも言えます。何年もかかる起業までビジネスモデルの磨き上げを支援します。また、県外のスタートアップが秋田で実証実験を行うのも支援しています。

ソーシャルビジネスにせよスモールビジネスにせよ、起業にはそれぞれの成長ステージに応じてさまざまな課題がありますが、アキスタは、あらゆる課題やニーズに応えられると思っています。

首都圏では、「S4A(Startup For Akita)」という、スタートアップとかIT界隈のワカモノや支援する人たちに集まってもらって、ゆるく交流する機会も3年ぐらい前に始めました。

また、子ども向けの起業教育は大きなテーマだと思っています。県などでは、高校生向け、中学生向けの体験セミナーも実施していますが、親や学校の先生にも、起業の重要性等しっかり認識を持ってもらえればありがたいと思っています。

秋田経済にインパクトを与える会社を育てる

最後にご登壇いただいたのは秋田銀行の地域価値共創部の三浦怜さんです。銀行員として新規事業をサポートしています。

三浦:「銀行が起業創業支援を実施しているのは、秋田県に県経済の担い手を増やし、雇用を創出することを3年計画の目標にしています。県内の開業率は全国的に見ても低く、県経済にインパクトを与えられるような規模の事業は少ない状況です。もう少し規模の大きな事業を作っていかなければいけないという思いがあって、いろんな取り組みをしています」

「秋田銀行は2017年にビジネスコンテストを始め、オンラインのコミュニティを運営したり、起業の機運を向上させることに力を入れてきましたが、2023年7月からキャピタルパートナーズという資金を融資するのではなく投資できる会社を立ち上げ、スタートアップへのお金の渡し方も増やしました。また今年度、起業家さんと一緒に伴走するプログラム『スクラム』を開始しました」

「起業家さんが自分のパーパスやビジョンを商品やサービスに込め、それをお客さんが買ったり使ったりすることで、社会が変わっていくことを目指します。ことしのスクラムには84組が応募し、そこから4組に絞って1年間ひたすら伴走し続けてきました」

採択した企業は、体に優しい発酵調味料「YUTAKA」を開発した小川友梨さん。体験型エンターテイメントで地域の魅力を発信するオモシロイことをする組織を県内の大学と連携してつくることを目指す佐藤綾子さん。自然素材を活用した建材を開発・販売し建設業界に変革を起こそうとしている須山聡也さん、空き家が市場に出やすくする方法を確立し住居に対する多様なニーズにこたえられるようにすることを目指す三澤雄太さん、舞さん夫妻です。

銀行だけではサポートし切れない部分については社外のメンターに入ってもらいました。また、あきた未来塾という、県内企業の後継者の育成塾の方たちに加わってもらって支援しました。起業家全員への勉強会は8回ぐらいやりました。その後は個別に分かれ商品やサービスのアイデアを県内の企業にぶつけて徹底的に意見を聞きました。15回ぐらい起業家とメンタリング、県内企業さんからのヒアリングは計100回ぐらいになり、協力できる企業様には協力してもらってアイデアベースだったものを商品やサービスに仕立てていきました。

 

プログラムの最後は県内企業とのビジネス交流会「スクラムサミット」を開催しました。地域にインパクトのある事業を作るというのは起業家さんだけではだと難しく、県内の企業さんを巻き込んで、その上で投資を検討してもらえる段階に成長させたいと思っています。社会にインパクトを与えるためには、売り上げ10億円以上の規模が必要だと思っています!

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ビジネスをやりたい人とそれをサポートしたい人、それぞれに熱いものを持って活動しています。こうした情熱がそのうち化学反応を起こして、何か大きなビジネスが生まれてくるのではないかと期待しています。

全員で記念撮影!