秋田にはいい食材がたくさんあるのに、県外にはあまり知られていません。たとえば枝豆もおいしい品種があるのに、新潟の「茶豆」や山形の「だだ茶豆」に比べ知名度がありません。
でもどんな商品も最初は無名なんです。多くの人に知ってもらい買いたいという気になってもらうためには商品のブランド化が必要なのです。「○○といえばコレ!」という突き抜けたイメージを作り上げなければいけません。
とはいえ商品を作っている人がそれを自社でやろうとしてもなかなか難しい。そこにはやはりプロのサポートが必要。最近、マーケティングやブランディングで秋田の企業をサポートし、県外で秋田の特産品を販売したいという企業が次々に現れています。
そういう企業の一つ、株式会社design-farmの遠藤貴絵さんに会いました!遠藤さんは苫小牧出身。秋田公立美術短大に進学し、卒業時には各学科からひとりしか選ばれない優秀賞を受賞しました。秋田市の会社に就職してウェブデザインやグラフィックデザイン、さらにはそうしたデザインを生かしたトータルなブランディングについて学びました。そして3年後にはアートディレクターとして独立、秋田市で「office-design-farm」というデザイン事務所を立ち上げました。
遠藤さんは、秋田で仕事をするうちに「販売先を県内で完結させず日本全体を市場と捉え、より多くの潜在的顧客にdesign-farmのクリエイティブを届けたい」と思うようになり、昨年、東京に進出、「office-design-farm@渋谷」をヒカリエに構えました。 こうして遠藤さんの2拠点生活が始まったのです。
ゼロからのスタートでしたが、間もなくアクシエ株式会社の大野佳哉さんと出会い、ペットフードのブランド化プロジェクトがスタートしました。大野さんは秋田県出身で、ペットフード業界に精通し品質の良い秋田の食材で高齢化したペットのためのおいしくて優しいペットフードを作りたいと考えていました。
ペットは家族同然。時には家族の中でいちばん大切にされていたり、家に居場所のないお父さんの心の寄りどころだったり。恵まれた環境で生活するようになり人間と同様にペットの寿命も延びてきました。東京都家庭動物愛護協会会長で獣医師の須田沖夫さんによると、須田さんの病院に来る犬猫の平均死亡年齢は1980年には3~4歳だったそうです。それが1989年には10歳前後、1998年には14歳前後になり、その後は横ばい。1980年には死因の上位は感染症や交通事故、栄養失調でしたが、今は心疾患、ホルモン異常、代謝障害、腫瘍、認知症などが増えているそうです。
大手ペットフードメーカーも、もちろん、こうした需要に気づいています。犬の場合で7~8歳以上を対象に、太りすぎや生活習慣病を予防するペットフードや、老化を遅らせる効果があるといわれるサプリメントを販売しています。しかし、優しい飼い主は、いつも、もっといいものがないか、もっと喜んで食べてくれるものがないかと探しています。そうした飼い主のニーズを踏まえ、2社は協力し秋田の良質な美味しいものを生かしたヒューマングレードのペットフードのブランド開発を開始しました。
大野さんが商品開発を進める一方、遠藤さんはブランディングに取り組み、商品のパッケージデザインやパンフレットなどのクリエイティブの制作、メディアへの取材要請などを担当し、東京進出から約1年でこの夏に商品販売できるところまでこぎ着けました。
ブランド名は「komachi-na-(コマチナ)」 美人の代名詞で、秋田新幹線の愛称でもある小町にちなんで命名しました。下の4商品は犬用のクッキー。
左から赤菊芋入り、次が枝豆入り。それから山菜の「こごみ」入り、野生味の残るブルーベリーといったイメージの「こはぜ(なつはぜ)」入り。いずれも秋田の特産で、その上、健康にいい成分をいろいろ含んでいます。
菊芋はスーパーなどにはあまり並んでいませんが、健康食品のお店などで乾燥させたり粉末にしたりして販売されているそうです。枝豆が秋田の特産と言われてもピンとこないかもしれませんが、出荷量では全国でトップクラスなのです。
また、胃腸や歯が弱ったわんちゃんのために日本の三大地鶏といわれる比内地鶏とあきたこまちを使用した雑炊も開発しました。贅沢なようですがからだが弱っているときでも安心しておいしく食べさせることができます。
「komachi-na-(コマチナ)」のターゲットは、関東の富裕層、中でも30歳~50歳代の女性です。遠藤さんは、ペットを家族のように愛し、オーガニックや天然という言葉に敏感で、ライフスタイルにこだわりが強い人に刺さるようにディレクションしたと話してくださいました。
パッケージは、ポップでかわいく思わず手に取ってしまいたくなるカラーが印象的ですが、ロゴ・タイトルなどのデザインはシンプルにまとめました。
遠藤さんは、「人間の食べる食品のパッケージは前にもデザインしたことがありましたが、ペットフードは『選ぶ人』が『食べない』ことが大きな違い」といいます。「食べ物のパッケージは『おいしそう』と思ってもらえることが大切。でも、今回は食べるのがペットですから、飼い主にプレゼントを選ぶような「ワクワク感」を感じてもらうことが必要じゃないかと思いました。だったらあえて食べ物には敬遠されがちな色を使ったり、斬新なデザインのほうがブランド力を高められると考えました」と語りました。
まずはビジュアルを楽しんでもらえたら嬉しいですね。単純に「かわいい」、「楽しい」って思ってもらえたらそれでOKです。今後も視覚的にみなさんが楽しめるディレクションを行い、ペットフードといえばkomachi-na-というイメージにしていきたいと思います。
遠藤さんは現在、渋谷と秋田の2拠点で、グラフィックデザイナーと一緒にロゴやウェブデザイン、パッケージなどのクリエィティブを幅広く請け負って仕事をしています。
学生時代から10年近くを過ごした秋田には愛着と同時に課題も感じています。「北海道から秋田に来て、もっとこうしたらいいのに・・・と思うことが多々ありました。みんなの気持ちをくみ取りつつ、客観的な視点で秋田の企業や街のPRの力になりたいと思っています」と意欲を語りました。
また、今年度は渋谷区で企業、NPO、市民、行政が組織の枠を越えてまちづくりに取り組む「渋谷をつなげる30人」にも選ばれ、さらに活動の場を広げ、クリエイティブなアウトプットで大都会の街づくりにも参加するそうです。
秋田特産品を使ったペットフードは、彼女の最初のプロジェクト。でも次の事業、次の次の事業も、もうすでに始まっています。「何も無いところから何かを育て、新しい文化をつくる」ため、たくさんの人に興味を持ってもらえるクオリティの高いデザインを生み出し続けています。
◆株式会社office-design-farm公式HP http://web.office-design-farm.com/
代表取締役 遠藤貴絵
「まぁるく。トガル」をコンセプトにデザインワークを展開
◎ 遠藤さん個人の作品についてはこちら http://portfolio.endoutakae.com/
文:竹内カンナ