【寄稿】奥羽脊梁山脈縦走 八瀬森山荘宿泊

 

鹿角市山岳会 岩城淳一さん

秋田の魅力をもっと知ってもらいたい、そのためには地元の人に語ってもらうのがいちばん!というわけで、地元レポーターに秋田のいいとこを紹介してもらうシリーズを開始します。

第1弾は、鹿角市在住の岩城淳一さんにお願いし、仙北市の乳頭山から鹿角市八幡平への縦走を記事にしていただきました。岩城さんは鹿角市山岳会に所属し、毎週のようにこのあたりの山に入り、登山道の整備などもされている山男です。

岩城さんが書いてくださったのは2020年秋の八幡平。今ごろ(2021年6月)は、雪渓が残る中、あちこちに高山植物のお花畑が出現する季節ですが、コロナのせいで県外からは行きづらいので、感染状況が落ち着くであろう今年の紅葉シーズンの登山を今から計画してみてはいかがでしょうか?

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2020年10月10日(土)

蟹場温泉登山口〜八瀬森山荘

前日の台風は何とかそれてくれた。今日は埼玉の山友が夏にやり残した宿題に付き合うことにしていたので早朝、盛岡まで迎えに行く。

無事に合流し田沢湖に向かう。駅から路線バスで一路、蟹場(がにば)温泉登山口へ。このコースは温泉から温泉への縦走だ。時間は10時少し前、少し遅めのスタートとなる。

登山道の入り口が刈り払いされておらず、しばらくうろうろとした挙句、旅館に聞きに行く。場所を確認し、歩き始めると、最近刈り払われたような登山道が現れる。事前の情報では藪漕ぎ(笹や灌木を掻き分けながら歩くこと)が必要らしいのだが・・・

登り切った最初の展望が田沢湖。天気だけが悔やまれる。

蟹場分岐、鶴の湯分岐と進むが一向に藪はない。途中で大曲高校の登山部の生徒と出会う。今日の宿は鶴の湯だそう。高校生と抜きつ抜かれつ、時おり挨拶や言葉を交わすも思春期の真っ只中の高校生は少し照れくさそうだったりぶっきらぼうだったり・・・

友人と雑談しながら歩いていると、前方に倒木。よく見ると秋の山の恵み「カノカ」、別名「ブナハリタケ」というきのこ。山の恵みに感謝しながら収穫する。

今日の目的地は八瀬森(やせもり)山荘。17時前には着きたいが、果たして・・・

小白森(こしろもり)で高校生に追いついたが、ここで大曲高校生とはお別れ。私たちは八瀬森山荘へと道を急ぐ。

しばらく進むと眼前に大白森湿原が現れる。一面見事な草紅葉に心を奪われる。しかし何も風を遮るものがなく風が体温を奪い取る。

大白森湿原

湿原を通り抜け木道が終わり樹林帯へ進むと刈払われた笹や竹が時折、足に絡みつき、足元が滑る。

足元に気を付けながら進むと突然、左側に木の看板とともに木道が現れる。すこし二人で考えていると「大白森山荘」であることに気付く。

中を拝見しに行くこととする。上蓋のないストーブがあり、二階へと続く階段がある。二階を見に行くと湿原手前で追い抜かれた男性が休憩中であった。進むか戻るか考え中とのこと。

私たちは山荘を後にし、大沢森へ(名前が似ていてややこしい・・・)

途中、くるぶしくらいまでの泥濘(でいねい)があった。事前に友人から仕入れた情報で私はスパイク長靴、友人も直前まで悩んで結局長靴を選択していた。二人で長靴で良かったねと顔を見合わせる。

歩いていると前方から2人組の男性が来る。よく見ると知り合いの県職員であった。どうやら紅葉の時期に合わせ、この縦走コースの刈り払いを行ったらしい。

おかげで何年かぶりに藪のないコースを歩くことができた。しかし実は藪漕ぎに期待していた私たちは、少し肩透かしを食らったような寂しさの混じる複雑な思いだった。

途中休憩をはさみつつ、奇木を見つけたり森を眺めたりしていたら時間があっという間に過ぎていった。日没まで八瀬森山荘にたどり着くのだろうか・・・

大沢森を過ぎ曲﨑山(まがりさきやま)へ。ここに来て登りがキツくなる。うしろの友人は楽しそうに登ってくる。この差はザックの重さなのか、体力的なものなのか・・・

登るにつれてガスが濃くなり樹林帯が切れても一切眺望がなく気持ちが滅入る。晴れていたら素晴らしい紅葉が見られるはずだった。

曲﨑山から八瀬森へと緩やかに下る。八瀬森のピークを通り過ぎると突然、八瀬森山荘が現れる。

 

やっと着いた。時刻は17時少し前。さっそく中に入り、それぞれが持ってきたアルコールで無事にたどり着いたことに乾杯する。

早速、夕飯の準備に取り掛かる。新米の季節なのでザックに詰め込んできた「きりたんぽ」と、途中で収穫してきたカノカの虫取りを二人で行う。

きりたんぽ鍋とかのかのバター炒め(左下)

