やりたいことはすぐやろう! 起業をためらうな 秋田コネクトDay1

今年もコロナ禍でオンラインになってしまいましたが、元気に秋田コネクトを開催しています。Day1 は、1月30日の午後に、ベンチャーキャピタリストのb、能代市と大館市で町おこしに取り組んでいる湊哲一さん三澤雄太・舞夫妻に登壇していただきました。第2回は2月13日です。乞うご期待!

この日の3組の登壇者は一見、ばらばらに見えるのですが、湊さんと三澤さん夫妻のやりたいことを実行に移す行動力と、やりたいと思ったらすぐに実行に移せと小学生に起業教育をしている藤田さんの間には、待っていても何も始まらない、どんどん実行に移せ!という共通のメッセージがありました。

最初に登壇していただいたのは、ベンチャーキャピタルMTGベンチャーズ藤田豪さん。ベンチャーキャピタルとは、スタートアップ企業に投資家から預かった資金を投資し、伴走しながら成長をサポートし、株式の上場またはM&A(企業の買収・合併)での売却などによって投資額以上の資金を回収することを目指す投資会社です。

藤田さんは、秋田市出身で、明治大学に進学、金融を専攻。大学3年生だった1995年にベンチャーキャピタルという業態に興味を持ち、同じゼミの学生のほとんどが銀行に就職する中、業界最大手の日本合同ファイナンス(現ジャフコグループ)に入社し、中部支社長を最後にジャフコを卒業。2018年にMTGに転じ、MTGベンチャーズを設立、50億円の資金の投資を任されています。

この藤田さんが、ベンチャーキャピタリストとしてこれまで積み上げてきたことを生まれ故郷の秋田のために活かしたいと思っていると聞き、是非、多くの起業家の卵たちの夢を実現させてほしいと思い、秋田コネクトにお招きしました。

起業のアイデアがあったら、まずは僕でも誰でもベンチャーキャピタリストのような人に相談してほしいと思っています。秋田はほっといたら消えちゃうんで、消えないように課題を解決するために何かしらやらないとと思っています

起業したいならどんどん相談してほしい

ベンチャーキャピタルというのはお金を出すだけでなく、さまざまな支援をしてくれる会社です。企業の成長性や経営者の資質を見極めて投資をするのが仕事ですが、あらゆるタイプの起業したい人の相談が集まりますので、企業のお悩み解決は得意なのです。

ベンチャーキャピタルも変わりつつあり、以前は上場しなかったりできなかったりすると投資資金を返済する契約もあったようですが、最近は失敗したからといって返済を求めるようなことはなくなったそうです。

起業の環境整備も進んでおり、自治体がいろいろな制度を作っています。移転してくると引越し代が出たり、登記をしても補助金が付くというように起業を後押しする施策が迷うほどたくさんあります。また、失業して失業保険をもらう代わりに、起業した場合に3年間失業保険を申請できる期間を延長することができ、もし起業が失敗したときには、改めて失業保険を受給できる場合もあり、至れり尽くせり。

藤田さんは、秋田県でもこれから動きが出てきそうだとみています。日本のベンチャーキャピタル投資の規模は、米国に比べると27分の1ほどですが、ベンチャーキャピタル協会は、2021年に6000億円程度だったベンチャーキャピタル投資を数年で1兆円に増やそうとしているそうです。

MTGベンチャーズが本拠とする名古屋市はトヨタを頂点に大企業がメジロ押しですがスタートアップは不毛の土地だと言われていました。しかし、自動車の電気自動車(EV)化などが急激に進む中、既存の自動車や飛行機産業に頼っていていいのかという危機感が強まっており、最近は名古屋でスタートアップのエコシステム構築の機運が高まっているそうです。

藤田さんによると、新しい製品やサービスが生まれてから普及するまでのスピードがどんどん加速しています。いいアイデアがあっても、モタモタしていると先を越されてしまいます。

 

飛行機が5000万人が使うまで68年かかりました。しかしポケモンGOはわずか15日でした。投資教育で小学校に行って、どんどんスピードが早くなっているので、思い立ったら今すぐやりなさいと、小学生に話しています

ただし、何でもよいというわけではありません。最近、起業する上ではずせなくなったのは、SDGs(持続可能な開発目標)の視点。気候変動の対策をしていない企業への投資はできません。何かしらSDGsの目標を入れることは必須になりました。

