首都圏在住でも秋田に貢献する、新しい働き方 秋田コネクト Day2

あきた寺子屋が運営する「秋田コネクト」ーー、今年はオンラインで2回に分けて実施、その2日目が2月6日に開催されました。この日は、秋田のために何かをしたいとか秋田に帰りたいが仕事をどうしようかと考えている人たちに一歩を踏み出してもらうための新しい働き方がテーマ。

インターネットの普及のおかげで実現した超リモートワークや、IT(情報技術)を活用した田舎暮らし、ワークデザインラボという複業(副業)で地域の企業や自治体の課題解決を支援しているアーバン・プロフェッショナルのグループを紹介しました。

あきた寺子屋は、地元に帰りたいけれど仕事がなくて帰れないと思っている若者が多いことから、就職ではなく自分でビジネスを興す起業という働き方を応援するため、秋田産業サポータークラブが9年前から年1回開催しています。

この1年は、新型コロナウイルスの感染拡大によって在宅勤務(リモートワーク)が増える一方、取引先の訪問もままならず、会食の機会も激減するなど仕事の流儀が大きく変わりました。プライベートでも旅行どころか帰省すらままならず、コンサートやイベントは中止されるかオンラインに移行、都会生活の魅力が味わえませんでした。これまで当たり前と思っていた朝夕の満員電車が耐えがたく思えてきた人も多かったのではないでしょうか。

そうなるとこれまで大きなデメリットだった秋田県の大都市からの距離や、消滅の危機さえいわれていた人口減少メリットに転じ、公共交通機関に頼らず車・自転車通勤ができることに魅力を感じる人が増えました。これは、秋田県にとってまたとないチャンスです。

北海道で渋谷の会社の仕事を続ける西村貴子さん

最初に登壇していただいたのは、IT(情報技術)で距離を埋め、秋田よりさらに遠いふるさと北海道の北見市にUターンした西村貴子さんと秋田県湯沢市にUターンした菅真人さん

西村さんは、東京の出版社に勤めていましたが、残業や接待が多く子育てとの両立は難しいと考え退職、しばらく子育てに専念した後、渋谷の会計コンサルティングの会社にパートとして入社し、その後、正社員になりました。

ずっと故郷の美幌町に近い北見市に帰りたいと考えていましたが、2人目のお子さんが生まれた頃から、このままでは帰れなくなると焦りを感じ、5年前から情報収集やお試し移住をして準備をし、渋谷の会社でやっていた仕事をそのまま続ける形で、昨年、北見市に2人のお子さんと一緒に移住しました。こうした働き方を会社に提案したところ、前例がなかったにもかかわらず会社も前向きに対処してくれたそうです。

北海道が大好きで帰ることに迷いのなかった西村さんではありますが、北見市の市役所職員が西村さんを地元のキーパーソンに紹介してくれたことや、市内のサテライトオフィスに既に4人の先輩がいたことも背中を押してくれました。なんと4人とも渋谷の会社の社員だそうです。

湯沢市と東京でやりたいことやれることを模索する菅真人さん

湯沢市に帰った菅さんの場合、状況は全く異なりました。首都圏や海外で13年を過ごしたた後、体調を崩したのをきっかけに昨年5月に地元に戻りました。子供の頃からドイツに憧れ、ドイツに行きたくて勉強したというほど海外志向が強かった菅さん、ドイツビールの営業マンとして有名なドイツのビールの祭典オクトーバーフェストやヨーロッパ各地のクリスマスマーケットなどのイベントに出張したりしていました。国内でも各地に出張したり飲食店の立ち上げも経験。ヘッドハンティングで2回転職するなどバリバリ働いていました。

ところが体調を崩しペースを落とさざるを得なくなり昨年5月に実家に戻って暮らし始めました。農業をやっている祖父母を手伝いたいという思いもあったそうです。しかし、集落に30歳代はひとりだけ。実家に閉じこもっていることが多くなりました。家ではウェブデザインやクラウドサービスのクラウドワークスでパソコン業務をどんどん引き受け、採れすぎて廃棄処分になりそうな野菜をネットで販売したりネットショップも4店運営するようになり、パソコンとネットがあれば暮らしていけるという感触を得られました。

帰った当初は、ネットで稼いでいると言うと詐欺でもやっているんじゃないかとか、「変なやつが帰ってきた」と思われている気がして居心地が悪かったそうです。しかし、WiFiの設置がうまくできないと聞けば行って手伝い、孫にアマゾンでプレゼントを買ってやりたいと聞けば、一緒に注文してあげ、今年の冬は県南を中心に大雪だったので雪かきを手伝うなどして、少しずつ地域の「なんでもや」として認知されるようになりました。今では7つの仕事で月にそれぞれ1万から10万円の収入を得られるようになりました。起きている時間はすべて収益を上げられるようにすることを目指しているそうです。菅さんは、将来的には休耕地や空き家の問題にも取り組みたいと考えているとのことで、さらに仕事の数が増えそうです。

地方と関わりたいプロフェッショナル集団ワークデザインラボ

今回の秋田コネクトでは、複業でやりたいことにチャレンジするプロフェッショナル集団一般社団法人Work Design Labの代表理事の石川貴志さん倉増京平さんにもお話もお聞きしました。複業で秋田に関わることに興味のある首都圏の秋田県人が多いのではないかと思ったからです。

Work Design Labは現在100人超のメンバーを擁して幅広い活動を行っており、全国各地で企業や自治体の依頼を受けて、それぞれの課題の解決に向け、チームを結成して活動しています。

