左から佐藤毅さん、船木一人さん、福島智哉さん
秋田県内の商店街や地域に新たな風を吹き込み、活性化に向けた取り組みをされている方々をご紹介します!今回は男鹿市船川の中心市街地にあるTOMOSU CAFÉを訪問し、船川家守舎の福島智哉さん、佐藤毅さん、船木一人さんの3人から、有機栽培や無添加など素材にこだわったマルシェ「FUNAKAWAひのめ市」や、空きビルを活用したカフェ「TOMOSU CAFÉ」、有機栽培を推進する「オガニック農業推進協議会」などの取り組みについてお聞きしました。
男鹿を変える!3人の役者が揃う

グルメストアフクシマのメンバー(同店ホームページから)
福島智哉さんは男鹿市船川出身。大学進学を機に上京し、卒業後は食品関連の会社に就職しましたが、帰省するたびに、だんだん船川の街が寂しくなったと感じるようになりました。そして、幼い頃には賑わっていた船川の街が、人口が減少しシャッター街となりつつある現状をなんとかしたいという想いを抱くようになり、2009年に会社を辞め、家業の有限会社福島精肉店(グルメストアフクシマ)に入りました。

こおひい工房珈音(同店インスタグラムから)
その頃、福島さんが男鹿で素敵な生き方をしているなあと思っていたのが佐藤毅さんでした。毅さんは、2004年にコーヒー焙煎の研究をはじめて、2009年に地元である男鹿市五里合琴川でカフェ「珈音(かのん)」を開業しました。コントラバス奏者でもある毅さんは物静かな印象ではありますが、自然を遊び尽くし、人を引きつける力があると福島さんはいいます。
「毅さんの生き様や、自然とともに生活する姿に憧れて移住する人が増えました。男鹿市内には県外出身の移住者も増加していて、町の活性化に向けた活動などを積極的に行っています」

頭文字をつなぐと「OGA」になる (同店ホームページから)
船木一人さんも男鹿市船川出身。高校卒業後、都内に進学し、アパレルのブランドを持ちたいと考えていた頃、東日本大震災が発生し、同時期に妻が出産。幼い子どもの将来を考えるうち、次第に東京での生活に違和感を覚えるようになりました。アパレルのブランドを立ち上げるなら地元でもできると考え、2012年に男鹿市船川に戻り、アパレル製造販売の「Own GArment products-nuito縫人-」を開店しました。こうして、自然に対する思いや価値観を共有する3人が集まり、意気投合して地元の活性化につながる活動を始めることになりました。
「FUNAKAWAひのめ市」を開催
男鹿に戻った船木さんは、はじめは自分が好きな服を作る生活に満足していたのですが、次第に洋服を製造・販売しながらも何か地元に恩返しができないかと考えるようになりました。福島さん、毅さんと子どもたちの未来のために地元に何か残すことはできないか、というような話をする中で、農薬や化学肥料を使わずに穀物や野菜を栽培し、加工にも添加物を使わない安全で安心な食べ物を作ろう、という意見で一致しました。

2019年のひのめ市(グルメストア福島のブログから)
「男鹿のきれいな自然、水、そして土壌。僕らはこれを未来に残さなければいけないのではないかと思い、無添加・無農薬や有機農業(オーガニック)といったテーマで市(いち)のようなイベントの開催を考えました」
男鹿がオーガニックな野菜を作る農家さんや手作りの食品を作っている人など、人にも自然にも優しい活動を頑張っている人が日の目を見るように、という願いを込めて、年に一度開催するイベントを「FUNAKAWAひのめ市」と名付け、2015年夏に初めて開催しました。当日は、予想以上の来場者があり、普段は静かな街が活気にあふれました。イベントは大成功に終わりましたが、3人は満足しませんでした。年に一度のイベントではなく、自分たちが考える自然に対する思いや価値観をより多くの人に伝えたいと考え、2016年からイベントの開催頻度を高め、月に一度開催する「ひのめ商店」をスタートしました。最初は、ひのめ市に出店していた店から船木さんをはじめ3人で商品を仕入れて運営してきました。
「当初、ひのめ商店への集客には苦労しました。特に2月のイベントでは、販売する予定の商品を張り切って大量に仕入れていたのに、当日は猛吹雪で、全然お客さんが来ない、という経験もしました」
TOMOSU CAFÉを開店
マルシェ形式のイベント開催を重ねてきましたが、オーガニックへの思いや価値観をさらに広げていくには、イベントではなく、お店とお客さんの関係を日常化することが大切だと考えるようになりました。
そのような中、2018年度から県事業の『動き出す商店街プロジェクト』が男鹿市で始まりました。
「このプロジェクトは、街の中にある空き店舗を活用し、新規開業を後押しするもので、船川でひのめ市やひのめ商店を開催し、地域の活性化に向けた取り組みをしている、といった理由で、男鹿市の商店街も選ばれたようです。最初の講演会には男鹿市内のいろいろな人たちが参加していましたが、気がついたらこの3人だけが残っていて。ある日、『来週プレゼンなんですけど』っていきなり言われ、何かやらざるを得ない状況になりました」
「自分たちがやるとも言ってないし、何も決まっていない中、1回目のプレゼンの日を迎えました。何も決まっていなかったので、コーヒースタンドやごはんスタンドといった思い付きのアイデアを発表しましたが、あんなに下手な話をしたのは初めてでした」
「やらされ感が強かったので、プロジェクトで伴走支援してくれていた方に、やりたくないと相談に行きました。そしたら、『そーかー。まあ、それなら仕方ないけど、船川に何か欲しいものはないの?』と聞かれ、『グルメストアフクシマのお惣菜が食べられて、毅さんのコーヒーを飲めるような場所があったらいいと思うけど』みたいに答えたんです。そしたら、『そのアイデア、いいんじゃない?』と言われて、それだったらできそうな気がしてきたんです。その後もプロジェクトで何をするか、3人で話し合いを重ねました。2回目のプレゼンの時にはやることが明確だったので、堂々と発表できました」