藤田さんが最近印象的だった起業として挙げたのは、トヨタ自動車の20歳代の女性が立ち上げた「どんぐりピット」。シェアリング冷蔵庫とでも呼ぶのでしょうか?フードロスを防ぐために余った食材を入れ、POSで管理、パネルでピピっとやると購入できるシステム。トヨタを辞めるつもりはなく副業申請して休みを少し多めにもらったりして経営しています。秋田出身者が県外で起業した例として、宮崎県の農業用ロボットのアグリストの高橋慶彦さん、オンラインで起業家やユーチューバーになりたいというような子どもの夢を応援するワークショップを運営するGo Visionsの小助川将さんを紹介していただきました。

藤田さんは、「普段、名古屋にいますが秋田を活性化できればと思っていますので今後ともよろしくお願いします」と秋田の起業サポートへの意欲を示しました。

今は起業家にとって大きなチャンスだそうです。インキュベーション施設も整備されていますしチャレンジするなら待っていてもだめと藤田さんはスピードを強調されていました。

Aターンして地元を盛り上げる

この日の後半は、秋田県内の能代市大館市で街の活性化のために活動している湊哲一さん三澤雄太・舞夫妻のお話をお聞きしました。

湊さんは、5年前に横浜から能代に帰り、能代駅前商店街の活性化策を次々と手掛けています。能代駅前には、地元の人が自嘲的に日本一のシャッター街と呼ぶ商店街があります。そこで湊さんら4人は2020年に合同会社のしろ家守(やもり)舎を設立し、そんな能代駅前で町おこしの活動を仲間と一緒に推進しています。

みんなでDIYでモノを作ってつながりを深める

湊さんは大学卒業後に都内のインテリア設計事務所に入社しましたが、家具職人の道を志し、2005年に横浜で注文家具製造のミナトファニチャーを設立しました。また、2006年ごろにはじまった大館市と東京を結んだアーティストたちの活動「ゼロダテ」にも参加し、秋田に長期間滞在したりするようになりました。

東日本大震災の後に、住む環境を大事にしたいと思い、横浜市でも里山的な緑の多いところに引っ越しました。そうした日々の中で、岩手県陸前高田市で始まったKUMIKI PROJECTに出会い、全国各地で、「みんなでワークショップを行って手を動かし空き家をお店やオフィスにする」プロジェクトに参加しました。この活動は、「DIY(Do It Yourself)」なのですが、「DIT(Do It Together)」をコンセプトにしています。ひとりでやるのではなくみんなで一つの空間を作り上げるうちにみんなの心が一つになってすごく楽しかった、これをもっといろんなところでやりたいと思った桑原憂貴さんという人が始めた活動です。

横浜で家具を作りながら、この仕事はどこででもできる、能代に帰ろう、と思った湊さん、少しずつ秋田県内のネットワークを広げ、仕事を作っていきます。そして2017年に能代に戻りますが、最初は町おこしなど全然考えておらず、むしろ静かな環境で家具作りに没頭したいと思っていたそうです。しかし、1年ぐらいして、ここは静かすぎて寂しいぞ・・・と思い始め、少しずつ動き始めます。

地元に帰ってやりたいことが次々に浮かんできたということもあります。そして、次々にイベントを仕掛け始めました。かつて木材産業で栄え、”木都”と呼ばれた能代で活躍する木工作家さんと触れ合える「木都散歩」。木材関係の仕事で活躍している人たちを招いたトークイベント「MOKU TALK」。また、街の中に居場所がなかった高校生たちの居場所作りの「鴻文堂プロジェクト」。能代の高校生は、放課後に友達とすごす場所がなく、街のあちこち、驚いたことにWiFiがあるからという理由で病院の一角に潜り込んだりしていたのだそうです。そんな高校生たちのために、公立美術大学の学生チームと高校生の有志とともに閉店した鴻文堂を一時的に開けようというプロジェクトを計画しました。店に荷物を残したままになっていた鴻文堂を片付けるところから高校生たちと一緒にやりました。そうするうちに違う高校に通う生徒たちの間に交流が生まれたそうです。

マルヒコビルヂングのリノベーション

さらに2020年に、地元の飲食店経営者、駅前の仏壇屋さん、工務店経営者といった仲間たちと「のしろ家守舎(やもりしゃ)」を立ち上げました。今はリノベーションによって旧丸彦商店(マルヒコビルヂング)という古いビルに子どもから大人までさまざまな人のために居心地のいい場所を作るプロジェクトを進めている真っ最中です。

