湯沢市は、江戸時代は佐竹南家が支配し羽州街道や本荘街道が走る交通の要所でした。江戸時代初期に発見された院内銀山のおかげで多くの人や物が行き交い、秋田市にも引けを取らないほどに栄えていたそうです。しかし銀山の枯渇や交通手段の変化に伴い同市の人口はピークだった1955年の8万人から現在は4万2000人に半減しました。
湯沢駅からまっすぐに延びる県道にサンロードと呼ばれる商店街があります。そこでアパレル製造販売のMARBLEを経営する藤田一平さん(39)とカフェレストランCafe Lounge17 を経営する高橋大輔さん(38)は、毎年1回開催する「ゆざわストリート村」というヒップホップのイベントを起爆剤に商店街の活性化に取り組んでいます。
最初、2人が新しいことを提案しても協力的ではなかった既存の商店主たちも、「ゆざわストリート村」が少しずつ市民に受け入れられると同時に、2人が商店街のさまざまなイベントの運営やアーケードの雪下ろしなどにも積極的に参加するようになったことで、しだいに2人を商店街の盛り上げ役として信頼するようになってきたようです。
ゆざわストリート村のはじまり
藤田 自分はヒップホップが好きで、首都圏にいたときから趣味でDJをやったりしていました。湯沢に戻って来てからも、バーを貸してもらったりして活動を続けていましたが、20代最後の年に湯沢でヒップホップのイベントをやりたいと思って2013年、店のオープンに合わせて野外で大規模なフェス「ゆざわストリート村」を計画したんです。自腹で全国から好きなアーティストを呼びました。この頃は地域活性化のことは一切考えていませんでしたね。
高橋 自分はあとから帰って来て、ストリート村に入れてもらったような感じです。ヒップホップははっきり言うと嫌いで今でも音楽じゃないと思っています。(笑)
二人ともUターン組だし年齢も1つ違いですけど、藤田は違う中学だった俺も知っているぐらい有名人でした。秋田県の選抜野球チームのピッチャーでもあったんですが、自分はちょっと怖い先輩だと思って最初は近寄らなかったんです。でも、ある時、藤田が湯沢市議会の議員4,5人との湯沢の商店街についての意見交換会に呼ばれて、俺にも来ないかと誘いに来てくれたんですよ。2人で行動を始めたのはこれが最初だったと思います。
それ以降、俺はヒップホップは音楽としては好きじゃないけどラッパーたちの人間性やヒップホップの精神みたいなものには魅力を感じたし、藤田といろんなことに一緒に取り組むようになりました。
イベントの拡大
藤田 最初の年(2013年)の来場者は、300人ぐらいでした。それが2015年の「副市長ラップ」をきっかけに増えました。総務省から出向している藤井延之副市長にイベントのプロモーションのために湯沢にからんだ歌詞が詰まったラップをやってほしいとお願いしたらその場でオッケーしてくれて。副市長のラップがYouTubeでバズって英BBCなど多くのメディアに取り上げられたことで地元にも受け入れられたようです。
高橋 毎年人口が1000人も減るような町で何か新しいことをやるのって大変だと思うんですよ。赤字を出してもイベントを続けようとしていた藤田にクラウドファンディングをやろうと持ちかけました。あと、高齢化が進む中で、イベントの内容がヒップホップだけだったらターゲットはすごく狭い。だけど、そこにキッズストライダーっていう足で漕ぐ自転車のレースとか屋台村もやって、ヒップホップファン以外にも子どもや大人も来れるように考えました。コロナ前の2019年は2日間で600人ぐらいになりました。
既存の商店主や他の商店街との関係
高橋 商店街を歩いている人の数はまだまだ減少していっています。でも、サンロードも含めて湯沢の4つの商店街で、自分たちの活動が少しづつ認めてもらえるようになって、商店街のお父さんたちとの関係が深くなってきて、いろんな提案が通るようになってきました。
商店街には年に何回も祭りがあって、自分たちは絵灯籠で有名な七夕祭りや犬っこ祭りの実行委員になってイベント運営を担っています。コロナで祭りがなくなった2021年も、コロナだからって止めちゃいけないでしょうっていって、サンロードに絵灯籠を二十数基置いたりしました。2人で毎日、朝に置いて夜に撤収しました。置くだけじゃなくて固定しないといけないし雨が降りそうだったら防水シートを貼ったりもして。期間も最初は七夕の祭りの期間の8月5~7日にしようと言っていたのですが、藤田が帰省する人たちにも見てもらいたいからってお盆の間もやったんで、きつかったです。うちらはお盆中、墓参りもしなかった。(笑)
