3,000人も集まった広面の夏祭り~子どもたちを楽しませたい一心で

秋田県内各地域で行われている夏祭り。何百年も続く伝統の祭りも多い中、地域住民の手づくりの夏祭りなのに驚くほどの盛り上がりを見せている祭りがあります。大平山のすそ野、秋田市東部の広面夏祭りです。今回で35回目となるこの祭り。コロナ禍を経て昨年4年ぶりに再開、今年(2025年)も7月27日にさらに盛り上がって開催されました!

県都秋田市の住宅地とはいえ、地域から人が少なくなっていく中で、なぜこんなに続いているのか。主催者である広面商工振興会の高橋剛(ごう)会長と夏祭り実行委員長の加藤真也(しんや)さんへのインタビューを中心に、実際に祭りに参加して感じたことをまとめてみました。

「単に子どもたちを喜ばせたかった」

高橋剛さんは、秋田県美術工芸専門学校を卒業後にスキルを磨き、平成20年(2008年)、広面に事務所の設計や住居のリフォームなどを行う株式会社高橋店装を立ち上げ、今は広面商工振興会の会長です。

川辺:なぜこの夏祭りを再開することにしたのでしょうか?
「コロナがあって暗い気持ちになってしまった子どもたちを単に喜ばせたいと思い立って、コロナの規制が緩和されるとすぐに三吉神社にここで祭りをやらせてほしいと直談判しました。」

川辺:この規模の夏祭りを立ち上げるのはかなりの苦労だったはずです。ボランティアでこの大役を務められたのはなぜでしょうか。
「それは実行委員長の加藤君、運営を手伝ってくれる仲間、そして祭りを喜んでくれる地域があったからです。去年も今年も協賛してくれた企業は200社以上。多くの企業がこの祭りを支えてくれています。地域全体が、広面夏祭りを心待ちにしていたんです。だから実現できました」

川辺:この夏祭りを今後、どうしていきたいですか?
「参加している子どもたち、みんな笑顔でしょう。僕はこの祭りを地域に根付いたものにしたい。笑顔の子どもたちを見たいから、来年以降も続けていきたいと思います」

「手と体を動かしてみたら、祭りができました」

高橋さんとともに夏祭りの運営を取り仕切った加藤真也さんは、現在37歳。株式会社互大設備工業で一人親方としての修行をし、7年前の2018年に家庭用・業務用のエアコン工事などを請け負う株式会社ACEを立ち上げました。加藤さんにもこの夏祭りを開催しようと思ったきっかけを聞きました。
「自分も子を持つ親として、コロナで失われた5年間を子どもたちに戻したいと感じていました。コロナで広面夏祭りが中断していたので、なら自分でやってみようと思ったのがきっかけです」

高橋さん(前列右から3番目)、加藤さん(前列左から3番目)、広面商工振興会、ボランティアの皆さんと ©みかみ写真館

川辺:再開後1回目となる昨年の夏祭りには約2,000人が集まったと伺いました。かなりの苦労があったと思います。
「苦労とか手間とかはあまり考えず、手と体を動かしてみたら祭りができました。笑 ただ、人が集まったら楽しいだろうなと思って、あれこれ動いてみたら、たくさんの方々が手伝ってくれて、そしてたくさんの子どもたちが来て喜んでくれただけです」

川辺:加藤さんや高橋さんがいらしたからこそ、この規模の夏祭りができているのだと思います。この夏祭りは続いていくでしょうか。
「もっと大きくなります。地域の若い人たちがボランティアでたくさん参加してくれているのも、この祭りをみんなが望んでいるからだと思います。そうした人たちがこの地域にいる限り、広面夏祭りは続いていくでしょうし、どんどん人が集まってくるでしょう」

今年の広面夏祭りレポート~これが広面だ!

