秋田の高校生の生き方を変えてしまうかもしれない!と思わせる情熱を持った女性に会いました。
竹内菫さん。国際教養大学への入学をきっかけに秋田に惚れ込み、秋田で起業した大学生。秋田県内外で高校生を対象としたワークショップを提供する「一般社団法人FROM PROJECT(通称ふろぷろ)」の代表理事をしています。
FROM PROJECTは、「自己と他者への肯定感にあふれる、カラフルな世界を創る」ことを目指して、高校生の「やってみたい!」を実現するための行動を促すワークショップを提供しています。
「やりたい事が特になく、将来に対して漠然と不安を感じてる・・・」
「何かやってみたいけど、行動に移せない・・・」
「興味のある事があるけど、何から始めたらいのかわからない・・・」
ふろぷろではそんな高校生を対象に、今と今までの行動や決断から高校生が何に興味があるのかを掘り下げて明確化することから始め、自分の興味と身の回りにある課題から「プロジェクト」を作ります。そして3カ月、約8回のワークショップと2回の報告会を通してアイデア発案に始まり、企画練り、検証、実施、発表、振り返りの一連の「自らの手で実行する」流れを大学生のサポートを受けながら体験します。
菫さんにオンラインでお話をお聞きしながら、その情熱的な口調に、私自身も、ワクワクしてきて、自分が高校生のとき、こんな経験ができたら人生、全然違っていたかも・・・と思いました。
多くの高校生は、授業と部活にほとんどの時間を拘束されてしまい、自分のことで頭がいっぱい。社会の課題を見つけてその解決のために行動しようなんて子は多くないと思います。でも、そうした機会がちょっと手を伸ばしたところにあったら、やってみようかなと思う子はけっこういるんじゃないでしょうか。
FROM PROJECT(ふろぷろ)とは
ふろぷろの運営メンバーは高校生と歳が近い大学生が中心。ワークショップでは、塾の先生のように教えるのではなく、一緒に取り組みながら学び合うそうです。
「ふろぷろには先生がいません。生徒もいません。高校生が大学生や地域の方々から学び、そのまた逆も多い、半学半教の場づくりを意識しています」
ふろぷろのワークショップでは、シリコンバレーの起業家やデンマークの先進的な教育現場で使われている思考ツールを日本語翻訳したものや日本で昔から使われている思考の型などのフレームワークを「ふろぷろカード」として再編集しています。フレームワークは日本語で「枠」ですが、ワークショップにおいては汎用性の高い「手法」と訳した方がしっくりきます。
何かを考えるとき、自然に使っている思考法を体系化したものと言えると思います。フレームワークを幾つか知り、活用することができれば、将来何をしようかと考えたり、悩んでいるときに頭を整理するのに役立ちます。無意識にやっていたことがフレームワークを使うことにより見える化できたり、意外なアイデアが飛び出して来たり、頭の中でぐるぐると回っていた考えが結論にたどり着けるのではないかと思いました。
菫さんが、フレームワークの1つとして紹介してくれたのは、「マンダラート」でした。
これは、ブレイン・ストーミング、つまり何かを考えるときにまず思いつく限りのアイデアを出すために使われるフレームワーク。真ん中の白いボックスに、例えば「秋田のいいところ」と書き、その周囲の色の8つのボックスに、「人」とか「食べ物」とか入れていく。それから「人」であれば、その外側に「温かい」とか「親切」とかいった秋田の人の魅力を具体的に入れていきます。一通り入れ終わると、小項目が8つ、それぞれに対してさらに8つという、合計64個の具体的な「秋田のいいところ」が書き出されるという仕組みです。
”プロジェクト”の始め方
ふろぷろは教育学的にいうと、アクティブラーニング(AL=能動的な学習)の中でも最難関とされる、プロジェクトベーストラーニング(PBL=課題解決型学習)を行なっています。またクリエイティブ・ラーニング(CL=創造による学び)の考えも一部取り入れています。
ふろぷろのワークショップでは、高校生のやりたいことと、身の回りの課題を掛け合わせて「プロジェクト」を作るのですが、趣味がたくさんあったり、身の回りの課題が多すぎて決められなくなってしまうこともあります。そんなときふろぷろはプロジェクトの土台を作る上で、より大きな「価値(=GOOD IMPACT)を生み出せるものはどれか」を高校生たちと考えます。
「ふろぷろでは、”個益=自分の幸せ、公益=みんなの幸せ”と定義し、その2つの◯が重なり合うところこそ、GOOD IMPACT(価値)が生まれると考えます。個益のみの自己満足でも、公益のみの自己犠牲でもない、GOOD IMPACTが生まれるプロジェクト作りを、ふろぷろはサポートしています」
