由利本荘市の子育て真っ最中のママたちのグループ「ままちょこ」をガイド役にリアルな由利本荘暮らしを体験してもらうはずだった10月16日の移住ツアーは、残念ながらオンラインになってしまいました。でも、事前に収録した映像などを盛り込み、子どもたちやお母さんたちの生活ぶりを実感できるいい機会になりました。
ツアーには由利本荘市の湊貴信市長も参加されていました。冒頭、「移住促進は人、文化の交流と思っています。・・・移住は地方に新たな価値観を創出し住民の意識に変化をもたらしています」とご挨拶をされ、同市が外部から訪れる人たちを単に人口を増やしたいから歓迎しているのではなく、地域の暮らしや人々に刺激や変化を与えてくれる存在として移住者に限らず幅広く歓迎していることがうかがわれました。
由利本荘市は、ゆったりとした土地柄ですが、電子部品大手のTDKのマザー工場があり、秋田県内の製造業が集積しているため、県内ではかなり人の出入りが多い土地柄でもあります。
由利本荘市
由利本荘市のことをよく知らない県外の方も参加しているため、市役所の移住まるごとサポート課の工藤淳さんが簡単に由利本荘市の説明をしてくれました。
由利本荘市は秋田県の南西、秋田市の南に隣接、気候は比較的温暖で、秋田県で一番広く、神奈川県の半分もある市ですので、山間部では1メートルを超える雪が降ります。
9月25日のイベントでは、ままちょこのメンバーの佐藤由香里さんが東京に住んでいた時、矢島地域にある旦那様のご実家で、屋根の雪が落ちて玄関がふさがってしまい危うく飛行機に乗り遅れそうになったエピソードを語っていました。ただ、由利本荘の雪の少ない地域でも、冬の朝は気温が下がり、道路がツルツルになったりするので、甘くみてはいけません。
人口は県内4位の7万4700人。2005年3月に1市7町の合併によって誕生しました。東京からは飛行機と車で1時間40分、あるいは新幹線と車で4時間20分。
山、川、海が揃っているのが由利本荘市の自慢。鳥海山は、標高2236メートルで東北第2位。沿岸近くに2000メートル級の山がそびえている地形は全国的にも珍しくジオパークにも認定されています。裾野には牧場などが点在していておいしい牛乳を飲んだりソフトクリームが食べられます。
その鳥海山から海に流れる子吉川が、農作物や海産物を豊かにしてくれています。また、地元企業や町内会が競う子吉川レガッタ(ボート大会)は町を挙げての大イベントです。
そして夕陽が美しい日本海。釣りやマリンスポーツを楽しめます。
酒蔵も4つあり、中でも、NHKの「プロフェッショナル仕事の流儀」に取り上げられた杜氏さんがいる齋彌酒造店は超有名。鳥海山ろくで育てられている秋田由利牛は、細かいサシの入った肉質です。
と、由利本荘の紹介はこのくらいにして、ここで、いよいよ今回のツアーのガイド役のままちょこの登場です。
子育て世代のママのグループ
ままちょこは由利本荘市に移住してきたママさんたちのグループです。「ままちょこ」という名前は、ママたちがいつも子どもや家族を優先して自分のことが後回しになりがちなので、このグループに参加することでちょこっと自分と向き合う良い時間を過ごせたらいいねという意味を込めて付けたそうです。
ふだんは生活や子育ての情報を交換したり、ワークショップをやったり、人や地域とのつながりを大切にした子育て支援の活動をしていますが、自分たちの経験が移住を考える人たちの役に立つかもしれないと思い、このイベントに参画したのだそうです。
代表の菅原清香(さやか)さんは東京出身で、移住して12年。小6,小1,幼稚園年少の3人のお子さんのおかあさんです。今はとても楽しく暮らしているそうですが、最初は戸惑ったこともたくさんあったので、移住を考えている人たちや由利本荘に引っ越してきたばかりの人たちの力になりたいと考えるようになったそうです。
移住後、ゼロからネットワークを広げ、地域に馴染んできたら、こんどは後から移住して来た人を支援する団体を作ってしまう行動力とリーダーシップにあふれた女性です。
本来であれば、ツアー参加者は、この日、ままちょこの主要な活動である「おしゃべりカフェ」が行われている場所に行って、にぎやかな集いに参加できるはずだったんですが、今回は事前に収録した映像でママさんたちのお話を聞き、参加者からの質問に答える形で進行しました。
おしゃべりカフェは、100円とマグカップを持って集まって語りあう場なのですが、そこでおさがりの交換をしたり、読み聞かせのボランティアさんに来てもらったり、移動図書館などもやっています。いちばん大事にしているのは、人と人とのつながりです。
自分の子どもだけを見ていると不安になってくるんですね。なのでこういう場所で同じぐらいの子どもと遊ぶ姿を見ながら、自分の子がこんなに成長しているんだと感じられる場にしたい(菅原さん)
