大館市の土木建設会社、白川建設をオンラインで取材させていただきました。同社は秋田県と大館市から建設会社として最上級のA級業者に格付けされているだけでなく、国土交通省、文部科学省、防衛省の施設の建設も受注しており、2023年に創業100周年を迎える歴史ある建設会社です。
白川建設の特徴は、砕石事業部門を持っていること。JR東日本の線路や生コンクリート用など高い品質基準を求められる分野を得意としています。
大館市以外に弘前営業所もあり、秋田県と青森県の両県にまたがるエリアで事業を展開しています。
県内で初めてICTバックホウを導入
白川懸士(けんじ)社長によると、歴史ある企業ではありますが、進取の気性に富み、県内企業として最初にICTバックホウを導入するなど最新技術の導入にも積極的です。
ICTバックホウ(パワーショベル)とは、ドローン(無人機)を飛ばして上空から地形を測量し、その三次元のデータをバックホウに搭載されたコンピューターに取り込み、どこからどの線で削るかや掘る深さなどを決め、オペレーターがその位置にバケットを当てるだけでその通りに掘れる建設機械。
以前は10年どころか20年キャリアを積まなければ熟練とは呼ばれなかったのですが、最近は経験の浅い人でもできるようになりました
仕事に役立つ資格取得は全額会社支援
しかし、機械が賢くなったとはいえ、社員教育をおろそかにしていいと考えているわけではまったくありません。仕事に役に立つ資格であれば、全額会社持ちで資格取得を応援、特に会社が必要と認める資格に関しては準備講習会・予備校の費用も会社が負担してくれます。また、大型自動車免許のような汎用性の高い資格も、大館市の資格取得支援事業と社内の取得支援制度を併用して、2割程度の自己負担で取得できるそうです。
新卒や卒業後3年ぐらいまでの人は、建設・土木学科の出身でない方も、経験がない方も大丈夫。最初は作業員としてスタートした人でも、経験を積み、施工管理技士や建築士といった資格を取得して現場代理人や主任技術者として活躍している人もおり、やる気次第でキャリアアップできるとのことです。
2020年度に女性の活躍推進企業として表彰
女性が活躍できる環境づくりも進めており、2020年度に女性の活躍推進企業として表彰されました。
実は10年ほど前までは女性社員が2,3人しかいませんでしたが、現在は10人に増えました。今の建設会社では外で働く人だけでなくデスクワークが非常に増えているためです。施工管理というと現場の仕事のようですが、膨大な資料を発注者から要求されます。女性には資料作りが得意な人が多いので、そうした現場代理人や施工管理技術者のサポートでも女性が貢献しています。
現在、女性従業員がひとり、育児休暇取得中です。女性従業員のうち7人が20歳代で、ほとんど独身なので、将来、産休・育休を取得する人がほかにも出てくるかもしれません。
女性が働きやすい環境づくりとして、例えば建設現場に女性専用トイレや更衣室を増やしています。最近は女性の建設技術者も増えており、県内には会社の枠を超えて建設業界の女性技術者が働きやすい環境を整えるための活動をしている団体もあります。
とはいえ、産休・育休など子育て中の女性が何の懸念もなく働けるというところには至っておらず、白川社長は、「その点についてはまだまだ発展途上だと思います。そのためには、もっと多くの人材が必要です」と率直に答えてくださいました。
2014年以来、新卒の新入社員がひとりも辞めていない
また県外からのAターン人材については、社宅(4室)に安い家賃で入居できるので、新しい生活をスタートしやすい環境を整えています。
2014年以降、新卒で入った社員11人がひとりも辞めていないそうです。普通、3割ぐらいは入社3年で辞めるという時代ですから、これはすごいことです。
この点について社長にお聞きすると、「若い人に関しては長い目で見ようと思っています」と答えられ、笑いながら、「他社から冗談半分で、おたくの○○君はうちの会社だったらとっくにクビになっていますよと言われることもあるんですけれど、そういう人も含めてうちの会社は貴重な若い人材ですから共に成長していこうというつもりでやっています」とおっしゃっていました。
手厚い福利厚生
福利厚生として、県と市の奨学金返還助成制度に独自の支援も加え年間最大43.3万円が受け取れる制度や子ども1人当たり5000円の手当、在職10年以上、役職が主任・職長以上の社員には定年時の退職金を上乗せする制度もあります。きりたんぽ発祥の地といわれる大館らしい「きりたんぽ祭り前売券」というのもありました!
同社のホームページのトップには、社名の下に「笑顔へ続く道と大地をつくります」と書いてあり、社長の優しさが会社の方針にも表れているように思います。
また、社員のモチベーションを上げるために、社員の 人間力 を評価する16項目の表彰制度を設けています。「新人賞」、「MVP」などは珍しくありませんが、「ムードメーカーで賞」、「点検・整備良くやったで賞」、「汚れ仕事誰よりも頑張ったで賞」などの賞があり、会社が一方的に授けるのではなく、全従業員の投票によって決められます。60歳以上の従業員を対象とした「若いモンにはまだ敗けんで賞」なんていうのもあります。ちなみに同社では希望して認められれば70歳まで働き続けることができます。
地元大館の活性化に貢献
ネットで同社の情報を探していたら、白川社長が会長を務める団体が、コロナ禍の初期にいち早く地元飲食店を支援する活動を行っていたことを紹介する新聞記事を発見しました。
その団体は大館愛購会という地元小売店・飲食店と地元の各種団体、消費者をつなぐ地域活性化団体で、2020年4月にコロナ禍で打撃を受けた飲食店を支援するために同会が800円で購入できて1000円として使えるクーポン券を発行したというニュースでした。自治体に先んじて独自の取り組みを推進し、愛購会の剰余金も投入しました。小規模な店の中には自治体の支援を待っている余裕もない店も多いからです。この愛購会、白川社長が2009年に立ち上げた団体だそうです。社長、かっこよすぎる!