そして、サプライズの「松茸」をリュックから取り出す。これには友人も驚いてくれた。松茸は父が数日前に採ってきたもので、これを「松茸酒」「素焼きの酢橘がけ」「バターの蒸し焼き」の三品にして味わい、いぶりがっことチーズ、あたりめやポテトチップスをつまみに宴は進んでいく。

松茸を「松茸酒」「素焼きのスダチがけ」「バターの蒸し焼き」の三品にして味わう

と、突然外が騒がしくなった。3人のグループが到着したのだ。その後に続くように数名が入ってきた。聞くと千葉から来たグループで八幡平を出発するのが遅くなり到着も遅れたとのことだった。すでに辺りは薄暗くなり始めていた。

山荘を我が物顔で使える時間はあっという間に終わってしまった・・・

関東から来たグループは早々と食事を済ませ2名を残して就寝してしまった。グループのリーダーに翌日の行程を尋ねると、八時起床で朝食後に鶴の湯へ縦走するという。他人ごとながら予約している時間までに宿にたどり着けるか心配になる。その後、私たちも早々に宴を切り上げ、就寝準備に取り掛かる。外で歯を磨きながら見上げた空には星が見えていた。

10月11日 (日)

八瀬森〜蒸ノ湯(ふけのゆ)

午前4時ごろ起床。薄暗い中、ヘッドランプをつけ、昨日の残り物のきりたんぽやいぶりがっこなどを平らげる。準備を整え5時ごろには山荘を後にする。

まずは関東森へ。ところどころ登山道に巨木が転がっている。湿原を通り抜けていくと雲の切れ間から日の光が差し込む。今日こそは一面に広がる紅葉を見られるだろうと期待が膨らむ。

しかし、その期待はすぐに消えてしまった。

八瀬森分岐に近づくに従い、前にも増してガスが垂れ込めてきた。紅葉の絶景であるはずが・・・

 

八瀬森分岐に到着。早めの朝食だったので小腹が空いてしまいパンと水分を補給する。休憩もそこそこに大深(おおぶか)へ向かう。

程なくして大深ピークに到着。大深山荘手前の水場で、無事に補給用の水を確保できた。立派な柄杓(ひしゃく)が備え付けられていた。岩手の松川温泉への分岐を過ぎると大深山荘が見えてくる。せっかくなので山荘の中を見学、人気の小屋だけに中もとても良く清掃され綺麗である。

しばらく見学し山荘を出たところで八幡平山頂の陵雲荘から来たという男性と出会う。私たちが向かう山頂の様子を尋ねるとガスがひどいとのこと。少しだけ、ほんの少しだけ期待していたのだが・・・

沈む気持ちを抑え裏岩手縦走路へ足を向ける。

嶮岨森(けんそもり)、前諸檜(まえもろび)、諸檜岳(もろびだけ)と眺望はなく、友人のため息が・・・せっかく埼玉から来たのに、あたり一面に広がる紅葉を見せられず残念。

石沼

石沼、畚岳(もっこだけ)もガスの中。普段は見える藤七温泉も見えない裏岩手縦走路の終点に到着。見返り峠の山頂レストハウスにて休憩をはさみ蒸ノ湯温泉に下ることとする。

この数年、春の雪解けシーズンに激混みする新観光スポット、ドラゴンアイ(鏡沼)を経由し八幡平山頂で記念撮影。(もっとアップで写したかったのだが・・・)

八幡平山頂で記念撮影

ちなみに2021年6月7日のドラゴンアイ(WE LOVE AKITA編集部の蛇足)

(ご参考)2021年6月7日のドラゴンアイ(アキタファンより)

山頂から田代沼へ向かい、高度を下げるにつれて晴れ間がちらほらと、登山あるある現象・・・

順調に進み無事にこの日の目的地、八幡平温泉郷の蒸ノ湯に下山。

ここでは見事に晴れて、ようやく八幡平の紅葉がお出迎えしてくれた。蒸ノ湯周辺はまさしく紅葉がピークを迎えていた。友人から今回、初めて歓声が上がり、わたしも少しだけ肩の荷が下りた気分。

蒸ノ湯温泉と大深温泉のはしごを予定していたが、バス停に近い大深温泉だけに入浴することに。大深温泉に到着するとタイミングよく今期の営業最終日であった。外観も中も木造で、そばに は湯治棟もあり、とても渋い感じの温泉であった。ここでバスが来るまでの間、ゆっくりと二日間の汗を流す。

入浴後、何十年ぶりに路線バスに乗り込み田沢湖駅へ向かう。縦走の疲れとバスの揺れで心地よい眠りに落ちる。

目が覚めると、辺りは既に薄暗く駅までもうすぐ。2時間があっという間だった。駅に着き、お土産を買い、友人とはここで別れ。

紅葉ベストトレッキング100でNo.1に選ばれた蒸ノ湯周辺の紅葉は山頂と違い天気も良くとても綺麗で良かったのだが、やはり八幡平の核心部である奥羽山脈の紅葉を友人に見せてあげられなかったことは、とても残念で心残りとなってしまった。
いつか、晴れ渡る青空のもと奥羽山脈脊梁の紅葉を友人を案内したいと思う山旅となりました。

2日間の活動記録。37.8km! (YAMAP)

文・写真:岩城淳一

編集:竹内カンナ