「今の季節は子どもにどういうものを着せるの?子どもの手袋って高いですよね」などと話すと、「あげるよ」というおかあさんがいたり、小学校に入る前にどんなことを準備しておいたらいいの?とか、実際に小学校に入ったら、どんなふうに勉強しているの?、どこで遊ばせている?休日にどこに行くの?と、気軽に問いかけられ、話ができる仲間がいることは移住者にとっては心強いことです。
◎ ままちょこblog:https://mamachoco-yurihonjo.hatenablog.com
家庭菜園にチャレンジ
佐藤由香里さんも東京出身。由利本荘に来てしばらくは、なかなか友達を見つけられなかったのですが、就職したことと犬を飼い始めたことがきっかけになり友達が増えました。
佐藤さん、今年から家庭菜園を始めたそうです。「畑をやりたいんだけど」と周囲に言っていたら、たくさんのオファーがあり、3つも畑を借りていろんな作物を作りました。同じ野菜を植えても畑によって育ち方が違うのにびっくりしたそうです。
東京に住んでいた時は自分の時間が持てなくて、始発で仕事に行って終電で帰れればいいほうという生活をしていましたので、今の生活はすごく充実しています
仙台から移住した小野元子さんは、「仙台だとお店とか選択肢はたくさんありましたが、こちらはこちらで新しい遊びを見つけられました。男の子なんですが、今は釣りにはまっています」と話しておられました。
社会人学生から移住へ
小幡寛子さんは、独身時代、よく仕事で県立大学に来ていたのですが、教授から大学に通ってみないかと誘われ、横手市から週に1回、由利本荘市の県立大学本荘キャンパスに通い始めました。結婚して由利本荘市に住むようになってからも3年、合わせて6年間、県立大学で勉強を続けました。
勉強しながら結婚し、子育てを始めたわけですが、図書館に掲示してあったチラシをみてままちょこに参加、同年代の人たちに親身に話を聞いてもらったりしたことで、とても気持ちが楽になり、2年目には運営メンバーに加わりました。
勉強したり、子育てをしたり、仕事したり・・・田舎だけど不便を感じることはないし、何にでも挑戦できるなと思いました
お祭り
ツアー参加者から、地域のお祭りについての質問がありました。
菅原さんが、「私が住んでるところでは新山神社の裸まいりというのがあり、ネットで検索してもらうとすごく寒そうな画像が出て来ると思います。本荘地域には大名行列があって、たくさんの市民が参加しています」と2つのお祭りを紹介してくださいました。
湊市長も、1市7町が合併して誕生した市だけにお祭りやイベントはたくさんあると強調されていました。
秋田の教育はどこがすごいのか
子育て世代は秋田県の小中学校が学力試験で全国トップクラスを継続していることへの関心が強いだろうということで、ファシリテーターの平元美沙緒さんが、由利本荘市の学校教育について詳しく教育委員会指導主事の大庭珠枝先生にインタビューしました。
前回のイベントでは、ママさんたちから家庭学習ノートについてのお話がありましたが、秋田の教育の奥深さは、まだまだそれだけではなさそうです。
大庭先生によると、ポイントは3つ。①探求型の授業、②指導体制のきめ細やかさ、そして③家庭学習。
探求型の授業というのは、まずはじめに課題をつかみ、それについて自分の考えを持つ。さらに、グループや学級で話し合い、最後は次の時間への展望を持って終わるような流れになっているそうです。
また地元の歴史や伝統を学ぶ「ふるさと学習」も大切にしており、毎年、3年生は国の重要文化財に指定されている矢島地域の土田家住宅に行って、土田さんから建物に関する歴史を学んだり、鳥海地域の民俗芸能伝承館「まいーれ」という施設で話を聞いたり、全員が獅子舞を体験したりするそうです。
指導体制については、算数の時間に担任のほかにもうひとり先生が入り、2人体制で子どもたちが理解しているかどうかを注意深く確認する体制を取っていることを紹介してくださいました。
また、先生が黒板に書く内容が、「問題」、「課題」、「まとめ」の3つのポイントを意識して展開され、教える先生が違っても板書は似ていて、子どもたちが理解しやすいように工夫しているそうです。また、生活全般について気を配ってくれる生活支援員という制度があり、子どもたちに目が届くような仕組みができています。
平元さんが、生活支援員の吉田みぎわさんにインタビューしました。
大庭先生は最後に、「小学校は13校ありますが、子どもたちひとりひとりを大切にして学校に行きたくなるような授業をしているので是非、由利本荘に来てください」とアピール。
こうした特徴、今となっては全国各地で似たような取り組みがなされているようですが、秋田には早くから取り組んできた先行者利益があり、何か言葉では説明しきれない暗黙知が詰まった教育なのかなと思いました。
湊市長もおっしゃっていましたが、このオンラインツアーによってさらに由利本荘市を訪れる人が増えることを期待します。
文:竹内 カンナ