薪ストーブが赤々と燃えるTOMOSU CAFÉ
このように話し合いを重ね、伴走支援を受けながら、3人は空き家になっていたビルを運営する合同会社船川家守舎を設立し、TOMOSU CAFÉが誕生しました。CAFÉでは、佐藤さんから教えてもらったコーヒーの焙煎の仕方や淹れ方を取り入れているほか、珈音の焙煎機を使用し、こだわりの一杯を提供しています。
また、フードメニューはグルメストアフクシマから仕入れたお肉やデザートを提供しているほか、お店では船木さんの奥さんと妹、お母さんがスタッフとして働くなど、3人が持つ経営資源を存分に活用し、CAFÉを運営しています。土日にはモーニング営業をはじめたほか、向かいの森長旅館がリニューアルしたこともあり、地域の内外からのお客さんも増えてきています。
オガニック農業推進協議会の発足

オガニック農業推進協議会(Facebookから)
3人は、より長期的目線で食の課題にも取り組んでいます。安心安全で環境負荷が少ない有機農家を増やしたいとの想いがあり「男鹿」と「オーガニック」、「男鹿に行く」と「男鹿に生きる」という意味を掛け合わせて、2018年に「オガニック農業推進協議会」を立ち上げ、小麦や大豆農家を訪問し、コミュニケーションをとりながら信頼関係を築いてきました。有機野菜の販路を広げるために首都圏に営業にも行きました。有機野菜への需要は非常に強いのですが、壁になったのは生産量でした。男鹿の有機野菜は生産が少ないため大きな市場に十分な量を安定的に供給するのが難しいのです。
「有機農家を大きく増やすことはできていませんが、地元で減農薬・無農薬栽培をしている農家さんとつながることができ、TOMOSU CAFÉではその農家さんから仕入れたお米や大豆を使用しています」
小学校の給食をオーガニック化する活動も進めています。この取り組みは千葉県いすみ市が全国に先駆けて行っていますが、同市ではオーガニック化を進めたことで、非常に良い循環が生まれたそうです。
「この取り組みに参加している農家さんのお米は、学校給食に使われている有機米ということで、高値で売れるようになり収入がぐっと上がったんですよ。それで新規就農が増え、耕作放棄地が減り、土壌も水もどんどん良くなり海産物も豊かになったようです。オーガニックな学校給食を子どもに食べさせたいと移住者も増えたそうです」
男鹿では、オーガニック給食について勉強会を開催している段階ですが、市内のある幼稚園では園長がこうした取り組みに興味を持ってくれて、有機の野菜を使ったコロッケを給食に取り入れてくれているそうです。
「学校給食のオーガニック化が地域にもたらす好影響をより多くの人に知ってもらおうとしている段階です。行政の協力も必要ですし、男鹿市だけでは有機農業をやってくれる農家が少ないため、安定供給という面に課題はありますが、講演会などを通じて関心を持つ人が増えていけば、オーガニック給食の導入への流れができると思います」
また、毅さんは自身が経営するカフェ・珈音でもオーガニックを大切にした活動を行っており、地元で農薬や化学肥料を使わずに栽培した小麦を使ったパン作りに取り組んでいます。窯や製法にもこだわり、パン作りへの妥協はありません。
「毅さんは、この地域の自然とともに生きていて、訪ねてきた人を山に案内して1時間でも2時間でも歩きながら土や微生物の話をします。毅さんの話に影響を受けて、男鹿に移住する人が増えてきている。男鹿が変わってきたのは、毅さんのおかげだと思っています」
小水力発電への挑戦
エネルギー問題についても、3人は環境負荷低減の観点から、太陽光や風力ではなく、小水力発電を普及させることはできないか画策しています。川の流れを利用して小さな発電機を回す小水力発電は、設備を設置する場所が限られるのが課題ですが、男鹿市内にも小水力発電へのポテンシャルがある河川が複数あるそうです。
3人は、男鹿の穏やかな里山の風景に太陽光パネルや風車は似合わないと考え、こうした設備が土を不健康にしたり、木の伐採により災害リスクが高まることを懸念しています。
「人間ってどうしても社会課題の解決にも経済的な合理性を考えてしまいがちですが、どのようにして美しい男鹿を残していけるのかを考えないといけないと思っています」
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3人の情熱と行動力が、男鹿・船川の街に明かりを灯し始めました。町を一時(いっとき)にぎやかにするイベントにとどまらず、持続可能な地域社会の実現を目指した活動を続けていこうとしています。
TOMOSU CAFÉ: 秋田県男鹿市船川港船川栄町89-3
HP: https://tomosucafe.jp/
Instagram: https://www.instagram.com/tomosu_cafe/
文、写真: 竹内 カンナ
* 写真の一部は、 グルメストア福島、TOMOSU CAFÉのホームページやブログ、珈音のインスタグラム、オガニック農業推進協議会のFacebookなどから使わせていただいています。