代表理事の石川さんは、2011年の震災時にボランティアで被災地へ行ったことがきっかけとなり、いくつもの地域のプロジェクトに関わっています。Work Design Labは、2017年5月に経済産業省の「兼業・副業を通じた創業・新事業創出事例集」や2020年7月に日本経済同友会の政策提言「多様な人材の活躍に向けた現状認識と課題」で事例として取り上げられたことがきっかけとなり、取り組むプロジェクト数が一段と増えたそうです。

メンバーの7割が会社員、3割が経営者や弁護士、会計士、社会保険労務士など「士」業やフリーランス(個人事業主)だそうです。石川さんは、会社の一つの事業の寿命は一人の会社員の引退まで持続しないことが多いのでその事業がなくなった後のことを考えて不安になる会社員は多いと指摘、その後のための学びが必要で、それを会社に任せるのではなく社外での副業などの経験が必要になっていると考えています。「これからは個人が法人化していく。会社の看板がないところで自分の腕一本で複業を走らせるような働き方が増えるだろう」と予想しています。メンバーのうち17人は会社員でありながら法人代表(CEO/最高経営責任者)でもあるそうです。

倉増さんはもともと広告マンとしてキャリアを積んだ後、現在もベンチャー企業で働きながら、会社を経営しています。

地方に関わる活動を始めた理由は最初、自分でもよく分からなかっそうです。ただ、一言で言うとめちゃくちゃ楽しいからやってると話しておられました。

全部がうまくいっているわけでも全てがお金に結びつく活動でもありません。地方の活性化に強い関心はありますが移住は少なくとも今のところは考えておらず、経験やスキルを使って複業で地域に貢献することが心地よいのだそうです。Work Design Labのビジョンは「生き生きと働く大人で溢れる社会、 そんな大人を見て子供が未来に夢を描ける社会を作る」こと。

地方でビジネスを立ち上げることにも協力しています。石川さんは、そのためには、タネになるプロジェクトが多数なければならないと話します。ビジネスはたくさんのプロジェクトの中の選りすぐりのプロジェクトなのです。また、プロジェクトの背景には、活発なコミュニティがあることが必須だと語られました。

コミュニティというのは、例えば秋田県内だけでなく、秋田と首都圏のような広域の方がプロジェクトが生まれやすいそうです。Work Design Labは横浜市と2017~2019年、社会にイノベーションを起すことを狙ったプロジェクトを、茨城県とは複業を通じた移住や二拠点居住の裾野を広げることを目指すプロジェクトを1年間にわたり運営しました。

また、石川さんは、ふるさとの広島県福山市で町づくりの委員を務め「複業モデル地区」構想をまとめる中、人材を地域(企業・行政・大学)でシェアリングする働き方を提案しました。1人のUターン人材を一社で独占するのではなく地域の3社ぐらいでシェアするというような働き方を提案したそうです。一人の会社員の複業は裏を返せば複数の会社で一人の会社員が働くということなわけです。会社が人材を採用する場合でも、一人を雇うほどの仕事量はなかったり、そのスキルを持つプロが地域にそんなにたくさんいない場合、企業にとっても働く人にとっても、地域にとってもウィンウィンの関係が期待できます。

これまでに実施した典型的なプロジェクトとしては、IT(情報技術)ツールを導入したが、システム担当がおらず使いこなせなかった企業のためにITに詳しいメンバーが入って業務改善を実施。その後新商品開発にも協力したそうです。

また長年どんぶり勘定だった40人規模の地域の医療機関の財務を、大手企業の財務担当者、銀行の現役社員、ベンチャー企業のCFO(最高財務責任者)など4人が入って部門ごとのコスト構造が分かるように改革しました。

どのプロジェクトにも欠かせないのが、課題の分析とタスクの切り分けです。それが済んだ段階でメンバーに投げ、必要なスキルと時間の余裕がある人が手を挙げるーー、あるいはスキルのある人に声を掛けるというようにしてプロジェクトを進行させます。

課題解決を引き受けるのですから、無償ではありませんし、地方の企業とプロフェッショナルの報酬額の間にはギャップがあったりするそうですが、石川さんも倉増さんも、お金だけを求めて活動しているわけではないということを何度も強調されていました。倉増さんが描いた下の図は、お金に加えて地方の会社や自治体との関係ができて、その会社の商品や季節の生産物をもらえることがとても嬉しくやり甲斐につながることを表わしています。

今年、Work Design Labは、こうした活動から学んだことを伝える学校を始めるそうです。生徒はWork Design Labの新メンバーだけではなく、たとえばプロジェクトである地域に行ったとき、そこのママさんたちにデジタルマーケティングを教える講座を開くといったようなことも考えているとのこと。

本業を持ちながら仕事の後や週末にこのような活動をしているので、石川さんも倉増さんも家族との関係でこれでいいのだろうかと迷うこともあったそうです。しかし、休みの日に家にいないことに不満をもらしていた奥さんが、現地に行くときに一緒に行ってみたら、「あなた、沖縄とかのプロジェクトはないの?」などと言い出したりして、複業に理解を示してくれるようになったそうです。そうです!みんなが幸せにならなければどんなプロジェクトも意味がありません。笑

コロナの中で人々の価値観が変化しています。この1年で、これまで絶対に必要と思っていたものがそうでもなかったり、当然と思っていたことに疑問を感じるようになった人も多いのではないでしょうか。

働き方についても一度見直してみてはいかがでしょうか。これまで思いもよらなかった新しい働き方があるかもしれません。

文:竹内 カンナ

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