通町商店街振興組合の理事長を務める青井智さん
今回は、秋田市の通町(とおりまち)商店街の活性化に向けた活動のキーパーソンをご紹介します。

かつての通町商店街の写真やイラスト(通町商店街振興組合のホームページより)
通町商店街は、秋田駅西口から北西約1kmに位置し、旭川のほとりを起点に西に500mほどの商店街です。歴史は古く、江戸時代初期に秋田藩の藩主となった佐竹氏とともに常陸国から移り住んだ商人たちが店を構えたことが始まりと言われています。大火による資料の喪失などで正確な年数は分かりませんが、創業100年以上の店が多く、伝統ある商店街です。
今回、お話を聞かせていただいたのは2024年から通町商店街振興組合の理事長を務めている青井智さん。青井さんは有限会社青井陶器店(店舗名:器屋/南蛮屋あおい)の代表取締役であり、5代目の店主です。理事長となる前から通町商店街の役員として長年活動されてきました。
通町商店街を歩いてみると、空き店舗が見当たりません。
「現在は、ほとんど空き店舗はありません。この商店街はにぎやか感があるせいか、店を出したいと考える人が多いと思います」と青井さんが言うとおり、通町商店街では頻繁にイベントが開催され、人が集まり賑わっているのをよく目にします。
「4月から10月までの毎月第4土曜日には『通(つう)の市』というイベントを開催しています。4月のお花見シーズンには、買い物に来たお客さんにピンク色の紙を使った『桜のおみくじ』を引いてもらったり、イベントを実施することでお客さんに楽しんでもらえるよう工夫しています」
「毎年8月12日には、『草市』というイベントを開催しています。草市は、江戸時代から続く伝統的なイベントで、農家の人たちが商店街の店舗の軒先を借りて、お盆の支度をする人向けに農作物やお花を販売したのが始まりです。現在は、お盆休暇で秋田に帰って来ている方や、子どもたちに楽しんでもらえるイベントとして開催しています」
「毎年10月の第2土曜日には、20年ほど前に招福稲荷神社の例祭を盛り上げようと企画した『招福狐の行列』というお祭りを開催しています。このお祭りは、稲荷神社の使いであるキツネ様たちが、秋の収穫物を持って江戸の王子稲荷神社を目指すという言い伝えに基づくもので、参加者はキツネのお面をかぶったり、メークをして通町商店街を練り歩きながら沿道の方々の福をお祈りします」

「招福狐の行列」開催のチラシ(通町商店街振興組合のホームページより)
ほかにも、4月1日にはエイプリルフール企画としてクスッと笑ってもらえるようなポスターを各店が貼り出したり、6月の第4日曜日には『ヤートセ秋田祭り』を開催するなどして、集客を図っています。
青井さんは、これまで仲間とともに商店街の賑わいづくりに積極的に取り組んできました。しかし、最近はにぎやかなだけではいけないと思うようになりました。
「にぎやかなのはよいと思いますが、商店街の賑わいづくりが個々の商店の負担になっています。例えば、私の仕事も4割ぐらいは商店街の仕事です。商店街の仕事に力を入れるからには個々の商店の収益向上につながるイベントを選んで開催していきたいと考えています」
青井さんは、商店での収益向上のため、クルーズ船で来る訪日外国人客に、もっと商店街で買い物してもらいたいと考えています。
「最近は、『どうすればクルーズ船で来る訪日客にお金を使ってもらえるか』を考えています。例えば、私の店は免税店にしました。免税店になるのは案外簡単です。でも、秋田県内で、うちと同じ規模のお店で免税店になっているところは、ほとんどないと思います」
青井陶器店では秋田にこだわらず全国の商品を取り扱っています。クルーズ船で青井陶器店に立ち寄った訪日客は、日本のお土産として買い物してくれるとのことでした。