今回の広面夏祭りは、秋田市出身のモデル、北川楓夏(きたがわふうか)さんの司会で午前10時からスタート。開会式では、今年4月に就任された沼谷純(ぬまやじゅん)市長からも挨拶がありました。

沼谷市長も挨拶に熱が入ります

「こうした夏祭りは、子どもたちの一生の思い出になる。県外に出ても海外に行っても、また広面、秋田に戻りたいというきっかけを子どもたちに与えてくれる。これこそがふるさとの風景であって、大人である私たちもしっかり守っていきたい」。そう語る沼谷市長、子どもたちが朝からたくさん集まっている光景を見て、とても楽しそうでした。

会場となった大平山三吉神社前には、焼きそばやポテトから豚ハラミの炭火焼、おしゃれなりんご飴、地元柳田の有限会社タンポヤ林さんのきりたんぽを使ったみそたんぽなど、グルメの祭典といえるほどの規模で出店が並びました。三吉神社の田村泰教(たむらやすのり)宮司は「豪雨で大きな被害を受けたこの地区に元気を与えられるお祭りならばと思い、二つ返事で会場を提供しました」と話します。

とにかくひっきりなしにイベントが続く

夏祭りは朝から始まり、地元広面小学校や城東中学校の生徒の皆さん、町内の方々、秋田出身のプロによるパフォーマンスなどが続きます。商工振興会の名誉相談役である株式会社一ノ関時計店の一ノ関勝義(いちのせきかつよし)さんは「40年前にこのお祭りを始めたとき、『地域の手づくり』を大事にしました。それが今も生きているのだと思います」と話します。そして、「コロナ禍で中断し、もうこうしたお祭りはダメかなと思っていた。しかし去年、若い人たちが『祭りを続けたい』と言ってくれて本当にうれしかった。商工振興会もこの広面地域も元気なままだ」と語る笑顔が印象的でした。

「みんなの前でできてうれしい」と語る子どもたちが印象的でした ©みかみ写真館

地元城東中学校吹奏楽部の演奏が響き渡る  ©みかみ写真館

駅東竿燈会による圧巻のパフォーマンス! ©みかみ写真館

式典では、急きょ鈴木健太(けんた)新知事が司会として参加!東地区の水害を繰り返さないように太平川改修事業を国の立場から進めている冨樫博之(とがしひろゆき)総務副大臣や地元の見上万里子(みかみまりこ)市議、藤田信(まこと)市議、このお祭りの実現を支えた広面地区の各団体の方々の紹介がありました。

昨年以上に盛り上がったのは大抽選会。今年は70社も景品を提供し、さらには子どもたち向けのくじの特賞は「任天堂Switch2」!抽選だけで2時間もかかるほど、会場は熱気に包まれました。

参加した人が必ず何かを持ち帰った?抽選会 ©みかみ写真館

最後は今年から始まった花火でフィニッシュ。教育委員会や消防の皆様のご協力により実現した花火は、お祭りの参加者だけでなく地区に住む多くの方々に秋田の夏の良い思い出を与えてくれました。

広面地区は開発が進んでおり、「住む人が増え、子ども町内会を作らないといけないかもな」という声も出るくらい、人口減少時代の中でも活気が出てきています。同時に、昔は大きな水田地帯だったこともあり、古くから住んでいる方も多いです。そうした「新しい人たち」と「古い人たち」がぶつからずに、一緒になって支え合っている地域です。

鈴木知事は「ここにはやる気のある人たちがたくさんいる。都会と同じくらい楽しい場所であり続けてほしい。そして、秋田を引っ張っていってほしい」と話していました。浴衣を着てかき氷を楽しむ子どもたち、抽選券をゲットして喜び、走り回る子どもたち、そしてそれを見て笑顔になる大人たち。この地域は楽しいと誰の心にも残ったはずです。ここに戻ってきたいと思う子どもたちも増えたはずです。

人口減少が進んでいる秋田県。しかし、地域の元気は人口だけで測られるものではなく、むしろ「地域のために何かをやってみよう」と思う人たちの存在で決まるのではないでしょうか。祭りの開催だけでなくいろいろなことで地域を盛り上げようという方が出てきている今の秋田、各地域でこうした盛り上がりが見られる日も近いかもしれません。

高橋さん、加藤さん、広面商工振興会・地区の団体の皆さま、本当にお疲れさまでした!

文と一部写真:川辺隼之介
みかみ写真館から多くの写真をご提供いただきました。