「ゆざわストリート村」の最初の頃は、ヒップホップで騒いだり、商店街でバスケットボール大会をやったりとかしていたんで、きっと商店街のお父さんたちのところに苦情が来てたんじゃないかと思いますし、実際、険悪な雰囲気になることもありました。でも、コロナ禍で商店街が使える補助金が出たときに、各商店主のところを回って申請書の書き方を説明したり帳簿をつけるのを手伝ったりしたことがよかったのか、少しずつ仲良くなっていきました。2人でサンロードの店を全部回ったんです。また、サンロード以外の商店街も補助金に申請していたのですが、具体的な進め方がわからずにいましたので、われわれで先陣を切ってイベントを開催し、やり方を示すことにしました。そうしていくうちに、自分たちも、もっと雪下ろしとか商店街に協力していかないと駄目だろって思うようになって、サンロードの行事には積極的に出るようになりました。
先日、サンロードの人たちがグランドホテルを予約してくれて今までの頑張りに対して藤田一平と高橋大輔をねぎらう会を開いてくれたんですよ。
商店街は市全体の大きな祭り以外にも小さなイベントがいっぱいあって、俺たちが自主的にやるのもあるから1カ月に1回ぐらい何かしらのイベントをやっているような感じです。古い祭りにも、何か新しいことを付け加えようと思ってやっています。例えば犬っこ祭りでは三関のセリでセリしゃぶ小屋っていうのをやったり、極寒のお化け屋敷をやったり。
ストリート村の若い仲間
高橋 ストリート村のメンバーには30代後半と20代半ばのコアなメンバーがいます。それ以外に緩い繋がりのグループもいるので、ストリート村の仲間は十数人、関係団体を含めると20人ぐらいになります。このメンバーは自然に集まってきたんで、誘ったことはないです。逆に「ストリート村ってどうやったら入れるんですか」と高校生とかからよく聞かれます。
藤田 今年のストリート村は第10回になるんですが、少しずつ20代半ばのメンバーに承継していきたいと思っています。この年代のメンバーが7~8人いるんですが、彼らは、高校生のときに「ハイスクール村」というのを作ってストリート村のイベントを一緒にやってくれたんです。5人ぐらいは地元に残っていて、3人ぐらいは外にいるけど有休取って帰って来てくれます。
商店街に根を張って
藤田 東京から帰って来て最初に出した店はあまり湯沢に合わなくて駄目だったんですが、MARBLEはプリントや刺繍などの加工で幅広い層が着られるTシャツやパーカーなどだけでなくユニフォームなども作っていて、地元商店のオリジナルTシャツもあります。10年になるので順調といっていいかと思います。あと、店舗はストリート村メンバーのたまり場にもなっています。
高橋 このTシャツもMARBLEだし、けっこうMARBLEで買わされています。(笑) うちは飲食店なので、正直なところコロナの時はやめようかと思いました。でも、たまたま従業員が辞めて妻と2人でやるようになり、店を完全予約制にして予約がない日は休むようにしたら食材の無駄がなくなりました。最近は青年会議所や商店街の会合などに使ってもらうことが増えました。また、学校に講演に行くことがよくあるので、そこで知り合った先生たちが打ち上げに使ってくれたりと、かなり予約が入っています。
商店街が目指す姿
高橋 商店街は商人ががんばる所。人が来ないから売れないじゃなくて、商店街に人が戻ってくるようにするには、それぞれの商店がもっともっと努力して客が行きたくなる店にしていかないといけない。自分も含めてですけどね。
商店街は買い物に来るだけではない。子供たちの交流にも大切な場所です。湯沢駅のそばに新しく市の施設が建設されるけれど、そこから商店街に人が流れて来るようにしたいと真剣に考えています。駅ですぐ迎えの車に乗らずに、サンロードを歩きたいと思えるようにしたい。俺たちと一緒にやりたいといってくれる人が増えてくれることを期待しています。
取材を終えて
湯沢の若者にかっこいいストリート文化を知ってほしい、ヒップホップのアーティストを呼びたいという一心で藤田さんが始めた「ゆざわストリート村」は、湯沢を活性化したいという高橋さんが参加したことや藤田さんの発案で副市長を巻き込んだ「副市長ラップ」がSNSでバズったことがきっかけで持続可能なイベントになりました。
外から来て商店街に店を出した藤田さんと高橋さんは、しがらみに縛られず、「眉をひそめる人もいるだろうな」と思いながらもあまり気にしすぎずにやりたいことをやってきました。その一方で、さりげなく年配の商店主に手を貸したり、商店街のイベントを自分たちのやり方で盛り上げたりするうちに、互いに尊重し合えるいい関係ができたようです。
MARBLE
湯沢市表町1丁目1-1 TEL: 0183-55-8850
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Cafe Lounge 17
秋田県湯沢市柳町2-1-4 TEL: 080-9252-1717
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