青井陶器店は全国各地の商品を取り揃えている
しかし、秋田港に寄港するクルーズ船の訪日客のうち、3分の1は県内の観光地へツアー旅行、3分の1は秋田市内の観光に出かけますが、3分の1は船内に留まっているといわれています。そこで、青井さんは支援機関にお願いして市内の商店街に呼びかけ、より多くのクルーズ船客が秋田市内の観光に来てもらう方法を話し合おうとしましたが、出席したのは通町商店街だけでした。
「秋田港から市内行きのバスに乗ったクルーズ船客は、通町を素通りして秋田駅付近で降り、そこから県立美術館や千秋公園に行きます。ディスカウントストアや家電量販店に行く人も多い。通町に来てもらうのはなかなか難しい」
そこで青井さんたちは、ちょうど「招福狐の行列」の時期に来港したクルーズ船の客を迎えるためキツネのメークと扮装をして秋田港に行き、クルーズ船の訪日客に声をかけたところ、300人ほどが通町商店街に来てくれたそうです。
「キツネのメークを希望するクルーズ船客からメーク料金をいただき、同額の商品券をお渡しして商店街を散策しながら買い物を楽しんでもらいました」
通町は「100年商店街」というブランディングも進めています。

100年商店街のブランドロゴ
青井陶器店は創業110年の老舗ですが、この通りで一番古い斜め向かいの佐野薬局は少なくとも創業260年。ほかにも菓子店や電気店など、100年を超える店がたくさんあります。
「うちはこの建物を110年借りているんです。大家と店子が変わらずに110年も続いているというのは全国的にも珍しいと、先日、大学の先生が調査に来ました」
青井陶器店は、青井さんが首都圏の陶器店で経営の修行をして帰って来て以来、コーヒー豆も取り扱っていますが、陶器店が本業であることには変わりなく、店の伝統を受け継いでいます。
「振興組合の会員のうち100年を超える店が10軒もある商店街は全国的にも多くないと思います」と話す一方で、「このままでは商店街の多くの店舗は、長年続けてきた事業を次の世代に承継するのが難しくなると思います」と心配しています。
通町商店街は1989年から1998年にかけて道路拡幅整備事業が行われ、建物をセットバックする工事が行われました。
「私は、道路の拡幅工事が終わった頃に家業に戻ってきたので詳細は分かりませんが、この整備事業が通町商店街を活性化したという一面はあると思います。何度も会議などが行われ、各店舗が積極的に関わり合う必要がありました。この整備事業によって歩道が広がり、歩いて買い回る人も増えました」
しかし、整備事業から20年以上が経過し、当時からの店主たちは世代交代の時期を迎えています。
「商店街の会員のなかには自分の代で店を閉めようと考えている人もいるようです。また、そうでなくても別の仕事をしている子どもたちも多いので、この先どうなるのか心配しています」

1990年代の整備事業で広々とした通町商店街
青井さんは、商店街の活性化のために、店主たちと一緒に経営シミュレーション「マネジメントゲーム(MG)」に取り組みたいと考えています。MGでは、参加者は仮想企業の社長となり、設備投資、人材採用、仕入れ、販売など、現実の経営と同様の意思決定を行います。多くの大企業も研修に取り入れており、これによって財務知識の習得、経営判断能力の引き上げが可能となることからも、青井さんが目指す「儲かる商店街」に近づくことができると考えています。
「5期の決算で1クールのゲームですが、私は250期をやりました。このゲームはいつも発見があり、あのときこうすれば良かったとか、こういう考え方もあるんだなと思うことが多々あります。これを商店街全体でやって皆で勉強していけば、儲かる商店街になると思います」
歴史と伝統を活かしながら、新しいことに挑戦している通町商店街。この商店街を今まで以上に繁栄させ、伝統を将来へ受け継いでいくために青井さんたちの挑戦は続きます。
◆ 秋田市通町商店街振興組合のウェブサイト
文:竹内 カンナ
写真:竹内 カンナ、秋田市通町商店街振興組合のウェブサイト、通り町商店街のFacebookから