最後には、取り組んだプロジェクトについて最終報告会でプレゼンをし、約3カ月間の学びを振り返ります。そしてこの経験をどう次につなげるかを一人ひとり考えるのだそうです。これがふろぷろの名前が「FROM PROJECT」(直訳=プロジェクトから)である理由です。
「ふろぷろで実行するプロジェクトが大切だというよりも、その活動を通して今までに得た知識をフル活用しながら新しい学びを得る経験をすることや、自分でゼロから何かを創り実行したという自信を得ることで、その後の進路に迷った時、何か新しいことを始めたい時、難しい問題に直面した時に、本当に活きる力を身に付けることを重要視しているのです」
FROM PROJECTの背景
この活動が生まれたのは2014年。慶応義塾大学の湘南藤沢キャンパス(SFC)のすずかんゼミ(鈴木寛教授)の学生たちによって始まりました。菫さんは留学中だった高校3年生のときにSFCの学生だったお姉さんの千枝乃さんからその話を聞き、帰国後ふろぷろのミーティングへ参加したのがきっかけで夢中になりました。
そして国際教養大学に入学してまもなく、「一般社団法人 全国FROM PROJECT」への加入を決め、FROM PROJECTの秋田版である「ふろぷろ秋田」を同級生たちと立ち上げ、その第1期と第2期の代表を務めました。
しかしその後、2014年から2018年ごろまでは機能していた本体の「一般社団法人 全国FROM PROJECT」は、世代交代で設立メンバーが抜け、徐々に衰退していきました。
全国12地域で活動してきたふろぷろが、ふろぷろ秋田を除く全ての地域での活動が休止してしまった時、「すごく価値のある活動なのになんでだろう・・・?!この活動はなくなるべきじゃない、なくしたくない」と思ったそうです。
そこで菫さんは今年、一般社団法人FROM PROJECTとして秋田県秋田市に新法人を設立し、前身である一般社団法人全国FROM PROJECTの理念は引き継ぎながら、ビジョンやミッションには菫さんたち新しいふろぷろメンバーの思いを反映したものに刷新しました。
以前ふろぷろの活動が立ち止まってしまったのは、個々の能力が高かった故に属人的になりすぎたことによるところが大きいと考え、経験則や知識を共有しながらワークショップの土台を見直し、透明性の高い組織に変えました。
また、以前は基本としていた出張型のワークショップ提供団体ではなく「地域完結型」、つまり地元の大学生が地元企業や行政、住民たちと一緒に高校生にワークショップを提供することを重視することにしました。その結果、本体である「一般社団法人FROM PROJECT」の役割は、高校生へのワークショップ提供から、高校生へワークショップを持続的に提供できる環境を創ることへと変化しました。
FROM PROJECTが大切にする「ふろぷろの7つのルール」
新法人設立に際し、最も重視したのが、ふろぷろの7つのルール。これらは、FROM PROJECTが目指す『自己と他者への肯定感にあふれるカラフルな世界を創る』ために、大切にしている考えだそうです。この価値観を運営メンバー内やワークショップの際に共有することで、ふろぷろ運営メンバーと参加高校生の共通の判断基準や行動指針となり、自己判断による主体的な行動を促しています。
この7つ、どれもこれも菫さんらしさが出ているのですが、そのすべてを貫いているのが「自己と他者への肯定感」。正解が何かではなく違いを認め合い、尊重しあうことが基本です。
菫さんに、「7つのうち、何を一番重視しているか分かりますか?」と聞かれ、あてずっぽうに一番上の「今、この瞬間に100%」じゃない?と答えたら、「もうちょっと下の方なんですよ~。実は行動至上主義で行こうなんです」と言って、嬉しそうに笑い、なぜこれが一番大切かを熱く語ってくれました。
「どんなに素晴らしいアイデアがあっても、どんなに素敵な思いがあっても、行動しなければ何も変わらず、社会に価値を生み出す事は出来ないんです」
ただ、行動するだけではなく常に見直し、修正しながら続けます。
「ふろぷろでは常に、目先の結果よりもどれだけ多く行動できたかを評価します。とにかく実行を繰り返しながらデバッグ(修正)を続けていくことが、体感を伴う本質的な学びであり、最終的に、より早く確実に結果にも繋がると考えているからです」
7つのルールがふろぷろの精神なので、菫さんがまとめた文章をシェアさせていただきます。
①今、この瞬間に100%
ワークショップ中は過去や未来に思考を巡らせず、今に集中して全力を出し切る。「昨日嫌なことがあったなぁ」とか「あしたテストだ」とか、考えているとここにいる時間がもったいない。本気でやるのと、なんとなくやるのには大きな差があり、同じ時を過ごしても、向き合う姿勢次第で全く違うものになる。だから今に集中して「今」の価値を最大化しよう。
