改めて問う秋田県民の「コモンセンス」 佐々木常夫さん

 

秋田市出身で、東レ経営研究所の社長を務められた佐々木常夫さん。ご存知の方も多いと思いますが、佐々木さんを有名にしたのは、『ビッグツリー』という本ではないでしょうか。

この本には、肝臓病で入退院を繰り返し、さらにはうつ病を併発された奥様と、自閉症の息子さんを支えながら、日本の企業(つまり、家庭の事情などあまり考えてくれない)で出世街道を驀進した佐々木さんの経験がつづられています。また、『働く君に贈る25の言葉』といったビジネス書も有名です。

秋田の活性化に取り組む首都圏の人たちと共に活動されているとのことで、WE LOVE AKITA編集部がお話をうかがいに行ってきました!佐々木さんのお話は、秋田への愛に根差しているとはいうものの、秋田人にとってはなかなか手厳しいものでした。

佐々木さんが関わっているのは、文化面から秋田県の発展に貢献することを目指す「秋田文化会議」と、首都圏の民間企業で活躍する秋田県人の集まりである「秋田産業サポータークラブ」です。


WE LOVE AKITA(WLA):こうした活動に参加されたきっかけは何ですか?

佐々木:2,3年前までは息子の関係で精神疾患の方たちのサポートをする活動をしてきましたが、講演で秋田に納戸も呼ばれるうちに、黙って見ていられなくなってきたんです。人口減少が全国でもトップクラス、自殺率が日本一、がんの死亡率が高い、うつ病患者が多い・・・。これって秋田の置かれている環境の厳しさと、閉鎖的な県民性を表していると思いませんか?

離婚率は全国最低レベル、これも、我慢しすぎるからなんです(笑)。 秋田を復興させたいと思っているときに、(読売新聞特別編集委員の)橋本五郎さんから、「秋田文化会議」の世話人になって欲しいと依頼を受けました。そのうち、秋田産業サポータークラブの取組みを知り、藤盛紀明会長(清水建設元常務取締役)から依頼され、幹事になりました。サポータークラブでは、「秋田文化会議」とのコラボレーションを考えて、「夢づくりWG」と「企業振興育成WG」の2つの分科会に入りました。

WLA:首都圏には、たくさん秋田の人の集まりがありますよね。

佐々木:はい。県人会や同窓会など何百もの会がありますよ。でも、ただ酒を飲んで騒ぐのではもったいない、この力をもっと利用したいと強く思いました。そのためには、戦略を練ったり人集めをしたりする必要があります。

様々な活動があって、例えば、一般社団法人「Re あきた」というFacebookを展開しているグループがあります。40歳代の4人が秋田の産物を売るイベントや秋田のものが食べられる飲食店の紹介とか、情報発信しています。どんどんフォロワーが増えて、今では1万人を超えています。さらには、「秋田人」というサイトもあります。これは県がまとめている秋田のイベントカレンダー。各地の秋田県人会、県のお知らせなどを集めたサイトです。

WLA:秋田は人口減少が激しく、産業面でも沈滞している印象が強いです。

佐々木:秋田の人は、総じて控えめで消極的です。しゃしゃり出て何かやるというのが、本来好きじゃないんです。講演に呼ばれて秋田に行ったときのことです。昼前に秋田に着いて、13時半から講演が始まるというのに、空港まで車で迎えに来てくれた人たちが昼食のことを何も考えてくれていなかったということがありました。「どうしますか」と言われ、「じゃあ、コンビニで買って来ます」ということになりました。講演に呼ばれて、こんな経験は初めてでした。その上、こういうときは普通、主催者側の責任者が挨拶に来るものですが、来ませんでした。こういう時は、普通来るものと思いませんか。コミュニケーションをきちんと取ろうとしないのです。

東レにいた頃、色々な県から企業誘致の担当者が来ました。岩手、山形、秋田からも来ました。でも秋田が一番熱心ではなかったです。パンフレットを置いただけで帰ってしまうのです。「あとで読んでください」で終わりです。山形や岩手の人は、何としてでも誘致したいと思っていますから。秋田の人はさらっとしすぎています。岩手なんか、それほど企業進出がなかったのに、今では至るところに工業団地ができています。

農業にしても、秋田はどこに行っても田んぼばかりですが、山形は果物など他の作物を植えています。地盤を生かして工夫しているのです。

WLA:秋田の人には耳の痛いお話です。

佐々木:ある民間の人から聞いた話ですが、彼が秋田県のある市の仕事をしていたとき、人事異動で新しく来た部長さんの歓迎会に呼ばれたそうです。その部長さんが挨拶で、「偉くなろうと思ったら、何もしないこと」とおっしゃったというんですよ。それを部下が全員いるところで言うんです。県庁とか市というのは、その地方の最も優秀な人材がそろっているはずです。そういう組織で上に立つ人たちがこういうことを言うのです。わたしは自分が生まれ育った県が、こんなことでは黙って見ているわけにいかないと思いました。

WLA:何か具体的に考えていることはありますか?