同社のモットーは、「社会に必要とされる会社であれ」、「より社会が必要としている仕事を担っていく」と社会に貢献する企業を目指す一方、「選ばれる会社に」、「働き続けたいと思う会社に」と社員や顧客企業、取引先の物心両面の幸福追求にも力を尽くすとしています。
この企業紹介動画でも社長が建設業についてのかっこいいコメントをされています。
白川社長から就活生にメッセージ
企業は生き物だ、と思っています。しかも物理的な生き物とは違って、運用の仕方次第では、何十年どころか、何百年、はたまたそれ以上に生きられる存在かもしれません。それを可能にするのは、常に時代を先取りし恐れずに新しいものを取り入れて行くこと、そして人は代われど新しい世代の人達がどんどん入ってくることによって新陳代謝を繰り返し、常に生き生きした状態を維持して行くことだと思っています。そのために、これからも若い人たちが働きやすい環境づくりに腐心していきたいと考えています
若手社員に聞く
同社で働く若手2人にお話をお聞きしました。
小松敏生さん 土木科出身の現場代理人
建設部の小松敏生さんは、大館工業高校土木科出身。入社8年目で、現場管理の仕事をしています。就活をしていた時、何か目標を持ってそれを達成できる仕事は何かと考え、建設会社は現場を終わらせることが大きな目標になると考えたそうです。技術者として学びながら現場の人を動かし、協力会社との連携を図りながら、現場を完成させることが目標となり、それがやりがいにつながっているそうです。
施工中はいろんなことが起きますし、気を抜くとけがをしたり危険なこともあります。現場代理人といっても1人で何もかも動かしているわけではありません。上司のサポートを受けながら、助け合って現場を動かす体制を取ってもらっています
周囲の方たちは、聞けばすぐ教えてくれる気さくな方たちばかりで、ミスをして怒られても、最後には助け船を出してくれるので安心して仕事ができると語っていました。30~40歳代の先輩が多かったので最初はギャップを感じていたのですが、共通の趣味を通してしだいに打ち解け、しっかりとサポートしてもらえる関係を作れたそうです。
地元に就職を決めた理由については、「基本的に秋田が好きなんだなと思っています。自分が生まれた大館に恩返しできたらいいなと思っています」と語り、「都会は魅力的ですが、地元で働き都会には遊びに行くのがいいと考えていました」と、まったくぶれることなく地元就職を選んだとのことでした。
趣味についてお聞きすると、「買い物が好きで、物欲がすごいんで、(笑)この現場が完成したらこれを買おうというものを決めています。スニーカーが好きで、今の仕事が終わったら2足ぐらい買えたらいいなと思っています」と話し、周りにいた人たちを爆笑させていました。自分へのご褒美、大事だと思います。
将来の目標については、「現場代理人をやらせてもらえるようになり、入社時の目標を達成しましたが、これからは後輩が目標にしてくれるような現場代理人になりたいです」と語りました。
プライベートでは、結婚し、奥さんや子どもとドライブしながら、自分が携わった現場を通り掛かった時、「この現場はおとうさんがやったんだよ」と自慢できるような明るい家庭を築くのが夢だそうです。
日景郁花さん、入札の書類作成を担当
日景郁花さんは、総務部で入札に関する書類の作成、来客・電話応対などを担当しています。
白川建設については、高校の先輩が就職していることを知って興味を持ち、職場体験で訪れた時、とても雰囲気がよく働きやすそうだと感じたことが決め手になりました。
実際に入ってみて、同年代の若い人が多かったことに加え、内勤には女性社員が多く相談しやすいと感じました。
社長のサポートを受けながら入札関係の仕事をしていますが、会社の業績に関わることでもあり、一番やりがいを感じると話していました。
日景さんは、地元の豊かな自然が好きで、県外に出ようという考えは全く持たず、家族を大切にし地元で貢献したいと思っていました。もう一つ、地元に残りたい大きな理由だったのではないかと思いますが、日景さんは卓球の選手で、お父さんと一緒に母校の中学で卓球のコーチをしているそうです。白川社長の娘さんも今、日景さんの指導を受けているそうです。
卓球のコーチを始めて5年になりますが、卒業した子が練習に顔を出してくれ、成長を実感することがあります。こうした交流は生まれ育った土地に住み続けていればこそです。
将来の夢についてお聞きすると、「今やっていることを、しっかりやり遂げられるようになりたい」と語られました。また、後輩から頼られ何でも相談してもらえる先輩になりたいし、会社の雰囲気がさらに良くなるように心掛けたいとアスリートらしく答えてくださいました。
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100年近い歴史を持ち、大きな公共工事なども数多く手掛け、社員に優しく、地元の活性化にも熱心に取り組む素敵な会社です。ICTバックホウやドローンを活用する新しい建設業の仕事は、従来のきついイメージとは全く違うかっこいい仕事になりつつあると思いました。
取材:工藤直之、竹内カンナ
文:竹内カンナ
■白川建設のホームページ
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