のしろ家守舎のきっかけになったのは、「動き出す商店街プロジェクト」という秋田県が主催する勉強会でした。ここで エリアリノベーションの手法を学び、仲間と出会いました。

今、マルヒコビルは段階的にリノベーションを進めています。まず最初に2021年4月、2階に「CO MOTOMACHI」というコワーキングスペースをオープンしました。そこには、クリエイティブな仕事をしている人の姿を見えるようにしたいという狙いがありました。さまざまな業種の方たちを集め、その相乗効果で、これまでの能代になかったような仕事を生み出したいと思っているそうです。

現在は6部屋とデスク貸しで10業者が入居しています。デザイン会社、英会話教室、洋上風力の会社、農家もいます。1階部分はカフェと子どもの遊び場。DIYを学びながらみんなで空間づ くりをする「DIT (Doing it together)」というコンセプトでワークショップを開催する形で少しずつ作業を進めています。

街中に子どもたちの姿を作りたいと思って一階の半分以上は子どもの遊び場にしました

マルヒコビルの設計は能代市出身で多くの受賞歴のある納谷学・新兄弟が納谷建築設計事務所に依頼。DITというコンセプトを大切にし 、何度もワークショップを行いながら作ることにこだわり、「納谷さんにすごい無理をお願いしてしまいました」と話します。ただ何かを作るのではなく作ることを楽しみ、その中で人と人が結びついていくことを大切にしているからです。

このプロジェクトには、能代をどうにかしたいと思いながら手をこまねいていた商工会議所の人、子どもを連れてご飯を食べに行けるところがないママや子どもを抱えて働けない子育てママたちなど、これまでなかなか行動に出ることができなかった地元の人々も参加しています。湊さんは、シャッターを閉め切っている商店をみんなの力で開けることができたら街が元気になるという思いに突き動かされて必要な資金を自身で借り入れリスクを取ってプロジェクトを推進しています。

シャッター商店街に人が集まった!

昨年は、市外からも人を集めようと「のしろいち」という駅前商店街の大きなイベントも企画しました。車道を封鎖して歩行者天国にし、新聞によると1万4000人が来たそうです。湊さんは、いつもは人影もまばらな商店街に人がたくさんの人が集まってきた様子をみて、「こんなにたくさん人がいるんだ」とつくづく思いました。そして、この「のしろいち」を、毎年開催しようと決意しました。実は昨年の「のしろいち」はコロナ禍で商店街に給付された補助金が資金源だったのですが、今年は頑張って事業者から協賛金を集めて開催しようと考えています。商店街の担い手不足で火が消えたようだった能代の中心市街ですが、楽しいことを企画すれば人は集まる。集まったお金なりの「のしろいち」を是非、続けていってほしいと思いました。

能代は木都と呼ばれているのに、能代育ちで家具職人の湊さん自身、何がすごいのか分からずにいました。それを知るために、湊さんは「モクトサイコウ」という団体を作りました。サイコウには最高再考再興の意味が込められています。リサーチするうちに分かってきたのは、地元の製材所など木材関係者は、昔からライバル同士だったこともあって、お互いに付き合いがなく、よそがどういう技術を持っているかも知らないということ。

例えば、すごい技術を持っている刃物の目立て職人がいて、高級な木を扱う銘木屋さんはその人の目立てでなければだめだというけれど、関係者以外は誰もしらない。湊さんはそういう人にフォーカスし、能代の人にもっと自分たちの町が持っているものに誇りを持ってもらいたいと考えています。それと同時に、これまで取りこぼしていたような仕事を連携して円滑に回せるような仕組みができないかとも思っているそうです。

湊さんは、能代に帰るまで町おこしなど全然考えておらず、むしろ静かな環境で家具作りに没頭したいと思っていたそうですが、住むうちに能代の課題がはっきりと見え自分のできることを実行しているうちに、今は家具を作る暇がないほど町おこしに奔走しています。

フリーランス協力隊をやりながらIT会社を起業、空き家問題のNPOも

大館市の三澤雄太・舞夫妻については、1月に記事を書いておりますので、是非このご一読ください!

三澤雄太さんと舞さん

ふたりの地域おこし協力隊の任期も、のこすところあと2カ月。ふるさと大館への思いがきっかけで惹かれあって結婚したふたりが、これから大館でどんな人生を送り、大館をどんな街にしていってくれるか楽しみです。

文:竹内カンナ