WE LOVE AKITAは、秋田でビジネスを立ち上げる若者たちを応援したいと思っています。アイデアを持ち、それを実現したい人たちを、少しでも多くの人に知ってもらい、夢の実現の一助になったらと思っていますので、アイデアソン、ハッカソン、ピッチイベント、なんでも教えてください!記事にさせていただきます!
今回は、昨年行われたIT(情報技術)で秋田を元気にする起業アイデアの実現を後押しするアイデアソン(たくさんの人が集まってアイデアを出し合い競い合うイベント)で選ばれた3人の起業プランをご紹介します!
今回ご紹介するアイデアソンは、秋田県のデジタルイノベーション戦略室が2020年度に実施した正式には、「デジタルイノベーション実証プロジェクト形成促進事業」というイベントです。2020年の9月と10月に十数人が参加してアイデア出しを行い、12月半ばに行われたスタートアップウィークエンドというイベントで3日間、さらにビジネスプランを練り上げて最終的に3人のプランが選ばれました。
どのプランも秋田の社会や経済の課題にそれぞれの知識やスキルを活かして取り組んでおり、ぜひ実現させてほしいと思いました。
アニメアイドルのオンラインライブを開きたい!
最初の発表は、雲雀(ひばり)一博さん。アニメアイドルのオンラインライブについての提案でした。2番目は秋田の農家と都市圏のシェフを結び、秋田の野菜の販売の拡販を目指す田口雄大さん、3番目は体の不自由な人の困りごとを3Dプリンターを使って製作した道具によって解決し、生活を豊かにしてあげたいと考える若狭利伸さん。県の事業としてのアイデアソンなので、ビジネスとして成立するかどうかとともに秋田県の課題解決に役立つかどうかが評価の重要なポイントでした。
では、簡単に3人のアイデアを紹介させていただきます。
アニメアイドルのオンラインライブを提案した雲雀さんは、ウェブ・印刷物制作トラパンツの社員で、仕事でもイベントの企画・運営を行っています。昨年、新型コロナウィルスで多くのイベントが中止になった時、雲雀さんたちが年に1回行っていたアニメイベントも中止になってしまいました。そんな中、アイドルグループの日向坂46がオンラインイベントを実施、リアルのコンサートではありえない観客を動員したのをみて、雲雀さんは度肝を抜かれました。
チケットの販売枚数は9万2000枚。1枚3500円なので、チケット販売だけで3億2000万円。それに加えてグッズ販売も好調だったと知り、これはスゴイと思われたそうです。オンラインなので人数制限がないことに加え、グッズ販売は受注してから生産できるので在庫を抱えるリスクがないのです!
そこで雲雀さんは、自分たちもアイドルのライブをやろうと考えました。選んだのはアニメアイドルの「東北きりたん」。秋田出身という設定で、その上、今のところ、「ニュートリノ」という歌声合成エンジンを使ったアニメアイドルの中でいちばん歌がうまいのだそうです!YouTubeをみると17万回再生されている動画もあります。
また、東北の企業がきりたんを使うなら著作権フリーでよいというところも魅力。またリアルのイベントではたとえアニメアイドルでも会場費などそれなりの費用が必要ですが、オンラインなら不要。もちろん、オリジナル曲を作曲してもらったり、振り付けをしてもらう必要がありますが、この世界、アマチュアマニアで優秀な人がたくさんいて、YouTubeに作品をアップしていたりするので、そういう人とコラボできれば製作費も安く抑えられるだろうと考えました。
東北きりたんは、知る人ぞ知る存在で、公式Twitterには8万4000人のフォロワーがいるので、その10分の1がグッズを買ってくれれば8400個も売れることになります。そのグッズをコロナで販売が落ち込んでいる観光やおみやげメーカーに依頼すれば、県内企業にお金が回ります。舞台を男鹿半島や角館の武家屋敷といった秋田の観光スポットにすれば観光プロモーションにも役立ちます。わたしは、雲雀さんのプレゼンを聞いていただけで、なんだかジャラジャラお金が入ってきそうな気分になりました。
秋田の野菜を首都圏のシェフに届けたい
次の登壇者は秋田県立大4年生(休学中)の田口雄大さん。秋田を元気にしたくて県立大学で農業を学んでいたのですが、秋田には情熱的に農業に取り組んでいる素敵な農家がたくさんいるのに、販路を開拓できていないことに気づき、何とかしたいと思うようになりました。
田口さんは、販路が広がらないのは、その農家や作物の魅力を消費者に対して十分に伝えられていないからだと思いました。