②未来は自分で創る
人は変化するし、社会も変化するし、ふろぷろも変化する。全てはその変容の途中で、完成も確定もない。「このほうがいいんじゃないか」など、気づいたことは伝えよう。そしてそんな意見に対して柔軟に対応しよう。「ふろぷろ」を創っているのは関係者全員。運営メンバーだけじゃなくて参加高校生も、地域の人も。次回のワークショップ内容が、誰かひとりの意見で変わることもあるし、それができるような柔軟で強いチームでありたい。
③行動至上主義で行こう
行動至上主義とは、行動に勝るものはないということ。行動の伴わないプロジェクトは存在せず、どんなに良いアイデアを思いついても頭の中にあるだけでは、誰にも何の価値も生み出していない。とはいえ、がむしゃらに行動だけすればいいという意味ではなく、行動を元に考えるという意味。行動から発見し、学び、修正し、また行動する。圧倒的行動量の人は圧倒的な経験と学びを得る。
④わくわくに任せる
VUCAの時代(変動性、不確実性、複雑性、曖昧性が高い)と言われる現代社会で、「正解」なんて分かりやすいものは大抵存在しないから、正しい解を探しても見つからず、やってみなきゃわからない。そんな時はどっちの方がよりワクワクするか、で決めよう。そしてそのワクワクを仲間に伝えよう。そうやって選んだ道は、本気で楽しんで全力で進もう。
⑤全てを糧にする
めちゃくちゃな時や、思い通りに進まない時も次に活かすことを考えよう。プロジェクトを進めていくと、100%思い通りで大成功、とは大抵ならない。その過程で、うまくいくこともあればうまくいかないこともあるはず。丁寧に振り返り、自分の中で次に繋がるよう、意味付けをしよう。
⑥愛をもって人と協働する
プロジェクトを夢中で進める中で、仲間と衝突したり口論になることがある。みんな「プロジェクトを成功させたい!」というゴールは一緒。愛を持って協働するとは、相手の意見を優先して自分の意見を抑えるのではなく、相手の意見も自分の意見も大切にした上で、愛のある伝え方で話し、愛を持って話を聴くということ。
⑦半学半教の姿勢で接する
ふろぷろには先生がいない。生徒もいない。みんな自分の人生しか生きたことがないから、しかもみんな絶対に違う人生を生きているから、学力や老若男女問わず、必ず全員教えられることがあり、学べることがある。
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菫さんからふろぷろについて3回お話を聞きました。最初は簡単に・・、なんか気になったので次はもう少し詳しく、すばらしい活動だと思ったので3回目にはかなり詳しくお話を聞きましたが、私にとっては新しいことばかりで、3回聞いて、ホームページを拝見して、ようやく分かってきました。今は秋田県中の高校生全員がこんな体験をできたらいいなと思っています。
ふろぷろ秋田は現在、2020年10月から始まった第9期の活動の真っ最中、2021年5月ごろには第10期が始まります。また、山形県酒田市でも今年初めてふろぷろ酒田が行われ、来年2期が始まります。
参加者募集や報告会の開催情報は、ふろぷろ公式HP又は公式Facebookページをご覧ください↓
■ふろぷろ公式HP
■ふろぷろ公式Facebook
日本の教育は今、大きな変革期にあり、全国の大学がAO入試率アップに向け動いており、早稲田大学は一般入試を入学者の4割に減らし6割をAO入試で選ぶ方針を決定しています。近い将来、自分について語って大学へ入学するのが当たり前、そんな未来が来るのかもしれません。
AO入試とは、面接・小論文重視で、成績ではなく志望動機や適性や積極性など総合的な評価で選考する入試なので、自分を語れるストーリーを持っているかどうか、それを人に伝えられるかどうかが問われます。
「ふろぷろは、AO入試を目的としているわけではありませんが、少人数ワークショップの中で徹底的に考える力や伝える力などが鍛えられるため、結果的にAO入試に役立ったということは少なくありません。また、ふろぷろをきっかけにマイストーリーを得て、AO入試で受験することにした子もいます」
時代や社会の変化の一例としてAO入試について触れましたが、高校生たちの卒業後の進路は進学や就職など様々です。ふろぷろは、どの道に進んだとしても後の人生で必要となるであろう「想いを形にする力」と「他者と協働する力」を育むことをミッションに掲げています。
時代が変われば必要とされる教育も変化するように、ふろぷろはこれからも、先行き不透明なこの時代を生き抜くための教育を模索し続けていきます。
秋田の高校生のみんな、是非ふろぷろに参加しよう!