佐々木:わたしは秋田がもっと元気になって欲しいと思っています。先日、秋田の若い人たちの組織に講演の講師として呼ばれました。最初にトップのあいさつ、幹事からの昨年分の活動報告など諸々あって、わたしの講演が19時~20時までという式次第でした。18時半から始まりましたが、いろんな人が入れ替わり立ち代わり出てきて、すぐに「あ、これは19時には終わらないな」と思いました。案の定、終わったのは19時10分でした。その後、わたしの紹介を5分。司会者は、「われわれに一番大事なものはタイムマネジメントです。きょうはタイムマネジメントの先生をお呼びしました」と、紹介していただきました。わたしは、「皆さんは、今日はまるでタイムマネジメントができていない。わたしの紹介なんて事前に紙に書いて配布しておいたらいいでしょう。議事が遅れているのに、5分もしゃべる必要はありません。みなさんからの報告も事前に紙で配っておいたらいいじゃないですか。わたしは予定通り20時に終わります」と話しました。

20時に講演が終わって次は懇親会。でも会場に行っても誰も来ていません、皆が集まったのはなんと21時でした。わたしは、翌朝、一番の飛行機で東京に帰る予定になっていたので、23時前には失礼しました。翌朝は、ホテルの前から出るバスに乗るつもりでしたが、いくら断っても空港まで送らせてくれとおっしゃる。次の朝、その人に聞くと午前2時まで飲んでいたそうです。気持ちはありがたいですが、これじゃ危険運転ですし、第一、わたしはホテルの前から出るバスに乗れば済むことなのに、全く時間の無駄というものです。こういう青年が秋田の企業を経営しているのです。おそらく、ビジネスの基本を学ぶ機会がなかったのでしょう。ですから、わたしは秋田の若い人たちに、経営者としての教育ができたらいいなと考えたりしています。

WLA:秋田の人口を増やすために必要なことは何でしょうか?

佐々木:講演のときによく紹介する話があります。島根県の松江市で長岡塗装店という建築会社が表彰されました。なぜ表彰されたかというと、離職を防ぎたいと始めた社員の「待遇改善」によって、県外からも人を呼び込むことができたからなんです。その会社の女性経営者は、辞める人が多く事業規模を維持できないので、社員一人ひとりに寄り添ってどうしたら辞めないようにできるかと考えたのです。

子供が生まれると出産お祝い金を出す、育児費や介護費の半分を会社が持つ、短時間勤務制度を導入し、会社の中に託児所や妊婦の休憩室を作ったそうです。研修やセミナーに出るのを奨励し、資格を取るための費用を全部会社が持ち、定年を70歳に延長しました。その結果、有資格者が増え、高度な事業も請け負えるようになって、社員のモチベーションが上がり、8年間一人も辞めないどころか、東京や大阪からUタ-ンして来るようになったのです。10人の従業員が27人になり。子供がいる従業員の数がゼロだったのが14人になって、子供の数は23人になったそうです。これによって売り上げが3倍、利益がなんと2倍になりました。

このようなことは、秋田でもできます。人口減少を止めるのは一つひとつの会社の活動です。働きやすい環境をつくってやれば、かならず人は集まります。その積み重ねが、秋田全体の力になると思います。企業を外から誘致するのもいいですが、今ある会社を少し大きくする方が早いと思います。そう難しいことじゃないはずですよ。長岡塗装店の女性経営者は、元は普通の主婦だったのですから。やったことも常識的なことばかりでした。

WLA:今できることの小さな積み重ねが大事なんですね。とても勉強になりました。ありがとうございました。


この記事は、佐々木氏のインタビューを再構成し対話形式にまとめたものです。

(2017年9月17日)

▼文:竹内カンナ

秋田市出身。WE LOVE AKITA 記者。米経済通信社で長年、日本の金融経済のニュースを幅広く担当したあと、現在は 米経済紙の日本語版の翻訳のかたわら、秋田の活性化について考え続けている。

▼写真:内山ヤスアキ

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