そんな折、田口さんは湯沢市で行われた食から持続可能な未来を作っていくことを目的とした「Next Gastronomia(ネクストガストロノミア)」が開催した東京のシェフに秋田の伝統野菜を使って料理をしてもらうイベントに参加しました。その時、シェフたちが、もっと秋田のいろんな食材を知りたいと思っているに、なかなか訪れる機会がないと残念そうに話すのを聞きました。また、農家からは、個人で通信販売を行っているが、1軒の農家の野菜だけでなく何軒かの農家の野菜を買い取ってセットにして販売してくれる中規模の会社が欲しいという声を聞きました。
そこで、田口さんは、農家とシェフをつなぐ会社を自分で興そうと考えました。農家とシェフにそれぞれ年1万円ずつの会費を払ってもらい、農家のために新規顧客の開拓し、シェフには新しい秋田の野菜を紹介するというビジネスモデルです。
またシェフが自分で田口さんが構築するウェブサイトで検索し、自分の欲しい野菜を作っている農家とつながることができるようにします。シェフは、首都圏の秋田ゆかりの居酒屋の情報を集積している「秋田居酒屋探訪(秋田いざたん)」を活用して集められそうです。あきたいざたんは秋田出身者のお店や秋田料理のお店268店舗のネットワークです。
田口さんは試験的に秋田で最近注目されている「沼山大根」や「田沢ながいも」を東京のシェフに提供してみました。田口さんの活動には、秋田の大学生が運営する「わげ衆秋田会議」のメンバーも協力しています。彼らはYouTubeチャンネルを持っており、それを通じて若い人向けに情報を発信しています。
県立大学には「あきた郷土作物研究会」があり、伝統野菜の研究をしています。また秋田では沼山大根や三関のせりなど若い農家で非常に狭い地域でしか作られていない伝統野菜の栽培に熱心に取り組む人が増えています。沼山大根については、国際教養大学出身の映像作家栗山エミルさんも、「沼山からの贈りもの」というすばらしい作品を製作し、全映協グランプリ2020で最優秀賞・文部科学大臣賞や東北映像フェスティバル2020で大賞を受賞するなど注目が集まっています。
3Dプリンターで障がい者の生活を楽にしてあげたい
3人目に登壇したのは若狭利伸さん。社会福祉法人北杜 障がい者支援施設ほくとで作業療法士として働く中で、障がいのある人の生活の質を上げることができる道具を3Dプリンターによって作る事業を提案しました。
例えば片手が不自由な人にとってはスマートフォンに充電コードを差すといった日常的な動作がけっこう難しい。それを容易にしてあげられるような道具、「自助具」というのだそうですが、そういうものを作って上げたいと考えているのだそうです。
また、野菜の皮むき。これも片手で使うのは難しい。しかし、野菜を刺せる台があれば片手でも皮むき器が使えます。
自助具・・・。世の中には、探せばあることはあるのですが、ひとりひとりの「こんなのあったらいいな」はそれぞれ違うので、大量に生産してどこででも販売できるものではありません。あったとしても、あることすら知らない人も多いのです。自助具の市場には今のところ、必要な人に必要なものを届けられるシステムがないのです。
若狭さんは、重度知的障がいのある弟さんとの生活や、お父さんを自死で亡くした経験から作業療法士を志し、東京の大学に進学し都内の障がい者施設に就職しましたが、地元秋田のために働きたいと考え、戻ってきました。「作業療法士」というのは、病気やケガ、障がいのある人など日常生活に支援を必要とする人が社会とのつながりや、その人らしい生活を作れるようにする仕事です。
若狭さんは、昨年度、「秋田県若者チャレンジ応援事業」に応募して、「eスポーツを用いたリハビリテーション」のビジネスプランが採択され、障がい者施設や地域コミュニティで対戦型のゲームをリハビリに役立てるための研究や実践も進めています。新型コロナウイルス感染予防のため、外出や面会制限が続き、身体機能や認知機能の低下が懸念される障害者や長期入院者に、eスポーツで楽しみながら体を動かし、リハビリをしてもらおうというプランです。若狭さんは、「秋田から新しいリハビリテーションの形を作りたい」と語っておられました。
3人のビジネスアイデアは、それぞれ選んだ道を歩みながら得た知識をベースにして、多くの人が共感するプランに練り上げられており、説明を聞いているだけで面白くてワクワクしてきました。
しかし、起業するためには、これからが正念場です。資金調達をしたり、パートナーを見つけたり、顧客を見つけたり、アイデアを現実にするのは大変です。秋田をもっと元気にしたいという思いにあふれた彼らの事業に共感し、支援の手を差し伸べたり、一緒にやりたいという人が集まってくることを期待します!
文:竹内カンナ